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 コラム「点睛」 印刷新報・2022年7月21日付
 11月の開幕に向けて準備が進むIGAS2022の開催概要が発表された。展示会には210者が出展するほか、その時代のトレンドを色濃く示すパネルディスカッションは全部で7セッションが実施される▼4年前のIGAS2018で行われたパネルディスカッションを振り返ると、商業印刷、ラベル、パッケージ、軟包装などの各分野について、デジタル印刷やフレキソ印刷による可能性を有識者が議論。インバウンド需要なども取り上げていたが、全体としては個別の印刷ビジネスにフォーカスしていた▼それを踏まえて今回の講演テーマを見ると、デジタルトランスフォーメーション(DX)や印刷工場のスマートファクトリー化、印刷ビジネスの高付加価値化など、印刷会社の変革を促す内容が目立つ。今後の重要キーワードについて語るセッションなど、将来が不透明な中で、印刷ビジネスの方向性を模索する意識が垣間見える▼今回はオンラインによるアーカイブ配信も行われる。展示会で披露される最新ソリューションを含め、IGAS2022から印刷ビジネスの未来を感じ取ってほしい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年7月14日付
 亡くなられたユーメディアの今野敦之会長が生前、「印刷業界の最大の課題は事業承継」と語っていたことを思い出す。娘さんには、後継者となれる男性だけを伴侶として認めると言い含め、現在の今野均社長を10年かけてあらゆる席で紹介し、周囲にも意識を植え付けた。用意周到であった▼とはいえ、事業を継続したくても、後継候補がいない会社の方が多いのが実態か。持株の問題などがあるにしても、今後は親族内承継より、第三者承継の割合が増えていくだろう▼働き方改革や多様な人材の採用、定着率の向上がますます重要になる。採用方法も常識に縛られてはいけない。紹介者・採用者それぞれに一定額を支給するMIC(旧・水上印刷)の「縁満入社制度」などもその一つだ▼先日、ある印刷会社のメールマガジンで、入社したての社員の声を紹介していて興味深かった。きっかけは「アウトロー採用」。書類選考などは一切なし。応募者同士がZoomで自由に語り合った後、採用側と対話。そこで初めて企業名と印刷業だったことを知る…。そんなミステリー?採用も若者受けがいいようだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年7月7日付
 7月1日出荷分から王子製紙が印刷・情報用紙の値上げを実施した。昨年来、主要製紙会社の中で同社だけが表明していなかったが、ロシアのウクライナ侵攻の影響が加わり、堪え切れなかったと説明する▼さらに、年初から値上げを行った日本製紙が、再び8月1日出荷分から値上げを行うという。他の製紙会社も足並みを揃えて再値上げとなる。過去10回にもわたる主要製紙会社のほぼ一律一斉値上げが今回、時期だけは部分的にずれた。中小印刷産業振興議員連盟の強い指摘が背景にあったのかもしれないが、問題の本質は何も変わっていない▼5月の印刷議連の総会で、経済産業省製造産業局素材産業課は「(これまで繰り返されてきた価格の激しい上下動では)印刷会社もたまったものではない。印刷業界と製紙業界がしっかり連携できるスキームづくりを考えたい」と発言した。これとて、以前からずっと課題に挙がっていたことではある▼ビッグデータを活用した、価格を含む用紙需給調整に期待する声も印刷業界内にある。その前に、両業界の間に交渉テーブルがないことそのものが問題だろう。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年6月23日付
 物価高が家計を直撃する中、政府からの賃上げ要求が強まっている。コロナ禍の影響で財政面から難しい企業も少なくないが、賃上げを実施するにしても、コロナによって大きく変化した労働環境を踏まえ、評価基準を見直す必要が出ている▼この2年間で特に変わったのは、ビデオ会議システムなどオンラインツールの普及だろう。移動時間という誰にとっても平等な労働が減ることにより、社員ごとの成果の差が今後より顕著になることは明白だ。移動時間に限らず、さまざまな業務がITツールにより自動化・効率化が進んでいる今、仕事に占める知識労働のウェートは高まり続ける▼たとえば、このコラムにしても10分で執筆できる人もいれば数時間を要する人もいる。フリーライターなら成果報酬で問題ないが、社員の場合にそのスキルの違いをどう賃金評価に反映するのか▼知識労働の割合が増えれば、必然的に成果報酬に近い評価基準に変えざるを得なくなっていく。外資系企業で見られる、ベース給よりもインセンティブを重視した労働環境に、遅かれ早かれ日本社会も向かっていくことになるだろう。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年6月16日付
 光があれば必ず影がある。経営のための完璧な武器などない。リモートワークの有用性を享受しつつ、対顧客接点をいかに広げていけるか。AIマーケティングを導入しつつ、いかに血の通った販売促進システムを構築できるか。常にバランスへの配慮が欠かせない▼時代が混迷を深めると、とかく経営者は特効薬を求めがちになるが、執着しすぎると判断の修正を迫られた時に方向転換が利かない。変化が加速する現代ではなおさらだ。フレキシブルに進むには、顧客と直に接する現場の生の声を重視した、ある種の合議制が求められる。トップダウンに比べスピードは劣るが、結果としてロスは減る▼経営姿勢としてのSDGsにしても、金科玉条のごとく崇める必要はない。各社の実情や特徴に応じて、できること、できないことがある。欲張って多くのゴールを目指すと、社員は疲弊し、外部から見ても焦点がぼやける▼新型コロナ感染者数もようやく落ち着いた。それは光だが、一方で、本業が停滞していた間に方向を見失った会社も多い。今一度、社員の本音を聞き、軸を立て直してはどうか。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年6月2日付
 過去に例のない諸資材・エネルギー価格の高騰、原材料不足が続き、価格転嫁はどの業界、企業でも最優先課題となっている。印刷業界においても、今この時期に実行できなければ、二度と機会は訪れない気がする。だが如何せん、中小企業、受注企業の立場は弱い▼問題は印刷・加工の単価だけではない。先日のある会合では、納品における顧客の横暴に怒りの矛先が向けられた。一例を挙げれば、パンフレットや手帳など製品の小口納品だ。部単位ならまだいい。総務1課に17部、2課に21部、3課に14部…当たり前のように指示され、小口梱包し配送する。その大いなるムダ▼部数は減少する一方で、梱包・配送費用、人件費は嵩み、検査・計数装置も欠かせない。しかも、それらコストを請求に認めてもらえない。「昔はお客の社内に手配してくれる人がいたが、今はむしろ、印刷会社に要求できる力を周りに誇示する困った人が増えた」と嘆きは続く▼労賃や燃料費を含め、納品に関わるコストを改善するだけでも、実質的に価格転嫁と同じ効果を持つ。“商習慣”という厚い壁こそ一番の厄介者だ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年5月26日付
 先日購入したグーグル社のスマートフォン。AI技術が組み込まれた同機は高度な音声認識機能が搭載され、レコーダーアプリはリアルタイムでの文字起こしが可能だ。テレビのニュースなら9割近く、会議のあいさつでも6〜7割ほどの精度がある。記者の仕事で最も地道な作業とも言える文字起こしが自動化されることは、大幅な仕事の効率化につながる▼AIによってさまざまな業務が自動化されることで、一説には約50%の仕事・業務がなくなると言われている。いずれ訪れるAIの時代に人に求めらることは、アイデアや発想力によるイノベーションの創造になる▼カレー市場において国内第2位のゴーゴーカレーの創業者である宮森宏和氏は「発想力は移動距離に比例する」と指摘している。外に出て多くの人と出会い、知見を集めることがAI時代にこそ重要になる▼コロナ禍でさまざまな制限を受け、リアルでの情報収集の機会が限られていたが、ゴールデンウィークを境にコロナ対策の潮目も変わってきている。この2年間出来なかった分、これからは積極的に外にて情報収集に努めたい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年5月19日付
 非代替性トークンという訳を含め、「NFT」という言葉の理解が難しかったが、ようやく馴染んできた。ブロックチェーン技術を使って複製や改ざんを出来なくした世界公認のデジタル資産、と言えばいいか。要は、それを所有する喜びがあり、売り買いもでき共有する喜びがあるということだ(法律上の問題は残されているようだが)▼技術的な説明では納得できなくても、プロスポーツチームが試合の模様や選手の動画コンテンツNFTを相次いで販売し、自治体がふるさと納税の返礼品として独自のNFTアートの提供を始めたと聞けば、イメージがぐっと膨らむ▼クラブチームや企業、店舗、自治体などがファンや支援者を増やす手段として、NFTの採用は広がっていくだろう。メタバースと同様、コンテンツを仕事として扱う印刷業界は、これらも大事な事業領域に入ってくる▼こぞって高級ブランドの車、ファッションなどを追い求めた時代は遠ざかり、「個」に寄り添う無形の資産が幅をきかせる。印刷はサービス業への傾斜をさらに強め、その中で情報加工技術を活かしていくことになる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年5月12日付
 埼玉県のS製本を久しぶりに訪ねた。商業印刷物が中心だけに、特にこの2年間は受注の確保が厳しかったようだ。ただ、コロナ禍で個人投資家の数が増えたため、証券関係の仕事は順調だったという▼ようやく世間が回り始めた。印刷需要の回復に期待がかかるが、同社の主力である自動車カタログでは別の問題も起きている。半導体不足に加え、ウクライナ危機によりアルミや鉄鋼などの価格高騰、輸入への支障が自動車業界を襲った。「売れ筋の車種だと、普通は納品まで2、3ヵ月ほどだが、今は1年待ちもある」と社長。混迷は続く▼自動車販売でも、モニターや端末で商品説明を行うことが増えた。カタログの持つ意味は昔と異なり、今はお客への"ギフト"となっている。「部数は減っても、品質はより高いものを求められる。人気車種のオプションカタログは発注が途切れない」と社長は話す▼捨てられない紙媒体の可能性を改めて感じる一方、「小ロットの製本の価値をもっと認めてもらいたい」と切実に訴える。お客に大事にされる価値ある高品質のために、かけた元手は半端ではない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月28日付
 経済産業省は22日、終身雇用に代表される日本型雇用体系からの転換などをうながす提言を公表した。コロナ禍でテレワークが浸透するなど働き方の多様化が進む中、これまで凝り固まっていた日本の雇用体系にも変化が生じはじめている▼終身雇用型の企業において、社員との関係性は家族に近かった。休日には社員旅行に行き、結婚式では上司がスピーチをする。しかし、先行きが不透明で将来の雇用を企業側は保証できず、働く側にもその意識が乏しい現代では、社員との関係性はよりドライなものになるだろう▼その時に企業がとるべきスタンスは、社員の私生活に踏み込むのではなく、私生活の充実を支援することではないか。そのためには有給休暇をこれまで以上に取得しやすい企業風土の醸成や、個々人の属性に即した雇用体系を提供することが重要になる▼近年では、社員やステークホルダーの心身の充実を目指す「ウェルビーイング(well-being)経営」が注目されてきている。私生活の充実は仕事上のパフォーマンスにも良い影響をおよぼす。令和時代の福利厚生とは何か、改めて考える必要がある。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月21日付
 2月7日に行われた印刷工業会の創立70周年記念講演会で話したのは将棋の羽生善治九段(51)。言わずと知れた大棋士だが、講演の4日前にA級順位戦で敗れ、29年間在籍したA級から陥落した。当日、それには触れることなく、飄飄然と話を続けた▼その中で、勝負、仕事、人生に通じる「リスクを取る」ことの大切さを独特の表現で語った。「対局では自分がよく知っている得意な戦法をつい選びがちになるが、10年後の視点から見ると、それは代わりばえのしない手をずっと指しているリスクでしかない」▼現在は多くの棋士が活用しているAIソフトについて、「コンピュータには新しい手、古い手といった既成概念がないため、今は指されなくなった手が復活することがある」という指摘も、過去の古臭い手だからといって検討を遠ざける思い込みの罠を示して興味深かった▼経験の蓄積から導き出された定石を踏まえ、指し慣れた戦法を使えば、たしかに当座の勝つ確率は高くなる。しかし、それが10年後も通用することはあり得ない。周囲の研究が日々進化するからだ。では、どうするか。羽生さんは「私は常に小さなリスクを取り続けている。毎日ちょっとずつでも、1年経てばかなり変化している。どの時点で見るかによって評価は変わる」と話した▼自分に言い聞かせた言葉のようでもあり、当たり前の日常の心構えのようでもある。評価は周りのもの、昨日と違う自分は己だけが知っている。B1級の今も日々リスクを取り続け、10年後を見据えているはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月14日付
 以前にテレビの将棋番組におけるAI評価値の画面表示について苦言を呈したが、やっぱりと言うか、プロ野球放送でも同じことが始まった。「この場面でヒットが出て勝ち越すと、勝利確率が70%になります」とアナウンサー。その数字に何の意味があるというのか▼過去の平均データなどどうでもいい。大事なのは今、この瞬間。二度と繰り返されない今だ。試合の緊迫感を削ぐなかれ。そのうち、すべてのスポーツ中継に導入されかねない。教育評価もそうなるだろう。お見合いの相性診断にもAIサービスが使われる時代。ああ、現代の新たな人間疎外▼画面分割で顔を出すタレントコメンテーター。視聴者のつまらない投稿の垂れ流しテロップ…。テレビに溢れるノイズが止まらない。ネットも情報の洪水だ。聴覚だけ、視覚だけに頼るラジオや本とは対照的。最近のオーディオブック人気にも関係があるか▼印刷物とデジタルメディアの融合は大事だが、印刷物にQRコードをやたらに入れればいいという話ではない。ノイズに注意し、印刷物本来の価値を磨き上げてこそ、ハイブリッド活用も生きる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月7日付
 南極点到達競争を通して人と組織の問題を鮮やかに描き切った『アムンセンとスコット』(本多勝一著、朝日文庫)をぜひお勧めしたい。人類初到達の栄冠を手にしたアムンセン隊に対して、スコット隊は後塵を拝したうえ、全員が死亡した▼本の解説にある山口周氏の「頑張る人は夢中になる人に勝てない」という言葉が印象深い。両者の「蓄積思考量の差」を指しており、「好きこそものの上手なれ」に意味は近い。何事も夢中になるからこそ極められる。新社会人、新入生に贈りたい言葉だ▼日本の教育の最大の欠陥は縦割りのカリキュラムだろう。古武術家の甲野善紀氏などは「歴史」さえ学べば事足りると主張する。哲学も科学も社会学も、およそ人が知るべきことはすべて人類の歩みを辿れば系統立てて学べるからだ▼先日観たテレビ特番では、ある発達障害の子に、大好きな「昆虫」にとにかく夢中にさせる教育法が紹介された。昆虫を通して考え、関連する漢字、算数、自然環境などをどんどん吸収していく様が快かった。教育の電子化にあたっても、夢中からの総合学習の視点をしっかり持ちたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年3月31日付
 電通が先月発表した「2021年日本の広告費」を見ると、インターネット広告費が好調な一方、紙媒体の苦戦が続く。その中にあって、コロナ前の2019年比でも約5%減に止まるダイレクト・メール(DM)の健闘が目立った▼このほど発表された第36回全日本DM大賞を見ても、精緻なデータ分析とマーケティング施策により生み出される高い成果がその一因であることが分かる。エネルギー価格や原材料費の高騰が続くなか、製造原価ではなくプロモーションの成果に対して利益を求めるビジネスへの転換が求められる▼高度なデータ分析に基づくDM制作のハードルは高いが、受賞作品の中にはそうしたノウハウを持たない広告主自らが制作し、高い効果を生み出した例も多い。以前にグランプリを獲得した温泉宿のDMでは、常連客へのメッセージと感謝の印として特注の金の名札を同封した結果、送付した100組のうち84組が宿泊プランを予約した▼データ分析を苦手とする印刷会社でも、日本の強みである「おもてなしの心」を形にするサポートができれば、高い価値を生み出すことは可能だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年3月17日付
 個人としても、電気・ガス代の請求が跳ね上がり、食料品の値段につい手を引っ込めることが増えるなど、エネルギー・資材コストの高騰を実感する。企業であれば尚更、とりわけ製造業にはこたえる▼利益を減らさないためには、より安価な調達を行うか、価格を転嫁するしかない。調達に関しては、品質低下につながる虞もあり、おいそれとはできない。コストカットも、惣菜の中身が明らかに減った、包装材が薄くてすぐに破ける、となればイメージダウンになる▼そこで価格転嫁に向かうわけだが、中小企業庁の業種別調査によると、印刷業はトラック運送業と並んで、価格転嫁の達成度や、そもそも交渉のテーブルに就ける度合いで下位を争う。立場の弱い規模の小さな企業ほど顕著だ。また、同じ印刷関連業の中でも、より後工程に位置するほどサプライチェーン全体のコストアップのしわ寄せを受けやすい▼個々の価格交渉努力は大事だが、中小企業の非力は否めない。発注元に複数の取引先があれば、より単価の安い企業に仕事が流れてしまう。弱者の共同戦線、業界団体の結束が今こそ必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年3月3日付
 「適者生存」とよく言われるが、生き残ったから適者なのであり、たとえ適者になれそうな方法を皆が解っていても、それはそれで淘汰は行われる。時代の変化の方がはるかに速いのだ▼最近、「選択と集中」戦略に対する経営者の懐疑的な意見を聞く。コロナ禍に遭い、経営資源を特定の顧客や市場に集中しすぎるリスクを痛感したことが大きい。「相乗効果という言葉の響きはいいが、過度の期待は危険。むしろ今の時代は全く違う柱を立てていくことが求められる」という声もある▼総合すると、「絶えざる選択と複眼投資」―このあたりが生き残れる確度が高い考え方になりそうだ。いま成功しているビジネスモデルを信用しすぎず、常に新しい領域を探り、将来有望な複数の事業を見極め、先行投資していく戦略ということになるか▼ところが、これが難しい。早すぎた本業の見切りや、行けると見込んだ事業が不発で損切りもできず…といった失敗例は当たり前だ。経営者一代での変化への適応には限界がある。「適者生存」は事業承継の問題に行き着き、結局のところ、次世代に任せるしかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年2月24日付
 青年印刷人の祭典「PrintNext2022」が2月12日に開かれ、コトづくりの視点で印刷業の可能性を探った。イベントに向けて全国8ブロックが地域の課題解決に取り組み、それぞれの活動を共有した。「ココカラ市場」として4月29日に3331 Arts Chiyoda(東京・千代田区)で改めて成果発表する▼北海道ブロックは、害獣として駆除され産業廃棄物処理されることが多い蝦夷鹿を活用した無水カレーを地元の飲食店と共同開発した。関東甲信越静ブロックでは、長野県高山村の特産ワインを地元の子どもたちに授業を通して知ってもらい、地域愛を育てる活動を展開した▼中部ブロックは著名な音楽家とコラボし、印刷廃材を使った楽器でアートを発信。クラウドファンディングで60万円の資金も調達した。九州ブロックは休耕田の活性化に取り組み、デジタルスタンプラリーで村おこしを図った。役場から「ぜひ続けてほしい」と依頼があったという▼ココカラ市場では、各地の課題を新たな魅力へと変える価値創造への挑戦が見られる。コトづくり事例を学ぶ機会として立ち寄ってみてはいかがか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年2月10日付
 近年の展示会の名称の様変わりには驚くばかりだ。それだけを眺めても時代のトレンドをつかむことができる。過渡期にはおもしろい現象も起きる。3月に東京ビッグサイトで開催される「日本ものづくりワールド」展を構成する展示会に「3D&バーチャルリアリティ」展がある。VRもたしかに"ものづくり"ではあるが…▼「メタバース」という言葉が頻繁に使われるようになった。仮想空間ビジネスは将来、巨大ビジネスに成長するだろう。展開されるのは個人の趣味や仮想通貨だけではない。現実世界と仮想空間を行き来しながら、リアルのキャッシュと物品のやり取りが密接に絡むようになる▼利用者が人口の1割、2割となってくれば、企業は乗り遅れまいと次々参入し、政党も政治活動を始めるに違いない。80億人の分身(アバター)が住むようになれば、それはもう一つの地球だ▼北京冬季五輪が真っ盛りだが、eスポーツが五輪種目になるより先に、仮想空間で新しい概念のスポーツ大会が生まれる可能性の方が高い。よもや、そこまで国家間の反目が持ち込まれることはないと信じたいが。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年2月3日付
 医学部入学試験の合格率が、2021年度は男女比が逆転したという。女性と浪人生への得点操作が事件として明るみに出て以降、全大学の男女別合格率を公表するようになった結果だ。都立高校でも男女別定員制の撤廃に向けて動き出した▼公正や平等は、思いだけでは実現できない。相応の仕組み、仕掛けがあってこそ具体的な取組みが進む。同じことは、SDGsのすべてのゴールの達成に向けても言える▼近頃、お客からのカーボンニュートラルやサステナビリティに関する問合せが増えたという印刷会社の声を多く聞く。対応できない会社は今後、サプライチェーンから弾かれてしまう可能性が高い。自治体のSR調達も広がっていくだろう。その取組みにおいても仕組みは重要だ▼日印産連GP認定制度の認定工場はまだまだ増やしていく必要がある。全印工連は、新電力2社と契約して再生可能エネルギーの活用促進事業を始めた。契約主体は個社だが、利用する組合員のCO2削減量を集計し、成果を公表することで、業界全体への評価を高めていく。理念から仕組みへの落とし込みを加速させたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年1月27日付
 昨年はほとんど行われなかった業界団体の新年会だが、今年は規模の縮小などはあるものの、2年ぶりの開催が相次いだ。オミクロン株の感染拡大によって中旬以降は中止されるケースが目立ったが、展示会などのイベントは予定どおりリアル開催されるなど、昨年以上に“ウィズコロナ”で社会経済を回す姿勢が明確になっている▼企業におけるクラスター事例も増えており、感染が収まらない中での経済活動には当然リスクも伴う。濃厚接触者でも10日間の自宅待機が求められるため、テレワークに対応していないと企業継続も難しくなる▼帝国データバンクがこのほど実施したアンケート調査では、BCPを策定済みの企業は4割弱に止まり、4分の1は作成予定もないという。たとえ作成済みでも、パンデミックへの備えは不十分だった企業も少なくないはず。多くの従業員が感染、あるいは濃厚接触者となり得るいま、最悪の事態に備える必要性が増している▼麻雀にしろ将棋にしろ、ノータイムで打つことになればミスは当然増える。非常時における各企業の持ち時間は、経営者の事前の備えに比例する。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年1月13日付
 コロナ収束の期待もあった新年だが、第6波は急速に拡大し、業界団体の新年会も多くが中止に追い込まれている。「いい加減にしてほしい」と嘆いても、ウイルス相手では怒りのぶつけようがない▼本紙新年号のGC東京座談会では、自分たちの強みを、「先行して(製版の縮小という)危機に直面し、それを乗り越えてきたこと」とする発言があった。誰もが向き合う現下のコロナ禍では、その苦難を「いつかは直面するはずだったもの」と受けとめ、前向きの力に変えていくしかない▼今日、当たり前のビジネスモデルとなっているネット印刷通販も、先鞭をつけたのは業態変革を余儀なくされた製版会社だ。同じ頃、大手商社が印刷eコマース事業を立ち上げ、話題になった。しかし、結局ビジネスにはできず、撤退した▼なぜ、資本も人も潤沢な巨大企業にできなかったのか。投資リスクの検討や採算予測が先行し、社内では完成したモデルが求められ、稟議に振り回された結果ではなかったか。対して、中小製版会社は後先かまわず「やるしかなかった」。やるか、やらないか。明暗を分けるのは常にそこだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年1月1日付
 激動の2021年が終わり、新たな年を迎えた。多くの人にとって予想外のことが立て続けに起こり、5年10年先どころか1年後ですら予測不能な時代が到来した▼常に意思決定が求められる経営者にとって、昨年ほど頭を悩ませた年はなかったのではないか。従来とは前提が異なるニューノーマル社会では、過去の経験やデータに基づく予想が通用しない。それどころか、経験やデータに固執すれば、誤ったまま突き進んでしまうリスクも伴う▼早稲田大学大学院の入山章栄教授は、経営者の意思決定において、「正確性」よりも「納得性」に重きを置く。正解が誰にも分からないコロナ禍の中で、リーダーの仕事はビジョンを明確にし、組織のメンバーが納得する=腹落ちするストーリーを示すことであり、トライ&エラーを繰り返すアジャイル型の組織こそが不測の事態に対応できる▼そのためにも核となる経営ビジョンを明確にする重要性が高まっている。自社がどのようにして社会に貢献し、事業を通じて何を成し遂げたいのか。すべてが不透明な時代であっても、その想いだけは明確にできるはずだ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年12月23日付
 年の暮れ。読者から、いろいろな取組みの成果物が届く。今年も多くの苦労があったろう。それでも、心のこもった手紙を読むと、この一年を経営者として懸命に引っ張ってこられ、無事に年を越されることを知り、胸が熱くなる▼協同印刷(岐阜県関市)の小川優二社長からは、地元特産の刃物を広く知ってもらうために販売を始めたノベルティグッズ一式。キャラクター化した刃物たちが実に魅力的だ。新入社員を含めた若手を中心に自社商品開発に取り組んだという。中島製本(埼玉県川口市)の中島伊都子社長からは、障がい者のアート作品でデザインした、一枚一枚はがせる「癒しのマスクケース・ブック」。その日の気分によって絵柄を選べる楽しさにあふれる▼両社とも、コロナ禍で生まれた時間で社員と一緒に知恵を絞り、前向きの力に変えている。博進堂(新潟市)からは、社員全員の写真とメッセージが入った百周年記念誌。加藤製本(東京都新宿区)からは、自社工場見学を福袋にした百貨店の企画の案内…▼各地域で、この業界の可能性が感じられる、少し早い嬉しいお年玉だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年12月9日付
 もう半世紀近く前。鰹節は必要のつど自分の手で削り器を使い削っていた。枝豆も、枝に付いたものをもいで茹でるしかなかった。どちらも子供の頃の懐かしい親の手伝いだ。今は真空パックの袋を開けるだけ、出来合いを買うだけですぐに食べられる▼技術と流通の革新で世の中のスピードは格段に変わった。違った形で現代にあのスローライフの味わいと豊かさを取り戻せないものかと夢想することがある。脱プラの命題にしても、昔の食材には無縁だった▼生活が便利になるほど、やることが増え時間に追われる矛盾。手書き原稿がなくなり、ネットで校正を送れて、情報を取れる時代になっても、編集や印刷の仕事の煩雑さが一向に解消されないのも同じか▼生真面目な日本人は、詰め込むことが好きで、いい意味での手抜きを欲しない。DXも本質を見誤ると、個別作業の効率化だけを見て成果を上げたつもりになり、全体では新しい課題を抱え込んでさらに苦しむ。「豊かさとは何か」を突き詰めると、不要な仕事(用事)をばっさり切り捨てることの効用が見えてくる。忙しさに慣れてはいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年12月2日付
 全国的に感染状況が落ち着き、少しずつ経済活動が活発化してきた。ただ、感染者が急減した理由が専門家にも分からず、今後の感染予測を見ても不確かなものしかない。先の衆議院選挙で事前の議席予測が大きく外れたことも含め、予測不能な世の中にある▼その衆議院選挙で予想外に議席を減らした立憲民主党。その敗因として、批判ばかりという負のイメージが一因に挙げられている。もちろん、野党第1党として批判は重要だが、一方でポジティブな言動の少なさが批判ばかりというイメージにつながっているのではないか▼リーグMVPを受賞した大谷選手に対して「三振が多すぎる」「チームが負けすぎ」などとネガティブな事ばかり指摘する人がいたら、どう思うか。指摘自体は間違いではないが、ネガティブな言葉しかなければアンチとみなされ、誰も聞く耳を持たないだろう▼日本人は褒めることが苦手だと言われているが、自分が良いと思ったものを共有しあうSNS世代には褒め合う文化が浸透している。そうした若い世代からアンチだと思われないためには、褒める技術を磨くことも重要だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年11月18日付
 全印工連の産業戦略デザイン室は今期、2050年の印刷業界の予測と将来ビジョンの策定を活動の柱の一つに据えている。足下のDX戦略を推進しながらの、30年後に向けた長期構想だ。それは、起こり得る変化への対応だけでなく、自分たちが創りたい未来を考え、社会に仕掛けていく挑戦でもある▼全印工連が2000年代の初めから取り組んできた「業態変革」は、環境変化に応じてビジネスモデルを変えることを目指した。現在の(デジタル)トランスフォーメーションには、自ら変化を起こしていく能動的な意思がさらに必要とされる▼同委員会の瀬田委員長は、印刷業界がデジタル武装によって新たな事業と新たな価値を創出し、指数関数的に成長していくシナリオを思い描く▼また、江森副委員長は「印刷業界は30年前からあまり変わっていない。バリューチェーンの軸を大きくずらすか、曲げないことには変革は実現できない。想像の範囲を超えたところで2050年のわれわれのチャンスを思い切って考えるべきだ」と話す。あるべき未来からの逆照射をすべての印刷会社が意識したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年11月11日付
 「大企業は最大公約数、中小企業は最小公倍数」―そう話してくれたのは、同じ業種内だが何百倍も規模が違う大手に転職したある男性だ。大企業は汎用性やコスト抑制が重視され、とんがる者は「叱られるビジネスモデル」だとも言った▼今の給与はたしかに高い。だが、これと見込んだお客にはとことん突っ込んでいき、狭い領域ながら目立つ存在になれる機会もあった古巣を懐かしむ。「やり切った」という実感が違うらしい▼古くから知る年下のS君の振り出しは印刷会社。新人として同行営業に回る間、S君だけを行かせて上司はパチンコか車での居眠り。とんだ「同行」もあったものだ。半年で退社し、その後、大手自動車メーカーに15年。意を決して今年、惚れ込んだベンチャー系の宿泊関連企業に転職、巡り合わせでなんと社長になった。年収はかなり減ったが、やりたいことを出来る満足感が伝わる▼働き甲斐と収入。天秤にかけるものではなく、両立できればそれが一番。優秀な人材はあまたいる。天秤ごと持ち上げる意欲もある。ただ、彼らを活かせる組織はあるか。見られていますぞ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年11月4日付
 五輪、総裁選、衆院選と駆け抜け、今のところ新型コロナも落ち着いている。「さあ、これから」と行きたいが、中小企業経営をボルダリングにたとえると、踏ん張る足掛かりが見つからず、掴もうと伸ばす手の先は迷うばかり。そんな状態か▼これからが正念場と言われる中、引き続きコロナ第6波への警戒は怠れない。新たなウイルス発生の可能性もある。実態なき株高はいつ下落してもおかしくない。中国発のバブル崩壊の波及もあり得る。むしろ、それらは皆起こるものと備えたい▼多くの企業に必要とされるのは、社会の変化から生まれ来る新しい需要への嗅覚と、そこに寄り添う力だ。同時に忘れてはならないのが、事業基盤の再点検。背伸びをしてうっかり足下が滑っては元も子もない▼ルネサスエレクトロニクスやコニカミノルタの工場火災、サンメッセの年金通知書印字ミスはなぜ起きたのか。錚々たる企業でも防げない事故だが、中小企業で起こればそれこそ命取りとなる。事故は、人やシステムがフル稼働している時には案外少ない。ふと緊張が解けた隙を狙って魔の手が伸びると思わされる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年10月28日付
 今月末に投票を控えた第49回衆議院議員選挙。新型コロナウイルスの国内感染状況は一旦落ち着いたとはいえ、第6波に備えた医療体制の整備や経済対策など問題は山積している。前回を上回る投票率が予想されるなど注目度も高く、コロナ後の日本の姿を占うターニングポイントとなることは間違いない▼今回の選挙ではコロナ禍でダメージを負った日本経済の立て直しが争点の一つとなっている。その代表格として飲食・旅行業界への経済支援策が各党から示されているが、同じくイベントの中止などで甚大な被害を受けた印刷業界にはスポットが当たっていないのが現状だ▼1999年に全日本印刷産業政治連盟が発足し、行政などへの要望活動を強化した結果、官公需取引における著作権の適切な取扱いなどで成果も生まれている。一方で、一般社会へのアピールについては未だ課題を残し、それがコロナ禍での印刷産業の窮状が世間に伝わらない要因となっている▼情報伝達産業でありながら情報発信を苦手とする印刷産業。ロビー活動で一定の成果を挙げた経験を一般社会への広報活動にも活かしてほしい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年10月21日付
 今号で紹介したマルワの鳥原社長は、SDGsについての講演で、「仕事が偏らないようにするのはSDGsの大事な要素」と語っている。働き方、やりがいにつながる話だ。ノー残業デイを設けたら、定時で帰るために社員がお互いに仕事を手伝ったという。それも培った社風だろう▼より具体的に、SDGsの切り口の一つとして「多能工化」を挙げる。同社では、印刷機のオペレータが企画立案をし、加工に携わる社員が動画を制作し、出力の担当者がBCP(事業継続計画)の見直しを行っていると紹介した。そういう社長自身が、講演をし、ブログを発信し、印刷工業組合の理事長を務める▼2021年、何といっても時の人は「オータニさん!」。投げて、打って、走っての三刀流全開。真似はできないが、普通の人でも少し意識を変えるだけで、眠っている二刀流、三刀流の力を出せるのではないか▼昔なら大リーグでの日本人の活躍に「黄色人種が…」という偏見もあったろう。今、そんなことを言えば袋叩きにあう。いや、むしろオータニさんは愛されている。彼もSDGs時代の象徴か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年10月7日付
 琥珀色のざわめきに白い泡の絶妙な取り合わせ。視覚的な刺激がビールをより美味しくする。ところが、サッポロビールは販促やイベントなどで使うプラスチック製コップを2年後に半減させ、2030年までに原則廃止するという。これも脱プラの時代の流れだ▼地球環境に配慮することは、これまでの贅沢や便利を我慢することでもある。紙製飲料からプラスチック部分を完全に無くせば、開封してすぐに飲むか、別の容器に移して保存する必要がある。そうしたところからも生活様式は変わっていく▼紙製コップのビールとなれば、容器表面に印刷する写真やデザインの重要度がさらに増すだろう。いかに消費者の味覚中枢を刺激できるか。印刷会社の腕の見せ所だ。また、シュリンクラベルを無くし、ペットボトルに直接印字する動きなども見逃せない▼脱プラに関しては、プラモデルその他のプラ製玩具にまで見直しが及び、それに比例するように紙製や木製の玩具への注目が高まっている。生活様式だけでなく、長期的に人間の五感や脳の仕組みにも変化が起こるのではないか。興味は尽きない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年9月30日付
 コロナ感染者の全国的な減少傾向に伴い、19都道府県に発令されていた緊急事態宣言を全面解除する方針であることが発表された(9月27日時点)。第6波を防ぐためにも引き続きの感染対策は必須ではあるが、経済活動の本格的な再開が期待される▼10月までは印刷業界でも関連イベントの中止が相次いだが、11月からは仙台市で行われるSOPTECとうほくをはじめ、延期された日本印刷産業連合会の「9月印刷の月」記念式典などがリアル開催で予定されている。報道によれば治療薬の開発も進んでおり、コロナ禍の収束がわずかながら見通せるようになってきた▼今後、社会がコロナ以前の状態に戻ろうとする動きが強くなることが予想される。だが、テレワークやテレビ会議システムなど、コロナ禍で導入が進んだ新たなビジネスワークについては効果測定を行ったうえで良いものは残していくことが大切だ▼コロナによって起こった社会の大幅な変化は、従来の悪しき商習慣を改めるきっかけにもなった。それらを財産としてしっかりと残すことで、コロナ後の新しい社会をより良いものにしていきたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年9月16日付
 目標や戦う相手がはっきり見えている時は、対策を立てられ、底力も出る。だが、企業は今、混沌とした状況にある。印刷業界では、コロナ禍に加えて、「印刷」という事業の定義や概念そのものが揺らぎ、拡散したため、どこに向けて努力すればいいのか、多くの企業に不安と迷いが生じている▼心が揺れ動く状態で、いくら提案営業に励んでも、補助金の支給を受けても、業務提携を模索しても、価値を生むことはない。最優先の課題は、自社の存在理由の問い直しと針路の明確化、社内での共有であり、そこからすべては始まる▼印刷会社のライバルは同業ではないと言われてから久しい。池や湖にいては限りがある。リスクもあるが、海に出てこそ収穫は大きい▼事業再構築補助金で採択されたある製本会社は、SWOT分析で自社の立ち位置を明らかにしたうえ、遠隔地の親しい同業に客観的な厳しい指摘を受け、課題解決を一緒に考えた。海原を共に進む二隻の船。そんな関係もある。社長は、自社の弱点でさえ、「まだ活用できていない長所として最大限に活かし、新しい顧客を創造したい」と前を向く。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年9月9日付
 アイブリッジ社が実施したDXに関する国内アンケート調査(20〜60代、会社員1000人対象)によると、「勤め先がDX化に取り組んでいる」と答えたのは2割。業種別で「出版・印刷業」はゼロだった。「DXを理解している」の回答も2割強なので曖昧だが、業種の性格を反映していないか▼取り組んでいる業種のトップには農林水産業と情報通信業が並ぶ。一次産業の高齢化、就労人口減少、低収益に対する危機意識は強く、DX抜きに改革は語れない。光量・温湿度センサーと連動し無人管理するスマートビニールハウス、ドローン撮影画像をAI分析する植栽苗木の生育状況確認システムなど、開発は急だ▼デジタルシフト、コロナ禍、高齢化、最低賃金上昇、資材高騰…中小印刷会社の危機感が薄いわけではない。だが、なまじ製作工程のデジタル化に接してきているだけに、自力頼みに陥りがちで、取組みが硬直化する罠もある▼同じ調査で、テレワークの導入比率は出版・印刷業が2番目に高い。改革の土壌はある。一次産業に倣い、異業種を含む産学官連携の力をもっとDXに活かすべきだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年8月26日付
 コンビニやスーパーなどでセルフレジを見かける機会が増えてきた。店員に会計してもらうよりも手間はかかるが、コロナ禍で非接触意識が高まっていることもあり、私のように進んで利用している人も多いと思う。企業としても人件費を抑えられるメリットは大きく、今後も拡大していくことが予想される▼売上の減少に苦しむ多くの企業にとっ て、業務の効率化は最重要課題。だが、自社内だけの取組みには限界がある。顧客や協力企業を巻き込みながら最適化を進 める時期にきている▼あるスーパーでは利用する際に百円玉を投入するコインロック式のショッピングカートを採用することで、放置カートの回収作業をなくした。当然ながら百円を用意する手間が利用客に生まれるが、効率化によるメリットが商品価格に転嫁されるのであれば、多少の手間を嫌がる人は少ないはずだ▼大事なことは相手にお願いするのではなく、効率的な行動を自然に取ってもらえるスキームを考えること。ただ漫然と協力を要請するだけでは上手くいかないことは、政府の新型コロナウイルス対策の現状を見れば明らかだろう。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年8月19日付
 ドイツ、トルコ、中国、そして日本の大水害は、明らかに気候変動で一本につながっている。国連IPCCは、地球温暖化の原因を初めて"人為"であると報告書で断定した▼DNAの遺伝子情報をRNAに転写し、翻訳してアミノ酸からタンパク質を合成する生命の中心原理は、バクテリアのような単細胞も、ミミズもハエも植物も、ヒトも、すべての生物に共通する。つまり、種の起源は同じ。進化論と聞けば、下等から高等に向けて進んでいると錯覚するが、実態は進化ではなく「多様化」だ。生物の多様化と共生こそ地球の生態系を支えてきた▼いつしかヒト属は、自分たちが進化のピラミッドの頂点に立つ存在だと思い込み、驕り高ぶった。大災害は自然の報復であり、コロナ禍も同じ根っこを持つと考えられる▼奇跡的な複雑さで成り立つ生命の不思議には驚愕させられる。宇宙空間から地球を眺めた者が皆、人類への愛を口にするように、生命というミクロの宇宙を知ることの効果は絶大だ。有人宇宙旅行に思いを馳せるのもいいが、誰もが必ず一つ持つ身体にまず目を向け、謙虚に学んでみてはいかがか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年8月5日付
 「ウルトラセブン」の4Kリマスター版がNHKで放送されている。53年前の作品だ。高度に科学技術が発達した社会のはずなのに、市民がコード付きの固定電話でウルトラ警備隊に助けを求めるのが妙におかしい。円谷プロも現代のスマホの普及にまでは想像が及ばなかった▼半世紀後に令和のホームドラマの再放送を観た人が、「なんだ紙なんか使ってるよ」と一笑に付すことは当然あり得る。寂しくはあるが、紙が無くてもほとんど困っていない我が子を見れば、孫の世代はなおさらだ▼今年も8月15日が近づく。SDGsの目標は数多いが、究極は「戦争だけはしてはいけない」だと強く思う。記憶を風化させないために、デジタル世代に最も訴えかけられる手段は何か。紙の冊子を学校で一斉配付するといった昔ながらのやり方では空振りに終わるだろう▼オンライン写真館でも資料館でもいい、戦争の悲惨さや正しい歴史を伝えるサイトを閲覧、もしくは感想を投稿したら特典があるような商品キャンペーンぐらい大企業は本気で考えてもいいんじゃないか。Webの良さを活かす世の中はこれから始まる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年7月29日付
 さまざまな困難を乗り越えて開幕した東京オリンピック。開催前にはその是非が問われたが、連日繰り広げられる熱い戦いから生まれる感動と興奮は、コロナ禍で影を落とす世界を間違いなく元気づけている▼日本代表のメダルラッシュに伴って見る機会も多い今大会の表彰台は、再生プラスチックを原料に3Dプリンターで製作されている。アスリートと同じく科学技術も進化しており、もはや表彰台が“印刷”される時代になった▼前号で紹介した「大喜利印刷店(展)」のクロストークイベントの中で博報堂の小野直紀氏は、印刷の定義をデータをアウトプットすることまで拡げれば「印刷=モノづくり」になると指摘した。データの管理・加工を生業とする印刷業界だけに、3Dプリンターなどの新たなデバイスを上手に活用することができれば、ビジネス領域はさらに広がる▼トヨタ自動車の豊田社長は、自社を自動車会社から「人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニー」と定義することで変革を促した。トップの柔軟な発想とリーダーシップがあれば、印刷会社の可能性は無限大だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年7月15日付
 日本WPAが6月17日に行ったオンラインセミナーでは、脱炭素社会をテーマにNHKエンタープライズの堅達京子プロデューサーが講演した。もはや地球は気候非常事態にあり、このままでは灼熱地獄へのドミノ倒しが始まってしまうという恐ろしい内容だった▼2019年に北極圏シベリアで気温38度を記録した話を聴いたすぐ後、6月29日にカナダで国内観測史上最高の49.6度を記録、7月2日には熱海市で豪雨による大規模土石流が発生した▼堅達氏は「早ければ2030年にも地球の平均気温が産業革命前比で1.5℃上昇する可能性がある。この臨界点をひとたび超えてしまうと、太陽光を反射している氷がさらに溶けて、黒い表面が反対に吸収作用を起こし、どれほど努力しても温暖化の連鎖で4.0℃上昇まで行ってしまう。この10年間が正念場だ」と警告する。また、「CO2を減らした人が得をする社会の仕組みが大事」だとも▼1.5℃の地球防衛ラインを死守できなければ、人の生命も経済も重大な危機に直面する。ゼロカーボンに向けた産業システムの抜本的改革に、残された時間は少ない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年7月1日付
 IGAS2022が来年11月下旬に開催される。従来の9月や7月開催に比べると、見学するには快適な時季であり、それまでにはコロナの終息も期待できる。新規投資を検討するには恰好の機会となる▼投資家目線でIGASを訪れるためにも、まずは自社の事業の方向性をしっかり定めたい。今後のトレンドを考えるうえで、経済産業省から公表された事業再構築補助金の採択案件が参考になる。計5回の公募が行われるとして、印刷・加工関連だけで数百件にのぼる。全体の傾向と「今後の狙い目」が見えてくる。あえて他社が行かない道を選ぶのも手だ▼さらに、他産業についても丹念に見ていくことで、各分野で何が解決課題となっているのか、ヒントをつかめるだろう。あらゆる産業を顧客に持つ印刷業界だからこそ、顧客の困り事の把握には先回りが必要だ▼ようやく展示会が通常開催に向かい出す。展示会は、生きたビジネスの未分化状態であり、濃厚なスープ。その中から何を掬い取るか。自社のビジネスモデル仕様のカスタマイズをメーカーに要求できるほどの勉強と準備をしておきたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年6月24日付
 大きな夢や目標のない幼少期を過ごした私だが、中学生の時に将来就きたい職業として何となく新聞記者と答えた。結果として大人になって夢を叶えたことになる。そのために特別な努力をしたわけではないが、中学生時代の思いがその後の人生に影響を与えたのかもしれない▼東京都江東区にある篠原紙工の篠原社長は、セミナーなどでたびたび自身の夢について、子供たちの「将来なりたい職業ランキング」で製本業がランクインすることを挙げている。製本という仕事に対するプライドや熱い思いを抱いている人物だと端的に感じさせる夢だ▼人の夢を企業に当てはめれば、経営理念や経営ビジョンなどで表される。その会社が何を目指し、仕事を通じて何を達成したいのか、経営者のビジョンがその会社の夢になる。そして、それを社員と共有することができれば、目標の達成に近づく▼コロナ禍で先行きが不透明な現在、社内の雰囲気も暗くなりがちだ。だが、明るい未来の見えない会社では社員が活き活きと働くことは難しい。苦しい時期にこそ、経営者は夢を語ることで社内に明かりを灯してほしい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年6月17日付
 プロ野球のセ・パ交流戦が最終盤。セ・リーグが12年ぶりに勝ち越す可能性がある(15日昼現在)。今年は延長戦がなく、先発投手を引っ張らなくていいからだという見方もあるが、パへの対抗心に加えて、臆しない新人の活躍。やはり気力、迫力は大切だ▼かつて高校野球で、明らかに実力で相手に劣るチームの監督が、試合前日に「明日、勝てると思う者は?」と問い、手を挙げた選手だけをベンチ入りさせた実話がある。また、ある甲子園の優勝チームは、決勝戦での守備で全員が「自分のところに球が飛んで来い」と思っていたというエピソードも。そう思えたら勝たない方がおかしい▼先日、業界の会合で「小さなところからでも、自ら変化を起こしていく。私たち中小企業こそ変化創造型企業≠目指そう」という幹部の挨拶を聴いた。厳しい環境に委縮するのではなく、いかに気張って前に踏み出すか。その一歩の差はとてつもなく大きい▼昔、長嶋茂雄が新監督で巨人の最下位が決まった時、「こうなったら、もう一所懸命やるしかない」と言ったとか。翌年、巨人は復活優勝を遂げた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年6月3日付
 近頃、不愉快なことの一つ。毎週日曜放映のNHK杯将棋トーナメントで、手が指されるたびに対局者の勝利確率が画面に表示されるようになった。興趣をそがれ、思考は停止する。AIの判定に罪はない。こんな愚策を導入した人間の責任だが、果たして、タブレットを支給された小中学生たちの学習で似たような障害が起こらないか▼勝負事も学習も、妙味はグレーゾーンや偶発性にある。もやもやとした視界が一気に開ける快感。それなくして意欲も湧かない。AIが最善手、最適解を導けると信じる発想は人間否定に通じる▼経営にも最善手というものはない。誰も未来は予測できないのだから。懸命に考えた結果が悪手になり、善手を続けても好転しないことが多々ある。それならば、「もやもや」を楽しむぐらいでいる方が、前に進む力を与えてくれる▼相撲の番付に譬えれば、13勝、14勝できる変革リーダーに皆がなれるわけではない。まして環境激変の時代、8勝7敗でも勝ち越せる会社は優秀だ。おそらく社長は、最善手を自分が指せるとは思っていないが、勝ち方、負け方のコツは知っている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年5月27日付
 これまで政財界に止まっていた感のあるSDGsだが、最近になってテレビ等でも特集される機会が増えてきた。教育現場でもSDGsを取り上げた授業が増えつつあり、国内での認知が拡がっている▼環境問題や社会貢献活動などをビジネスと切り離して考える人も多いが、SDGsが掲げる持続可能な開発目標は一過性のものではなく、2030年以降も目標の達成や維持に向けて継続していくものだ。働き方改革と同様に、ビジネスを構成する一要素として捉える必要がある▼第2回ジャパンSDGsアワードで「パートナーシップ賞(特別賞)」を受賞した大川印刷(横浜市)の大川哲郎社長は、SDGsを社員に説明する際、「本業を通じて正しく稼がせていただく」と定義した。印刷ジネスを活かして社会課題を解決していくことが、SDGsの達成にもつながる▼人命のかかったコロナ対策でさえ経済活動との天秤で苦しんでいる現状を考えれば、SDGsの推進も簡単ではない。だが、地球環境が着実に悪化している現実から目を背けていては、後世にコロナ禍以上の混乱をもたらしかねない。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年5月20日付
 五輪開催の是非を巡ってなんとも嫌な空気が漂う。主催者はあくまでも国際オリンピック委員会(IOC)であり、日本はホスト国。招致に名乗りを上げ、成し遂げる能力をアピールして選ばれたからには、責務を全うしなければならない▼IOCが世界各国の意向を汲んで中止を決めるのは仕方ない。だが、コロナを楯にとり、さも中止が当たり前のごとく国民が意見を振りかざすことに無軌道さを感じる。ましてや、選手自身に出場辞退を迫るような暴挙は許されない▼匿名性の時代の色はますます濃く、他者への攻撃性が増している。同時に、「国民がみんな反対しているのに…」、「私の周囲もみんなそう言っている…」といった、見えない味方を恃む発言が幅を利かす。一人称を消すことは、事実の歪曲であり、責任回避行動の表れだ▼「誰一人取り残さない」のがSDGsの基本理念。少数派が意見を述べにくい社会は、とても持続可能とは言えない。感染に恐怖する人がいるならば、最高のアスリートたちの勇姿に触れコロナでの鬱屈を吹き飛ばしたいと切望する人が、世界中に、全世代にわたって必ずいる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年5月6日付
 緊急事態宣言は、対象の都府県だけに影響はとどまらない。多くの行動が制約を受け、イベント・販促に関わる印刷物にとっては殊更厳しい。連休に向けてせっかく用意されながら、使われず仕舞いとなった製品もある。先を見通せず、告知案内の類も控えられがちだ。情報をしっかり定着させる印刷の特性が裏目に出る▼困窮する取引先を救う上で、印刷物にできる事はいろいろある。店の予約応援チケット、短時間で買物ができるタイムセール案内、心を届けるギフト企画…。とりわけ地域密着型の中小印刷会社にとって、アイデアを絞るなら今を措いて外にない▼加えて、ITを使った告知や店舗誘導、ネット通販や出張販売による売上支援、人の派遣、代替イベント企画など、ある種"捨て身"の作戦であらゆる応援を続けることが、後々、顧客との新しい関係づくりや自社の業態変革となって顕れる▼泥臭さこそ扉を開く近道。そこに、人の心も硬直しがちな今だからこそ少しのユーモア。自社は地域で意外に知られていないという自覚の下に、改めて存在を知ってもらうための時間として利用したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月22日付
 4月1日から全国放映されている凸版印刷のCMでは、出演する大泉洋さんが開口一番「トッパンのこと印刷の会社だと思っていません?」と切り出す。単なる印刷会社ではないことを訴える内容だが、世間から印刷会社だと思われていることに対する危惧をストレートに感じた▼事業領域の拡大を志向する経営者が増えるなか、全国の中小印刷会社においても社名から「印刷」を外す会社が相次いでいる。ステレオタイプな印刷業のイメージから脱却するための手段として、端的な効果が見込めるからだろう▼経済産業省は今月15日から「事業再構築補助金」の第1回公募の申請受付を開始した。新分野開拓、事業転換を国が後押ししている以上、印刷会社の事業が今後より一層多角化していくことは間違いない▼鹿児島市にあるプロゴワスはBPOサービスへの参入などを機に、創業95年目にして社名を和田印刷から大きく変更したことで、従来顧客からも新規案件の相談が多く寄せられたという。「名は体を表す」というが、各社の現在の「体」を適切に伝える「名」を冠する重要性が高まっているように感じる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月8日付
 4月1日から70歳までの就業機会の確保が努力義務となり、「同一労働同一賃金」の中小企業への適用も始まった。経営者の気苦労は多いが、それを前向きの力に変えるには、老若男女、すべての従業員に活き活きと働いてもらう以外にない▼パソナグループは、コロナ禍で自宅待機や休業を余儀なくされた他企業の若手社員約2千人を出向の形で受け入れる。雇用維持とキャリアアップを支援し、自社にはBPO事業等でのメリットを期待する。日本全体で「人材連携」の流れが加速していく▼15日から申請受付が始まる事業再構築補助金にしても、設備より先に、誰が、何をすることで社会の課題に応えるのかを考えたい。第1回公募は締切の4月30日まで時間がない。公募は複数回にわたるはずなので、まず人材の観点から一度じっくり検討してみてはどうか▼家庭の金融資産残高が過去最高となる一方、日本の貧困率は世界的に見ても高く、教育格差、キャリア格差の広がりが心配だ。常に思うのだが、原発、リニア、軍事、宇宙の前に、若者の将来設計と新産業創出にもっと肩入れできないものか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月1日付
 コロナ禍により2020年は新・コミュニケーション元年となった。緊急事態宣言が解除されて人出が増え、大学でも慎重ながら対面授業が始まり出す。ワクチン接種の広がりとともに、ビジネスの面でも徐々に氷が解けていくだろう。コミュニケーションの揺り戻しが起こる▼だが、提案や商談、セミナーの類が完全に元に戻ることはない。オンラインの活用は常識化しつつある。移動時間を省き、集客を増やす効果がある一方、微妙なニュアンスは伝わりにくい。各社各様の試行錯誤が続く▼近頃感じることの一つは、メールマガジンの増加とレベルアップ。具体性を帯びたものが増え、思わず読んでしまう内容が多い。動画の活用も増えた。製品の出来上がる過程や社内・社員の様子が伝わると親近感が湧く。ダイレクトメールはサンプル品やお役立ちグッズなどの同封が目立つ▼いずれにせよ、自社の取組みやサービスの価値を、目に見える形ではっきり伝えることがポイントになる。印象を焼き付け、関係性に紐付けをし、顧客の選択肢に自社を残してもらう。人的交渉の前哨戦の比重が増している。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月18日付
 先日、初めてフリーマーケットサイトを利用した時のこと。出品した私物が1分足らずで売れてしまったことに驚きつつ、発送する商品を自分が過剰梱包していることに気がついた▼消費者の一人として、必要以上の包装は資源のムダであり非効率だと思っていたが、販売する立場を経験したことでクレームを恐れる企業側の心情を肌感覚で理解した出来事だった。立場を変えれば、今までとは異なる視点を得ることができる。顧客目線でビジネスを考えるには、セミナーなどで得る知識だけでは限界がある▼以前、展示会に出展していた印刷会社の担当者が「展示会に出ると、お客さんの気持ちが分かるようになる」とメリットを話していた。販促支援を手がける企業ならば、自ら販促支援を受ける立場を経験することが顧客目線に立つ第一歩ではないか▼このほど結果が発表された第35回全日本DM大賞では、広告主として印刷会社4社が入賞した。広告宣伝を生業としながら、自社のPRを課題と認識する印刷会社は少なくない。自社で培ったノウハウを、もっと印刷会社自身が活用していくべきだと感じる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月11日付
 東日本大震災から10年。この間、日本の何が変わっただろう。与党に反原発を唱える政治家は一部だけ。誘致のために使われた「復興五輪」のフレーズも虚しい。故郷に戻れない人々に対し、孤独担当大臣は何を思うのか▼石巻日日新聞社は、震災の翌日から避難所に手書きの壁新聞を貼り出し、市民に必要な生活情報を提供した。インフラが破壊され、情報が極端に閉ざされる中で、心を支える灯ともなった。ネット隆盛の時代になっても、あの時の壁新聞にメディアの原点を見る▼先日のJAGATカンファレンスでフュージョンの花井秀勝会長は、地域と連携した出版物の可能性を指摘した。たとえば、スポーツ少年団の試合、市民サークルの発表会などの情報を記事やアルバムとして丁寧に扱うことで、地域活性と地元企業の宣伝につなげられる▼花井氏は、特に地方市町村では印刷会社が地域活性化のコンサルティングへの移行期にあると見て、「新しい価値観と文化創造としての印刷ビジネス」を提唱する。デジタルは手段。人は人とのつながりの中でこそ生きられるという本質を決して見失うまい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月4日付
 2月は、業界でも老舗の部類に入る印刷会社の廃業の噂をいくつも聞いた。コロナ禍の収束が見通せないなか、傷が浅いうちに整理を考える経営者が増えるのは致し方ない。消極的な意味合いであっても、ひとつの業界再編のあり方に違いない。撤退するにも非常な勇気がいる▼それにしても、業界に多くの黄色信号が点滅し始めている。ほとんどの会社が、2020年に自社のキャッシュフローを真剣に見直した。加えて2021年は、取引先に細心の注意を払い、与信管理を徹底しておく必要がある▼かたや主要取引先の業種によっては、設備と人員をフル稼働しても受注を捌ききれない会社がある。だが、いつまた環境が激変するか、誰にもわからない。今の好調は一時と覚悟し、来たる変化に備えるべきだ▼印刷業界に限らず、五輪関連のインバウンド需要等を見込み、ここぞ、と投資して裏目に出た会社は数知れない。先の見えない時代こそ、あえて中長期に利益を生むビジネスモデルを考えてみてはどうか。流行は人を置き去りにする。追いかければ逃げるが、価値を生む処には必ず立ち寄ってくれる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月25日付
 初のオンライン開催となったpage2021。その基調講演では、テレワークの普及に伴うコミュニケーションロスがコロナ禍の課題として挙がった。顧客との接点が減少しているのに加え、社員同士の意思疎通が疎かになることで仕事上のミスにつながるリスクが指摘された▼リアルの会話では言葉のイントネーションや表情から伝わる情報も多く、メールなどでは細かなニュアンスを読み取ることが難しい。日本印刷技術協会の調査でも、ビデオ会議システムなどを導入している企業ほどテレワークの満足度が高い傾向にあることが明らかとなっている▼また、ヨコ文字のビジネス用語も社員同士の意思疎通にズレを生じさせる要因となっていないか。たとえば「ソリューション」という言葉も、日本語に訳せばさまざまな意味を持つ。SDGsやCSR、DXなども非常に広義な意味を含むだけに、その解釈は人によってバラバラになりがちだ▼ある印刷会社では、そうした言葉の意味について解説した小冊子を制作し、朝礼などで発表している。意思疎通を高めるには、こうした工夫も必要になる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月18日付
 新型コロナ用のワクチン接種がようやく始まり出す。全国民を対象とした壮大なプロジェクトの混乱が最小限に収まることを願う▼印刷事業者も、そこに加わろうと盛んに関係機関や同業者に働きかけている。コロナワクチン接種の予診票に医療機関コードを事前に印字し、請求用の入力ミス回避や接種会場スタッフの作業負荷軽減を提案する会社。ワクチン接種に伴い自治体で必要となる通知書、接種券、予診票などの印刷・発送業務にあたり、国の要求事項に準拠した製品を社内一貫生産で安心安全に提供できる強みを訴える会社など、さまざまだ▼コロナの影響で多くの印刷需要が消失したが、一方で、人の生活がある限り、必要とされる新しい需要も生まれる。"7割経済"の流れに逆らうのなら、従来の7の仕事が残るうちに、少なくとも新たな3の仕事を掴み取りに行く強い意識を持たなければならない▼経済産業省は3月にも、中小企業の思い切った事業再構築を支援する補助金事業の公募を開始する。通常枠で最大6000万円の補助額が設定されている大規模なものだ。挑戦してみる価値はある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月4日付
 同人誌印刷を手がける中小印刷会社を舞台に女性社員の奮闘を描いた漫画『刷ったもんだ!』が現在、週刊モーニングで連載されている。作者の染谷みのる氏は印刷会社で働いていたことがあり、作品内ではその経験を活かした印刷業界のあるあるネタ≠ェ随所に散りばめられている▼2018年に出版された印刷営業の仕事を描いた小説『本のエンドロール』(安藤祐介)など、出版業界の裏方である印刷現場をフィーチャーした作品が増えているのは、読書ファンの興味が作品のさらに奥まで達していることの裏返しだろう。こうした作品が増えることで、業界に対して一層の理解や親しみを感じるきっかけになってほしい▼ただし、業界の周知が進むことは、これまで知られていなかった問題が晒されるリスクもある。フードロスの削減が叫ばれる時勢にあって、金額返品率が4割に近い日本の出版システムはプリントロス≠ニ批されかねない▼新型コロナウイルスという外圧によって世界は一変した。消費者の目という外圧が加わることで従来の出版システムにもパラダイムシフトがもたらされるか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月28日付
 阿辻哲次氏(京都大学名誉教授)の著書『遊遊漢字学』の一節に「《土》という字は大地の神を祭るために作られた盛り土をかたどった象形文字であり、のちに《示》を加えて『社』(おやしろ)と書かれるようになった」とある▼「社員」とは社を奉じる人たちであり、社員の集う場が「会社」ということにもなろうか。会社はもともと神聖なもので、ことさらコンプライアンスなどと強調しなくとも、襟を正すべき存在だと考えれば、「会社は公器」という言葉も納得がいく▼西洋でも、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に代表される思想がある。しかし、利潤の追求が肯定される中で、いつしか神は忘れられ、儲けそのものが目的と化した▼ブラック企業は後を絶たず、コロナ不況による解雇や雇い止めも膨らむ。一方で、医療や介護、教育、保育といった人々の生活に不可欠な分野は、現場がさらに逼迫している。「社」から一度弾かれた人々を、もっと大きな「(公)社」で囲い込む柔軟な仕組みづくりが急がれる。まさに、人こそ「公器」である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月14日付
 大手印刷会社の社員向け年頭あいさつで、3社の社長が揃って同じ思いを述べている。「状況の変化に振り回されず、自分たちから変革を起こしていく…」(大日本印刷・北島社長)、「一人ひとりが、変化をチャンスに変える気概を持ち、自ら行動を起こさなければならない」(凸版印刷・麿社長)、「今こそ、勇気を持って自分から動こう」(共同印刷・藤森社長)▼想定できない事態が続発し、環境がめまぐるしく変化する時代に、正しい答など転がっていない。組織が個を管理し、個が指令を忠実に実行することで勝てたのは昔の話。脳という司令塔を介さずとも、細胞が有機的に分裂・再生を繰り返す人体のホメオスタシスを理想としたい▼もはや、「変化への対応」という言葉さえ古びた。詰まるところ、変化を先に選び取ってしまった方が楽に進める状況にある▼とはいえ、組織も人も、単体で変態を遂げるには弱い存在であり、有効な触媒を必要とする。企業であればM&Aや事業連携、異質な人材の登用、個人であれば異業種交流や外部への出向などが、さらに活発になっていくと思われる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月1日付
 さまざまな問題を抱えたままの年明けとなった2021年。新年の晴れやかな気持ちは少なく、例年に比べて落ち着いた年末を過ごした方が多いのではないか▼今年は丑年。牛は多くの国にとって牛肉が食文化に欠かせないなど身近な存在だが、環境面では牛の畜産により発生する温室効果ガスが問題視され始めている。それに伴い、飲食チェーンでは代用肉を使用したメニューも増えてきた。食卓から牛肉が消える…、そんな未来を簡単に否定できないのはコロナ禍を経験したからか▼従来の常識が大きく覆った昨年は、社会と経済に大きな混乱と変革をもたらした。デジタル化の流れが一層加速し、印刷業界には多くの逆風が吹いた。しかし、感染症対策関連商品の開発などにより新市場開拓の一歩を踏み出すなど、コロナ禍をチャンスに変えた印刷会社も少なからず存在した▼コロナ以前に停滞感を感じていた成熟産業ほど、社会がリセットされたことによる恩恵もあるはずだ。歴史のターニングポイントとなった2020年が各人、各社にとってどのような意味を成すのかは、これからの行動しだいだ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月17日付
 新キャンパス生活や海外留学に胸膨らませていた学生、旅行・航空・ホテル・テーマパーク業界などへの就職を夢見ていた学生。彼らにとって悪夢のような一年だったことだろう。過去は変えられない。だが、過去に対する思いや見方は時間や経験とともに変わる。今の喪失感を何とかプラスに転じる日々を送ってほしいと願う▼ウィズ・アフターコロナ、新常態という言葉が多用されるが、若いコロナ・トラウマ世代に、「世の中が変わったのだから」と様式を押し付けることがあってはならない。これまで育ってきた時間の重みを、大人の都合で捩じ曲げてはいけない。彼らにも言い分がある▼人の移動が制限された一方、働く場所や働き方については柔軟さがぐっと増してきた。オンラインによる情報発信量もさらに増え、勉強の材料には事欠かない。あとは、人と人との間で、どんな価値を生み出していくか。そこにこそ若者の役割がある▼もう、withコロナは強調しなくていい。新しい関係性の中で「withピープル」、「No分断」を追い求める新年であれ。効率一辺倒の社会の見直しと表裏一体である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月10日付
 ハンコ(印)レス、キャッシュ(札=刷〈さつ〉)レス…、どうも世の中は印刷を締め上げる方向に動いている。今どき、印刷会社は印刷物だけを作っているといった認識は薄れてきているはずだが、では、「企画からお願いします」と真っ先に印刷会社に相談に来る客がどれだけいるかと考えると、心許ない▼印刷需要が減り、ロットも小さくなっていくことは間違いない。だとすれば、上流から下流まで丸ごと仕事を請け負う以外に、印刷会社が利益を確保する道はない。しかし、すぐにデザインだ、発送だと、工程に沿って考えてしまう癖がこの業界に染み付いている▼「モノづくり」から「コトづくり」へ思考回路を切り替えるには、掛け声だけではダメだ。生産性やスキルを測るのに、OEE、時間当たり原価、技能検定などがあるのに、なぜ、コトを生む人間性についての指標はないのか▼業界統一では難しいだろうが、各社で工夫し、発想力診断、グループ討論評価、アイデア案件数、顧客とのアクセス頻度や密接度などで測ることはできる。もっとも、判定できる上司がいるかどうかは別問題だが。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月3日付
 完全なる循環型社会を志向する「サーキュラーエコノミー」は今後、日本でも極めて重要な概念になっていく。攻めの環境政策と同時に、利益につながるビジネスモデル。欧州の経済成長戦略の柱でもある。単にSDGsを達成するための仕組みではない▼「儲かるCSR」は成立するか─。いまだに議論は尽きないが、企業経営を危うくする活動はそもそもCSRとは言えず、利益(共益)を伴わなければ社会貢献は持続しない▼地方創生で、巨大資本の投下による成功例はない。小さな利益の循環こそ持続的な活力を生む。今年度の日本サービス大賞で、美容室IWASAKIを全国展開するハクブンが地方創生大臣賞を受賞した。業界で初めて1000円を切るカット料金を提供し、約950店舗の6割超が高齢化・過疎化の進む地方や離島地への出店。そこでサービスを維持し、働きやすさの追求で美容師の雇用と地元定着に貢献する▼つい、高付加価値で高額の商品・サービスを追求しがちだが、弱者に寄り添う息長いビジネスも大きな可能性を秘める。なぜなら、日本、そして世界中に弱者が広がっているからだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月26日付
 ギネスワールドレコーズに「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」と認定されるなど、日本を代表するプロ格闘ゲーマーである梅原大吾氏。2010年のプロ転向後、現在も最前線で活躍している▼その梅原氏は、数年前の講演会でモチベーションを維持するための心構えを次のように語っていた。「ゲームに限らず、同じことをしていれば飽きる。新鮮な気持ちがなければ前向きにならない。初心者にゲームを辞めた理由を聞くと『飽きた』というがそれは違う。ゲームではなく、成長しないことに飽きたのであり、問題は成長しない自分にある。成長を実感できていれば、ゲームであれ何であれ飽きることはない。人間が前向きに努力するためには成長があればいい」▼日本グラフィックサービス工業会は「ジャグラ認定DTPオペレーション技能テスト」をスタートさせる。DTPや工場のオペレータは外部と交流する機会が少なく、自身の成長を実感しづらい環境になりがちだ▼仕事における飽き≠ヘ離職につながる。外部テストなども活用し、成長を実感できる仕組みを社内に実装してはどうか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月12日付
 バイデン氏がオバマ政権で副大統領に就任したのは12年前。もし、前回の大統領選でヒラリー・クリントン勝利となっていたら、出番はなかった。本人も自分が史上最高齢の大統領になるとは考えていなかっただろう。奇しくもトランプ氏の登場により歴史が変わった。人生の不思議な巡り合わせである▼よくスポーツの世界では、「燃え尽きた偉才」、「奇跡のカムバック」といったドラマが好んで取り上げられる。それはそれで心を打つが、より称賛されるべきは、大きな不調に陥ることもなく、黙々とチームの勝利に貢献し続けた選手たちだ▼コロナ禍で印刷需要の落ち込みはすさまじい。給付金や借入等の手段が一巡し、これから経営は正念場に入る。だが、率直な印象を言えば、印刷業界はよく持ち堪えている。前例のない危機の中で、「これだけは手離せない」という自社の"拠り所"を再確認した会社も多いはずだ。一朝一夕につくれる価値ではない▼今から先は、見定めた価値を磨き直し、デジタルの装いも整えつつ、新しいステージに入る。そろそろスポットライトの当たる存在になっていい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月5日付
 加速する社会のデジタル化に対応しなければ印刷業は生き残れない。だが、ひと口に「デジタル化」と言っても、手段とするメディア、デバイス、アプリケーションも、その目的も、各社で大きく異なる▼DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉に馴染めない人は多いが、交通整理されていないデジタル化の現状を包括する概念として捉えてはどうか▼ある印刷会社の営業幹部は「お客様にデジタル化の提案を持っていくと、『社長から"DXをやれ!"と言われているが、何をやればいいのか?』と相談されて困る」と嘆いていた。単なるIT化やアナログからデジタルへの置き換えの域を出ず、双方に戸惑いがあるようだ▼全印工連 産業戦略デザイン室の江森副委員長は「デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを刷新し、仕事のやり方や生活のスタイルそのものを変革することがDX」とし、UberやUber Eatsを例に挙げる。人々がよりメリットを享受できる社会に変えることがDXであり、印刷業もステークホルダーに当てはめて考え、デジタル化を集約してみればいい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月29日付
 最近は何にでも「〇〇〇ハラスメント」といった新しい造語が作られるようになった。劇場映画が公開10日で興行収入100億円を突破するなど社会現象となっている鬼滅の刃にも早速「キメハラ」なる言葉が生まれている。曰く、流行ものを押し付けられることへの抵抗感を示しているそうだ▼セクハラやパワハラなどとは異なり、最近のハラスメントは相手側に悪意のないケースも多い。結婚や子供の有無を尋ねること、酒の席でアルコールを勧めることなども相手が不愉快に感じればハラスメントになり得る。部下とのコミュニケーションにおいても神経をすり減らしている人は多いのではないか▼SNSの登場により、言葉の持つ力が以前に比べて良くも悪くも高まった。広告宣伝を担う印刷業界にとっては、コピーライティングはこれまで以上にバランス感覚が求められる。自身に悪意はなくとも、受け手が不愉快に感じてしまえば広告の意味をなさなくなってしまう▼とはいえ、無難な文言を並べるだけでは人の心は動かない。デジタル時代だからこそ言葉力≠高めることが求められている。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月15日付
 尊敬する企業再建弁護士の村松謙一氏が、新型コロナに関連したコラムで数字を挙げていた。ある感染学者の報告では、今後の感染拡大でも日本での死者数は最大3800人、10万人あたり3人前後。対して、インフルエンザ関連死は毎年1万人ほど。しかし、経済活動は停滞し、多くの人が失職した▼年間の自殺者は2万人前後だが、今年は景気悪化と若者に広がる鬱で増える傾向にある。仮に2万人としても10万人あたり16人。これらから村松氏は「日本人は肉体的にはコロナに強いが、精神的にはストレスに極めて弱い」と指摘している▼国連児童基金(ユニセフ)は38ヵ国の子どもの幸福度調査結果を9月に発表した。「身体的健康」で日本は1位、「精神的な幸福度」は37位。学校でのいじめや自殺率、家庭内不和などが原因だ。子どもの虐待、育児放棄も増え続ける。社会を根底からリセットしない限り、この国の病は治らない。菅さん、どう考える▼自分の両親、そのまた両親と21代溯れば先祖は100万人を超える。綿々と紡がれてきた命の糸を断ち切ることのとてつもない罪にも思いを致したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月1日付
 drupaへの出展中止が相次いでいる。日本の常連企業だけでなく、地元ドイツのハイデルベルグまでも。新型コロナの影響で止むなしとはいえ、「ついに来てしまったか」という思いが拭えない。かつて世界の四大印刷機材展の一角であった英国のIPEXはデジタル化の波によって変容を迫られたが、このような形で"業界のオリンピック"の基盤が揺らぐとは想像すらできなかった▼設備投資の気運が萎み、メーカーは苦しんでいる。原因はコロナだけではない。国内では、人口減少に加え、明らかにデジタル化が加速し、紙媒体の需要が縮小している。現実は直視しなければならない▼「ものづくり」の大転換期にあって標榜されているのは、ソリューション(ステークホルダーの困り事の解決)と、課題に気付き、解決手段を提案・提供できる人材の育成だ。それがあって後に、手段の一つとして「もの」を産む設備が必要となる▼「ピンチはチャンス」という言葉は、世の中が変容、混乱するほど多くの課題が発生する様を意味する。悩む時間があるのなら、顧客と腹を割って話せということだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月24日付
 安全上の理由などから中止・延期が相次いでいた展示会イベントだが、9月に入り再開する動きが目 ってきた。東京ビッグサイトや幕張メッセでも大型展示会が開催され始めており、感染症への対策を図りながら、コロナ以前の日常が戻りつつある▼人との接触が憚られるなか、イベントやセミナー、営業活動、記者会見などはオンラインで開催されるようになり、参加する側としては利便性の面でもメリットは大きい。しかし、オンラインはあまりに“ムダ”が少ないように感じる。あいさつを兼ねた立ち話など、リアルに顔と顔を突き合わせるからこそのコミュニケーション、そこから生まれるビジネスもあるはずだ▼10月1日から東京もGoToトラベルの対象となるが、考えてみれば旅行は時間と費用をかけて遠方に出向くという意味ではムダが多い。それでも多くの人が旅行するのは、そのムダを含めたリアルな体験に価値を見出しているからだろう▼なくすべきムダは数多ある。しかし、なくすべきではないムダも少なくないのではないか。効率ばかりを追い求めては、人の心をつかむことはできない。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月10日付
 小学校5年生で英会語に"ハマった"。一番勉強になったのがNHKラジオの講座「基礎英語」。「続・基礎英語」、「英語会話」と進み、毎日夢中になって聴いた。東後勝明先生の名調子に憧れ、会話の背後にあるアメリカ文化の匂いに酔った▼大学受験の季節に聴いたのは、旺文社提供のラジオ講座、通称「ラ講」。もう38年も前の話だ。苦手な数学だったが、土師政雄先生の優しさに触れ、藤原正彦先生の叱咤激励に打ち震えた。学校の授業よりよほど楽しかった。今もこんなに懐しいのは、講師の個性と人間性の賜物だ▼市販のテキストと講師の声だけが頼みの一方通行だったが、毎回の放送が待ち遠しく、力が付くのがわかった。思えばあれも立派なリモート学習だった▼今、デジタル技術によって、はるかに高度な遠隔授業が可能になっている。テーマへの興味と講師の魅力が大事なことに変わりはないが、便利な機能がたくさんあるゆえに、一言も聴き漏らすまいという緊張感や自分なりの尺度で講師と向き合う力が失われるのなら残念だ。もっとも、最大の問題は、受講者本人の瑞々しい感性か(自省を込め)。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月3日付
 「知り合いの学校の先生は、夏休みにはウーバーイーツに精を出して、日に1万円以上稼いでいたよ」「だけど、マックで飲み物一つだけ買おうとした友人は、延々と待たされて怒っていた。ウーバーの予約でいっぱいで、出来てくるものがみんなそっちへ回されるとか」「それじゃ実店舗の意味がないね。本末転倒だ」▼「近頃はコーヒー一杯で注文する客もいるというから驚く。究極の出前感覚だ」「たぶん、そこに引け目とか感謝の念はないんだろうな」。インターネットとスマホで働き方、買い物、物流がどんどん変わる▼JR東日本は、東北・石巻で水揚げされたばかりの魚を新幹線の空席を利用して東京に運ぶサービスを始めた。そのうち、車両を丸ごと生簀にして、乗客に移動水族館を見せることになるかもしれない。東京から地方への移住が話題になる中、まだまだ首都圏の消費を当て込んだ地方活性化にも可能性がある▼印刷物も、鮮度の高い小ロットの製品を効率よく早く客先に届けるために、業者間連携による分散印刷や共同輸送、AI活用などを促進すべきだろう。物流革命から目が離せない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年8月27日付
 今年の夏も厳しい暑さが続いている。17日には浜松市で国内最高気温に並ぶ41.1度を記録した。35度を超える猛暑日が当たり前になり、健康リスクが以前にも増して懸念される。都内では8月の熱中症による死亡者数が過去最多となり、同期間での新型コロナウイルスによる死亡者数を大きく上回った▼どうしても感染症対策にばかり目がいきがちだが、熱中症に限らず、日常にはさまざまな危険が潜んでいる。安全に対する意識が高まっている今だからこそ、身の回りのリスクについて再度確認してみてはどうか▼特にここ数年は自然災害による被害が目立つ。昨年の大型台風により多くの印刷工場が浸水するなどの被害を被ったことは記憶に新しいが、今年もすでに九州地方などで豪雨被害が発生している。こらから本番を迎える台風シーズンを前に、先手先手の意識でリスクに備えたい▼新型コロナウイルスへの不安や在宅勤務などによる生活の変化により、メンタル面に不調を抱える人も増えているそうだ。何かと不安なニュースが多いだけに、従業員のメンタルケアにも留意してもらいたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年8月13日付
 出版不況の中にあって、『鬼滅の刃』の快進撃が止まらない。コミックだけでなく、映像や音楽への展開も華々しい。文響社の『うんこ漢字ドリル』シリーズはいまだ売れ続け、累計400万部を突破。高橋書店の『ざんねんないきもの事典』シリーズも380万部を超えた▼ネット媒体云々、活字離れ云々と外部環境のせいにする前に、編集者は真剣に、そして柔らかいアタマで、魅力的なコンテンツを生み出す努力をするべきだろう。人々はいつでも面白く、刺激的なコンテンツを求めている▼今の将棋界も、高校生の藤井聡太棋聖の大活躍で、ルールをよく知らない人まで熱い関心を寄せるようになっている。昔は、オジサンがやる地味な趣味という見方をされていた。羽生善治元七冠の登場から空気が変わり始め、AIとの比較も話題を呼んでブレイクスルーが起きた▼印刷業界はどうか。これほどコンテンツに密接に関わる仕事がこのまま下降するわけがない。変わるポイントは受注体質からの脱却だ。顧客業界を活性化するアイデアを、いかにしつこく、常に考えられるか。思考転換の訓練から始めたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年8月6日付
 相撲や野球などで、いわゆるタニマチ筋の人物と飲食し、コロナ禍にあって騒ぎとなることが多い。たいがい力士や選手が批判を浴びるのだが、スポンサーに誘いを受ければやはり断りづらいもの。いい迷惑と言える。タニマチ廃止論が起こり、応援はクラウドファンディングになっていくのは時間の問題か▼スポーツの試合に観客動員が始まり出した。人数限定の試みのなか、多感で未来のある子どもたち、不自由を強いられている学生たちを優先的に入れてあげてほしい。すでに経験のある大人たちは後回しでもいいだろう▼ランニング時にもマスクといった空気に嫌気がさし、しばらく走るのを止めていたが、五輪開会式があるはずだったスポーツの日に再開した。いつもの道。お年寄りに「こんにちは」、知的障害をもつ方に「がんばれ」と声をかけられ、返事をする。その気持ちよさ。長い梅雨の鬱陶しさも吹き飛んだ▼世論調査で東京五輪の中止を望む声が開催を上回ったが、選手たちの悲痛な心中を考えれば、簡単に中止を口にはできない。開催の是非はともかく、人を追い詰めることのないように望む。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年7月23日付
 ビジネス書として50万部を超えるベストセラーとなっている『ファクトフルネス(FACT FULNESS)』について、既にご存じの方も多いと思う。同書は世間で通説のように語られている事柄に対し、客観的なデータを基にしながら世界の実態を説き明かしている▼その中に「ネガティブ本能」という一章がある。貧困、食糧難、紛争など、さまざまな課題において世界的には改善傾向にある。それにもかかわらず、調査では「世界はどんどん悪くなっている」と考える人が多数を占めているのだ▼実際よりもネガティブに捉える人が多い要因として、同書では受け手側の問題点に加え、ポジティブなニュースよりも悪いニュースの方が広まりやすいことを挙げている。昨今のニュースを見ていても、確かに悪い情報ばかりが目に付く▼インターネットの登場により、私たちが受け取る情報量は爆発的に増えた。便利になった反面、情報の取捨選択も難しくなっている。目に付く情報に流されることなく、自身の尺度を持って善し悪しを判断する重要性を認識するとともに、報道に携わる人間として自らを戒めておきたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年7月16日付
 日本経済新聞の調べでは、10万円の特別定額給付金の支給に合わせ、東京23区と道府県庁所在地の4割強にあたる31市区が商品券、食事券などのプレミアム券を発行する(6月下旬時点)。今後の消費スタイルは、離れた場所に出掛けてというより、地域内での循環に向かいそうだ▼一方、ネット通販が今後さらに拡大していくことも間違いない。人々は店舗で買い物をする習慣を次第に失いつつある。販売側も、地域の商圏だけでは成り立たず、ネット通販で売り場を広げていくことになる▼印刷業界でも、新型コロナを機にネット通販に参入する会社がさらに増えた。地場産業(地産地消)の性格が薄れ、全国を商圏に見立てた生産集約化の方向に進んでいる。分散印刷(適地生産)の可能性もあるが、品質保証と利益確保の観点から、印刷通販会社の多くは自社工場生産、あるいは限定された会社との業務提携を選択している▼企業や個人の印刷発注がネット通販に流れ、デジタルメディアへのシフトも加速する中、地場の印刷会社が活路を見出すには、ニッチ市場を探る眼をより鋭くするしかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年7月2日付
 ひと頃、連日のようにトップ級の扱いで報道されていたAI(人工知能)だが、新型コロナの騒ぎに隠れてやや印象が薄くなっている。事態の拡大を予見できなかった、株価への影響で判断を誤った等々、コロナへのAIの対処に限界が感じられた向きもあるか▼AIは過去の膨大なデータベースがあってこそ威力を発揮する。前例のない事象においては弱点を露呈することがある。今後の働き方改革の中でAIが仕事に活用されていくことは間違いないが、万能の幻想を抱くことは危険だ▼思えばこの数ヵ月、どこまで我慢する、移動する、つながる、補償する、出社するといった判断の一つひとつが、極めて人間的な要素に満ちていた。すべてを科学的なデータに基づいて決め、主観を許すなと発言する専門家もいたが、感染拡大だけ防げればいいわけではない。自粛と経済・文化、命と心の健康、あっちを立てればこっちが立たず、最後は人間の決断に委ねられる▼リモートでの仕事や学び、遊びにしても、総合的な人間力や判断力を養うには、あまりに偶発性や良い意味の猥雑性が足りない気がしている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年6月25日付
 来月行われる東京都知事選挙の投票所入場券が自宅に届いた。その封筒を見ると、ベジタブルインキと再生紙の使用を示す環境ラベルが印刷されていた。普段あまり意識していないが、注意深く見ると食料品や生活雑貨のパッケージにも環境ラベルが目につく。飲料ラベルでは水性フレキソ印刷の採用が増えつつあり、さまざまな場面で環境への対応が進んでいる▼7月1日からは全国で一斉にレジ袋の有料化もスタートする。事業者と消費者の双方が対応を迫られているが、10年以上前からレジ袋有料化を導入しているスーパーを利用してきた筆者の経験から言えば、不便なことはなにもない。エコバッグや折り畳みの袋などを持ち歩く習慣をつける。ただそれだけのことだ▼新型コロナウイルスへの対応も同様に、ソーシャルディスタンスやこまめな手洗い、消毒などの代表的な感染防止対策は、少し意識を変えれば誰にでもできる。そして、継続すればそれが新たな習慣となる▼さまざまな場面でこれまでとは異なる対応が求められる現在、従来の常識にとらわれないことがアフターコロナの社会には不可欠だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年6月11日付
 アメリカの一部の映画会社が新作のデジタル配信に踏み切った。映画館は猛反発だが、こうして世の中の慣例や文化、経済は変わっていくのだと実感させられる。今までの当たり前が次々に当たり前でなくなる。社会、生活、人の心の揺さぶりは10年単位で続くだろう▼業態にもよるが、テレワークの日常化は確実に進む。オフィス所有の見直しが進み、不動産業界も激変。自宅に不自由ない作業環境が整った働き手の中から、離職、独立を考える者が出てくるのも自然な流れだ▼高校生のネット署名活動をきっかけに9月入学が検討され、芸能人のツイッター発言で重要法案が見直されるなど、世を変える力学も大きく変わってきた。高校野球という聖域にメスが入るのも時間の問題。年1回、晩秋にドーム球場で開催、各県複数校の出場枠。そう変更されても何ら不思議はない。いつかは新たな伝統となる▼第一生命が小学生などに行った「大人になったら最初に買いたいもの」アンケートでは、意外や男女とも「車」が1位だった。だが、彼らが購入できる頃、車は空中を自動運転で飛んでいるかもしれない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年6月4日付
 東京・高田馬場にある居酒屋のクラウドファンディングが話題になっている。コロナ禍を機に店の存続支援を呼びかけたところ、6月2日現在でなんと2449人から1856万円を集めた。常連に提案されて手探りで始めたらしいが、日頃から客に愛されていたが故だろう。このスピードと温かさ、政府や自治体にはない▼近頃の支援資金の流れは、飲食店やホテル・旅館の利用代金の先払い、スポーツクラブへのファンの寄付、スタートアップ支援の個人投資家向けファンド設立など、明らかに個人、民間が出処となる動きが顕著だ▼印刷業界でも、新製品の開発・販売にあたりクラウドファンディングで資金を募り、実現する例が増えてきた。財力の乏しい中小こそ検討してはいかがか▼東京グラフィックスの会報誌4月号に原田副会長が、「買ってくれ」から「売ってくれ」に変わる時─と題して寄稿した。マスクの売れる様からの連想であり、コロナ後の新しい価値観の中で市場に「売ってくれ」と言わせる製品づくりに備えたいと希望を抱く。人々に愛される会社、望まれる製品がすべての出発点となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年5月28日付
 SNSでの誹謗中傷を苦にした女子プロレスラーの方が亡くなる痛ましい事件が起きた。言葉の暴力は相手を簡単に、そして深く傷つける。しかし、これはSNSに限ったことではない。ビジネスの現場においても、過剰な叱責が過労死を引き起こしてきた▼謙遜の文化が染みついている日本人は褒めることが苦手だ。自らが一歩下がって相手を立てることがよしとされてきた。それ自体は悪いことではないが、自らや近しい人を立てること、つまり褒めることに抵抗感を持つ人が多いように感じる▼ビジネスにおいても、部下には厳しく指導することが是とされてきた。当然ながら、厳しい言葉の裏には成長を願う親心がある。しかし、それが相手に伝わっているのか。信頼関係が築けていない状態で厳しい言葉だけを並べては、相手を傷つける暴力になりかねない▼近年では、褒め方の研修が企業でも広まりつつある。中には軟弱だと感じる人もいるかもしれないが、アフターコロナで迎える新しい社会には不安も大きい。そんな未曽有の時代だからこそ、前向きな言葉で接することを心がけてほしい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年5月21日付
 コロナの感染拡大防止は目下の最優先課題だが、そこにエネルギーが使われるあまり、解決を急ぐべき他の社会課題や本来救われるはずの人たちが置き去りにされる懸念がある。ヒト・モノ・カネの停滞は仕方ないとしても、時間は停滞させてはならない。課題の在り処も常に発信し続けることだ▼近頃、学生時代に読んだ本をおさらいの意味で繰ることが多い。日本消費者連盟編著の『合成洗剤はもういらない』(1980年第1刷)もその一冊。巻末の同連盟発行のパンフレット案内には、『プラスチックの総点検』、『原子力発電は安全か』など、今日につながるテーマがずらりと並ぶ▼この間、バブル崩壊、リーマンショック、大震災・大水害など、喫緊の解決課題を突きつけられるたびに、それらテーマへの取組みは先送りされ、あるいは、炙り出されてきた▼『合成洗剤…』を読んだ若き日から、食器に残った油類や調味料は不用ティッシュで拭い、水道には流さない習慣が身についた。たとえ小さな情報でも、人の意識や行動に及ぼす影響は小さくない。それこそ印刷業界の課題に寄り添える力だといえる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年5月14日付
 花に罪はないものを。自粛警察も許しがたいが、人が集まるという理由で何百万株という季節の花を処分した人間の身勝手さ。休業を半ば強要された店舗の姿にも重なる。一方通行の施策では困難に立ち向かう力は得られない。倒産・廃業、失業、自殺、犯罪…不穏な空気が拡がる▼外出自粛が行き過ぎれば、新たな病気のリスクが高まる。清潔も行き過ぎれば、すぐに別の感染症にやられてしまう。そもそも、「新たな生活様式」とは何事か。国が決めることではないだろう▼マスクを売る八百屋さえある中、いまだにアベノマスクは自宅に届かない。500億円近い経費を医療現場や介護・保育施設の支援に投下していたら状況は大きく変わっていた。国民へのポーズは要らない▼東日本大震災発生の翌日に福島第一原発を視察に訪れた首相もいた。この国のトップは、優先順位のなんたるかをどこまでも理解できない。宮城県の読者から、コロナ危機による地元経済への打撃は「大震災を上回る」と聞いた。行政の混乱を見るにつけ、自分の身は自分で守るしかないと思わされるが、すべては時間との闘いだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月30日付
 数年前、経済産業省が実施する「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出された企業を取材する機会があった。パッケージ製造などを手がけるその会社は、パワフルな女性社長のもと多くの女性社員が働いており、いかにして女性や高齢者などの多様な人材を登用しているのか、興味深く話を聞いた▼しかし、実際に語られたのは多能工化によるスキルアップや時間制限による会議の効率化、経営陣と社員の徹底した意思統一の方法などで、女性よりも男性社員の事例が多かった。その時にハッとさせられた▼ダイバーシティ経営が掲げる「多様な人材の活躍」とは、各企業の屋台骨を支える男性社員も含めた全社員の活躍が目標のはず。にもかかわらず、女性や高齢者に関するものだという先入観にとらわれていたことに気が付かされた▼現在、多くの企業が従来とは異なる働き方に着手しているが、テレワークなどについてもさまざまな先入観が各人に存在していると思う。自身の持つ先入観にとらわれないよう、他の企業の取組みなどの情報を得ながら自社にとって最善な働き方を模索してもらいたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月23日付
 こんな非常時に占いの話なんて、と受け取られるかもしれないが、ある星占いの本を、時に生き方の指針としている。同書によると、2020年は「地」の星座から「風」の星座に移る大きな転機の年だ▼星占いでは木星と土星の会合を大切な時代の節目と捉える。2つの星は、およそ900年かけて火・地・風・水の4つのエレメントを巡る。1842年から2020年が物質世界を象徴する「地」の時代。市場経済が支配的な力を持ち、人々は経済的な成功を目指した▼次の「風」の時代(2020年〜2219年)は、知性とコミュニケーション、自由と移動、理想と関係性を意味するという。言い換えれば、手で触りにくいものをあつかう世界だ。手元にある3年前の本を参考にしているが、まさに2020年は、目に見えないコロナウイルスに人類が対峙し、人々の関係性が大きく変わる年となった▼一国だけでは乗り切れない危機を知ったコロナ後の世界は、人類が知性を介してつながり、今の分断を乗り越えて自由と移動を獲得する時代となるか。物質を離れた新しい価値観の拡がりが予感される。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月9日付
 「SNSに写真や動画の投稿とか書き込みをする人たちは、けっこうアクティブなのよ」とママ。それらに興味がなく、ネット上に居場所がない筆者のような人間は近頃"ひきこもり"と呼ばれるそうだ。キツイ。いつの間にか非主流派に追いやられた我が身。都知事から酒場への出入りを封じる発言もあり、リアルにも居場所を失いつつある▼こんなに入社式が中止されたのは戦後初だろう。在宅研修に切り替えた企業も多い。入社風景、研修内容とスタイル、同期の絆…。「あたりまえ」が様変わりし、新人に異なる感覚や考え方が植わる。会社も同じだ。今年度の新卒採用ではリモート面接もある。確実に来期以降の業務形態に影響してくる▼時間に余裕ができた分、読書量が急に増えた。永年、本棚に眠っていた地元の郷土史を読んで驚嘆。「こんなにも面白かったのか」。来歴・由来を知れば愛が湧く。地域活性化を志す印刷会社には、強く郷土史を薦めたい▼授業開始の延期、再度の一斉休校。せっかくの改訂教科書たちも泣いていよう。でも若者よ、今は自分なりの勉強の仕方をものにするチャンスだよ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月2日付
 同じ「自粛」でも、こうも違うものか。東日本大震災の時は、絆の大切さが意識されたが、新型コロナウイルスでは接触しないことが前提。当社の近所の子ども食堂も3月から休みとなった。寂しさと同時に、ますます困窮する人が増えることが痛ましい。小中学校の一斉休校中、対象となった家庭の約3割が、家に子ども一人の状態だという。犯罪の増加も心配だ▼世界でも、これほどまでの入出国制限の広がりは史上類を見ない。人の分断が常態化しかねない懸念がある。感染拡大防止に全力を尽くすことはもちろん、非常事態の渦中にあっても、分断・疎外されてしまった人たちへのケアは最優先されるべきだ▼内定を取り消された学生、入学後の催しが消滅した新入生、五輪内定選手、小規模事業者、契約社員…。中止された春の選抜高校野球は、なんとか夏の代表校との春・夏合同大会にならないか。出来ない理由を挙げればキリがない。前例なき手段こそ、常に歴史上の困難を突破してきた▼それにしても、その夏までにコロナ禍が収まる保証はない。来年に延期された東京五輪にも同じことが言える。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年3月19日付
 この時期になると、日本人はつい桜と入社式の光景を思い浮かべるが、もはや通年での採用活動は当り前だ。ビジネスの加速、追い付かない教育と即戦力要求、深刻化する人手不足、転職志向の高まり、外国人労働者の増加、市民権を得た副業、等々で、かつての時代背景は遥か遠ざかった▼特に中小企業の経営者は、人材の確保と、入社後いかに長く働いてもらうかに心を砕く。ある社長は、子供の教育資金の用途に限り、現在の勤務年数で支払われる額を上限に退職金を前払いする制度を考案した。最も金の掛かる子育て期に充ててもらう仕組みだ。会社が払う総額は変わらない▼別の社長は、新入社員の実家にまで自ら挨拶に行き、会社の説明を行う。地元自治体による、出産・子育てで離職中の女性が就労体験できる「ママインターン」の制度も受け入れ、実施している▼印刷現場にも様々な工夫がある。印刷機に装備したスピーカーからジョブ切替え時にオペレータの好きな曲が流れる会社、お気に入りのアイドルや選手の写真が貼られた機械を愛称で呼ぶ会社…。大きな目線、小さな目線を巡らせたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年3月12日付
 プロ野球セ・リーグへのDH制の導入が再び議論され始めた。巨人軍の原監督も昨年、試行実施の必要について言及した。毎年の交流戦の戦績や日本シリーズでの7年連続のパ・リーグ優勝を見れば、「実力のパ」は否定しようがなく、その一因がDH制にあるとされる▼端的に言えば、パ・リーグでは一人分の打者をレギュラーとして育てられ、投手は相手打線に対して一人も気を抜くことが出来ず、厳しく鍛えられるというわけだ。だが、パ・リーグの強さはそれだけが理由ではないだろう▼ドラフト制度が機能している現在、入団時点で両リーグの新人に才能の差はないはず。しかし、人気球団の多いセに負けてなるものかと、パの選手は発奮し、意地を見せる。実力者が多ければ、押しのけてレギュラーとなるには努力を怠れない。つまり、入団してからの環境が人を育てるのではないか▼犠打など小細工が多いセに比べ、ソフトバンクの柳田選手に代表されるように、パの打者のフルスイングも大きな魅力であり、相手にとっては脅威。中小企業こそパに学び、大企業に対する負けん気で人を育てたいものだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年3月5日付
 全印工連が新型コロナウイルス対策として、当面3月末までのセミナー、会合などの中止または延期の方針を決めた。委員会がそのつど個別に判断を下すより、全体方針を明確にする方が次の行動に移りやすく、感染拡大防止効果も高い▼それにしても、3月10日に横浜で開催されるはずだった「全印工連CSRサミット」の中止は残念だ。組合員以外の企業・団体・市民・学生にも開放し、広くCSRを考察する貴重な機会。改めての開催を期待したい▼登壇予定者の一人であった横浜市立大学の影山摩子弥教授は、SDGsとCSRの関係を、「CSRは自ら考えて行動するものであるのに対し、SDGsは社会的課題(17のゴール)がすでに示されている。SDGsはCSRの中から国連が、世界が取り組むべき重要課題を切り出したものと考えると理解しやすい」と語る▼CSRは、ステークホルダーの要望に応える取組みとは何か、根本から企業に問いかける。想定外の出来事に翻弄されるなか、社会、地域、従業員、取引先をあまねく見渡しながら、答なき答を手探りで見つける作業の連続となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月27日付
 「眼がかゆくはない?」。休日の朝、家人がふと発した言葉に対して、もう花粉は飛んでる、暖冬で桜の開花は早そう、南極で20度以上を記録するぐらいだ、地球環境云々…(シマッタ、マタ、ヤッテシマッタ)▼当然、何の返事もなく、しらけた空気だけが残った。「そうだね、俺も数日前から変だよ。鼻の方はどうだい。マスクが不足してるようだけど、あるかい?」。これぐらいのことをなぜ言えなかったか▼黒川伊保子さんの『妻のトリセツ』、『夫のトリセツ』があれだけ評判になること自体が、問題の根深さを表している。男女脳の違いを理解しただけでは、とても解決しそうにない。そんな時、日印産連のセミナーで小さなヒントがあった▼講師のパク・スックチャ氏は、相手を素直に受け容れるために出来ることとして、「人の判断や評価をする時は、ゆっくり考える」を挙げていた。講演のテーマはダイバーシティだったのだが、「ゆっくり考える」、すなわち、「ゆっくり話す(言葉に変換する)」習慣を持つ(ように努める)だけでも、男女の関係を少しは変えられそうな気がしている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月20日付
 この1週間で人々の心象が一変した。新型コロナウィルスへの対応である。先週の本紙で五輪の開催が展示会を変則的にしていることに触れたが、間の抜けた話になってしまった。今や、ウィルス感染を怖れ、不特定多数の人が集まるイベントのすべてが中止の検討を余儀なくされ始めた▼3月1日に迫った東京マラソンも一般参加ができなくなった。同じランニング愛好家の立場で、高い倍率を潜り抜け、ここを目標に頑張ってきた人たちの無念さ、楽しみを奪われた失意の大きさは痛いほどわかる。しかし、見えない敵には為す術がない▼筆者の地元の伝統的な夏祭りは、数週間前に中止が決定した。五輪競技に警察官や警備員を充てるため、警備体制が整わないという理由だ。このままでは、春の桜まつり、大鯉のぼりイベントもウィルスの影響で危うい▼若い親子、子供たちにとって大切な思い出が奪われる残酷さよ。病気に抵抗する免疫力を高めるには、栄養、運動、休養はもちろん、「笑い」が最も効果的だと聞く。その笑いをイベント中止が奪うなら、代わる明るさを無理にでも生み出さなければいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月13日付
 page2020では、6日のセミナーで「色評価用LED光源を用いる場合の印刷物観察条件ガイドライン作成」に関する進捗報告が行われた。大日本印刷の杉山徹技術開発センター主席研究員によると、「LED照明を使用して、従来の色評価用蛍光灯と同様に見える環境にするための推奨ガイドライン」となる▼国内印刷業界はLED化が大きく遅れ、色評価用蛍光灯が使われ続けてきた。しかしそれも、3年ほど前に製造が終了し入手困難となった。同時に複数社から色評価用LEDの市販が開始された▼製品によって色の見え方が異なるという声があることから、日本印刷学会と日本照明学会が共同で、印刷物の色評価に適したLEDの条件を見出していくことになった。今年1月に実施した本格的な比較実験では、現在販売されている色評価用LEDの10銘柄とも、「違いはあるが、ほぼ許容できるレベル」と判定された▼日本印刷学会では、今夏を目標にガイドラインを発表する予定だ。製品に関してはひと安心だが、正しい色見は、設定条件をきちんと守ってこそ。今度は印刷会社の管理体制が問われる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月6日付
 道を曲がると、目の前に鮮やかな若草色の建物が見えてきた。そこが取材先の会社だった。会社のイメージカラーなのだろう。いい色だなと思った。その社長がまだ小学生の頃、先代である父親に「好きな色は?」と聞かれて、答えた色がそのまま会社の建物全体に塗られた▼事業承継では、資産や経営権を継ぐだけではない。会社の理念や経営者の想いを伝えることも重要である。しかし、家業を継いだ後継者は大変だ▼何かと先代と比較されることもあろう。従業員からの目、取引先からの目など、取り巻くさまざまな目を意識せざるを得ない。経営の知識だとか、社員をまとめる力だとか…いろいろなものが自分には足りないと感じてしまう。自信がないから足踏みをしてしまう▼その社長も、経営が思うようにいかず頭を悩ませていた。大事なのは、自分で責任を持つという気概、問題から逃げるのではなく、そこにぶつかっていく勇気。そのことを社長も十分に分かっていた。悩みながらも進んでいく意志を感じた。そう、壁にぶつかった時は社屋の色を見れば、きっと力が湧き上がってくるはずだ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月30日付
 本紙姉妹誌の月刊『印刷情報』2月号では、「災害に備える─ネットワークづくりで対応力を高める」を特集している。昨秋の台風の記憶がいまだ生々しい中、年初から千葉県、茨城県を震源とする地震が相次ぎ、不安が増幅した▼このテーマでの取材は非常に難しい面がある。被災した企業に話を聞きたいが、現在は復旧しているにしても、話が一人歩きして風評被害につながってはいけないと配慮すると、なかなか踏み込めない。災害報道では常に割り切れない思いが付きまとう▼長野県印刷工業組合の新年会では、水害に遭った組合員の印刷会社の中から、3社が報告を行い、『組合の支えが本当に大きかった。心から感謝している』と話があった。同工組では、見舞金だけでなく、組合員に災害ボランティアを呼びかけたところ、60名を超える人たちが復旧作業の応援に駆けつけた▼今年10月9日・10日には長野市で全印工連の「全日本印刷文化典2020」長野大会が開催される。実行委員会によると、4年前のふくしま大会と同様、復興支援の意味合いが濃くなりそうだ。多くの参加で支援したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月23日付
 日本製紙連合会による2019年の内需見込みは、塗工紙が前年比4.5%減、非塗工紙が4.0%減、情報用紙が0.6%減、計3.5%減。数字は連合会の年初予測値にほぼ近く、予測の範囲内と言いたいかもしれない▼だが、大幅な紙の値上げと供給不足による失注、生産抑制、デジタルシフトなどを考え合わせると、本来はもっと上ぶれしていた可能性がある。今年も状況が好転する見込みは立っていない▼長野県製本工業組合の新年会で県洋紙卸同業会の夏目理事長は「生産は若干回復してきているが、トラブルは多発している。製紙会社では海外事業担当が役付きとなり、またバイオマス発電の巨大な工場がどんどん建設されている。(洋紙生産の)ラインへの投資が少なく、流通に回ってこない」と述べた▼印刷・製本業界ではしきりに、注文を待つのではなく、仕事を創り出すことの大切さが強調される。東京五輪関連の需要への期待もある。製紙業界のスタンスはそこに水を差すものだ。品種の絞り込み、受発注や物流の効率化など、出来得る限りの方策を話し合うテーブルにまず着くべきだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月16日付
 2009年5月に全印工連の訪問団に随行し、ピッツバーグのアメリカ印刷工業会(PIA)本部で市場分析と将来予測に関するプレゼンテーションを受けた。そこでは、2020年までの米国印刷産業の姿が俯瞰されていた▼その年となった今、当時の予測は概ね合っている。ただし、2020年に生き残る平均的な印刷会社の売上構成比とされた「インク・オン・ペーパー」53%、「デジタル印刷」33%、「付帯サービス」14%は、付帯サービスの部分がさらに膨らんでいるようだ▼リーマンショックの影響は当然あるにしても、スマートフォンや電子商取引の急速な伸展は想定以上だったか。米国でもデータハンドリングやデジタルマーケティング、フルフィルメントへの対応力で二極化が起きている▼PIAの2009年レポートにある高収益企業となるための6つのキーは、専門特化による差別化戦略、学習する組織(自発的に学習し問題解決を図る組織)、コスト管理、利益還元(投資)、付帯サービス、価格競争力。M&Aも加味しつつ、これらは2030年に向けた戦略でもそのまま通用するだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月2日付
 2020年は阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件から25年、東西ドイツ統一から30年、大阪万博、70年安保闘争から50年にあたる。歴史は繰り返すが、人は過ぎたことを忘れ去る生き物でもある。決して風化させてはいけない事物の存在に改めて向き合いたい▼本年最大の国民行事は、是非はともかく、やはり東京オリンピック・パラリンピック。特殊事情が企業の働き方に与える影響も大きい。それにしても、開催の順番はパラリンピックを先にできないものか。オリンピック閉会式から2週間以上の間を空けて、熱が再び高まるか、心配だ▼4月1日から小学校で新学習指導要領が全面実施され、外国語、道徳、プログラミングの教育が始まる。新時代への適応は大事だが、生きるために必要な心と躰の強さを養う基本軸は外してほしくない▼人生百年時代が言葉として飛び交う一方、気になるのは、「長生きなんかしたくない」と言う若い人が実感として増えていること。選挙の投票率も低く、聞けば「どうせ変わらないから」のあきらめモード。若者がわくわくする世の中へ、印刷業界にできることは何か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年12月19日付
 仕事柄、一般の方からも印刷に関する相談を受けることがあり、印刷会社を紹介して感謝される。今の発注先に対する不満や疑念が発端だ。明らかなミスマッチングでも、素人である発注者は比較する術がないために泣き寝入りしている▼食料品店が毎年発行する通販カタログ。書籍印刷主体の老舗が担当し、大量の写真を手作業に近い感覚で煩雑に処理。店のマネージャーも面倒を強いられるうえ、高額な請求。長年の付き合いと、印刷原稿を預けているため、変更を言い出せないでいた▼小さな商社が発注する先では、名刺百枚でも電車を使って納品。原稿確認はすべてファックスで、一部修正でも毎回入力するため校正が面倒。値段は高く、紙以外への印刷には対応できない。高齢の社長が年金をもらう傍らやっている様子。スタッフの一人は「この前はお歳暮を届けに来た。そんな暇があるなら良いサービスを!」と怒った▼社内の名刺デザインを統一したい、自社のクリアファイルを作りたい、校正はデータでやりたい…。ずっと語られた。そうしたお客を大事にしなければ。因習がはびこる印刷業界の闇は深い。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年12月12日付
 伊丹十三監督の映画「スーパーの女」を観た人も多いだろう。激安スーパーに客を根こそぎ奪われ、経営が傾いていた弱小スーパーを、宮本信子演じる主婦店員が奮闘し立て直すというストーリーだ。PHP総研主席研究員で立教大学大学院特任教授の亀井善太郎氏は、この映画のワンシーンからCSR(企業の社会的責任)の本質を見ることができると言う▼映画の中で、主婦店員は、客の目線に立った店づくりを訴える。そして、総菜の鮮度を重視したり、売れ残りの肉や魚のリパックを廃止したりと改革を次々と実行する▼店の売上が上昇に転じたきっかけは、店員たちが帰りに自分の店の品を買うようになったことだった。それまでは他の店で買い物をしていたのだ。自分の店でいいかげんな品を売っているのを知っていたので、決して買おうとはしなかったわけである▼CSRとは、「企業が社会に応えること」であり、その始まりとなるのは「従業員」であると亀井氏は指摘する。従業員は会社のことを最もよく知っていると同時に、ひとたび会社の外に出れば、強い世間の目線を持つ存在でもあるのだ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年12月5日付
 ラグビーW杯日本チームのスローガン「ONE TEAM」が2019年の新語・流行語年間大賞に決まった。至るところで挨拶の中に使われていて、大賞は早い段階で「当選確実」だった▼"ワンチーム"は、異なる個性(役割)を一つに束ね、最大限に力を発揮する理念から、企業経営にたとえればダイバーシティやインクルージョンに通じる。ラグビー日本チームでは、個々のフィジカルの強さはもちろん、明確な目標の下での選手同士の結束が見事だった。厳しさの中でこそ光る認め合い、助け合いとでも言おうか▼さて、印刷業界の今年の流行語は何か。「スマート○○」も多用されたが、新味は足りない。ここに来て急速に使われ始めた「サブスクリプション」はどうだろう。顧客との新しい関係性を意味するこの言葉もまた、チームとしての在り方を考えさせる▼製品を「売る人・使う人・保守する人・支払う人」の枠を超えた、包括的サービスでつながる主客一体のワンチーム。理念、利益の共有による相互成長。ようやく製品販売ビジネスモデルも、ソリューションを軸とした21世紀型に目覚めた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月28日付
 12月3日は「カレンダーの日」。明治5年の太陽暦への改暦に由来する。太陰太陽暦は同年12月2日までで、その翌日が明治6年1月1日とされた。当時の暮らしに相当な混乱を与えたようだ。記念日は昭和62年に業界団体が制定した▼天皇の退位・即位、令和への改元があり、特にこの数年、カレンダー関連業界の混乱と受難が続いた。先だってカレンダー専門業者から、2020年版に「なんで体育の日が入ってないんだ」と取引先に叱られたという笑い話もあった。今年の「即位の礼」の祝日も周知に手間取ったが、「体育の日」は「スポーツの日」と名称が変わり、2020年に限り7月24日とされる▼最近の若者は部屋にカレンダーを掛けないと聞く。一方、ギフト関連会社が行った職場の紙製カレンダー(壁掛け・卓上など)に関するアンケートでは、約7割の人が使っている。「書込みがしやすい」、「予定が目に入りやすい」が主な理由だ▼全国カレンダー出版協同組合連合会の「2020年版カレンダー展示会」が12月2〜4日に東京・有楽町で開かれる。毎年、時代の流れを反映して興味深い。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月21日付
 未来予測の専門家で経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏の講演を聴く機会があった。「今後10年で最も重要な技術はAI(人工知能)」であり、「企業はAIを見ておかなければ事業計画が狂う」、「政治問題の中心にもなる」という▼頭脳労働はAIに取って代わられやすく、反対に人の手足を使う仕事、言語理解が必要な仕事は置き換えが難しい。いずれにせよ、非正規労働者でこなせる仕事が増え、給与は減り、今の職種の半分は消滅してもおかしくないと予測する▼10年以内にトヨタ自動車が経営危機に陥る可能性も指摘した。世界的な電気自動車化の流れに加え、完全自動運転技術が実用化すると、AIソフト、モーター、蓄電池を購入すれば誰でも車を造れるようになる。ヤマダ電機やアイリスオーヤマが20〜30万円の車を売り出す時代も遠くないと鈴木氏は見ている▼汎用PC、テレビ、写真フィルム、ゲーム機など、絶対と信じられていた牙城が崩れた事実が過去にある。鈴木氏は、人口統計と同様、「技術革新はかなりの確度で先が読める」といい、経営者は変化の予測を怠ってはならないと戒める。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月14日付
 谷口一郎さんが亡くなった。東軽工、日軽印という響きも懐しいが、そこで会長を務められた。細身で色白の役者顔、端唄で鍛えた渋い喉、粋で軽妙洒脱、常に清潔な空気を纏った谷口さんには、会うたびに鮮やかな印象を抱いた。また一人、江戸のイイ男が去った▼10日の即位祝賀パレードは、これ以上ない秋晴れに恵まれた。一私人としての天皇陛下を素直に見た時、やはり人格者なのだろうと感じる。そして、雅子さまが心身の不調に苦しんだ際の、自分が守るのだという毅然とした会見には、男気さえ感じた▼12月に公開される映画『つつんで、ひらいて』は、装幀家の菊地信義氏を中心に描いたドキュメンタリー。当社が事務局を務めていた造本装幀コンクールでは、菊地氏も審査委員の一人だった。選考会で、他の委員を「あなたに装幀を語る資格はない」と一刀両断した時の迫力、プロとして漲る自信には、しばし仕事を忘れて、惚れた▼各地で災害が起こるたびに頭をよぎるのが、ボランティアとしての生き方を貫く尾畠春夫さんの顔だ。80歳となった今も、その姿勢はぶれない。背筋が伸びる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月7日付
 自治体の競争入札で伝わる・見やすいユニバーサルデザイン(UD)対応を条件とする事例が増えている。群馬県の前橋市と伊勢崎市は2018年、二市共同の一括委託事業「次期大量プリント提案依頼書」で、ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)の認証の取得を入札基準として明記した▼愛知県豊田市は2019年、納税通知書等印刷封入封緘業務委託プロポーザルで「UD業務履歴」を求め、認証取得件数や担当者の経験能力、帳票デザイン体制などを基準に、評点で落札者を決定した▼こうした動きは、当然ながら民間企業の発注にも影響してくる。総務省や金融庁、消費者庁は、顧客本位の業務運営、消費者の権利保護に関する施策を強化中だ。インバウンド消費の増大も新しい流れを作る▼UCDAの武田専務理事によると、近年、全国のシステムインテグレーター(SI)企業がUD化提案を武器に自治体への働きかけを強めている。多くのSI企業がUCDAの資格認定講座の受講に来ているとのことだ。UD対応を商機と捉えるSI業界に負けない認識と戦略が必要とされている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月31日付
 中小企業庁が今月発表した「取引条件改善状況調査」では、併せて中小企業が直面する人手不足の問題でもアンケートを実施した。意外なのは、主要26産業分類でみた「現在の人員の過不足状況」の結果だ▼警備業では94%の企業が「不足」と回答。アニメーション制作、トラック運送・倉庫、情報サービス、建設機械が続く。これは頷ける。ところが、採用難が深刻と思われている「印刷業」(回答569社)は、「不足」29.3%、「適正」66.1%、「過剰」4.6%で、不足の割合は全産業の中で最も低い。他に低いのは卸売、小売、広告、紙・紙加工品など▼まず浮かぶのは、人を雇うほどの仕事がない、受注減少という理由。また、高年齢者の活用による対応、繁閑ギャップの大きさ、廃業した会社からの人員シフトが活発といった事態も考えられる▼「働き方改革を進める上での障害(人手不足度)」を訊いた設問でも、印刷業は26産業の中で最も低かった。調査は、企業規模に比例する傾向を指摘するが、「やるべきことが多いので足りない」と、むしろ人手が恋しいようでなければ、この業界の将来は不安だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月24日付
 広範囲に被害をもたらした台風19号と、ラグビーW杯での日本の歴史的勝利が重なったのは、なんとも複雑だった。被災者のことを思えば素直に喜べないが、選手たちの全力プレーに多くの人が勇気をもらったことはたしかだ▼台風の影響で、W杯史上初めての試合中止も起きた。12日に予定されていた対戦では、決勝T進出が濃厚だったニュージーランドが「天気はコントロールできない。安全第一の正しい判断」とコメント。一方、イタリアは勝てば進出の可能性が残されていただけに、まったく納得していない▼どんな事情があるにせよ、世界大会で戦わずして勝敗を決めることがあってはならない。たとえ無観客試合にせよ、代替日、代替競技場を用意して実施するべきではなかったか。台風シーズンのこの時期、事態は十分に予測できた。「仕方ない」で済まさず、来年の東京五輪に向けて徹底した検証と議論を尽くしてほしい▼そうした中、カナダとナミビアは、すでに1次リーグ敗退が決まっていたとはいえ、開催予定だった釜石でのボランティア活動や交流会を笑顔で行った。救われる思いがする。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月10日付
 仙台市のユーメディアが企画・運営するビール祭り「仙台オクトーバーフェスト」が9月中旬に12日間にわたり開かれ、10万人以上の来場者を集めた。2006年の第1回から今年で14回目。東北を代表するビッグイベントに成長した▼毎年、ビールは本場ドイツから輸入する。膨大な量だけに、半年前には発注を掛けなければならない。ユーメディアの今野均社長が大きな決断を迫られたのは2011年3月に発生した東日本大震災の後。自身の会社と従業員のことに心を砕いている中で、輸入業者はオクトーバーフェストを開催するのかしないのか催促してくる。迷い抜いた末に開催を決め、結果として過去最高の人出を記録した▼この時の経験から今野社長は「自分たちは地域を元気にできる」と強く思った。今年8月にはレストラン運営会社との共同事業で「Route 227s'Cafe」をオープン。食を通じて東北の魅力を発信している。227は東北の市町村の数を表す▼地元愛に基づく事業は、地域だけでなく同社にも元気を与え、新しい人材も育った。印刷とプロモーションの売上比率は7対3までになった。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月3日付
 司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読了した。四国・松山の佐川印刷を訪れた際、佐川正純社長から「本は長いので、ぜひNHKのドラマを観てください」と勧められたが、そう言われるとかえって読破したくなるのが性分で、一読、吸い込まれるように終章まで駈けた▼近代明治国家と日露戦争史を主題にしたこの大作は、領土拡張、軍事競争、戦争の悲惨という暗い側面とは別に、国家の目指すところと国民の志、感情が一つになって突き進むことのできた幸せな時代のエネルギーが充溢している▼今の成熟(老成?)しきった日本で、再び国民の力を結集するには、新しい構想力とビジョンが要る。安倍首相の唱える抽象的な愛国心教育では決してない。経済産業省が打ち出すIT立国、第4次産業革命の戦略に国民が共感するか。それもない▼明治維新後の日本には、極東の弱小国が列強の属国にされてしまうという強烈な危機意識があった。国策として、16歳に達した若者全員を1年間留学させてはどうか。いかに世界の中で日本が弱くちっぽけな国か痛感するに違いない。新時代のビジョンは彼らから生まれよう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月26日付
 さて、消費税率の引き上げである。価格転嫁が難しい小規模事業者が大半を占める印刷業にあっては、経営を圧迫する大きな要因となる。矢は放たれた。政府は、教育・社会保障に役立てる目的税の性格を貫き、使途を明確にし、少子高齢化の課題解決にはっきり切り込むべきだ▼最低賃金の引き上げも10月から各都道府県で順次始まる。最低賃金を上げるのであれば、官庁入札における最低制限価格、民間取引における下請適正取引の徹底と実効性の確保も図られるべきだろう▼帝国データバンクによると、金融円滑化法の終了以降も、金融庁の要請により金融機関のリスケ(返済猶予)実施率に大きな変化はないが、今年上半期のリスケ企業倒産が目立って増えている。経営者の高齢化と後継者不在が影響している可能性が指摘される▼加えて、働き方改革の制度面の足枷が中小企業の業績に与えるマイナス影響は間違いなく浮上してくる。印刷業がこのヤマを乗り越えるには、他の産業をリードするぐらいの覚悟で取り組まなければならない。それにしては、具体的な情報交流の勢いがまだまだ足りないと感じる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月19日付
 日本のソフトパワーを活用する「クールジャパン戦略」は、極めて持続的な経済政策であり、外交政策だ。その戦略が、2015年の策定以来、初めて大幅に見直された。外国人を中心とした評価委員会では、日本の「魅力」に対する認識の不足、外国人の視点の不足などが指摘されてきた▼印刷業界でも、海外での販路開拓や展示会出展の経験を持つ人たちは、「いかにも日本的なもの」より、「日本人が当たり前と思っているもの」がかえって共感を得ると一様に口にする。地域によっても、アジア諸国では「かわいい」という感覚が受けるが、欧州では伝統や風格、シンプルさが好まれる▼これまでのクールジャパン戦略は、「アニメ」に象徴されるある種の"子供っぽさ"を中心に据えて、効果が半減していたのではないか。日本の魅力は全国至る処の町並、路地裏、自然に見つけることができる。マンホールの蓋でさえ、その豊かなデザイン性に注目が集まる▼永い歴史を背景に、生活に深く根差したものだからこそ、人は心を揺さぶられる。それは、日本人が外国に出かけた場合もまったく同じだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月12日付
 同い年の高校教師と話していて、「印刷業はたいへんでしょ。だって、昔から寅さんのタコ社長だから」と言われてしまった。このフレーズはまだ生きていたのか。妙に感心するやら悔しいやら。50代までは、映画『男はつらいよ』で太宰久雄演じる社長の姿が刻まれている人は多い▼その下の世代となると、さすがに通じにくいだろう。だが昨今、これでもかとばかりドラマ化される池井戸潤の作品には、中小企業の悲哀も誇張されて描かれている。苦難の連続を乗り越えるから感動するわけだが、視聴した若い世代が、やり甲斐を感じる前に敬遠してしまわないか心配になる▼『本のエンドロール』(安藤祐介)や『活版印刷三日月堂』(ほしおさなえ)にしても、印刷に関わる人たちの実直さや温かさが丁寧に描かれているが、多くの若者を、この世界で働きたいと思わせるには少し弱い気がする▼全印工連の広報プロジェクト「大喜利印刷」では、映像による発信力と反響の大きさを改めて感じた。いっその事、印刷会社を舞台にしたイケメン俳優主役のトレンディドラマでも、誰か制作してくれないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月5日付
 全印工連が2004年10月に発表した「業態変革推進プラン」には、「業態変革のミニマム(出発点)と到達点」として計画の工程表が載っている。IT基盤整備など4分野で5段階ステップの考察を行ったものだ▼この時点でのミニマムは、eメールの活用、自社分析、5Sの実践、支部活動での信頼関係構築というレベルにとどまる。驚くのは「到達点」。IT基盤整備では「コンピュータ to コンピュータによる情報の情動流通」とある。まさに、今日言うところのIoT、AIの活用であり、「デジタルネットワークは、人間を介在しないコンピュータ同士のコミュニケーションに発展してこそ格段の効率化が達成される」と解説している▼そして、共創ネットワークの到達点は「新事業展開のための業種を越えたネットワーク作り」。政府が現在提唱している「コネクテッド・インダストリーズ」そのものだ▼発表から15年。世の流れが追い付いたと言いたいが、どれだけ実践されたか。プランを実践してきた会社には、しっかりした根と枝葉があるはずだ。マーケティングの到達点には「顧客創造」とある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月29日付
 9月は印刷の月。電胎法による鉛製鋳造活字を用いて日本の近代印刷術の礎を築いた本木昌造の命日(9月3日)に因む。その本木が長崎製鉄所の技師であった時の徒弟で、汽船の船長であった時は機関手として労苦をともにしたのが平野富二である▼信任厚かった富二は、本木から活字事業の将来を託され、長崎から上京。活字の製造・販売に乗り出す。手引印刷機の国産化にも着手し、活版印刷の普及に大きな足跡を残した。同時に、造船事業も開始し、今日のIHI(石川島播磨重工業)に発展する。富二の研究で知られる片塩二朗氏は、小さな活字と巨大な船に生涯を捧げたこの人物のスケールの大きさをこよなく愛する▼本木の陰に隠れがちであった平野富二の生誕の地碑建立記念祭が昨年11月に長崎市で開かれ、除幕式には田上市長も出席した。新資料の発掘と合わせ、富二の偉業に改めて光が当たる▼近年の研究で、明治5年、富二が東京に開設した長崎新塾出張活版製造所の所在地は、現在の千代田区神田和泉町一(伊勢国津藩藤堂和泉守上屋敷跡)であると判明した。凸版印刷の本社は同所にある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月22日付
 全日本シール印刷協同組合連合会の田中祐会長の会社は東京・八王子にある。得意は、航空機や鉄道の機内・車内の表示ラベル、機体・車両のラッピング・マーキング。高い技術力に加え、図面設計、貼り施工など前後工程まで手がけることで強力な差別化を図った▼価格競争で消耗しないため、印刷会社が自身のブランディングを確立する必要を痛感している。社員に求めるところも同じだ。面接で「百人一首大会で県の代表になった」という女性。だが、全国に代表は47人いる。「他には?」と訊くと、沖縄のエイサー踊りでも全国レベル。採用を決めた▼「百人一首×エイサーはオンリーワン。なんでも二軸志向でいきたい」と田中氏。そんな同社に対しても、破格の値段で新規参入を試みてくる業者がある。気を緩めることはできない▼ブランディングと同時に重視するのがマーケティング。「お客様は商品の機能だけでなく体験やイメージを売っている。そのメッセージをきちんと理解し伝えられるのが選ばれるモノづくり企業。お客様のお客様を把握していますか?」。田中氏はそう問いかける。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月8日付
 事業承継は、日本の中小企業が抱える最大の課題のひとつだ。全国の地場の銀行や信用金庫にとっても、廃業・解散がこのまま増え続ければ経営基盤を失うことになる。M&A専門会社に負けず、マッチング営業を強化している。また、将来の後継者候補を早くから囲い、実力を付けさせるための経営塾を運営する金融機関も多い▼地方に行くと、「後継者のいない印刷会社ばかり。あとはM&Aしか道が残されていない」といった声をよく聞く。だが、M&Aにせよアライアンスにせよ、特色をもつ会社であることが大事で、財務内容も条件になる。簡単ではない▼「顧問税理士が同じだった」、「ロータリーで昔から一緒」など、会社や経営者同士が結び付きやすい要因があると事は運びやすい。コンサルタントを介さず自力で統合する例が増えた。また、官庁入札での有利を考え、統合した後も社名を別々に残して営業する例など、内容は多様化している▼いずれにしても、当事者同士の都合だけでなく、取引先や従業員などステークホルダーをいかに守っていくか、その視点を欠いては上手くいかないようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月1日付
 東京五輪の開幕まで1年を切った。カウントダウンイベントなどが一斉に報じられ、タレントは不自然なほど明るさを振りまき関連番組を盛り上げる。"権威"に飲み込まれる流れが気になる▼神戸大学の小笠原博毅教授は、「参加と感動」の強要、東日本大震災からの復興支援を謳う強引な演出、国民生活の犠牲など、数多くの理由を挙げ、一貫して開催に反対してきた。東京都が負担する六千億円の費用を都の納税世帯数で割ると、一世帯あたり約九万円になる▼五輪後の経済急落を懸念するどころではなく、すでに過大な負担は課せられている。被災地に回るはずの資金や人員も優先的に東京に吸い上げられてきた。地方の五輪ボランティア応募者からは高騰する首都圏のホテル代に悲鳴が上がる。小笠原教授は「これだけのカネを使うのだから、どうせやるなら"みんな"で成功させましょう」という風潮にも警鐘を鳴らす。五輪の主体、責任者はいったい誰なのか▼スポーツがもつ絶対的な感動とは別に、この世界最大のイベントに必ず付きまとう利権の現実を直視しなければ、大きなツケを払わされる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月25日付
 「印刷」の定義は数百年もの間、版の大量複製であり続けた。だが、伝達手段がデジタルに移行したことで、入手したい情報はクラウドの状態にあり、各人が勝手にアクセスすれば済むようになった。コピーも瞬時、一斉配信も瞬時。もはや印刷業は数量勝負ができない▼しかも、生き方や嗜好が多様化し、各人が必要とする情報は千差万別。汎用的な情報だけを用意したのでは用が足りない。AIを活用したデジタルマーケティング、地域や分野に精通した目利きなどが求められる▼印刷業が生き残る道は、デジタルデータの編集技術と、情報に誘導する検索・アプリ関連技術の運用がひとつ。あくまで印刷で勝負するのであれば、「あなたが欲しいものはコレですよね」と、ある種の"おせっかいな"DMやカタログ、情報誌、アイキャッチに優れたパッケージ、ラベルなどで興味・関心を引き寄せることだ▼いずれにせよ、クリエイティブな発想と編集・デザインが鍵を握る。そして、もう一つの選択肢である顧客の必要な一切のソリューションを提供する道にしても、相手の身になって考える想像力が不可欠だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月18日付
 30年前に発行された「ランニング百科」には、有名ランナーが「最低でも一日に腹筋100回」、スポーツ科学の教授が「筋肉がピキッと反応するまで運動前にストレッチを一箇所90秒以上」などと、アマチュア向けに怖い事が書いてある▼現在は身体パフォーマンスを著しく低下させる行為とされているが、この本の少し前までは、ウサギ跳びが当たり前に行われ、「練習中に水を飲むな」と言われた時代である。常識とはそれほど脆く、移ろいやすい▼栄養学でいえば、おそらく10年後には、「朝食を欠かさない」、「一日30品目」、いま流行りの「糖質ダイエット」、「肉食のススメ」などは死語になっているだろう。あらゆる専門家と呼ばれる人たちが論をかざすため混乱も極まる。最後は自分の躰との対話で判断する以外にない▼仕事の世界も同じだ。企業を見抜けとは就活生に酷かもしれないが、業界や企業の評価、そこでの常識は瞬く間に変わる。人気ランク上位の企業を「今がピーク」と突き放して見られるか。不安が募る時ほど、企業にしがみつき疲弊するのではなく、わが心を大事にしてほしい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月11日付
全日本製本工業組合連合会は、2025年をゴールとした「製本産業ビジョン2025」の策定を進めている。「再・創業」をキーワードに、デジタル技術の活用、戦略的パートナーシップ構築、新市場創造への取組みを目指す方向だ▼製本専業者は後継者難や利益低迷から廃業が相次ぐ。それもあり、今年3月の繁忙期には全国的に仕事が滞留する事態が起きた。だが、4月に入れば潮は引き、年間を通して仕事が埋まる会社は少ない▼前・ビジョン2018の策定時に比べて委員の顔ぶれは若返り、議論の活発さは増した。未来に目標や夢を持てる業界にしたいという思いは強い。委員会では、「製本」という言葉そのものが、自分たちの視野を狭めているのではないかという問題提起もなされた。イメージの拡がりに期待したい▼本紙姉妹紙の『日本製本紙工新聞』では先日、元気のいい若手経営層6人による座談会を行った。うち5人の前職がSE、空調機器エンジニアなど、製本と関わりないことに驚いた。製本に愛着はあるが、他の何かをやっても社員だけは守るという発言も。若い世代からの業態変革の予感がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月4日付
 「なりたての頃は、『やってやるぞ』という気持ちばかり強くて、力が入り過ぎていました」と、30代後半で父親から印刷会社を引き継いだ社長。それから5年ほど経ち、いくら自分がよかれと思って勧めても、社員が納得して自主的に動かなければ会社は変わらないことを学んだ▼当初は、この機械を導入すれば、こんな新しいことができるはず、と設備に目が行きがちだったという。20人規模の製造業の話ではあるが、会社を買い漁って業績を急落させた大手ベンチャー企業に通じなくもない。野心には、少し制約が掛かるぐらいがいい▼幸いにしてこの印刷会社の若手社長は、手元資金に限りもあって、自社の資産を最大限に活かす道を選んだ。すなわち"人"である。「企業は人がすべて」と言葉にするのはたやすいが、たとえ社長でも、身をもって実感するには時間も経験も要る▼設備と言わず、人員を増やす余裕も今はない。そこで業務改善活動に力を入れたところ、今度は各部門から「人を増やしてほしい」という声が上がった。現場なりの人材の解釈がある。社長の新しい挑戦がまた始まった。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月27日付
 「アカデミックはしんどい」とは、専門書・学術書を出版する国立大学系出版部のある幹部の発言。硬い内容をかじる人は減り、かつてのようなベストセラー、ロングセラーは望めない。書店数の減少、販売寿命の短期化、専門書棚の縮小と環境は厳しさを増すばかり。アマゾンなどネット書店への依存が高まる▼海外の名門大学出版部も事情は同じ。ケンブリッジ大学は英語教材、オックスフォード大学は辞書やオンラインジャーナルで専門書の売上げ低下を補う経営状態。一方で、北京大学、清華大学など中国の名門大学系の出版部には元気がある▼旺盛な教材需要に加えて、国家からの資金援助。その余裕をバックに、専門書の電子化と世界発信を強力に進めている。韓国も電子化の推進に積極的だ。日本の後れは大きい。先の大学出版部幹部は「相当由々しき事態。日本のことを研究する人がどんどん減っている」と憂える▼インバウンド需要を喚起し、国内での活発な消費を期待することも大事だが、長い目で日本という国にきちんと向き合ってくれる有為な人材を増やす努力を忘れてはいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月20日付
 「お客の困り事の解決」のおもしろい事例を聞いた。京都の製本会社の展開である。直接の顧客ではない。間に立つデザイナーの負担を軽くする発想で始まり、結果としてホテルなどから間接的に備品全般を受注した▼プロダクトデザイナーが扱う領域は膨大で、しかもデザインする製品の納品まで任される。本業のデザインどころではなく、手配に追われて大変なストレスになる。これを聞いて、「では当社が代わりにやりましょう」と製本会社。その時は何のツテもなかったそうだ▼言ったからにはやるしかない。ホテルのルームキー、ペン、バインダーファイル、禁煙サイン等々、あらゆる品について手探りで業者を探した。バインダーも、リングはシルバーでなく黒で、内側はベルベット仕様でといった注文が付く▼苦労しながら発見したのは、ほとんどが印刷・製本加工につながっていて、既存の技術、業者で回せることだった。それほどこの業界、裾野が広い。今では、感謝されたデザイナーから、キーホルダーやトートバッグの依頼もある。そこに印刷物が含まれていることは言うまでもない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月13日付
 国立環境研究所の五箇(ごか)公一生物・生態系環境研究センター室長の講演を聴く機会があった。生物の多様性がなぜ必要か。それは、生態系が似た者同士に近づくほど、環境変化に対して共倒れとなる確率が高まり、種の存続が難しくなるからだ▼人間が他の生物と共生することの必然について五箇氏は、「エコではなく、自分たちが生き延びるための『エゴ』で考えればいい」と言う。多様性は社会発展の基盤であり、そこから今、ダイバーシティやインバウンドが注目されているとも▼実態は、単に自分勝手なエゴにより、絶滅危惧種を生み、森林資源の破壊、水産資源の枯渇、異常気象を招いている。その源は、どこまでも欲望が肥大化した人間の日々の営みだ▼自然界の生物ピラミッドは、裾野に行くほど種類も厚みも増すが、「天敵を持たない人間は自然のすべてを吸い上げ、ピラミッドを逆三角形にした」と五箇氏。後を絶たない幼児虐待や通り魔も、血縁・地縁を失い、押さえる者を持たない人間の暴走の果てか。あるいは、増えすぎた個体のストレスか。生活の豊かさは生存本能の破壊と表裏にある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月6日付
 日印産連の会報誌4月号が、米国の印刷市場動向を有力情報サイトの調査結果から紹介している。2019年の「ビジネス上の課題」(複数回答)は、「他の印刷会社との競合」が39%で1位。続いて、価格政策、人材の確保、事業承継、資材価格、従業員のスキル、デジタルメディアエージェンシーとの競合、自動化ワークフローの実現の順となる▼「有望なビジネス分野・要素」については、「顧客のアウトソーシングの増加」47%、「顧客の販促活動におけるメディアミックス」37%、「景気回復」31%、「製本や後加工分野」21%など。他社との協業やM&Aの回答も多い▼今後の設備投資分野としては、「デジタルプレスの後加工設備」(39%)が2位の「MISシステム」(20%)を大きく離した。全体に、ソフトウェアやデジタル機器を活用し、高効率ワークフローの確立で顧客にアピールする志向が見て取れる▼日本でも似た結果が出るのではないか。米国の印刷会社の平均従業員数は日本とあまり変わらない。この産業の特性を今の時代に活かし切ることが共通のミッションであるはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月30日付
 グーテンベルクの印刷機は神(聖書)を民に降臨させた。以来、「紙」はその神通力で人類の文化・文明、経済の成長と発展を担い続けてきた。その紙が、製造コストを問題にされ、瀕死の危機に陥っている▼王子ホールディングスが情報系用紙の40万トンの減産を決めた(うち20万トンは新聞用紙の段ボール原紙等への製造転換)。「他のマシンへの生産移管を進めていく」と発表しているが、具体的な計画は示されていない。本音を言えば、「造っても儲からない製品は止めにしたい」というところか。印刷業界は長期的なリスクを覚悟しなければならない▼佐々涼子さんの『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』は、東日本大震災からわずか半年で再稼働した日本製紙石巻工場を舞台にした渾身のノンフィクションだが、あの復興時の迫力を持って、現状の紙の危機に向き合えないものか。このままでは人災によって文化が死ぬ▼製紙側の主張は「デジタル化で紙需の減少は避けられない」の一点張りだ。採算に関する情報提供や提案はなく、紙メディアの地位向上について話し合いの場を持つ気配もない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月23日付
 先日、ある神奈川県の印刷会社の取組みについて話を聞いた。社員24名の同社は、待ちの営業スタイルをやめ、"「想い」を伝えるツールを創る"ことで地域に貢献する道を志した。その結果、イベントの企画運営や取材・編集の仕事が増え、もちろん印刷物の受注にもつながっている▼感動したのは、地元の少年野球チームの活動記録の制作だ。今どきの少年野球の練習は本格的で、親の出番も多い。親子揃って熱心に打ち込んでも、卒団時に渡されるのはたかだか4頁か8頁の簡単なつくりの記録冊子だけ。自身もかつて野球少年だった専務は素直に「かわいそう」と思った▼そこで提案したのがPOD機で制作する50〜60頁の活動記録。写真をふんだんに盛り込み、表紙は子供一人ひとりのプレー姿の可変印刷。撮影からの苦労はあるが、大変喜ばれた。この記録集が欲しくて、わざわざ遠方から入団した子がいたという。それなりの売値で利益性は良い。横展開もできる▼同社は行動指針にCSR、SDGsを掲げるが、理念先行ではなく、「なんとかしてあげたい」という気持ちの発露である点がさわやかだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月16日付
 日本人、日本企業には創造性が不足していると言われる。要因として大きいのは、日本人の生真面目さ、体面の重視、その反面の内向き志向だろう。創造性に不可欠なゆとり、遊び心の欠如とも言い換えられる▼新しい技術の芽に対した時、それで何を変えられるかとイメージを膨らませるのではなく、すぐに効率化、コストダウンと目先の利益に走る。失敗を許す風土がないせいか。アイデアをまず人に語り、表に出すことも苦手だ。貯蓄をしてから結婚を考える男女に似て、苦労しながら一緒に創り上げる喜びを遠ざけている▼AIへの反応では、人員削減が優先する。メーカーも銀行も、自動化・省力化で生まれた余剰時間を社員がより創造的な業務に充てられるようにすると言うが、コストありきの発想では甚だ心許ない▼池袋、滋賀、愛知と立て続けに幼児を巻き込む交通事故が起きた。無人運転は後回しにして、8割の開発段階でいいので自動感知・緊急停止のAIシステム搭載を義務付けられないものか。ドライバーの劣化がこれほど顕在化した今、事を急がなければ痛ましい事故はまた繰り返される。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月9日付
 10連休の終盤に、「休み明けの憂鬱をどう乗り切るか」という類いの報道が複数のメディアで見られた。世界には、住む家がなく、今日の食べ物や水も手に入らない数億人の人々が、それでも必死に生きているというのに。憂鬱という悩みを語れる日本の平和を思う▼とはいえ、新入社員がブルーな気分に陥りやすい時期ではある。胸膨らませ、「さあ、やるぞ」と入社していきなりの長期休暇は、余計な想念を抱き、迷いを生じる確率が高まる。経団連が打ち出した通年採用拡大の方針が、いくらかでも緩和材料となるか▼令和への移行に伴い、歴史家の磯田道史氏は過去にない新しさとして、生前退位を実行できるほど寿命が延びた、退位・即位の日を分離し直接の引継ぎを行わなかった、天皇・皇后とも長期の留学経験がある、等を指摘する。企業の事業承継に通じるものがある▼承継時の経営者の平均年齢層は、中小企業で70代が最多だ。承継の決断と内外への表明は早い方がいい。そして、承継までに新時代に対応した教育を積ませ、ひとたび退いたら後継者に一切を任せること。祝われる承継を増やしたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月25日付
 日印産連が3月に開いたデジタル印刷に関する調査報告会は、話題の中心が運用とマーケティングだった。徹底した自動化・省人化の追求と、かたや高付加価値化で進化するデジタル印刷だが、オフセットの受注の仕組みを残したまま運用することで、効率性を損ね、小ロットの採算性でも印刷通販に押されるなどの問題点がある▼鍵となるのは、WebやAIの活用による顧客データの収集・分析、的確なターゲットに向けたハンドリングだ。報告会ではアメリカの現状として、個別の提案営業を捨て、IT技術者やマーケティング専門家の採用に急速に傾く印刷会社の話が出た▼日本でも"営業マンは会社の花"と言われた時代は遠のきつつある。マーケティング、販売促進、営業がすべてデジタルでつながる今、当然ながら顧客企業が求める人材、そして教育の中身は大きく変わる。印刷会社も仕組みと人づくりの大転換が必要だ▼ITやマーケティングに強い人材を雇えば会社が回ると思うのは幻想で、彼らを束ねられるタレントがいなければ始まらない。データの前に、まず人のハンドリングが先になる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月18日付
 再生紙の品不足の遠因には、米中の貿易摩擦問題がある。中国で原材料となる古紙の輸入相手が米国から日本に変わったことで日本国内に古紙が不足し、価格が急騰した▼オフセットインキの値上げにも中国が密接に絡む。インキメーカーの説明によれば、有機顔料やUVインキの光重合開始剤、油性インキのロジン系樹脂などの基幹原料の生産はほとんどを中国に依存している。それが、中国の環境規制強化で多くの生産プラントが操業停止となり、大幅に原料価格が上昇した。かつて製本用ホットメルトも、ロジンの価格高騰で2割ほど値上がりし、製本業界が混乱したことがある▼新興諸国全体での需要増加もあるが、中国が及ぼす影響はとてつもなく大きい。2017年には「環境配慮型の印刷の支援」が第13次5カ年計画に採択されるなど、いまや環境保全は中国の国家的な命題のひとつ。環境規制の厳格化もさらに進むだろう▼用紙の不足で印刷に制限がかかる異常事態が続く。デジタルメディアへの移行による市場縮小とは別に、物理的な制約から生じる印刷の機能不全には、どこまでも警戒が必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月11日付
 「平成最後の○○」が流行ったかと思えば、早速、「令和最初の○○」が飛び交っている。元号をファッショナブルに語ることが、日本人の仲間意識の醸成に使われている気がして気持ちが悪い▼ある外国籍の女性コラムニストは、新元号について安倍総理が、日本の普遍的な価値、文化の芳しさという言葉で説明したことに対し、「井の中の蛙」「卑屈」な印象を持ったと指摘した▼日本の伝統技術や職人技を取り上げた日本礼賛番組もブームとなっている。たしかに素晴らしい一面ではあるが、かたや、昨年発表された時価総額ランキングで、世界の上位100社に日本企業は2社のみ。トヨタ自動車の46位が最高だった。この30年で日本企業の地位は大きく低下し、新たに世界を驚かせる企業は現れていない▼日本は特別な国という一種のごまかしがいつまでも続くようでは、ますます世界から取り残される。日本の個性は個性として、はっきり誰にでも解かる形で説明できてこそ、世界に認められ、価値が生まれる。印刷業界も、その特殊性で語ることは止めて、令(零)からリセット、再出発すべきだろう。(銀河)