【過去の掲載】


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年5月9日付
 日本グラフィックサービス工業会が主催する「ジャグラ作品展」の最終審査会に審査員として参加した。岡本会長が各支部にハッパをかけたこともあって応募数は640点と大幅増。例年以上にさまざまなアイデアや技術から学ぶことができた▼LGBTQを理解できるカルタの制作と、それを使った学校での出張授業(様子はビデオ出展)。ドローンだけを使った観光プロモーション映像制作。景勝地の散策時に便利で記念になる書き込める白地図(記入するのがもったいない高級感)。水耕栽培の青菜の出荷に適したムダの出ないパッケージ開発。オリジナルおみくじを活用した地元スポーツチームの活性化、等々。付加価値追求に向けた各地会員の努力がひしひしと伝わる▼全体を通して感じたキーワードは「理念あるコトづくり」。作品の背景にある強い思いとストーリーが、顧客に訴えかける。しかも収益、関連受注、関係強化にきちんと結びつけているところが良い▼ジャグラでは、優秀作品を6月22日の文化典広島大会で披露するほか、今年も都内で開く「印刷屋さんのお仕事展」で一般公開する。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年4月25日付
 新年度を迎え、新入社員教育に勤しんでいる会社も多いと思う。今年の新卒は学生時代をコロナ禍に振り回された世代でもある。その分、社会人としてのスタートは充実したものになってほしい▼世代が離れるほど新入社員とのコミュニケーションは難しくなるが、気を付けたいのは世間に蔓延る「Z世代はこうだ論」に振り回されないことだ。余計な先入観を持つことは、良好な関係性を構築する上で障害になりかねない▼血液型ならばA型は几帳面、B型は大雑把だと言われるが、世間話程度ならまだしも、「新入社員の子はA型だから几帳面に違いない」と本気で思う人は少ないと思う。しかし、Z世代の特徴などを示すニュースを真に受ける人は少なくないのではないか。分からないモノに対して安易に答えを求めようとしてはいけない▼そもそもZ世代とは、一般的に90年代後半から2000年代に生まれた世代を指し、10代から上は30歳近くまでと幅広い。同じZ世代であっても価値観は大きく異なる上に、全体としての傾向が個人に当てはまるとも限らない。相手を理解する楽な方法などない。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年4月18日付
 「お仏壇のはせがわ」が企画開発した「推し壇」が売れている。人やキャラクターなど、それぞれの推(お)しを飾り、愛しい気持ちを表現するものだ。若い女性社員の発案で商品化された。いまや、推し活グッズEXPOなる展示会も開かれるほど“推し活”はトレンドとなった▼察するに、社内には相当な議論があり、役員も渋ったのではないか。「仏壇の会社がそんなものを売っていいのか」と。だが、故人を祀るのも、憧れの対象を飾るのも、尊い存在を大事にし、心を通い合わせるという目的は一緒だ。「仏壇の会社が…」という自らの縛りを取っ払ってしまえば、なんてことはない▼印刷会社だって同じ。何をしてはいけないというルールなど無い。個人演奏家のチラシから演奏会そのもののプロデュースへ、教材の編集から出張授業、絵本の制作から読み聞かせ支援へ展開した例もある。社員の趣味や副業を膨らませてビジネスにしてもいい▼きれいに言えば、サントリー創業者、鳥井信治郎の「やってみなはれ」。俗っぽくなら、「ええじゃないか」。その精神さえあれば、仕事に限りはない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年4月4日付
 普段は利用しない私鉄の駅で、妙に階段を昇る人が多いと感じた。近づいてみて納得。一段ごとに「0.1キロカロリー」の消費を加算した表示がある。「健康のために階段を利用しましょう」と貼り紙をするより即効性がある。男子用の小便器に「的」を描く効果もよく知られる▼小さな目標でも、目の前に示されると人は達成したくなるものらしい。新入社員を迎えた職場では、努力すれば手の届く具体的な目標を設定し、ステップアップを図る方法が有効だ。反対に、「売上○億円達成」、「好感度ナンバーワン企業」といった抽象的な目標やスローガンは達成する意味が伝わりにくく、かえって反発を招く▼同志社大学の太田肇教授は、著書『何もしないほうが得な日本』で、社会を変革する早道として、「するほうが得になる仕組みを作る」を挙げる。日本には挑戦すると損になると考える人が多いという指摘は痛い▼SDGsにしても、本気でゴールを目指すなら、日々の小さな成果の積み重ねが大事。世界全体の枠組で考えるだけでなく、それが自分のためにもなると実感できる仕組みが必要だ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年3月28日付
 私が普段利用している中野駅は都内でも有数の利用者数を誇るが、駅舎が古くエレベーターが設置されていない。車椅子の方はエスカレーターを使うしかなく、その姿を見るたびに気の毒に思う▼社会全体としてバリアフリー化を進めることは当然だが、4月1日からは障害者差別解消法の改正法が施行される。「実施に伴う負担が過重でないとき」という前提はあるものの、事業者においても障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化される▼大学生の頃、捻挫を負って松葉杖で生活していた時期があったが、エレベーター等がない古い校舎の授業が大変だった。不慮の事故や加齢によって誰もが障がいを負う可能性はある。自分もいずれは当事者になる前提で可能な対応を考えたい▼カカオの生産地では、児童労働を解決する手段としてフェアトレードの取組みが進んでいる。それによってチョコレートの価格が上がることを嫌がる人もいるが、児童労働の犠牲になっているのが自分の子どもや孫ならどう思うだろうか。現実的には難しい面もあるが、当事者意識を持って少しでも配慮できる社会でありたい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年3月14日付
 卒業式シーズン真只中。珠洲市や輪島市の学校では、避難生活で転校せざるをえなかった生徒も多く、悲喜こもごもの複雑な心情が行き交う。11日は東日本大震災から13年だった。当時、小学6年生で卒業式が中止となり、10年後にはコロナ禍で大学の卒業式がなかった東北出身の若者もいる▼熊本地震の震災から立ち直った城野印刷所(熊本県上益城郡)は、全国約1300校の卒業アルバムを手がける。同社によると、アルバムに収められた写真は昨年からようやくマスクなしの笑顔が増えてきた。アルバムは学生生活を映す鏡だ▼また、今年はおよそ3割の学校が4月以降の納品を希望した。学校行事が大きく制限され、卒業式の様子まで収録したいという思いが強い。今後もこの傾向が広がっていくとみられる▼式に参列できなかった生徒や親にとっても、大切な記念としてアルバムが残ることを願う。たとえ苦い記憶が多かったとしても、自分が生きた一つの証に違いない。人生は巡り合わせ。つらい出来事だけが続くわけもない。次は自分が主人公のアルバム作りに向かって、いざ、力強い旅立ちを。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年3月7日付
 帝国データバンクのアンケートによると、「コロナ禍は終わった」とする企業は4割にとどまり、「続いている」の回答が3割あった。感染者の発生は続き、仕事量が回復していない企業も多い。疫病や自然災害は災難ではあるが、一面では企業を試すリトマス試験紙でもある▼以前、MIC(旧・水上印刷)の河合克也社長に尋ねたところ、コロナ禍の中で自社が「エッセンシャルなビジネスに関われていることを再確認できた」と語り、新たな自信を得ていた。同社の業績はフルフィルメント事業を核にさらに伸びた。リーマン・ショック、東日本大震災の時も、その後の成長につなげている▼先日のpage2024カンファレンスで講演したCCGホールディングスの北田浩之社長の話も同じで、危機を節目に事業の多角化を図り大きく成長した。苦難は企業を鍛え、変革を加速させる▼とかく"ゆでガエル"の比喩で語られてきた印刷業界だが、社会から必要とされているか、緊急事態という熱湯を浴びて初めて気づく会社も中にはある。やけどは負っても、求められていれば脱皮は必ずできる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年2月29日付
 アバターを用いて活動するVチューバーが若い世代を中心に人気だが、音楽業界でもAdoに代表される顔を出さない歌手が近年増えている。これは反ルッキズム(外見至上主義)の流れというよりも、歌が上手ければ顔を出す必要はないといった若者らしい効率的な考え方が反映されているように感じる▼ライザップが運営するコンビニジム「チョコザップ」は、トレーナーを置かない無人化と設備を絞ることにより、コンビニ感覚で通える安価なトレーニングジムという新たな市場を開拓している。余計な要素を排することが現代のトレンドの一つになっている▼原材料の高騰や物価上昇もあり、国を挙げて価格転嫁を進めているが、難航している中小企業も少なくない。そうした場合には、これまで慣例的に無償で行っていた余計な仕事をなくす交渉も有効だ。トータルコストが下がれば、価格転嫁と同様の効果が見込める▼売上を重要視する中では、さまざまな要素を肉付けしていく足し算の考え方が中心になる。モノやサービスが溢れる現代においては、余分な贅肉を排除する引き算の経営感覚も養いたい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年2月15日付
 日本の贈答品文化が曲がり角にある。矢野経済研究所の調査によると、コロナ禍を経て、むしろギフト市場全体は伸びているが、中元・歳暮など仕来りの色が濃いものは漸減傾向にある。個人の縁戚関係が希薄化したように、多くの企業が取引先への贈り物に本当に意味があるのか、一斉に見直しを行っている▼年賀状もそうだが、中元・歳暮の類を中止しても取引への影響はほぼなかったという企業は多い。もらっておいて返さないのは失礼という心情が根強い一方で、相手が止めてくれて助かったという本音も贈られる側にある▼贈答とは違うが、寄付金に対して事務局が返礼品を送って寄こすことへの怒りもよく耳にする。そんなカネがあるなら本来の目的に役立ててほしいという気持ちはごもっとも。個人的には、マラソン大会で必ずくれる記念品は要らない(家にあふれるシャツの数々…)。その分、参加費を安くできないのか▼名入れカレンダーや手帳の需要の廃れはデジタル化の影響が大。印刷会社には逆風が吹く。形式や慣習に縛られず、今の時代に喜ばれる新しい贈物の仕掛けに知恵を絞りたい。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年2月1日付
 製紙連の試算では、今年の「印刷・情報用紙」の国内出荷量は約514万トン。2019年実績に対して実に3分の2となる。紙の需要はコロナ禍の前に戻るどころか、減少がさらに加速している▼仮に23年と24年の対前年減少率見通しの8%強が続くとすれば、27年には対19年比で半分になる計算だ。もはや、「紙にインキを載せる」ことで生まれる製品の量だけを追い求めても、どうにもならないところまで来た▼他社が追随できない特殊印刷・加工や用途、あるいは紙以外の素材や立体形状で勝負するか、製品を使う目的に付随するあらゆる関連サービスを取り込むか、全く新しい分野を切り開くか。いずれにしても、印刷会社に猶予は残されていない。目の前の価格転嫁、人材確保などの課題とは別の次元の危機が迫っている▼今月14日に始まるpage展のテーマは「連携」。そして、連携という手段を使って目指すところは、やはり昨年までのテーマ「創注」だ。需要を生むが早いか、減るが早いかの正念場。概念的な連携ではなく、「新創業」につながるほどのビジネスの精査が必要になる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年1月25日付
 ネットメディアだけに止まらず、スポーツ紙や一部の一般紙までもがネット上の意見を基にした記事を掲載するケースが目につくようになった。信頼性の不透明なソースが蔓延することになれば、メディアに対する信用は落ちていくばかりだ▼たとえば、能登半島地震における政府の対応を非難するネットの声を取り上げた記事があるが、当然ながらネットには称賛する意見も存在する。仮に「政府の災害対応に称賛の声が集まっている」といった記事があれば違和感を覚えるだろう▼そもそも、誰もが簡単に情報発信ができ、1億2,000万人以上が暮らす日本において、ネット上に存在しない意見などあるだろうか。それはつまり、どのような内容の記事であっても、ネット上の声をソースとして採用できてしまうということだ。「ネット上の意見=記事制作者の意見」としか思えないような記事も散見される▼能登半島地震においてデマ情報が問題となった。デマとまではいえないが、不正確な情報は大手メディアにおいても増えている。自分や周囲の人に損害を与えないためにも、メディアリテラシーを高めたい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年1月18日付
 元日に起きた能登半島地震。自然の脅威は正月気分や家族団欒などお構いなしにやって来る。連日の訃報に心が痛む。厳寒の時季にあって、大勢の行方不明者、そして避難者がいる。天の無慈悲を思う▼日本グラフィックサービス工業会では被災企業への災害見舞金支給とともに、全国の会員に募金協力を呼びかける。10日の理事会では、今後も想定される災害発生を踏まえ、支援のあり方が議題となった。その中で、13年前の東日本大震災を体験した福島県の理事が語った▼義捐金はありがたいが、会社を立ち直らせるには数百万、数千万円単位の資金を借りることから始まる。現実を考えると、金融機関と結んだ経営コンサルや資金面のアドバイスなどが非常に役に立つ―▼先立つものがなければ何も始まらないというのが被災者の実感だろう。有益な情報と知恵による支援は簡単ではないが、心身とも疲弊し、暗澹たる思いでいる経営者にとって、悩みを相談できる相手がいて、専門的なアドバイスをもらえることは大いに心強いはずだ。復旧に向けた迅速な行動と同時に、息の長い伴走支援の方策も考えたい。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2024年1月1日付
 アメリカのアカデミー賞では、今年から主要な役にアジア人や黒人などの俳優を起用することを作品賞の選考要件などとする新基準が導入される。日本においても女性やLGBTQなどの登用や配慮が求められており、時代は「多様性」へと舵を切っている▼多様性であることをルール化すると、「人種や性別ではなく、その人の能力で決めるべき」と考える人もいるだろう。私も同意だが、ハリウッド映画では長らく白人が中心であり、日本でも女性の管理職は少ない。そこに無意識の差別や偏見を否定できない以上、こうしたショック療法も必要なのかもしれない▼しかし、多様性であることが目的化しては危険だ。マイノリティを優先するあまり、実力がありながらもマジョリティであることを理由に機会を失う人がいれば、それは差別に他ならない▼スポーツ界に目を移すと、プロバスケットボールのNBAでは、身体能力に優れる黒人選手が大半を占める。一見すれば多様性はないが、ファンが不満に思わないのは、そこに差別や偏見がなく、当人の実力で選ばれているからだ。目指すべき姿はスポーツ界にある。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年12月21日付
 究極のスキープレーヤーの一人は、 2,000メートル級の山を直滑降する時も、まるで風呂場の小さな椅子に腰かけて山全体を眺める感覚だったと語る。体操の内村航平の言葉では「演技する小人のような自分を眺めるもう一人の自分がいる」となる。きっと、大谷翔平にとっては大リーグの広い球場が箱庭のように感じられているはずだ▼これらは身体運動における達人の話だが、レベルはさておき、日々の仕事でも少なからずそうした現象は起こる。私事で恐縮だが、入社して数年は、記事の校正も一行ずつ目で追っていたのが、ある時、紙面を見渡しただけで赤字の方が勝手に目に飛び込んでくる体験をした(今は逆戻りしたが)▼営業活動であれば、お客を分析し、プレゼン資料を作り、見積りを出し…と手順を追いかけているだけでは十分な成果は得られない。大づかみでも相手との関係を自分のフィールドで捉え、余裕をもって対する感覚がどうしても必要になる▼競技や試合で選手はいちいち躰の動きを意識しない。仕事のスケール感も、無意識の内に状況を掌握できている境地を理想として求めたい。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年12月14日付
 2025年11月に聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」が東京で開かれる。100年の歴史の中で日本では初開催となる。パラリンピックに比べると、「デフ(deaf)」の認知度はまだ低い▼関心と理解を高めようと、東京都は先月、デジタル技術を活用したカフェを期間限定で原宿に開いた。耳の聴こえないスタッフと店内で円滑なやり取りを行う試みだ。音声をリアルタイムで認識し、テキスト変換してディスプレイ表示する技術など、この分野の進歩は著しい▼限定された場面ではいいが、普段の生活のシーンではどうだろう。視覚障害に比べて周囲に気づかれにくく、配慮を得られないばかりか、反感を買うことさえあると聞く。さらに、マスクの着用が常態化し、相手の口の動きを読めない、人工内耳を使っていても言葉の意味が伝わらないといったことが増えた▼ヘルプマークやステッカーなどを独自に開発し、普及を図る印刷会社もある。支援グッズは標準化が望ましいが、まずは身近なところで情報を集めてみてはどうか。印刷業が支援に乗り出しやすい課題であることはたしかだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年12月7日付
 小欄で一度、大村印刷の故・大村俊雄社長との親交について書いたことがある「その人」が亡くなった。共感と反発がない交ぜになった複雑な感情を抱きながらも、常に意識してきた。とかく「モテる男」と評された人への嫉妬だったのかもしれない▼伊集院静、73歳。世間には男くさい印象を強く残したが、瀬戸内海の小島を舞台にした『機関車先生』の全編あふれる限りない優しさは一体どこから来るのか。本作だけで、「ああ、この人は信じられる」と感じたものだ▼某紙の記者の追悼記事に、インタビュー時に渡された自著へ「向い風を歩こう」と書いてくれた話があった。いい言葉である。人生の辛さ、厳しさを受けとめ、凝視し続けたからこそ、他人の痛みも深く理解できたのだろう▼今年は、森絵都さんの短編『雨の中で踊る』を読み、「人生とは、嵐が通り過ぎるのを待つことじゃない。雨の中で踊る。それが人生だ。」という言葉(ヴィヴィアン・グリーン氏による)も知った。たとえ逆境にあろうと、ありのまま受け入れる。時には、あえて逆風に向き合う。不思議に力が湧いてくる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年11月23日付
 マイクロソフトオフィス製品に生成AIによる自動化機能を付与する「Microsoft 365 Copilot」が今月1日にリリースされた。これを利用すれば、必要な内容を簡潔に入力するだけでテキストや画像、表題まで入った資料を自動的に生成することも可能だ。いよいよAIがビジネスでも身近になってきた▼AIにはメリットだけでなく、リスクも存在する。著作権などの問題に加え、AIによる圧倒的な作業効率化に伴う技術的失業が多くの産業で引き起こされる可能性がある。とはいえ、少子高齢化による人手不足問題が深刻化する日本では、不足しているリソースを埋める意味でもAIは積極的に活用すべきだろう▼一方、多くの移民や難民が流入して労働力の一端を担っている諸外国においては、技術的失業による影響が懸念される。自国民と移民・難民との間で仕事の奪い合いなどといった軋轢が生まれないことを切に願う▼AIに関しては先日、チャットGPTを手がけるオープンAI社の共同創業者であるアルトマン氏が退任するといった混乱も生じている。目まぐるしいAIの動向から目が離せない。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年11月16日付
 ドライバー不足が深刻だ。業務用トラックだけでなく、市民の足であるバス、タクシーも数が減り、高齢者や障がい者など弱者へのしわ寄せの話が多々伝わる。外国人観光客の混乱もさらに増えていくだろう。日本は高齢化先進国として世界から対策が注目されていながら、後手後手の対応が否めない▼高齢ドライバーに運転免許証の返納を求めるなら、代わる足を何とかしなければならない。一方、トラック業界では、高齢ドライバーに頼って仕事をつないでいる矛盾がある。「深夜の店舗に小口配送しなければならない会社に若者が来るわけがない」という社長の嘆きはもっともだ▼先日開かれた東京都トラック協会の出版物関係輸送懇談会では、出版・取次業界がかつてない歩み寄りの姿勢を見せた。このままでは共倒れになるという「運命共同体」の危機意識がはっきり感じられた▼取次会社からは、荷捌き作業の軽減のために、印刷・製本会社にも梱包形態の工夫や標準化を検討してほしいという意見が出た。物流費をただ経費と捉えるだけでなく、課題解決のために自ら協力できることは何かを考えたい。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年11月9日付
 「他人と違うことをやる会社は伸びる。『なんでやねん精神』で常識にとらわれない発想が大事」。大阪で「日本一明るい経済新聞」を発行する竹原信夫編集長の言葉だ▼なぜ日本人は花見の宴で必ずブルーシートを敷くのか? 外国人から率直な疑問をぶつけられたある社長はそこで閃き、桜に合わせたピンク色のシートを売り出したところ大ヒットした▼和歌山のある畳店では、濡れても平気な化繊畳を作り、スーパー銭湯が次々と導入した。最期は畳の上で死にたいと言うが、ほとんどの人は病院のベッドで亡くなる。棺桶に入る細長い畳は年間3万枚近くを売る商品となった。畳の裏はお別れの言葉を書ける寄せ書きとなっている▼タオルをスポーツ観戦時の応援グッズとして売り出した会社は、1枚300円の商品を5倍の値段に変えた。なるほど、先頃の日本シリーズでも球場はタオルだらけだった▼畳もタオルも斜陽産業に見られるが、そんなことはない。用途を変えるだけで大きなチャンスの扉が開く。日々中小企業を精力的に取材して回る竹原氏のひきだしには、そんな事例が山ほど詰まっている。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年10月26日付
 インターネットであらゆるサービスを受けられるようになった半面、何をするにも会員登録を迫られる。久々に利用しようと思ったらパスワードが分からず、再登録するのに時間を取られてイライラする。デジタル社会で便利になったこともあれば、不便に感じることも多い▼同様の悩みを抱える人は多いようで、ある印刷会社ではパスワード管理に特化したノートの販売が好調だ。それも高齢者だけでなく、若い世代が購入している。普通のノートの方が幅広い使い方ができるが、用途が明確な方がさまざまな商品の中から選ばれやすいようだ▼「何でもできるは、何もできない」と言われるが、企業を商品として見た時に、顧客に選ばれるためには独自の“用途”を明確にする必要がある。特に若い担当者はインターネットで検索して問い合わせるケースも多く、数多の企業の中から興味を引くためには、自社サイト上でも特定の商材やサービスにフォーカスした方が見つかりすい▼もちろん、相談を受けた後は課題解決に向けた提案を幅広く行うべきだが、情報が氾濫する現代では、その入口は狭めた方が良い。 (駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年10月19日付
 改定された最低賃金の全国平均額は初めて1,000円を超えた。賃金は今後も上がり続ける一方、人手不足は深刻さを増し、争奪戦がますます激しくなる。なまじの賃上げでは来てもらえないという嘆きが印刷業界でもそこかしこで聞かれる▼今の時期、多忙を極めるカレンダーや手帳の製作では、袋入れ作業などのセットアップ要員を確保できず、東京の業者がわざわざ東北まで品を運び、納品をなんとか間に合わせたという話も出てきた。その運賃を誰が負担するのか。顧客への価格転嫁は容易でない▼公正取引委員会経済取引局企業取引課の亀井明紀課長は「価格転嫁に関して特に取り組んでいく必要があるテーマとして労務費が挙げられる。労務費は、原材料価格やエネルギーコストなどに比べて根拠を示すことが難しく、値上げ要請を言い出しにくいと聞く」と問題点を指摘する▼「政府による後押しが必要であり、適正な価格転嫁を実現し、労務費を引き上げるための何らかのガイドラインを示せないか、現在検討中だ」と亀井課長。政府も、賃上げとセットでの価格転嫁を当面の焦点と見ている。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年10月5日付
 今月開かれる全印工連の印刷文化典は、広島市では1973年以来、実に半世紀ぶりとなる。個人的には、初めて親に野球のグラブを買ってもらい、夢中になった年だ。あの頃、テレビの野球中継は巨人戦しかなく、他球団の情報は巨人との対戦時や新聞・雑誌に限られていた▼記事の中に見つけた、「広島カープの選手は12球団で一番よく練習をする」といったプロらしからぬ(?)評が野球少年の心をとらえたのは何故だったか。素直な尊敬もあるが、努力しても成績が低迷し続けるチームへの判官贔屓の方が強かったように思う。外国人選手に頼らず頑張っている姿も潔かった。ちなみに、憧れの投手は外木場義郎。ずいぶんと渋好みの少年だな▼ついに1975年、カープは初優勝を遂げる。3年連続最下位からの歓喜到来。球団身売りの危機さえあった苦しい中でも、優勝の原動力となる選手たちは着実に育っていた。まさに、「勝つ(成功する)までやり続ける」。ビジネスにも通じる金言だ▼厳しさに直面する印刷業界だが、それでも人育てを怠らず、粘り強く生き抜き、やがて「昇鯉」の時を迎えたい。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年9月28日付
 消費税8%の時代から価格を据え置いていた近所の人気ラーメン店がとうとう値上げしたが、それでも以前と変わらない行列ができている。ファンの一人としては長年にわたり値上げをしなかったことに感謝する半面、ドライな視点で見れば、変わらない行列は本来の価値より安売りしていたことを表している▼諸外国に比べて日本の労働生産性が低い要因の一つには、過剰とも言うべき値上げに対する抵抗感が関係していると感じる。商品の需要が低ければ値段を下げるが、需要の高さを理由に値段を上げるケースは少ない。ホテル業界などではダイナミックプライシングの導入が進んでいるが、もっと多くの分野に広がるべきだ▼今年スぺインを訪れた際、市内のスーパーで1ユーロだった500mlのコーラが空港内の自販機では3.2ユーロで販売されていた。これくらいのダイナミックさが今の日本にも求められている▼花火大会などで有料席を設ける自治体が増えたことに対し、否定的な見方もある。ただ、価値のあるモノ・コトに対して相応の対価を払う習慣が広まらなければ、日本の付加価値は高まらない。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年9月14日付
 「事業は逆風の中でスタートさせるのがいい」。全印工連『日本の印刷』9月号に群馬県印刷工業組合の石川靖理事長が書いている。「大半の人が賛同した事業は高い確率で失敗する。みんなが反対する中、社長の特権でやってみると、案外おもしろい展開に及ぶことがある」。"常識的な賛同者"は、ダイヤの原石ではなく、イミテーションのダイヤに飛びつく▼昨年聞いた集英社の仲川広樹コミック販売部長の話を思い出す。今では世界で累計5億部を超えるお化け発行部数の『ONE PIECE』も、社内会議での評価は芳しくなかったが、当時の編集長の英断で『週刊少年ジャンプ』での連載がスタートした▼「満場一致で企画が通る作品にヒットは少ない。賛否両論いろいろあった末に送り出したものの方が、結果的に大きく育つことが多い」と仲川氏▼世の中には、産まれていればヒットしたはずの幻の事業企画が無数にある。周囲に反対されて、むしろチャンスを感じ取れるか。無謀はいけないが、冒険心を失くせば働く意味がない。『ONE PIECE』は、出版事業としてもまさに冒険を地で行った。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年9月7日付
 日本、そして世界の2023年の年間平均気温が史上最高を記録するのは確実だろう。今後は企業が想定すべきリスクとして「熱中症」や「山火事」が入らざるを得なくなる。水蒸気の発生量が増えることによる冬場の豪雪も心配だ▼製造現場では機械からの放熱もあり、冷房がストップすれば即作業中止の事態に追い込まれる。一方で、電気料金は上がり続け、この1年あまりで2倍強になったとする印刷会社が多い。酷暑は経営の面でも危機を深刻化させる▼宝印刷D&IR研究所の片桐さつき室長によると、地球上に存在する3,000万種以上の生物のうち、1年間に約4万種が絶滅しているという。約15分に1種の勘定だ。人間が気候変動で苦しむ以上に、人間が引き起こした生態系の破壊で、生き物たちが声も上げずに滅び去る▼「今年も秋刀魚に縁がない」―などと冗談まじりに言うが、笑い事ではない。もはや熱帯と化した日本で、土は焼かれ、海から魚も去るとなれば、食料自給率の極めて低い脆弱なこの国は、諸外国の禁輸で息の根が止まる。企業経営どころの話ではなくなる現実がある。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年8月31日付
 かつて「世界一幸せな国」とまで称されたブータン。その幸福度ランキングは現在、著しく下がっている。ブータン国内の生活水準が低下したわけではない。情報鎖国を解禁して他国の暮らしを知った結果、隣の芝生が青く見えるようになったのだ▼先日開催されたMUDフェアのメインセミナーで講師を務めた成澤俊輔氏は、視覚障がいによってほとんど目が見えない。しかし、成澤氏には悲壮感は微塵もなく、むしろ目が見えないことをポジティブに捉えている。目を通して入ってくる客観的な情報に振り回されることがないからだ▼他者(他社)と比較して一喜一憂しても自分(自社)の現状が変わるわけではない。それならば情報をある程度シャットダウンした方がより幸福に生きることができるのかもしれない▼宮ア駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」では、公開前後に映画の情報を一切出さないことが話題となった。情報に対する飢餓感をあおることで興味を刺激する狙いがあったようだが、情報が氾濫している時代だからこそ、情報を発信しない戦略が成り立っていることは興味深い。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年8月24日付
 日印産連が定めた「9月印刷の月」は、日本で初めて活字の鋳造技術を獲得した本木昌造の命日である9月3日に因む。本木から事業を託された平野富二は明治5年に東京築地活版製造所を設立し、活版印刷業を開始した▼約半世紀のち、星製薬の印刷主任であった森澤信夫が写真植字機を構想。同じ会社に勤める14歳年長の石井茂吉に技術面での助言を仰ぎ、二人は大正13年に特許を申請した。来年は写真植字機発明100周年にあたる▼たった30年ほど前、本紙の製作は「棒ゲラ」チェックを基本とし、職人さんに打ち直しの迷惑を掛けまいと真剣にゲラに向き合った。それが今や、キーひとつで文字が出るどころか、生成AIが勝手に文章を拾ってくる時代だ(本紙での使用はないので誤解なきよう)▼この先の技術革新の行方が気になる。いや、それ以上に、自ら調べ、伝える工夫をし、言葉を大事にする姿勢の絶滅が心配だ。「アナタはどう思う?」と問い返すAI、「間違いを含んでいる可能性が高いです」と緊張を強いるAIなど、双方向型が次の主流になるべきだが、翻弄される人間がなんだか情けない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年8月10日付
 『1984年』で有名なジョージ・オーウェルは、ルポルタージュ作家としても一流だった。代表作の『カタロニア讃歌』は、1936年から翌年にかけて義勇軍に参加したスペイン内戦の体験記だが、戦争の本質を肉感的に伝えて余すところがない▼たまたま『ロバート・キャパ写真集』の後に読んだため、余計にスペイン内戦が生々しく迫った。キャパが日中戦争の取材に精力的だったことも知り、複雑な思いを味わった▼遠いウクライナで起きている戦争に対して、一人ひとりが出来ることは限られる。現代の戦闘はハイテク化し、オーウェルやキャパの時代とは比較にならない。それでも、戦争というものの本質は変わらない。せめて、少しでもそこに近づきたい▼司馬遼太郎の『坂の上の雲』では、旅順陥落後に日露両国の兵士が互いに抱き合って安堵を分かち合う場面が忘れられない。直前まで銃剣を手に戦っていた者同士が、である。誰も好んで人殺しなどしたくはない。オーウェルは従軍の間、政治やイデオロギーのことはどこかへ消え、ひたすら安らかな寝床と温かい食事を渇望していたそうだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年7月27日付
 1面のトップ記事で紹介した影山氏の講演で興味深かったのは、若い世代ほど生成AIへの指示(プロンプト)が苦手な傾向にある点だ。その要因としては、SNSやインターネットでの単語検索に慣れているため、文章で問うことを苦手としているそうだ。その意味では、アナログ世代の方がAIを上手く活用する素地があるとも言える▼講演では、生成AIへ指示するためのマニュアル作りの必要性についても言及していた。AIと人、どちらもその能力を最大限に発揮させるためには適切なコミュニケーションが不可欠だ▼思い返してみると、アップル社のSiriに代表されるAIアシスタント機能を使用する際には、どうすれば機械でも認識しやすいかを考え、ゆっくりと分かりやすく話している。一方で、人相手にはそこまでの配慮をしていないことにも気づかされる▼意思疎通でのミスは、相手も理解しているだろうと思い込むことで発生する。人相手ならば説明が足りなくても察してくれるが、AI相手ではそうもいかない。AIの活用は、コミュニケーションのあり方を考え直すきっかけにもなる。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年7月13日付
 ブランディングや販売促進にキャッチコピーがもたらす効果は、時に絶大だ。人の心を動かす言葉とは、一瞬の勝負であり、長期に及ぶ生き物でもある。顧客をつかむだけでなく、社員の心を活性化させる効果も大きい▼日本WPAの新キャッチコピーに『このポスター、工程まで美しい。』が決まった。宣伝会議賞への協賛で「水なし印刷」をテーマに募集したものだ。制作者であるコピーライターの長井謙さんが実際に印刷現場を見学するなど、情報を集め、理解を深めたうえでアイデアを練り、1万点以上の応募の中から選ばれた。短い言葉の裏には地道な努力が隠れている▼良いコピーが生まれる鍵は「自分の心が動いた瞬間」と長井さん。恰好をつけず、技術に走らず、いかに感動を素直に伝えられるか。話の中には、「実感」「本音」「正直力」や、商品への「興味」「好奇心」「共感」というキーワードがしきりに登場する▼「売らんかな」の営業と、親友に「教えてあげたい」と思う時の気持ちの伝わり方の違いにも譬える。営業のあり方やホームページの作り方にも十分通じるものがある。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年7月6日付
 あなたは人を見る眼がありますか? と問われて、「はい」と答えられる人は少ないはずだ。色眼鏡を伴うのが常で、会社の人員配置でもそれが邪魔をする。いっそのこと、自分を信用せず、相手任せにするのも一つの策ではある▼プロ野球ではトレードの自由度が高まり、新天地で別人のように活躍する選手が増えた。監督やコーチとの相性もあろうが、我慢して試合で使い続けないことや、選手に期待する役割を押し付ける起用法に難があるように思う。燻り、埋もれている選手も、きっかけ次第で開花する▼印刷会社は、装置や作業のコスパだけでなく、最も会社の命運を左右する従業員の能力発揮指数にもっと敏感でありたい。ただし、配置転換や多能工化が会社都合で行われがちな罠もある▼その点、高知市の西村謄写堂の独特の採用・起用方法には恐れ入る。西村啓会長によると、能力で人を選ばず雇い、その人に合った仕事を会社が探してきて任せるのだとか。15年ほど前に60人だった従業員数は100人にまで増えた。探さざるをえないから仕事が増える。なかなか真似のできることではない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年6月22日付
 3年越しに開催されたジャグラの高知大会。その大会資料では、掲載されたすべての広告に一言ずつメッセージが添えられていた。あるメーカーの広告には「今年か来年、更新します」と実行委員の名前付きで書いていたりと面白い。読み飛ばされてしまいがちな広告ページでも、少しの工夫で立派な読み物になり得る▼印刷物の目的は情報伝達にあるが、その情報も伝えて終わりではない。特に商業印刷物では、結果として受け手が興味を持たなければ意味を成さない。受け手の感情を刺激するには、いかに手間暇をかけることが重要であるかを今回の大会資料は示している▼AIの研究が進み、デザインや文章作成などで活用の幅が加速度的に広がってきている。これまで以上にさまざまな作業が自動化・効率化されていく中で、その捻出された時間を使い、あえて手間暇をかける作業の取捨選択が差別化のポイントになってくる▼印字された手紙よりも手書きの方が親しみを感じるのは、自分のためにわざわざ時間をかけた姿が想像できるから。効率化の時代だからこそ、非効率な仕事が一層際立ってくる。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年6月8日付
 史上最年少の将棋名人となった藤井聡太七冠は、最も充実しているはずのタイトル保持者、挑戦者に危なげなく勝つ。相手の悔しさは如何ばかりか。将棋界にとっても、スター誕生は慶事である反面、勝負師の集団における「一強」の構図はやはりいびつで、誰かが立ちはだからねばならない▼敗れることがニュースとなるほどの衝撃は、1996年に七冠を達成した羽生善治氏以来。その前には中原(誠)時代、大山(康晴)時代があった。周期的に抜きんでた存在が現れる▼今から意地の悪い見方だが、藤井七冠もいつかは無冠となる日が来る。それは単なる衰えだけでなく、時代の潮目が関係するに違いない▼羽生氏は、棋譜データベースを駆使できるようになったコンピュータ時代の棋士。そして、藤井氏はAI時代の申し子だ。テクノロジーの影響が増していくなら、天才の登場周期も早まる可能性がある。AIの次の革新は何か。それともアンチエイジング技術の進化で、藤井氏が70代までタイトルを保持するか。興味は尽きないが、脳内にチップを埋め込んだ棋士同士の勝負だけはごめんだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年6月1日付
 電車内で見かけた「サービス・プロバイダー 正社員募集」の文字。一瞬、IT企業の広告かと思いきや、カッコ内に「バス運転手」とあった。トヨタが車の製造業からモビリティサービス業への転換を目指すように、運転手も人を運ぶサービス業となっている。近頃はバス内でのグッズ販売も珍しくなくなった▼仕事の概念はどんどん変わる。殊に、AIの機能が幾何級数的に進化を続けると、この5年、10年で激変していく。すべての企業にとって仕事の再定義が必要だ。変化が必然なのであれば、それを怖がることなく、むしろ楽しみたい▼先日の通常総会で神奈川県印刷工業組合の江森理事長は「みなさん、メタバースをどう思われますか?」と問いかけ、この、もうひとつの世界の出現について、「メタバースの世界にも印刷的な仕事は必ずある。それが何かを考えると、私はとてもワクワクする。やりようによっては新しいビジネスモデルになる」と話した▼メタバース、AI、DX…新たな技術や概念と印刷との融合・創発は、予想もしなかった成功をもたらすかもしれない。誰が先に手をつけるかだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年5月25日付
 コロナ禍を契機に、日本でもキャッシュレス決済が一般的になった。それに伴い、店側が現金しか対応しておらず、買い物や食事ができなかったという失敗談も耳にする。中には現金を持たないと宣言する人もいるが、それは手段と目的をはき違えているように思える▼キャッシュレス決済は便利だが、あくまで手段にすぎない。大手量販店やコンビニ等では普及しているとはいえ、個人店などでは未対応なケースも多い。本来の目的は商品やサービスの購買であるはずで、手段を優先して目的を達成できないのでは本末転倒だ▼手段が目的化することによる弊害は企業でもよくある話だ。一つの作業にしても、最初はそれを行う理由があったはずなのに、年月の経過とともに作業自体が目的となり、時代にそぐわず非効率になっていく。行う意味を考えることがなければ、改善されるはずもない▼新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類に変更され、日常生活にも変化が生じている。コロナ禍からの脱却に向けて社会が歩みを始めた今こそ、ここ数年で当たり前になっていた作業を精査する時期にある。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年5月18日付
 大日本印刷が12日に公表した中期経営計画では、2023〜27年度の5年間で3900億円以上を投資し、うち注力事業領域(エレクトロニクス関連、コンテンツ・XRコミュニケーション関連、メディカル・ヘルスケア関連、等)に2600億円以上の集中投資を行う計画だ▼一方、「既存印刷関連」については、収益性・市場成長性の低い「再構築事業」と位置づけ、紙メディア事業の合理化を施策の一つに挙げている。これまで培った高精細画像処理技術などをイメージングコミュニケーション分野でグローバルに展開し、新しい顧客体験価値の提供による利益拡大を目指す▼当然ながら採用人材は大きく変わり、やがて「印刷」のことを知る社員の数は限られてくるのだろう。それでも、同社が成長領域としている事業の一つひとつを見ると、多くが印刷技術から派生していることが分かる▼中小印刷会社も、巨大企業の話と遠ざけず、印刷の応用範囲の広さ、対象となる顧客の裾野の広さに改めて思いを馳せたい。それ以上に、良い意味で印刷会社は「何をやってもいい」と腹を括ることさえできる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年5月11日付
 一年前に亡くなった酒場のママの遺言メール。折に触れて見返す。消すことはできない。記憶と記録というが、記録も妙に生々しい。手紙は持ち歩けないが、メールは簡単に開ける。デジタル化は「情報」だけではなく「情」で包むこともある。それが負の書き込みとなれば、見返すたびに憎悪を掻き立てられもする現代人の宿命▼鳥インフルエンザで昨秋から今春までのシーズンに殺処分された鶏などは1500万羽超。4月に茨城県の養鶏場で起きた火災では15万羽が焼死した。その命、誰のためか。断末魔の叫びは届かず、卵の値上がりを嘆くのが人間だ▼SDGsで注目される昆虫食。一方で、害獣あつかいされ、大量に捕獲、処分される鹿や猪。欧州ではランクの高い鹿肉がなぜ日本で流通しない。殺めたら有難く戴くのが礼儀であり供養。子供たちにもしっかり教えなければ▼性差別解消を謳う日本で、昔から納得できないのが公共トイレ清掃。男性トイレを女性従業員に担当させる必要はまったくない。作家の故・山口瞳が何十年も前に「いつも申し訳ない気持ちになる」と書いたのを思い出す。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年4月27日付
 チャットGPTに代表される対話型AIの進化が著しい。諸外国では規制する動きも出ているが、国内では行政での活用が検討されている。一般企業でも研究が進んでおり、ビジネスシーンにおいても目にする場面は増えていくだろう▼対話型AIでは、引き出したい答えが同じだとしても、当然ながら質問内容によって返ってくる回答は変わる。より具体的なキーワードを盛り込むなど、意図した情報を得るためには受け手を意識する必要がある▼受け手を意識する重要性は印刷物などの情報発信にも通じる。伝えたいことを独りよがりに発信しても期待する効果は見込めない。受け手のリアクションを想定し、期待する行動を取ってもらうために最適な情報を適切な手段・タイミングで発信することが効果の最大化につながる。結果までを見据え、そこから逆算する発想が現代の情報コミュニケーションには求められる▼技術進歩が著しいとはいえ、AIは歩き出したばかりの子どもに過ぎず、長年連れ添った夫婦のようにこちらの意図を自動的に察してはくれない。コミュニケーションの本質は人もAIも変わらない。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年4月20日付
 東京の三報社印刷、小宮山印刷、神戸のカルトンアイ、機械メーカーの小森コーポレーション…。大正12年(1923年)に創業し今年百周年を迎えた会社である。印刷の伝統に立脚しながらも、新しい分野への挑戦が続く▼今回、紙面で取り上げた真興社は百年前、「震興社」という社名だった。大正12年は関東大震災が起きた年であり、復興の願いを込めて名称を変えた。その後、復興は成ったが、日本は戦争という人災に突き進んでいく。歴史の暗さと、翻弄された会社の苦労を思う▼上には上がいる。現在、山梨県印刷工業組合の理事長を務める依田訓彦氏は少國民社(甲府市)の11代目。創業は文政7年(1824年)、来年で二百周年となる。文政8年に先祖が測量から印刷までを手がけた「新版色摺 甲斐國絵図」が県立博物館に保存されているという▼数え年ではあるが、本号は当社の創業九十周年特別版とした。並み居る先輩企業に比べると、小舟のように頼りない。「百周年を目指して…」などと大きなことは言えないが、支えてくださる読者の皆さんと共に、これからの業界の海図を広げていきたい。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年4月6日付
 日本印刷産業連合会は、2030年の印刷産業のあるべき姿を描く新たなグランドデザインの策定に着手している。SDGs推進を事業活動の柱と位置づけ、持続可能な産業への業態変革に寄与するための活動を事業目的に据える方向性だ▼印刷業界の「新たな産業イメージ」を構築し、業界内外に発信することも重視する。クライアント業界、学生、一般社会などへの幅広いPR展開が検討されている▼日本印刷技術協会によると、大学生向けに開いたフリーペーパー講座で受講した学生からは、「印刷会社が自ら企画や構成をしてフリーペーパーなどを発行していたとは。衝撃的だった」、「すごくクリエイティブな職であることに驚かされた」といった声が多かった。反対にそれまでの印象は、「受け身」「堅い」「印刷だけ」「工場で機械が回る」…など、能動的なものとはかけ離れている▼産業イメージの発信はもちろん大切だ。同時に、印刷会社が手がけるさまざまな仕事を実際に見て、感じてもらう活動が欲しい。多感な学生向けに日印産連と10団体主催の会社見学連続キャラバンのような催しはいかがか。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年3月30日付
 「名は体を表す」という言葉があるように、社名はその企業を印象付ける最初の入口になる。「〇〇印刷」という名を見れば多くの人は印刷会社なのだと理解するし、逆に印刷会社という印象を薄めたければ「印刷」の文字を取ることが最も簡単な方法だ▼凸版印刷は今年10月に予定している持株会社への移行にあたり、商号を「TOPPANホールディングス」とすることを発表した。ここ数年のCM等を見れば予見できたことではあるが、大きな山が動いた影響は小さくない。情報メディア産業への転換が叫ばれる中、社名の「脱印刷」の流れは加速していくだろう▼自社ブランド製品を展開する会社では、ブランド名で展示会などに出展するケースも増えている。社名を変えずとも、ブランド名を駆使したイメージ戦略に打って出る会社も増えていくと予想される▼会社によっては数十年、あるいは100年以上にわたり歴史を刻んできた社名を変えることは簡単な決断ではない。しかし、だからこそ本気で変わろうとする決意も伝わる。本紙の媒体名から「印刷」が消える未来も遠くないかもしれない。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年3月16日付
 野球のWBCが盛り上がりを見せている。一次ラウンドの東京ドーム球場、満員の客席と声援は、コロナの3年間からの復活を印象づけた。13日からはマスク着用も自主判断となった▼3月11日は東日本大震災から12年。「つながろう」が合言葉だった震災後。そして、「つながらない」を余儀なくされたコロナ。震災の後遺症は未だに癒えず、コロナで運命が変わってしまった人も大勢いる。それでもやはり、人は人とのつながりの中で、明日も生きていく▼報じられたある高校の卒業式で、「何気ない日常がこんなに貴いものだとは…」と卒業生代表の言葉。実感だろう。同時に、平常の日々に感謝しつつも、そこに埋没せず、心をたぎらせて新しい世界に飛び込んでこそ若者だよ、と声を掛けたくなる▼SNS、アプリ、IT、AIの海を泳ぎ続ければ、自分がどこに向かっているのか見失うこともある。返信にあくせくし、動画視聴で時間を埋め、チャットGPTをいじくっていると、あっという間に人生は終わってしまう。自分が本当に求めるものは何か。春さざめく季節に、心の声にじっと耳を澄ます時を。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年3月9日付
 約30年前、当時仕事で関わっていた某印刷会社の部長が58歳で定年を迎えた。まだ見た目も若く、働きぶりはテキパキとしていた。小生のような若造にさえ、「どこかいい行き先があったら…」と声を掛けてこられた時の、身にまとった空気の寂しさを憶えている▼かつては55歳定年が当たり前だった。法令で定年後再雇用が努力義務化されたのが1990年、60歳以上定年の義務化が1998年。それだけ人生の尺は長くなり、今は国の都合で定年時期が引き延ばされている▼「サザエさん」に登場する波平が54歳、フネが52歳の設定と聞けば、その外見に驚く。それ以上に驚いたのが、2月5日に87歳で亡くなった声優の貴家堂子(さすが・たかこ)さん。1969年のテレビ番組開始以来、最後まで現役で"タラちゃん"の声を務めた。見上げたプロ根性である。童心に「引退」の二文字は無縁だったか▼人の一生は短いが、それでも時代の変遷によって個々の働き方は否応なく左右される。引き際を自分で選び、幕を下ろせることはつくづく幸せだと思う。さて、三浦知良、56歳。どこまで行く?(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年2月23日付
 出張帰りの新幹線で、隣の席に座った医療関係者らしき男性がパソコンで手術中の映像を確認していた。なかなかにグロテスクで、苦手な人なら気分が悪くなりそうな内容だ。その時にふと感じたのは、公共の場で手術中の映像を見ることは問題ない行為か。少なくとも、問題ないと断言できる時代ではなくなっている▼性的マイノリティや人種、性差別など、さまざまな面で配慮が求められる現在、その潮流に適さない広告物などが“炎上”するケースは少なくない。人々の興味を引くだけでなく、見た人を不快にさせないことも現代のデザインには欠かせない要素となっている▼請負型受注産業からの脱却を目指し、企画・デザインに注力する印刷会社が増えているが、それは「当社はデータどおり印刷しただけ」と言い訳できない立場に踏み出すことも意味している。受注案件が炎上した場合には当事者として批判を受けるリスクがある▼効果が出ないよりも炎上する方が会社に与える損害は大きい。効果的なデザイン提案はもちろんだが、炎上リスクを低減することも提案型印刷会社には求められる。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年2月16日付
 リスキリング(学び直し)の掛け声を大にしても、実態はお寒い。ベネッセの調査では、「自分の成長を目的に行う勤務先以外での学習や自己研鑽活動(読書・セミナー参加・資格取得・語学学習、等10項目)」について、「何もしない」の回答がアジア14ヵ国平均の13.3%に対して、日本は46.3%と飛び抜けて高い▼中川功一・元大阪大学大学院准教授によると、「日本は世界的に見て稀有な、大人が学ばない国」であり、学ぼうとする人を揶揄する悪しき風潮さえある。入試に受かることがゴールとなり、若くして自発的な成長を止めてしまう。これでは国際的地位が年々後退しても仕方ない▼岸田首相は昨年10月、個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じると表明したが、デジタル人材の育成に重きを置いた産業政策優先の内容であり、学ぶ文化の醸成とは程遠い▼中川氏は、高成長企業の条件の一つに、個々人がスキルを高めることに積極的な組織を挙げる。仕事の概念化、すなわち、「何のために働くのか」を社員が理解することが大事で、"やらされ感"とは正反対の結果が導かれる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年2月2日付
 12月に公表された「経済センサス―活動調査(製造業)」で、「印刷・同関連業」の2020年の製造品出荷額は前年比6.7%減となった。個人経営を除く全事業所の合計である。コロナ禍が始まった衝撃の年にしては、よく踏みとどまった数字か▼改めて思い知らされたのは、品目別算出事業所数(21年6月1日現在)の1位が「オフセット印刷物(紙に対するもの)」という数の多さだ。8414事業所は、2位の「その他の製缶板金製品」の約2.2倍。全1785品目の中の1位である。「紙以外のものに対する印刷物」(1673事業所)も22位にランクする▼中小企業性が高い、産業の裾野が広い、印刷物が生活に浸透している、それはたしかだ。品目別出荷金額でも「オフセット印刷物(紙に対するもの)」は2.6兆円で9位。上位のほとんどを占める自動車関連に次ぐ規模がある▼ただ、いかんせん、数が突出しすぎている。紙の印刷物の減少が続く中、過当競争を避け、適正な利益を確保するためにも、周辺サービスを含む役割の多様化が急がれる。数は力なり、だけでは産業は維持できない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年1月26日付
 「創注」に焦点を当てた今回のpage展。その意味するところは、原材料費の高騰などコスト増に拍車がかかる中で、現状の延長線上を歩いていてはビジネスが成り立たなくなるというメッセージが込められている。ビジネスそのものを変革し、新たな仕事を創り出すための一歩目を踏み出す時期にきている▼昨年のIGAS2022では印刷工場の自動化提案が目立った。生産工程の効率化を実現するスマートファクトリーは内向きのDXと言える。その次に来るのは、デジタル技術などを駆使して顧客に新たな価値をもたらす外向きのDXだろう▼経済産業省はDXについて、データとデジタル技術を活用することで製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものを変革して競争上の優位性を確立することと定義している。つまり、創注とDXは非常に密接な関係にある▼長らく受注産業として成り立ってきた印刷業界にとって、自ら仕事を生み出す創注は、これまでと真逆のアプローチになる。価格競争から脱却して創注に取り組むことは、印刷業界そのものの変革をも意味する。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年1月12日付
 印刷用紙その他、資材の値上げが引き続いている。需要減とも相俟って、このまま際限なく上がり続ければどうなるか。価格転嫁を図るほどに発注者が離れ、特殊な印刷物を除いては、デジタルシフトがさらに進むことになりかねない。だが、原材料費やエネルギー価格の高騰の影響を受けるのは紙媒体だけではない▼電子機器の製造にも各種金属、液晶材料、石油、電気などが不可欠だ。通信インフラコストの上昇も今後予想される。そもそも印刷会社にとって、デジタルメディアに対応する人材の獲得や教育に大きなコストが掛かる。印刷資材費や物流費に偏った価格交渉を見直すべき時期に来ている▼業界全体としても、デジタル関連投資額とそのコストパフォーマンスを精査し、デジタル投資を含めたバランスの取れた価格交渉を推進していく必要がある▼発注者の中には、印刷物がコピー機感覚で出来上がるような誤った認識とともに、印刷会社のデジタル投資に無関心な層もかなりの割合でいる。紙とデジタル、両方のソリューションを提供できる印刷会社の力量を評価してもらわなければならない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2023年1月1日付
 昨年、一昨年の年明けは新型コロナウイルス感染者数の急激な増加に振り回され、不安定な気持ちで新たな年に臨むことになった。昨年は、過去2年より感染状況が悪化したが、重症化リスクが減った分、精神的に余裕を持って新年を迎えた人が多いはず。感染者数に左右されない、真の“アフターコロナ”の年が始まる▼コロナ禍での変化に対する揺り戻しも起こるだろう。たとえばスポーツの歓声。ワールドカップの熱気を受けて、日本でも熱狂的な応援が戻ってくるはずだ。逆に変わらないものも当然出てくる。その見極めが重要だ▼コロナ禍で失った需要もあれば、新たに生まれた市場もある。それらがまた消滅するのか、あるいは戻ってくるのか。諸資材や物価の高騰などで厳しい経営環境が続く中、新たなフェーズに入ったアフターコロナ時代に限られた経営資源をどこに投入するのか。経営者としての決断力が問われる1年になる▼とはいえ先の読めない時代、あまり考えすぎても心に良くない。確かなことはコロナ禍というネガティブな存在が小さくなりつつあること。それだけでも大きな前進だ。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年12月22日付
 今年の新語・流行語大賞に「メタバース」がノミネートされていたが、巨大な社会インフラとして注目されるメタバースが"流行"と捉えられたのは少しおかしかった(新語でもない)▼人々が第二の生活圏としてメタバースの世界と行き来し、棲むようになると、テクノロジーから想起されるスマートさとは裏腹に、泥臭く、地道な商売も当然ながら現れる。何にしても、人の日常の延長にあるのだから。そこに印刷業のつけ入る隙があるかもしれない▼宇宙旅行が現実となった時代に、むしろメタバースに期待したいのは、決して体験できない過去への没入だ。古今東西、あらゆる土地での生活を再現し、実感させることが技術的には可能で、貴重な異文化体験となり教育につながる▼問題は、それがビジネスとして成立するかどうか。富豪の篤志家でも現れなければ、やってもらえそうにない。それとも、古代ローマやアテネでの別荘地の販売や、戦国時代の城を巡り、武具をコレクションするツアーなどは、企業にとって仮想空間商売となり得るのか。やはり、まずはマーケティングが必要なようだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年12月15日付
 先月24日付の小欄で、顧客の持続可能性に対して、「印刷会社から物申したくなる場面も増える」と書いた。漠然と、企業体質の指摘のようなことを思い浮かべていたが、その直後にたまたま聴いたSDGsセミナーで、講師から端的な回答を示された▼事例に挙げられたのは、某有名観光ホテルが売りにしていた、風光明媚な海と空を背景に色とりどりの風船を飛ばすウェディングプランの話である。ホテルのPRパンフレットの制作を頼まれた会社は、美しいデザインを考える前に、まず何を提案しなければいけないか。読者はすぐにお分かりだろう。ゴム風船と鳥、海洋生物をつなげれば言うまでもない▼社会課題に敏感な今の若い人たちに、はたして受け入れられるのか。かえって逆効果と思われる。それだけが理由ではないだろうが、このホテルは今年の9月で営業を終了した▼結婚式の企画は一例で、やはり向き合うべきは、時代遅れの感覚に気付けない経営者と担当者、企業体質そのものであることは確かだ。読者の身の回りにも似た事例はないか。もしあるならば、提案のチャンスにもなり得る。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年12月8日付
 4年ぶりに開催されたIGAS2022では、ロボティクス技術やメーカー間の垣根を越えたシステム連携によって生産工程を自動化するスマートファクトリー提案が目立った。人の手を介さない印刷物生産の実現は多くの利益を印刷業界にもたらすが、その裏ではオペレータという仕事の消滅も意味している▼AIなどによってさまざまな仕事が人間の手を離れることが予想されているが、印刷オペレータもその例外ではない。あるブースの自動生産デモンストレーションを見た来場者は「もうオペレータは必要ないな」と苦笑いしながらこぼした▼まだまだ人の手を要する現在の印刷生産現場では、より美しく、訴求力のある印刷物を目指してオペレータが研鑽を積んでいる。しかし、その磨いた技能が不要になるリスクを目の当たりにした時に、今までと同じモチベーションで日々の仕事に臨めるだろうか▼現状では生産工程の自動化を達成している印刷会社は極一部に止まるが、いずれはそれが当たり前になる時が来る。AI時代を見据えたリスキリングやキャリアデザインについて考える必要がある。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年11月24日付
 印刷物を作って納めるのが仕事ではない、顧客の利益最大化に貢献してこその存在価値―とはよく言われる。「印刷物」を、Webサイトやデータベースなどに替えても同じ。だが、単純に顧客の儲けの増大だけ追求しても貢献につながらない点に、 今の印刷営業の難しさがある▼世間は、儲かりさえすればいい、という企業の存在を許さなくなった。消費者にはSNSなどの発信で自社をよく知ってもらい(もちろん、不快感を与えてはならず)、地域社会にも受け容れられたい。さまざまな目配せが必要な時代だ▼取引する印刷会社には、環境配慮や情報保護などへの責務が生じる。それ以上に、顧客とステークホルダーとの関係を正しく理解していなければ、ビジネスパートナーにはなれない。むろん、値引きで顧客のためになるという古い考えでは、単なる便利屋以外の何物でもない▼短期的な利益より持続可能性の最大化。そう志向する顧客を深く知れば知るほど、印刷会社の立場から物申したくなる場面も増える。相手のために直言し、何とかしたくなる気持ち。それこそが企業価値の第一歩ではないか。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年11月17日付
 24日から開幕するIGAS2022では、218社が出展する展示ブースのほか、東京ビッグサイト会議棟でのパネルディスカッション、展示場内での特別セミナー、あるいは各出展社のWebセミナー等により、印刷産業の未来を先取りする情報発信が行われる▼その内容を見ると、「印刷」という概念や定義そのものが大きく変容してきていることが一目瞭然だ。むしろ、"ゆらぎ"を前提として、そこに次世代の印刷ビジネスのチャンスを見出そうという業界全体の意思のようなものが感じられる▼ドロドロに溶けた印刷のコアが、DXによる社会革命、サプライチェーンの大再編、SDGsに向けた全地球的要請といった縦・横・斜のあらゆるベクトルの相互作用の中で、どのような新しい姿を現すのか。まさに我々は、巨大なステージの幕が開く、その歴史的な瞬間に立ち会っている▼行き交う情報の量だけはとんでもなく膨らんだが、それに見合う知恵と哲学、洞察した未来を印刷産業が手にしたとはとても言えまい。一人ひとりが自分の頭で考え抜き、欲しい未来を描くこと。そこからしか道は拓けない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年11月10日付
 天気の良い日には、公園のベンチに腰掛け、何をするわけでもなく人や鳥を眺めるのが贅沢な時間だ。鳥をじっと観察していると、それぞれに性格があることがわかる。彼女になかなか近づけないオスを、もう一羽の白鳥がしきりに励ます様子を目にした時には、なんとも微笑ましかった▼先日は、幼い男の子の背のリュックに2メートルほどの青い紐を括りつけ、まるでペットを散歩させるように歩く母親の姿が異様だった。だが、幼児の行方不明などが相次ぐなか、そうしてでも子と離れていたくない親の心情が切ない▼知的障害を持つ子にも毎度のように出会う。皆、無邪気でかわいい。一緒に居るのは、祖父母やおじ・おばらしき方が多い。近所の知り合いといった様子の方もいる。おそらく、日頃は疲れている両親を休ませてあげているのではないか。傍から見ると少しきつい物言いも、その子の自立を促すための厳しさゆえと思われる▼盲目の娘の伴走をする母親の表情は、だれも立ち入ることのできない真剣さを宿していた。人生はいつも理不尽に満ちている。すべての人に幸あれと願うばかりだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年10月27日付
 長らく続いた自粛ムードも大分和らいできた。印刷業界でも今秋は数年ぶりに業界団体の全国大会が開催されるケースが目立ち、1ヵ月後には国際総合印刷テクノロジー&ソリューション展「IGAS2022」の開幕も控える▼全国大会での参加者の反応を見ても、インターネットで情報収集が用意になったとはいえ、リアルでの情報交換の機会を求める声はコロナ禍を経ても根強い。オンライン配信やテレビ会議システムが普及しようとも、リアルに顔を合わせて交流する価値は変わらない▼ただし、それは参加者にとって移動時間を超えるメリットを享受できる場合の話であり、単なる勉強会や発表会についてはその限りではない。移動を伴わない楽さを多くの人が知った今、リアル参加へのハードルは高まっている。従来と同じやり方では人を集めることはより難しくなっていくだろう▼コロナ以前はリアルしか選択肢がなく、この2年間はオンラインを最優先せざるを得なかった。今後はその2つを取捨選択する時代に入る。イベントなどの集客を手伝うことの多い印刷業においても工夫が求められる。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年10月20日付
 雇用保険法や年金制度の改正などで、短時間労働者や高年齢労働者が被保険者となる条件の緩和が進んでいる。ある中小企業診断士は「苦しい年金財政を立て直したい政府は、働く人を増やそうと躍起になっている。年金支給額は間違いなく減らされ続ける。少しでも収入を得たい生活者との間で、企業にはコスト増がのしかかる」と話す▼育児休業給付金の対象に非正規労働者を加える案の検討も始まった。少子化と高齢化の両方で世界のトップを行く日本。労働環境の整備をはじめ、この国で企業を経営していく厳しさは増すばかりだ▼働き方や人材が多様化するほど、経営者には、従業員一人ひとりの健康や家庭の事情、人生設計に心を配り、柔軟に対応することが求められる。そうした数字に表れない精神的な負担にまで、国は配慮してくれない▼労使の間はとかく賃金と権利を巡って対立しがちだが、ヒューマンな要素の解決には双方の歩み寄りしかない。働く側も、事情が許さなくなってから突然会社に打ち明けるようなことは避け、日頃から上手に情報を表に出し、相談しやすい空気に協力すべきだろう。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年10月6日付
 まだ暑い盛り、都内某所で小さな製本工場の解体現場に出くわした。長年の読者であった会社だ。中綴じ機は運び出されるのを待つばかり。2階はおそらく社長の自宅。立ち去りがたく、しばし作業を眺めていた▼珍しい光景ではない。しかし、小規模企業が次々に廃業することは、躰の静脈、毛細血管が消えゆくようで寒々しい。産業界全体への影響は微々たるものでも、部分的な壊死が続けばダメージは蓄積する。新陳代謝のためには新規参入が必要になる▼政府の「新しい資本主義」実行計画では、今後5年間でスタートアップ企業を10倍に増やす目標を掲げ、創業時の融資に個人保証を取らない方針で政策を進める。問題は、革新を志す経営者が印刷関連に着目するかだが、周辺ビジネスを含め子細に眺めれば、潜在市場の大きさに気付くだろう▼伝統的な同族経営とは肌合いが全く異なれど、創業時の思いはいつの時代も同じ。スタートアップ企業が参入し印刷業界を活性化するもよし。だがその前に、現役プレーヤーの中から第二、第三の創業への挑戦が生まれ、新市場をものにするに越したことはない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年9月29日付
 第55回造本装幀コンクールの受賞作品を見ると、書籍の進化を如実に感じる。背ではなく小口に本のタイトルを印刷した書籍や、梱包資材の段ボールを装幀に転用して段ボールを開封するとそのまま雑誌になる作品など、書店での販売を前提としない、販売形態の多様化が紙媒体の可能性を広げている▼書籍に限らず、商業印刷でも内容のバリアブル化や五感に訴える特殊加工など、技術の進化を活かしたアップデートが図られている。デジタルメディアが台頭しているからこそ、物理的なメディアである紙媒体の優位性を各社が追求している▼その点、新聞は他のメディアと比較して変化が少ない。電子版が普及しつつある一方、紙媒体としての可能性を追求する取組みなどは全国紙で も進んでいないように感じる。紙面を充実させることは当然だが、紙媒体としての優位性を追求しなければ、いずれは電子版のみになってしまうだろう▼ダーウィンの進化論にもあるように、変化に適応できなければ生き残ることはできない。令和時代に新聞がどのように進化していくべきなのか。当事者の一人として考え続けたい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年9月15日付
 れっきとしたテレビ局のレポーターが、「ちょっとお話は可能でしょうか」―8月の豪雨で受けた自宅被害の後始末をしている福井の人に向かってである。「お取り込み中のところ恐れ入りますが、少しだけお話を伺ってもよろしいでしょうか」となぜ言えない。「可能でしょうか」症候群、「させていただく」症候群、挙げればキリがないが、気に障って仕方がない▼「不要不急」も嫌な言葉だ。著書の影響があるのだろうが、流行りの「人を動かす」。少し前なら「勝ち組・負け組」、「リベンジ」…二項対立思考を煽りはしないか▼老齢の女性が新聞の投書欄で、「刺さる」という言葉は怖いので使わないでほしいと書かれていた。「消費者の心に刺さるマーケティング」などとつい使っていたが、考えさせられた。「現場」という表現を遠ざける印刷会社の経営者もいる。細やかな感性に触れる部分に気を付けたい▼現代は、一般の人々が人類史上最も多くの言葉を発する時代。もはや、「コトバ」はインフラと化した。ともすると、言葉ひとつが人を殺める凶器ともなる。垂れ流しでいいはずがない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年9月8日付
 ブームに乗ることはできても、息長く続けるのは容易ではない。「三日、三月、三年」という言葉があるが、企業においても、一つの活動が定着し実を結ぶには、時には放り出したくなる気持ちを宥めながら、習慣となるまで地味な作業に向き合わなければならないことが多い。環境対応などはその典型だろう▼環境優良工場表彰で大臣賞を受賞した太陽堂印刷所を訪問し、ぶれのない長年の取組みに、そんなことを思った。SDGsも然り。目標や意義が社会的に大きなものであるほど、ゆったりと構え、遠い道のりをじわじわと進む姿勢が求められる▼ある時、エレベーターに乗り合わせた太陽堂印刷所の日暮社長が、「『急』のボタンを押すのは日本人ぐらいだよ」と、ぽつりと言われた。今にして思えば、急がば回れ、目の前の小さな餌(成果)に飛びつくな、という教えにつながる気がする。結果は後から付いてくる▼日暮社長は、海外の情報に常にアンテナを張り、米国の印刷ビジネスアワードへの挑戦も続けている。そこには、日本的な偏狭さを乗り越えて進もうとする強い意思が感じられる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年8月25日付
 夏の甲子園は宮城県代表の仙台育英学園高等学校による東北勢初優勝で幕を閉じた。選手たちは入学時からコロナ禍に見舞われ難しい青春時代を過ごしたと思うが、それを感じさせないプレーには多くの感動をもらった▼仙台育英の強さを支えるのは綿密なデータ分析に裏付けされた育成にある。選手一人ひとりの試合スタッツに加え、年4回の測定会ではスイングスピードや打球速度、球速、一塁到達タイムなどを細かく計測する。選手の能力が客観的な数値で示されることにより、各選手は自身の長所と短所、成長度合いを測れるだけでなく、ライバルとなる他の選手と比較して優っている部分や足りない部分を知ることでモチベーションも刺激される▼まさに印刷業界でも注目されている「見える化」によって成功した事例といえる。学生スポーツの世界でも数値管理が普及しつつあるいま、ビジネスの世界においてもこの潮流を無視することはできない▼特に人を評価する際には主観が入ると不平不満が生まれやすい。客観的な評価指標を提示することが自身の現在地を知り、さらなる成長を促すことにつながる。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年8月18日付
 盆、戦争の記憶、八月は死の匂い。父も、バイクに乗り西瓜を届けてくれたひと月後に、もう歩けなくなり、食事も摂れなくなった。近しい人の死は、過ごした時が濃いゆえに、あるいは、離れていた時が長いゆえに悔恨も多いが、去られてみるといつまでも懐かしさが付きまとう▼だが、見知らぬ人の死を思い起こさせるのは、想像の力だろう。その最たるものが戦争だ。幼い頃の空襲や疎開、空腹などで戦争を知る人たちも八十歳を超え、記憶の風化は避けられない。記憶遺産として国を挙げて行動を起こすことを望む▼出版社や印刷会社には、企画、編集、記録、保存、普及の能力をもって記憶を次世代につなぐ責務がある。SNSでは、悲惨な戦争報道に接すると関連情報が増幅して迫り、精神を害する人も多いと聞く。印刷メディアは、人にのし掛かることをしない▼コロナ禍で奇しくも露呈したように、日本人の「同調圧力」は戦争につながる脅威だ。坂道を転げ落ちるのは早い。再び"あの日"に戻らないため、たった80年ほど前に起きた出来事を反芻するのは、すべての人の責務でもある。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年8月4日付
 印刷業界でも定額制やサブスクリプションのビジネスモデルが目立って増えてきた。サービスの見える化、トータルな商品提案、利益管理のしやすさなどが、利用側と提供側のメリットになると考えられる▼契約後も商品内容が固定される定額制に対して、継続的に顧客の業務分析を行い、改善を繰り返していくことで双方の利益を最大化するサブスクリプションは、より創造的、発展的だ。だが、近頃の定額制の中身を見ると、「サブ・サブスク」と呼びたくなる中身が多い▼多様な料金プランを用意し、プランごとに商品メニューのボリュームや密度がかなり異なる。過渡期にあっては当然ながら、契約内容、オプションの範囲、提供品質などで認識に食い違いが生じ、トラブルも起きる。そこに真摯に向き合い、乗り越えれば、強いパートナーシップに結びつくだろう▼商品の次に現実視されるのは、クライアントも含め、特徴の異なる会社同士での人材のアウトソーシング。一定期間内のスタッフ派遣が、作業効率や価値向上の効果を生むとともに、実際の企業間トレードで人材流動性が高まる可能性もある。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年7月21日付
 11月の開幕に向けて準備が進むIGAS2022の開催概要が発表された。展示会には210者が出展するほか、その時代のトレンドを色濃く示すパネルディスカッションは全部で7セッションが実施される▼4年前のIGAS2018で行われたパネルディスカッションを振り返ると、商業印刷、ラベル、パッケージ、軟包装などの各分野について、デジタル印刷やフレキソ印刷による可能性を有識者が議論。インバウンド需要なども取り上げていたが、全体としては個別の印刷ビジネスにフォーカスしていた▼それを踏まえて今回の講演テーマを見ると、デジタルトランスフォーメーション(DX)や印刷工場のスマートファクトリー化、印刷ビジネスの高付加価値化など、印刷会社の変革を促す内容が目立つ。今後の重要キーワードについて語るセッションなど、将来が不透明な中で、印刷ビジネスの方向性を模索する意識が垣間見える▼今回はオンラインによるアーカイブ配信も行われる。展示会で披露される最新ソリューションを含め、IGAS2022から印刷ビジネスの未来を感じ取ってほしい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年7月14日付
 亡くなられたユーメディアの今野敦之会長が生前、「印刷業界の最大の課題は事業承継」と語っていたことを思い出す。娘さんには、後継者となれる男性だけを伴侶として認めると言い含め、現在の今野均社長を10年かけてあらゆる席で紹介し、周囲にも意識を植え付けた。用意周到であった▼とはいえ、事業を継続したくても、後継候補がいない会社の方が多いのが実態か。持株の問題などがあるにしても、今後は親族内承継より、第三者承継の割合が増えていくだろう▼働き方改革や多様な人材の採用、定着率の向上がますます重要になる。採用方法も常識に縛られてはいけない。紹介者・採用者それぞれに一定額を支給するMIC(旧・水上印刷)の「縁満入社制度」などもその一つだ▼先日、ある印刷会社のメールマガジンで、入社したての社員の声を紹介していて興味深かった。きっかけは「アウトロー採用」。書類選考などは一切なし。応募者同士がZoomで自由に語り合った後、採用側と対話。そこで初めて企業名と印刷業だったことを知る…。そんなミステリー?採用も若者受けがいいようだ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年7月7日付
 7月1日出荷分から王子製紙が印刷・情報用紙の値上げを実施した。昨年来、主要製紙会社の中で同社だけが表明していなかったが、ロシアのウクライナ侵攻の影響が加わり、堪え切れなかったと説明する▼さらに、年初から値上げを行った日本製紙が、再び8月1日出荷分から値上げを行うという。他の製紙会社も足並みを揃えて再値上げとなる。過去10回にもわたる主要製紙会社のほぼ一律一斉値上げが今回、時期だけは部分的にずれた。中小印刷産業振興議員連盟の強い指摘が背景にあったのかもしれないが、問題の本質は何も変わっていない▼5月の印刷議連の総会で、経済産業省製造産業局素材産業課は「(これまで繰り返されてきた価格の激しい上下動では)印刷会社もたまったものではない。印刷業界と製紙業界がしっかり連携できるスキームづくりを考えたい」と発言した。これとて、以前からずっと課題に挙がっていたことではある▼ビッグデータを活用した、価格を含む用紙需給調整に期待する声も印刷業界内にある。その前に、両業界の間に交渉テーブルがないことそのものが問題だろう。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年6月23日付
 物価高が家計を直撃する中、政府からの賃上げ要求が強まっている。コロナ禍の影響で財政面から難しい企業も少なくないが、賃上げを実施するにしても、コロナによって大きく変化した労働環境を踏まえ、評価基準を見直す必要が出ている▼この2年間で特に変わったのは、ビデオ会議システムなどオンラインツールの普及だろう。移動時間という誰にとっても平等な労働が減ることにより、社員ごとの成果の差が今後より顕著になることは明白だ。移動時間に限らず、さまざまな業務がITツールにより自動化・効率化が進んでいる今、仕事に占める知識労働のウェートは高まり続ける▼たとえば、このコラムにしても10分で執筆できる人もいれば数時間を要する人もいる。フリーライターなら成果報酬で問題ないが、社員の場合にそのスキルの違いをどう賃金評価に反映するのか▼知識労働の割合が増えれば、必然的に成果報酬に近い評価基準に変えざるを得なくなっていく。外資系企業で見られる、ベース給よりもインセンティブを重視した労働環境に、遅かれ早かれ日本社会も向かっていくことになるだろう。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年6月16日付
 光があれば必ず影がある。経営のための完璧な武器などない。リモートワークの有用性を享受しつつ、対顧客接点をいかに広げていけるか。AIマーケティングを導入しつつ、いかに血の通った販売促進システムを構築できるか。常にバランスへの配慮が欠かせない▼時代が混迷を深めると、とかく経営者は特効薬を求めがちになるが、執着しすぎると判断の修正を迫られた時に方向転換が利かない。変化が加速する現代ではなおさらだ。フレキシブルに進むには、顧客と直に接する現場の生の声を重視した、ある種の合議制が求められる。トップダウンに比べスピードは劣るが、結果としてロスは減る▼経営姿勢としてのSDGsにしても、金科玉条のごとく崇める必要はない。各社の実情や特徴に応じて、できること、できないことがある。欲張って多くのゴールを目指すと、社員は疲弊し、外部から見ても焦点がぼやける▼新型コロナ感染者数もようやく落ち着いた。それは光だが、一方で、本業が停滞していた間に方向を見失った会社も多い。今一度、社員の本音を聞き、軸を立て直してはどうか。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年6月2日付
 過去に例のない諸資材・エネルギー価格の高騰、原材料不足が続き、価格転嫁はどの業界、企業でも最優先課題となっている。印刷業界においても、今この時期に実行できなければ、二度と機会は訪れない気がする。だが如何せん、中小企業、受注企業の立場は弱い▼問題は印刷・加工の単価だけではない。先日のある会合では、納品における顧客の横暴に怒りの矛先が向けられた。一例を挙げれば、パンフレットや手帳など製品の小口納品だ。部単位ならまだいい。総務1課に17部、2課に21部、3課に14部…当たり前のように指示され、小口梱包し配送する。その大いなるムダ▼部数は減少する一方で、梱包・配送費用、人件費は嵩み、検査・計数装置も欠かせない。しかも、それらコストを請求に認めてもらえない。「昔はお客の社内に手配してくれる人がいたが、今はむしろ、印刷会社に要求できる力を周りに誇示する困った人が増えた」と嘆きは続く▼労賃や燃料費を含め、納品に関わるコストを改善するだけでも、実質的に価格転嫁と同じ効果を持つ。“商習慣”という厚い壁こそ一番の厄介者だ。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年5月26日付
 先日購入したグーグル社のスマートフォン。AI技術が組み込まれた同機は高度な音声認識機能が搭載され、レコーダーアプリはリアルタイムでの文字起こしが可能だ。テレビのニュースなら9割近く、会議のあいさつでも6〜7割ほどの精度がある。記者の仕事で最も地道な作業とも言える文字起こしが自動化されることは、大幅な仕事の効率化につながる▼AIによってさまざまな業務が自動化されることで、一説には約50%の仕事・業務がなくなると言われている。いずれ訪れるAIの時代に人に求めらることは、アイデアや発想力によるイノベーションの創造になる▼カレー市場において国内第2位のゴーゴーカレーの創業者である宮森宏和氏は「発想力は移動距離に比例する」と指摘している。外に出て多くの人と出会い、知見を集めることがAI時代にこそ重要になる▼コロナ禍でさまざまな制限を受け、リアルでの情報収集の機会が限られていたが、ゴールデンウィークを境にコロナ対策の潮目も変わってきている。この2年間出来なかった分、これからは積極的に外にて情報収集に努めたい。(駒)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年5月19日付
 非代替性トークンという訳を含め、「NFT」という言葉の理解が難しかったが、ようやく馴染んできた。ブロックチェーン技術を使って複製や改ざんを出来なくした世界公認のデジタル資産、と言えばいいか。要は、それを所有する喜びがあり、売り買いもでき共有する喜びがあるということだ(法律上の問題は残されているようだが)▼技術的な説明では納得できなくても、プロスポーツチームが試合の模様や選手の動画コンテンツNFTを相次いで販売し、自治体がふるさと納税の返礼品として独自のNFTアートの提供を始めたと聞けば、イメージがぐっと膨らむ▼クラブチームや企業、店舗、自治体などがファンや支援者を増やす手段として、NFTの採用は広がっていくだろう。メタバースと同様、コンテンツを仕事として扱う印刷業界は、これらも大事な事業領域に入ってくる▼こぞって高級ブランドの車、ファッションなどを追い求めた時代は遠ざかり、「個」に寄り添う無形の資産が幅をきかせる。印刷はサービス業への傾斜をさらに強め、その中で情報加工技術を活かしていくことになる。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年5月12日付
 埼玉県のS製本を久しぶりに訪ねた。商業印刷物が中心だけに、特にこの2年間は受注の確保が厳しかったようだ。ただ、コロナ禍で個人投資家の数が増えたため、証券関係の仕事は順調だったという▼ようやく世間が回り始めた。印刷需要の回復に期待がかかるが、同社の主力である自動車カタログでは別の問題も起きている。半導体不足に加え、ウクライナ危機によりアルミや鉄鋼などの価格高騰、輸入への支障が自動車業界を襲った。「売れ筋の車種だと、普通は納品まで2、3ヵ月ほどだが、今は1年待ちもある」と社長。混迷は続く▼自動車販売でも、モニターや端末で商品説明を行うことが増えた。カタログの持つ意味は昔と異なり、今はお客への"ギフト"となっている。「部数は減っても、品質はより高いものを求められる。人気車種のオプションカタログは発注が途切れない」と社長は話す▼捨てられない紙媒体の可能性を改めて感じる一方、「小ロットの製本の価値をもっと認めてもらいたい」と切実に訴える。お客に大事にされる価値ある高品質のために、かけた元手は半端ではない。(銀河)


 コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月28日付
 経済産業省は22日、終身雇用に代表される日本型雇用体系からの転換などをうながす提言を公表した。コロナ禍でテレワークが浸透するなど働き方の多様化が進む中、これまで凝り固まっていた日本の雇用体系にも変化が生じはじめている▼終身雇用型の企業において、社員との関係性は家族に近かった。休日には社員旅行に行き、結婚式では上司がスピーチをする。しかし、先行きが不透明で将来の雇用を企業側は保証できず、働く側にもその意識が乏しい現代では、社員との関係性はよりドライなものになるだろう▼その時に企業がとるべきスタンスは、社員の私生活に踏み込むのではなく、私生活の充実を支援することではないか。そのためには有給休暇をこれまで以上に取得しやすい企業風土の醸成や、個々人の属性に即した雇用体系を提供することが重要になる▼近年では、社員やステークホルダーの心身の充実を目指す「ウェルビーイング(well-being)経営」が注目されてきている。私生活の充実は仕事上のパフォーマンスにも良い影響をおよぼす。令和時代の福利厚生とは何か、改めて考える必要がある。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月21日付
 2月7日に行われた印刷工業会の創立70周年記念講演会で話したのは将棋の羽生善治九段(51)。言わずと知れた大棋士だが、講演の4日前にA級順位戦で敗れ、29年間在籍したA級から陥落した。当日、それには触れることなく、飄飄然と話を続けた▼その中で、勝負、仕事、人生に通じる「リスクを取る」ことの大切さを独特の表現で語った。「対局では自分がよく知っている得意な戦法をつい選びがちになるが、10年後の視点から見ると、それは代わりばえのしない手をずっと指しているリスクでしかない」▼現在は多くの棋士が活用しているAIソフトについて、「コンピュータには新しい手、古い手といった既成概念がないため、今は指されなくなった手が復活することがある」という指摘も、過去の古臭い手だからといって検討を遠ざける思い込みの罠を示して興味深かった▼経験の蓄積から導き出された定石を踏まえ、指し慣れた戦法を使えば、たしかに当座の勝つ確率は高くなる。しかし、それが10年後も通用することはあり得ない。周囲の研究が日々進化するからだ。では、どうするか。羽生さんは「私は常に小さなリスクを取り続けている。毎日ちょっとずつでも、1年経てばかなり変化している。どの時点で見るかによって評価は変わる」と話した▼自分に言い聞かせた言葉のようでもあり、当たり前の日常の心構えのようでもある。評価は周りのもの、昨日と違う自分は己だけが知っている。B1級の今も日々リスクを取り続け、10年後を見据えているはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月14日付
 以前にテレビの将棋番組におけるAI評価値の画面表示について苦言を呈したが、やっぱりと言うか、プロ野球放送でも同じことが始まった。「この場面でヒットが出て勝ち越すと、勝利確率が70%になります」とアナウンサー。その数字に何の意味があるというのか▼過去の平均データなどどうでもいい。大事なのは今、この瞬間。二度と繰り返されない今だ。試合の緊迫感を削ぐなかれ。そのうち、すべてのスポーツ中継に導入されかねない。教育評価もそうなるだろう。お見合いの相性診断にもAIサービスが使われる時代。ああ、現代の新たな人間疎外▼画面分割で顔を出すタレントコメンテーター。視聴者のつまらない投稿の垂れ流しテロップ…。テレビに溢れるノイズが止まらない。ネットも情報の洪水だ。聴覚だけ、視覚だけに頼るラジオや本とは対照的。最近のオーディオブック人気にも関係があるか▼印刷物とデジタルメディアの融合は大事だが、印刷物にQRコードをやたらに入れればいいという話ではない。ノイズに注意し、印刷物本来の価値を磨き上げてこそ、ハイブリッド活用も生きる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年4月7日付
 南極点到達競争を通して人と組織の問題を鮮やかに描き切った『アムンセンとスコット』(本多勝一著、朝日文庫)をぜひお勧めしたい。人類初到達の栄冠を手にしたアムンセン隊に対して、スコット隊は後塵を拝したうえ、全員が死亡した▼本の解説にある山口周氏の「頑張る人は夢中になる人に勝てない」という言葉が印象深い。両者の「蓄積思考量の差」を指しており、「好きこそものの上手なれ」に意味は近い。何事も夢中になるからこそ極められる。新社会人、新入生に贈りたい言葉だ▼日本の教育の最大の欠陥は縦割りのカリキュラムだろう。古武術家の甲野善紀氏などは「歴史」さえ学べば事足りると主張する。哲学も科学も社会学も、およそ人が知るべきことはすべて人類の歩みを辿れば系統立てて学べるからだ▼先日観たテレビ特番では、ある発達障害の子に、大好きな「昆虫」にとにかく夢中にさせる教育法が紹介された。昆虫を通して考え、関連する漢字、算数、自然環境などをどんどん吸収していく様が快かった。教育の電子化にあたっても、夢中からの総合学習の視点をしっかり持ちたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年3月31日付
 電通が先月発表した「2021年日本の広告費」を見ると、インターネット広告費が好調な一方、紙媒体の苦戦が続く。その中にあって、コロナ前の2019年比でも約5%減に止まるダイレクト・メール(DM)の健闘が目立った▼このほど発表された第36回全日本DM大賞を見ても、精緻なデータ分析とマーケティング施策により生み出される高い成果がその一因であることが分かる。エネルギー価格や原材料費の高騰が続くなか、製造原価ではなくプロモーションの成果に対して利益を求めるビジネスへの転換が求められる▼高度なデータ分析に基づくDM制作のハードルは高いが、受賞作品の中にはそうしたノウハウを持たない広告主自らが制作し、高い効果を生み出した例も多い。以前にグランプリを獲得した温泉宿のDMでは、常連客へのメッセージと感謝の印として特注の金の名札を同封した結果、送付した100組のうち84組が宿泊プランを予約した▼データ分析を苦手とする印刷会社でも、日本の強みである「おもてなしの心」を形にするサポートができれば、高い価値を生み出すことは可能だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年3月17日付
 個人としても、電気・ガス代の請求が跳ね上がり、食料品の値段につい手を引っ込めることが増えるなど、エネルギー・資材コストの高騰を実感する。企業であれば尚更、とりわけ製造業にはこたえる▼利益を減らさないためには、より安価な調達を行うか、価格を転嫁するしかない。調達に関しては、品質低下につながる虞もあり、おいそれとはできない。コストカットも、惣菜の中身が明らかに減った、包装材が薄くてすぐに破ける、となればイメージダウンになる▼そこで価格転嫁に向かうわけだが、中小企業庁の業種別調査によると、印刷業はトラック運送業と並んで、価格転嫁の達成度や、そもそも交渉のテーブルに就ける度合いで下位を争う。立場の弱い規模の小さな企業ほど顕著だ。また、同じ印刷関連業の中でも、より後工程に位置するほどサプライチェーン全体のコストアップのしわ寄せを受けやすい▼個々の価格交渉努力は大事だが、中小企業の非力は否めない。発注元に複数の取引先があれば、より単価の安い企業に仕事が流れてしまう。弱者の共同戦線、業界団体の結束が今こそ必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年3月3日付
 「適者生存」とよく言われるが、生き残ったから適者なのであり、たとえ適者になれそうな方法を皆が解っていても、それはそれで淘汰は行われる。時代の変化の方がはるかに速いのだ▼最近、「選択と集中」戦略に対する経営者の懐疑的な意見を聞く。コロナ禍に遭い、経営資源を特定の顧客や市場に集中しすぎるリスクを痛感したことが大きい。「相乗効果という言葉の響きはいいが、過度の期待は危険。むしろ今の時代は全く違う柱を立てていくことが求められる」という声もある▼総合すると、「絶えざる選択と複眼投資」―このあたりが生き残れる確度が高い考え方になりそうだ。いま成功しているビジネスモデルを信用しすぎず、常に新しい領域を探り、将来有望な複数の事業を見極め、先行投資していく戦略ということになるか▼ところが、これが難しい。早すぎた本業の見切りや、行けると見込んだ事業が不発で損切りもできず…といった失敗例は当たり前だ。経営者一代での変化への適応には限界がある。「適者生存」は事業承継の問題に行き着き、結局のところ、次世代に任せるしかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年2月24日付
 青年印刷人の祭典「PrintNext2022」が2月12日に開かれ、コトづくりの視点で印刷業の可能性を探った。イベントに向けて全国8ブロックが地域の課題解決に取り組み、それぞれの活動を共有した。「ココカラ市場」として4月29日に3331 Arts Chiyoda(東京・千代田区)で改めて成果発表する▼北海道ブロックは、害獣として駆除され産業廃棄物処理されることが多い蝦夷鹿を活用した無水カレーを地元の飲食店と共同開発した。関東甲信越静ブロックでは、長野県高山村の特産ワインを地元の子どもたちに授業を通して知ってもらい、地域愛を育てる活動を展開した▼中部ブロックは著名な音楽家とコラボし、印刷廃材を使った楽器でアートを発信。クラウドファンディングで60万円の資金も調達した。九州ブロックは休耕田の活性化に取り組み、デジタルスタンプラリーで村おこしを図った。役場から「ぜひ続けてほしい」と依頼があったという▼ココカラ市場では、各地の課題を新たな魅力へと変える価値創造への挑戦が見られる。コトづくり事例を学ぶ機会として立ち寄ってみてはいかがか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年2月10日付
 近年の展示会の名称の様変わりには驚くばかりだ。それだけを眺めても時代のトレンドをつかむことができる。過渡期にはおもしろい現象も起きる。3月に東京ビッグサイトで開催される「日本ものづくりワールド」展を構成する展示会に「3D&バーチャルリアリティ」展がある。VRもたしかに"ものづくり"ではあるが…▼「メタバース」という言葉が頻繁に使われるようになった。仮想空間ビジネスは将来、巨大ビジネスに成長するだろう。展開されるのは個人の趣味や仮想通貨だけではない。現実世界と仮想空間を行き来しながら、リアルのキャッシュと物品のやり取りが密接に絡むようになる▼利用者が人口の1割、2割となってくれば、企業は乗り遅れまいと次々参入し、政党も政治活動を始めるに違いない。80億人の分身(アバター)が住むようになれば、それはもう一つの地球だ▼北京冬季五輪が真っ盛りだが、eスポーツが五輪種目になるより先に、仮想空間で新しい概念のスポーツ大会が生まれる可能性の方が高い。よもや、そこまで国家間の反目が持ち込まれることはないと信じたいが。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年2月3日付
 医学部入学試験の合格率が、2021年度は男女比が逆転したという。女性と浪人生への得点操作が事件として明るみに出て以降、全大学の男女別合格率を公表するようになった結果だ。都立高校でも男女別定員制の撤廃に向けて動き出した▼公正や平等は、思いだけでは実現できない。相応の仕組み、仕掛けがあってこそ具体的な取組みが進む。同じことは、SDGsのすべてのゴールの達成に向けても言える▼近頃、お客からのカーボンニュートラルやサステナビリティに関する問合せが増えたという印刷会社の声を多く聞く。対応できない会社は今後、サプライチェーンから弾かれてしまう可能性が高い。自治体のSR調達も広がっていくだろう。その取組みにおいても仕組みは重要だ▼日印産連GP認定制度の認定工場はまだまだ増やしていく必要がある。全印工連は、新電力2社と契約して再生可能エネルギーの活用促進事業を始めた。契約主体は個社だが、利用する組合員のCO2削減量を集計し、成果を公表することで、業界全体への評価を高めていく。理念から仕組みへの落とし込みを加速させたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年1月27日付
 昨年はほとんど行われなかった業界団体の新年会だが、今年は規模の縮小などはあるものの、2年ぶりの開催が相次いだ。オミクロン株の感染拡大によって中旬以降は中止されるケースが目立ったが、展示会などのイベントは予定どおりリアル開催されるなど、昨年以上に“ウィズコロナ”で社会経済を回す姿勢が明確になっている▼企業におけるクラスター事例も増えており、感染が収まらない中での経済活動には当然リスクも伴う。濃厚接触者でも10日間の自宅待機が求められるため、テレワークに対応していないと企業継続も難しくなる▼帝国データバンクがこのほど実施したアンケート調査では、BCPを策定済みの企業は4割弱に止まり、4分の1は作成予定もないという。たとえ作成済みでも、パンデミックへの備えは不十分だった企業も少なくないはず。多くの従業員が感染、あるいは濃厚接触者となり得るいま、最悪の事態に備える必要性が増している▼麻雀にしろ将棋にしろ、ノータイムで打つことになればミスは当然増える。非常時における各企業の持ち時間は、経営者の事前の備えに比例する。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年1月13日付
 コロナ収束の期待もあった新年だが、第6波は急速に拡大し、業界団体の新年会も多くが中止に追い込まれている。「いい加減にしてほしい」と嘆いても、ウイルス相手では怒りのぶつけようがない▼本紙新年号のGC東京座談会では、自分たちの強みを、「先行して(製版の縮小という)危機に直面し、それを乗り越えてきたこと」とする発言があった。誰もが向き合う現下のコロナ禍では、その苦難を「いつかは直面するはずだったもの」と受けとめ、前向きの力に変えていくしかない▼今日、当たり前のビジネスモデルとなっているネット印刷通販も、先鞭をつけたのは業態変革を余儀なくされた製版会社だ。同じ頃、大手商社が印刷eコマース事業を立ち上げ、話題になった。しかし、結局ビジネスにはできず、撤退した▼なぜ、資本も人も潤沢な巨大企業にできなかったのか。投資リスクの検討や採算予測が先行し、社内では完成したモデルが求められ、稟議に振り回された結果ではなかったか。対して、中小製版会社は後先かまわず「やるしかなかった」。やるか、やらないか。明暗を分けるのは常にそこだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2022年1月1日付
 激動の2021年が終わり、新たな年を迎えた。多くの人にとって予想外のことが立て続けに起こり、5年10年先どころか1年後ですら予測不能な時代が到来した▼常に意思決定が求められる経営者にとって、昨年ほど頭を悩ませた年はなかったのではないか。従来とは前提が異なるニューノーマル社会では、過去の経験やデータに基づく予想が通用しない。それどころか、経験やデータに固執すれば、誤ったまま突き進んでしまうリスクも伴う▼早稲田大学大学院の入山章栄教授は、経営者の意思決定において、「正確性」よりも「納得性」に重きを置く。正解が誰にも分からないコロナ禍の中で、リーダーの仕事はビジョンを明確にし、組織のメンバーが納得する=腹落ちするストーリーを示すことであり、トライ&エラーを繰り返すアジャイル型の組織こそが不測の事態に対応できる▼そのためにも核となる経営ビジョンを明確にする重要性が高まっている。自社がどのようにして社会に貢献し、事業を通じて何を成し遂げたいのか。すべてが不透明な時代であっても、その想いだけは明確にできるはずだ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年12月23日付
 年の暮れ。読者から、いろいろな取組みの成果物が届く。今年も多くの苦労があったろう。それでも、心のこもった手紙を読むと、この一年を経営者として懸命に引っ張ってこられ、無事に年を越されることを知り、胸が熱くなる▼協同印刷(岐阜県関市)の小川優二社長からは、地元特産の刃物を広く知ってもらうために販売を始めたノベルティグッズ一式。キャラクター化した刃物たちが実に魅力的だ。新入社員を含めた若手を中心に自社商品開発に取り組んだという。中島製本(埼玉県川口市)の中島伊都子社長からは、障がい者のアート作品でデザインした、一枚一枚はがせる「癒しのマスクケース・ブック」。その日の気分によって絵柄を選べる楽しさにあふれる▼両社とも、コロナ禍で生まれた時間で社員と一緒に知恵を絞り、前向きの力に変えている。博進堂(新潟市)からは、社員全員の写真とメッセージが入った百周年記念誌。加藤製本(東京都新宿区)からは、自社工場見学を福袋にした百貨店の企画の案内…▼各地域で、この業界の可能性が感じられる、少し早い嬉しいお年玉だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年12月9日付
 もう半世紀近く前。鰹節は必要のつど自分の手で削り器を使い削っていた。枝豆も、枝に付いたものをもいで茹でるしかなかった。どちらも子供の頃の懐かしい親の手伝いだ。今は真空パックの袋を開けるだけ、出来合いを買うだけですぐに食べられる▼技術と流通の革新で世の中のスピードは格段に変わった。違った形で現代にあのスローライフの味わいと豊かさを取り戻せないものかと夢想することがある。脱プラの命題にしても、昔の食材には無縁だった▼生活が便利になるほど、やることが増え時間に追われる矛盾。手書き原稿がなくなり、ネットで校正を送れて、情報を取れる時代になっても、編集や印刷の仕事の煩雑さが一向に解消されないのも同じか▼生真面目な日本人は、詰め込むことが好きで、いい意味での手抜きを欲しない。DXも本質を見誤ると、個別作業の効率化だけを見て成果を上げたつもりになり、全体では新しい課題を抱え込んでさらに苦しむ。「豊かさとは何か」を突き詰めると、不要な仕事(用事)をばっさり切り捨てることの効用が見えてくる。忙しさに慣れてはいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年12月2日付
 全国的に感染状況が落ち着き、少しずつ経済活動が活発化してきた。ただ、感染者が急減した理由が専門家にも分からず、今後の感染予測を見ても不確かなものしかない。先の衆議院選挙で事前の議席予測が大きく外れたことも含め、予測不能な世の中にある▼その衆議院選挙で予想外に議席を減らした立憲民主党。その敗因として、批判ばかりという負のイメージが一因に挙げられている。もちろん、野党第1党として批判は重要だが、一方でポジティブな言動の少なさが批判ばかりというイメージにつながっているのではないか▼リーグMVPを受賞した大谷選手に対して「三振が多すぎる」「チームが負けすぎ」などとネガティブな事ばかり指摘する人がいたら、どう思うか。指摘自体は間違いではないが、ネガティブな言葉しかなければアンチとみなされ、誰も聞く耳を持たないだろう▼日本人は褒めることが苦手だと言われているが、自分が良いと思ったものを共有しあうSNS世代には褒め合う文化が浸透している。そうした若い世代からアンチだと思われないためには、褒める技術を磨くことも重要だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年11月18日付
 全印工連の産業戦略デザイン室は今期、2050年の印刷業界の予測と将来ビジョンの策定を活動の柱の一つに据えている。足下のDX戦略を推進しながらの、30年後に向けた長期構想だ。それは、起こり得る変化への対応だけでなく、自分たちが創りたい未来を考え、社会に仕掛けていく挑戦でもある▼全印工連が2000年代の初めから取り組んできた「業態変革」は、環境変化に応じてビジネスモデルを変えることを目指した。現在の(デジタル)トランスフォーメーションには、自ら変化を起こしていく能動的な意思がさらに必要とされる▼同委員会の瀬田委員長は、印刷業界がデジタル武装によって新たな事業と新たな価値を創出し、指数関数的に成長していくシナリオを思い描く▼また、江森副委員長は「印刷業界は30年前からあまり変わっていない。バリューチェーンの軸を大きくずらすか、曲げないことには変革は実現できない。想像の範囲を超えたところで2050年のわれわれのチャンスを思い切って考えるべきだ」と話す。あるべき未来からの逆照射をすべての印刷会社が意識したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年11月11日付
 「大企業は最大公約数、中小企業は最小公倍数」―そう話してくれたのは、同じ業種内だが何百倍も規模が違う大手に転職したある男性だ。大企業は汎用性やコスト抑制が重視され、とんがる者は「叱られるビジネスモデル」だとも言った▼今の給与はたしかに高い。だが、これと見込んだお客にはとことん突っ込んでいき、狭い領域ながら目立つ存在になれる機会もあった古巣を懐かしむ。「やり切った」という実感が違うらしい▼古くから知る年下のS君の振り出しは印刷会社。新人として同行営業に回る間、S君だけを行かせて上司はパチンコか車での居眠り。とんだ「同行」もあったものだ。半年で退社し、その後、大手自動車メーカーに15年。意を決して今年、惚れ込んだベンチャー系の宿泊関連企業に転職、巡り合わせでなんと社長になった。年収はかなり減ったが、やりたいことを出来る満足感が伝わる▼働き甲斐と収入。天秤にかけるものではなく、両立できればそれが一番。優秀な人材はあまたいる。天秤ごと持ち上げる意欲もある。ただ、彼らを活かせる組織はあるか。見られていますぞ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年11月4日付
 五輪、総裁選、衆院選と駆け抜け、今のところ新型コロナも落ち着いている。「さあ、これから」と行きたいが、中小企業経営をボルダリングにたとえると、踏ん張る足掛かりが見つからず、掴もうと伸ばす手の先は迷うばかり。そんな状態か▼これからが正念場と言われる中、引き続きコロナ第6波への警戒は怠れない。新たなウイルス発生の可能性もある。実態なき株高はいつ下落してもおかしくない。中国発のバブル崩壊の波及もあり得る。むしろ、それらは皆起こるものと備えたい▼多くの企業に必要とされるのは、社会の変化から生まれ来る新しい需要への嗅覚と、そこに寄り添う力だ。同時に忘れてはならないのが、事業基盤の再点検。背伸びをしてうっかり足下が滑っては元も子もない▼ルネサスエレクトロニクスやコニカミノルタの工場火災、サンメッセの年金通知書印字ミスはなぜ起きたのか。錚々たる企業でも防げない事故だが、中小企業で起こればそれこそ命取りとなる。事故は、人やシステムがフル稼働している時には案外少ない。ふと緊張が解けた隙を狙って魔の手が伸びると思わされる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年10月28日付
 今月末に投票を控えた第49回衆議院議員選挙。新型コロナウイルスの国内感染状況は一旦落ち着いたとはいえ、第6波に備えた医療体制の整備や経済対策など問題は山積している。前回を上回る投票率が予想されるなど注目度も高く、コロナ後の日本の姿を占うターニングポイントとなることは間違いない▼今回の選挙ではコロナ禍でダメージを負った日本経済の立て直しが争点の一つとなっている。その代表格として飲食・旅行業界への経済支援策が各党から示されているが、同じくイベントの中止などで甚大な被害を受けた印刷業界にはスポットが当たっていないのが現状だ▼1999年に全日本印刷産業政治連盟が発足し、行政などへの要望活動を強化した結果、官公需取引における著作権の適切な取扱いなどで成果も生まれている。一方で、一般社会へのアピールについては未だ課題を残し、それがコロナ禍での印刷産業の窮状が世間に伝わらない要因となっている▼情報伝達産業でありながら情報発信を苦手とする印刷産業。ロビー活動で一定の成果を挙げた経験を一般社会への広報活動にも活かしてほしい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年10月21日付
 今号で紹介したマルワの鳥原社長は、SDGsについての講演で、「仕事が偏らないようにするのはSDGsの大事な要素」と語っている。働き方、やりがいにつながる話だ。ノー残業デイを設けたら、定時で帰るために社員がお互いに仕事を手伝ったという。それも培った社風だろう▼より具体的に、SDGsの切り口の一つとして「多能工化」を挙げる。同社では、印刷機のオペレータが企画立案をし、加工に携わる社員が動画を制作し、出力の担当者がBCP(事業継続計画)の見直しを行っていると紹介した。そういう社長自身が、講演をし、ブログを発信し、印刷工業組合の理事長を務める▼2021年、何といっても時の人は「オータニさん!」。投げて、打って、走っての三刀流全開。真似はできないが、普通の人でも少し意識を変えるだけで、眠っている二刀流、三刀流の力を出せるのではないか▼昔なら大リーグでの日本人の活躍に「黄色人種が…」という偏見もあったろう。今、そんなことを言えば袋叩きにあう。いや、むしろオータニさんは愛されている。彼もSDGs時代の象徴か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年10月7日付
 琥珀色のざわめきに白い泡の絶妙な取り合わせ。視覚的な刺激がビールをより美味しくする。ところが、サッポロビールは販促やイベントなどで使うプラスチック製コップを2年後に半減させ、2030年までに原則廃止するという。これも脱プラの時代の流れだ▼地球環境に配慮することは、これまでの贅沢や便利を我慢することでもある。紙製飲料からプラスチック部分を完全に無くせば、開封してすぐに飲むか、別の容器に移して保存する必要がある。そうしたところからも生活様式は変わっていく▼紙製コップのビールとなれば、容器表面に印刷する写真やデザインの重要度がさらに増すだろう。いかに消費者の味覚中枢を刺激できるか。印刷会社の腕の見せ所だ。また、シュリンクラベルを無くし、ペットボトルに直接印字する動きなども見逃せない▼脱プラに関しては、プラモデルその他のプラ製玩具にまで見直しが及び、それに比例するように紙製や木製の玩具への注目が高まっている。生活様式だけでなく、長期的に人間の五感や脳の仕組みにも変化が起こるのではないか。興味は尽きない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年9月30日付
 コロナ感染者の全国的な減少傾向に伴い、19都道府県に発令されていた緊急事態宣言を全面解除する方針であることが発表された(9月27日時点)。第6波を防ぐためにも引き続きの感染対策は必須ではあるが、経済活動の本格的な再開が期待される▼10月までは印刷業界でも関連イベントの中止が相次いだが、11月からは仙台市で行われるSOPTECとうほくをはじめ、延期された日本印刷産業連合会の「9月印刷の月」記念式典などがリアル開催で予定されている。報道によれば治療薬の開発も進んでおり、コロナ禍の収束がわずかながら見通せるようになってきた▼今後、社会がコロナ以前の状態に戻ろうとする動きが強くなることが予想される。だが、テレワークやテレビ会議システムなど、コロナ禍で導入が進んだ新たなビジネスワークについては効果測定を行ったうえで良いものは残していくことが大切だ▼コロナによって起こった社会の大幅な変化は、従来の悪しき商習慣を改めるきっかけにもなった。それらを財産としてしっかりと残すことで、コロナ後の新しい社会をより良いものにしていきたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年9月16日付
 目標や戦う相手がはっきり見えている時は、対策を立てられ、底力も出る。だが、企業は今、混沌とした状況にある。印刷業界では、コロナ禍に加えて、「印刷」という事業の定義や概念そのものが揺らぎ、拡散したため、どこに向けて努力すればいいのか、多くの企業に不安と迷いが生じている▼心が揺れ動く状態で、いくら提案営業に励んでも、補助金の支給を受けても、業務提携を模索しても、価値を生むことはない。最優先の課題は、自社の存在理由の問い直しと針路の明確化、社内での共有であり、そこからすべては始まる▼印刷会社のライバルは同業ではないと言われてから久しい。池や湖にいては限りがある。リスクもあるが、海に出てこそ収穫は大きい▼事業再構築補助金で採択されたある製本会社は、SWOT分析で自社の立ち位置を明らかにしたうえ、遠隔地の親しい同業に客観的な厳しい指摘を受け、課題解決を一緒に考えた。海原を共に進む二隻の船。そんな関係もある。社長は、自社の弱点でさえ、「まだ活用できていない長所として最大限に活かし、新しい顧客を創造したい」と前を向く。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年9月9日付
 アイブリッジ社が実施したDXに関する国内アンケート調査(20〜60代、会社員1000人対象)によると、「勤め先がDX化に取り組んでいる」と答えたのは2割。業種別で「出版・印刷業」はゼロだった。「DXを理解している」の回答も2割強なので曖昧だが、業種の性格を反映していないか▼取り組んでいる業種のトップには農林水産業と情報通信業が並ぶ。一次産業の高齢化、就労人口減少、低収益に対する危機意識は強く、DX抜きに改革は語れない。光量・温湿度センサーと連動し無人管理するスマートビニールハウス、ドローン撮影画像をAI分析する植栽苗木の生育状況確認システムなど、開発は急だ▼デジタルシフト、コロナ禍、高齢化、最低賃金上昇、資材高騰…中小印刷会社の危機感が薄いわけではない。だが、なまじ製作工程のデジタル化に接してきているだけに、自力頼みに陥りがちで、取組みが硬直化する罠もある▼同じ調査で、テレワークの導入比率は出版・印刷業が2番目に高い。改革の土壌はある。一次産業に倣い、異業種を含む産学官連携の力をもっとDXに活かすべきだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年8月26日付
 コンビニやスーパーなどでセルフレジを見かける機会が増えてきた。店員に会計してもらうよりも手間はかかるが、コロナ禍で非接触意識が高まっていることもあり、私のように進んで利用している人も多いと思う。企業としても人件費を抑えられるメリットは大きく、今後も拡大していくことが予想される▼売上の減少に苦しむ多くの企業にとっ て、業務の効率化は最重要課題。だが、自社内だけの取組みには限界がある。顧客や協力企業を巻き込みながら最適化を進 める時期にきている▼あるスーパーでは利用する際に百円玉を投入するコインロック式のショッピングカートを採用することで、放置カートの回収作業をなくした。当然ながら百円を用意する手間が利用客に生まれるが、効率化によるメリットが商品価格に転嫁されるのであれば、多少の手間を嫌がる人は少ないはずだ▼大事なことは相手にお願いするのではなく、効率的な行動を自然に取ってもらえるスキームを考えること。ただ漫然と協力を要請するだけでは上手くいかないことは、政府の新型コロナウイルス対策の現状を見れば明らかだろう。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年8月19日付
 ドイツ、トルコ、中国、そして日本の大水害は、明らかに気候変動で一本につながっている。国連IPCCは、地球温暖化の原因を初めて"人為"であると報告書で断定した▼DNAの遺伝子情報をRNAに転写し、翻訳してアミノ酸からタンパク質を合成する生命の中心原理は、バクテリアのような単細胞も、ミミズもハエも植物も、ヒトも、すべての生物に共通する。つまり、種の起源は同じ。進化論と聞けば、下等から高等に向けて進んでいると錯覚するが、実態は進化ではなく「多様化」だ。生物の多様化と共生こそ地球の生態系を支えてきた▼いつしかヒト属は、自分たちが進化のピラミッドの頂点に立つ存在だと思い込み、驕り高ぶった。大災害は自然の報復であり、コロナ禍も同じ根っこを持つと考えられる▼奇跡的な複雑さで成り立つ生命の不思議には驚愕させられる。宇宙空間から地球を眺めた者が皆、人類への愛を口にするように、生命というミクロの宇宙を知ることの効果は絶大だ。有人宇宙旅行に思いを馳せるのもいいが、誰もが必ず一つ持つ身体にまず目を向け、謙虚に学んでみてはいかがか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年8月5日付
 「ウルトラセブン」の4Kリマスター版がNHKで放送されている。53年前の作品だ。高度に科学技術が発達した社会のはずなのに、市民がコード付きの固定電話でウルトラ警備隊に助けを求めるのが妙におかしい。円谷プロも現代のスマホの普及にまでは想像が及ばなかった▼半世紀後に令和のホームドラマの再放送を観た人が、「なんだ紙なんか使ってるよ」と一笑に付すことは当然あり得る。寂しくはあるが、紙が無くてもほとんど困っていない我が子を見れば、孫の世代はなおさらだ▼今年も8月15日が近づく。SDGsの目標は数多いが、究極は「戦争だけはしてはいけない」だと強く思う。記憶を風化させないために、デジタル世代に最も訴えかけられる手段は何か。紙の冊子を学校で一斉配付するといった昔ながらのやり方では空振りに終わるだろう▼オンライン写真館でも資料館でもいい、戦争の悲惨さや正しい歴史を伝えるサイトを閲覧、もしくは感想を投稿したら特典があるような商品キャンペーンぐらい大企業は本気で考えてもいいんじゃないか。Webの良さを活かす世の中はこれから始まる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年7月29日付
 さまざまな困難を乗り越えて開幕した東京オリンピック。開催前にはその是非が問われたが、連日繰り広げられる熱い戦いから生まれる感動と興奮は、コロナ禍で影を落とす世界を間違いなく元気づけている▼日本代表のメダルラッシュに伴って見る機会も多い今大会の表彰台は、再生プラスチックを原料に3Dプリンターで製作されている。アスリートと同じく科学技術も進化しており、もはや表彰台が“印刷”される時代になった▼前号で紹介した「大喜利印刷店(展)」のクロストークイベントの中で博報堂の小野直紀氏は、印刷の定義をデータをアウトプットすることまで拡げれば「印刷=モノづくり」になると指摘した。データの管理・加工を生業とする印刷業界だけに、3Dプリンターなどの新たなデバイスを上手に活用することができれば、ビジネス領域はさらに広がる▼トヨタ自動車の豊田社長は、自社を自動車会社から「人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニー」と定義することで変革を促した。トップの柔軟な発想とリーダーシップがあれば、印刷会社の可能性は無限大だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年7月15日付
 日本WPAが6月17日に行ったオンラインセミナーでは、脱炭素社会をテーマにNHKエンタープライズの堅達京子プロデューサーが講演した。もはや地球は気候非常事態にあり、このままでは灼熱地獄へのドミノ倒しが始まってしまうという恐ろしい内容だった▼2019年に北極圏シベリアで気温38度を記録した話を聴いたすぐ後、6月29日にカナダで国内観測史上最高の49.6度を記録、7月2日には熱海市で豪雨による大規模土石流が発生した▼堅達氏は「早ければ2030年にも地球の平均気温が産業革命前比で1.5℃上昇する可能性がある。この臨界点をひとたび超えてしまうと、太陽光を反射している氷がさらに溶けて、黒い表面が反対に吸収作用を起こし、どれほど努力しても温暖化の連鎖で4.0℃上昇まで行ってしまう。この10年間が正念場だ」と警告する。また、「CO2を減らした人が得をする社会の仕組みが大事」だとも▼1.5℃の地球防衛ラインを死守できなければ、人の生命も経済も重大な危機に直面する。ゼロカーボンに向けた産業システムの抜本的改革に、残された時間は少ない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年7月1日付
 IGAS2022が来年11月下旬に開催される。従来の9月や7月開催に比べると、見学するには快適な時季であり、それまでにはコロナの終息も期待できる。新規投資を検討するには恰好の機会となる▼投資家目線でIGASを訪れるためにも、まずは自社の事業の方向性をしっかり定めたい。今後のトレンドを考えるうえで、経済産業省から公表された事業再構築補助金の採択案件が参考になる。計5回の公募が行われるとして、印刷・加工関連だけで数百件にのぼる。全体の傾向と「今後の狙い目」が見えてくる。あえて他社が行かない道を選ぶのも手だ▼さらに、他産業についても丹念に見ていくことで、各分野で何が解決課題となっているのか、ヒントをつかめるだろう。あらゆる産業を顧客に持つ印刷業界だからこそ、顧客の困り事の把握には先回りが必要だ▼ようやく展示会が通常開催に向かい出す。展示会は、生きたビジネスの未分化状態であり、濃厚なスープ。その中から何を掬い取るか。自社のビジネスモデル仕様のカスタマイズをメーカーに要求できるほどの勉強と準備をしておきたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年6月24日付
 大きな夢や目標のない幼少期を過ごした私だが、中学生の時に将来就きたい職業として何となく新聞記者と答えた。結果として大人になって夢を叶えたことになる。そのために特別な努力をしたわけではないが、中学生時代の思いがその後の人生に影響を与えたのかもしれない▼東京都江東区にある篠原紙工の篠原社長は、セミナーなどでたびたび自身の夢について、子供たちの「将来なりたい職業ランキング」で製本業がランクインすることを挙げている。製本という仕事に対するプライドや熱い思いを抱いている人物だと端的に感じさせる夢だ▼人の夢を企業に当てはめれば、経営理念や経営ビジョンなどで表される。その会社が何を目指し、仕事を通じて何を達成したいのか、経営者のビジョンがその会社の夢になる。そして、それを社員と共有することができれば、目標の達成に近づく▼コロナ禍で先行きが不透明な現在、社内の雰囲気も暗くなりがちだ。だが、明るい未来の見えない会社では社員が活き活きと働くことは難しい。苦しい時期にこそ、経営者は夢を語ることで社内に明かりを灯してほしい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年6月17日付
 プロ野球のセ・パ交流戦が最終盤。セ・リーグが12年ぶりに勝ち越す可能性がある(15日昼現在)。今年は延長戦がなく、先発投手を引っ張らなくていいからだという見方もあるが、パへの対抗心に加えて、臆しない新人の活躍。やはり気力、迫力は大切だ▼かつて高校野球で、明らかに実力で相手に劣るチームの監督が、試合前日に「明日、勝てると思う者は?」と問い、手を挙げた選手だけをベンチ入りさせた実話がある。また、ある甲子園の優勝チームは、決勝戦での守備で全員が「自分のところに球が飛んで来い」と思っていたというエピソードも。そう思えたら勝たない方がおかしい▼先日、業界の会合で「小さなところからでも、自ら変化を起こしていく。私たち中小企業こそ変化創造型企業≠目指そう」という幹部の挨拶を聴いた。厳しい環境に委縮するのではなく、いかに気張って前に踏み出すか。その一歩の差はとてつもなく大きい▼昔、長嶋茂雄が新監督で巨人の最下位が決まった時、「こうなったら、もう一所懸命やるしかない」と言ったとか。翌年、巨人は復活優勝を遂げた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年6月3日付
 近頃、不愉快なことの一つ。毎週日曜放映のNHK杯将棋トーナメントで、手が指されるたびに対局者の勝利確率が画面に表示されるようになった。興趣をそがれ、思考は停止する。AIの判定に罪はない。こんな愚策を導入した人間の責任だが、果たして、タブレットを支給された小中学生たちの学習で似たような障害が起こらないか▼勝負事も学習も、妙味はグレーゾーンや偶発性にある。もやもやとした視界が一気に開ける快感。それなくして意欲も湧かない。AIが最善手、最適解を導けると信じる発想は人間否定に通じる▼経営にも最善手というものはない。誰も未来は予測できないのだから。懸命に考えた結果が悪手になり、善手を続けても好転しないことが多々ある。それならば、「もやもや」を楽しむぐらいでいる方が、前に進む力を与えてくれる▼相撲の番付に譬えれば、13勝、14勝できる変革リーダーに皆がなれるわけではない。まして環境激変の時代、8勝7敗でも勝ち越せる会社は優秀だ。おそらく社長は、最善手を自分が指せるとは思っていないが、勝ち方、負け方のコツは知っている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年5月27日付
 これまで政財界に止まっていた感のあるSDGsだが、最近になってテレビ等でも特集される機会が増えてきた。教育現場でもSDGsを取り上げた授業が増えつつあり、国内での認知が拡がっている▼環境問題や社会貢献活動などをビジネスと切り離して考える人も多いが、SDGsが掲げる持続可能な開発目標は一過性のものではなく、2030年以降も目標の達成や維持に向けて継続していくものだ。働き方改革と同様に、ビジネスを構成する一要素として捉える必要がある▼第2回ジャパンSDGsアワードで「パートナーシップ賞(特別賞)」を受賞した大川印刷(横浜市)の大川哲郎社長は、SDGsを社員に説明する際、「本業を通じて正しく稼がせていただく」と定義した。印刷ジネスを活かして社会課題を解決していくことが、SDGsの達成にもつながる▼人命のかかったコロナ対策でさえ経済活動との天秤で苦しんでいる現状を考えれば、SDGsの推進も簡単ではない。だが、地球環境が着実に悪化している現実から目を背けていては、後世にコロナ禍以上の混乱をもたらしかねない。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年5月20日付
 五輪開催の是非を巡ってなんとも嫌な空気が漂う。主催者はあくまでも国際オリンピック委員会(IOC)であり、日本はホスト国。招致に名乗りを上げ、成し遂げる能力をアピールして選ばれたからには、責務を全うしなければならない▼IOCが世界各国の意向を汲んで中止を決めるのは仕方ない。だが、コロナを楯にとり、さも中止が当たり前のごとく国民が意見を振りかざすことに無軌道さを感じる。ましてや、選手自身に出場辞退を迫るような暴挙は許されない▼匿名性の時代の色はますます濃く、他者への攻撃性が増している。同時に、「国民がみんな反対しているのに…」、「私の周囲もみんなそう言っている…」といった、見えない味方を恃む発言が幅を利かす。一人称を消すことは、事実の歪曲であり、責任回避行動の表れだ▼「誰一人取り残さない」のがSDGsの基本理念。少数派が意見を述べにくい社会は、とても持続可能とは言えない。感染に恐怖する人がいるならば、最高のアスリートたちの勇姿に触れコロナでの鬱屈を吹き飛ばしたいと切望する人が、世界中に、全世代にわたって必ずいる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年5月6日付
 緊急事態宣言は、対象の都府県だけに影響はとどまらない。多くの行動が制約を受け、イベント・販促に関わる印刷物にとっては殊更厳しい。連休に向けてせっかく用意されながら、使われず仕舞いとなった製品もある。先を見通せず、告知案内の類も控えられがちだ。情報をしっかり定着させる印刷の特性が裏目に出る▼困窮する取引先を救う上で、印刷物にできる事はいろいろある。店の予約応援チケット、短時間で買物ができるタイムセール案内、心を届けるギフト企画…。とりわけ地域密着型の中小印刷会社にとって、アイデアを絞るなら今を措いて外にない▼加えて、ITを使った告知や店舗誘導、ネット通販や出張販売による売上支援、人の派遣、代替イベント企画など、ある種"捨て身"の作戦であらゆる応援を続けることが、後々、顧客との新しい関係づくりや自社の業態変革となって顕れる▼泥臭さこそ扉を開く近道。そこに、人の心も硬直しがちな今だからこそ少しのユーモア。自社は地域で意外に知られていないという自覚の下に、改めて存在を知ってもらうための時間として利用したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月22日付
 4月1日から全国放映されている凸版印刷のCMでは、出演する大泉洋さんが開口一番「トッパンのこと印刷の会社だと思っていません?」と切り出す。単なる印刷会社ではないことを訴える内容だが、世間から印刷会社だと思われていることに対する危惧をストレートに感じた▼事業領域の拡大を志向する経営者が増えるなか、全国の中小印刷会社においても社名から「印刷」を外す会社が相次いでいる。ステレオタイプな印刷業のイメージから脱却するための手段として、端的な効果が見込めるからだろう▼経済産業省は今月15日から「事業再構築補助金」の第1回公募の申請受付を開始した。新分野開拓、事業転換を国が後押ししている以上、印刷会社の事業が今後より一層多角化していくことは間違いない▼鹿児島市にあるプロゴワスはBPOサービスへの参入などを機に、創業95年目にして社名を和田印刷から大きく変更したことで、従来顧客からも新規案件の相談が多く寄せられたという。「名は体を表す」というが、各社の現在の「体」を適切に伝える「名」を冠する重要性が高まっているように感じる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月8日付
 4月1日から70歳までの就業機会の確保が努力義務となり、「同一労働同一賃金」の中小企業への適用も始まった。経営者の気苦労は多いが、それを前向きの力に変えるには、老若男女、すべての従業員に活き活きと働いてもらう以外にない▼パソナグループは、コロナ禍で自宅待機や休業を余儀なくされた他企業の若手社員約2千人を出向の形で受け入れる。雇用維持とキャリアアップを支援し、自社にはBPO事業等でのメリットを期待する。日本全体で「人材連携」の流れが加速していく▼15日から申請受付が始まる事業再構築補助金にしても、設備より先に、誰が、何をすることで社会の課題に応えるのかを考えたい。第1回公募は締切の4月30日まで時間がない。公募は複数回にわたるはずなので、まず人材の観点から一度じっくり検討してみてはどうか▼家庭の金融資産残高が過去最高となる一方、日本の貧困率は世界的に見ても高く、教育格差、キャリア格差の広がりが心配だ。常に思うのだが、原発、リニア、軍事、宇宙の前に、若者の将来設計と新産業創出にもっと肩入れできないものか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月1日付
 コロナ禍により2020年は新・コミュニケーション元年となった。緊急事態宣言が解除されて人出が増え、大学でも慎重ながら対面授業が始まり出す。ワクチン接種の広がりとともに、ビジネスの面でも徐々に氷が解けていくだろう。コミュニケーションの揺り戻しが起こる▼だが、提案や商談、セミナーの類が完全に元に戻ることはない。オンラインの活用は常識化しつつある。移動時間を省き、集客を増やす効果がある一方、微妙なニュアンスは伝わりにくい。各社各様の試行錯誤が続く▼近頃感じることの一つは、メールマガジンの増加とレベルアップ。具体性を帯びたものが増え、思わず読んでしまう内容が多い。動画の活用も増えた。製品の出来上がる過程や社内・社員の様子が伝わると親近感が湧く。ダイレクトメールはサンプル品やお役立ちグッズなどの同封が目立つ▼いずれにせよ、自社の取組みやサービスの価値を、目に見える形ではっきり伝えることがポイントになる。印象を焼き付け、関係性に紐付けをし、顧客の選択肢に自社を残してもらう。人的交渉の前哨戦の比重が増している。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月18日付
 先日、初めてフリーマーケットサイトを利用した時のこと。出品した私物が1分足らずで売れてしまったことに驚きつつ、発送する商品を自分が過剰梱包していることに気がついた▼消費者の一人として、必要以上の包装は資源のムダであり非効率だと思っていたが、販売する立場を経験したことでクレームを恐れる企業側の心情を肌感覚で理解した出来事だった。立場を変えれば、今までとは異なる視点を得ることができる。顧客目線でビジネスを考えるには、セミナーなどで得る知識だけでは限界がある▼以前、展示会に出展していた印刷会社の担当者が「展示会に出ると、お客さんの気持ちが分かるようになる」とメリットを話していた。販促支援を手がける企業ならば、自ら販促支援を受ける立場を経験することが顧客目線に立つ第一歩ではないか▼このほど結果が発表された第35回全日本DM大賞では、広告主として印刷会社4社が入賞した。広告宣伝を生業としながら、自社のPRを課題と認識する印刷会社は少なくない。自社で培ったノウハウを、もっと印刷会社自身が活用していくべきだと感じる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月11日付
 東日本大震災から10年。この間、日本の何が変わっただろう。与党に反原発を唱える政治家は一部だけ。誘致のために使われた「復興五輪」のフレーズも虚しい。故郷に戻れない人々に対し、孤独担当大臣は何を思うのか▼石巻日日新聞社は、震災の翌日から避難所に手書きの壁新聞を貼り出し、市民に必要な生活情報を提供した。インフラが破壊され、情報が極端に閉ざされる中で、心を支える灯ともなった。ネット隆盛の時代になっても、あの時の壁新聞にメディアの原点を見る▼先日のJAGATカンファレンスでフュージョンの花井秀勝会長は、地域と連携した出版物の可能性を指摘した。たとえば、スポーツ少年団の試合、市民サークルの発表会などの情報を記事やアルバムとして丁寧に扱うことで、地域活性と地元企業の宣伝につなげられる▼花井氏は、特に地方市町村では印刷会社が地域活性化のコンサルティングへの移行期にあると見て、「新しい価値観と文化創造としての印刷ビジネス」を提唱する。デジタルは手段。人は人とのつながりの中でこそ生きられるという本質を決して見失うまい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月4日付
 2月は、業界でも老舗の部類に入る印刷会社の廃業の噂をいくつも聞いた。コロナ禍の収束が見通せないなか、傷が浅いうちに整理を考える経営者が増えるのは致し方ない。消極的な意味合いであっても、ひとつの業界再編のあり方に違いない。撤退するにも非常な勇気がいる▼それにしても、業界に多くの黄色信号が点滅し始めている。ほとんどの会社が、2020年に自社のキャッシュフローを真剣に見直した。加えて2021年は、取引先に細心の注意を払い、与信管理を徹底しておく必要がある▼かたや主要取引先の業種によっては、設備と人員をフル稼働しても受注を捌ききれない会社がある。だが、いつまた環境が激変するか、誰にもわからない。今の好調は一時と覚悟し、来たる変化に備えるべきだ▼印刷業界に限らず、五輪関連のインバウンド需要等を見込み、ここぞ、と投資して裏目に出た会社は数知れない。先の見えない時代こそ、あえて中長期に利益を生むビジネスモデルを考えてみてはどうか。流行は人を置き去りにする。追いかければ逃げるが、価値を生む処には必ず立ち寄ってくれる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月25日付
 初のオンライン開催となったpage2021。その基調講演では、テレワークの普及に伴うコミュニケーションロスがコロナ禍の課題として挙がった。顧客との接点が減少しているのに加え、社員同士の意思疎通が疎かになることで仕事上のミスにつながるリスクが指摘された▼リアルの会話では言葉のイントネーションや表情から伝わる情報も多く、メールなどでは細かなニュアンスを読み取ることが難しい。日本印刷技術協会の調査でも、ビデオ会議システムなどを導入している企業ほどテレワークの満足度が高い傾向にあることが明らかとなっている▼また、ヨコ文字のビジネス用語も社員同士の意思疎通にズレを生じさせる要因となっていないか。たとえば「ソリューション」という言葉も、日本語に訳せばさまざまな意味を持つ。SDGsやCSR、DXなども非常に広義な意味を含むだけに、その解釈は人によってバラバラになりがちだ▼ある印刷会社では、そうした言葉の意味について解説した小冊子を制作し、朝礼などで発表している。意思疎通を高めるには、こうした工夫も必要になる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月18日付
 新型コロナ用のワクチン接種がようやく始まり出す。全国民を対象とした壮大なプロジェクトの混乱が最小限に収まることを願う▼印刷事業者も、そこに加わろうと盛んに関係機関や同業者に働きかけている。コロナワクチン接種の予診票に医療機関コードを事前に印字し、請求用の入力ミス回避や接種会場スタッフの作業負荷軽減を提案する会社。ワクチン接種に伴い自治体で必要となる通知書、接種券、予診票などの印刷・発送業務にあたり、国の要求事項に準拠した製品を社内一貫生産で安心安全に提供できる強みを訴える会社など、さまざまだ▼コロナの影響で多くの印刷需要が消失したが、一方で、人の生活がある限り、必要とされる新しい需要も生まれる。"7割経済"の流れに逆らうのなら、従来の7の仕事が残るうちに、少なくとも新たな3の仕事を掴み取りに行く強い意識を持たなければならない▼経済産業省は3月にも、中小企業の思い切った事業再構築を支援する補助金事業の公募を開始する。通常枠で最大6000万円の補助額が設定されている大規模なものだ。挑戦してみる価値はある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月4日付
 同人誌印刷を手がける中小印刷会社を舞台に女性社員の奮闘を描いた漫画『刷ったもんだ!』が現在、週刊モーニングで連載されている。作者の染谷みのる氏は印刷会社で働いていたことがあり、作品内ではその経験を活かした印刷業界のあるあるネタ≠ェ随所に散りばめられている▼2018年に出版された印刷営業の仕事を描いた小説『本のエンドロール』(安藤祐介)など、出版業界の裏方である印刷現場をフィーチャーした作品が増えているのは、読書ファンの興味が作品のさらに奥まで達していることの裏返しだろう。こうした作品が増えることで、業界に対して一層の理解や親しみを感じるきっかけになってほしい▼ただし、業界の周知が進むことは、これまで知られていなかった問題が晒されるリスクもある。フードロスの削減が叫ばれる時勢にあって、金額返品率が4割に近い日本の出版システムはプリントロス≠ニ批されかねない▼新型コロナウイルスという外圧によって世界は一変した。消費者の目という外圧が加わることで従来の出版システムにもパラダイムシフトがもたらされるか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月28日付
 阿辻哲次氏(京都大学名誉教授)の著書『遊遊漢字学』の一節に「《土》という字は大地の神を祭るために作られた盛り土をかたどった象形文字であり、のちに《示》を加えて『社』(おやしろ)と書かれるようになった」とある▼「社員」とは社を奉じる人たちであり、社員の集う場が「会社」ということにもなろうか。会社はもともと神聖なもので、ことさらコンプライアンスなどと強調しなくとも、襟を正すべき存在だと考えれば、「会社は公器」という言葉も納得がいく▼西洋でも、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に代表される思想がある。しかし、利潤の追求が肯定される中で、いつしか神は忘れられ、儲けそのものが目的と化した▼ブラック企業は後を絶たず、コロナ不況による解雇や雇い止めも膨らむ。一方で、医療や介護、教育、保育といった人々の生活に不可欠な分野は、現場がさらに逼迫している。「社」から一度弾かれた人々を、もっと大きな「(公)社」で囲い込む柔軟な仕組みづくりが急がれる。まさに、人こそ「公器」である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月14日付
 大手印刷会社の社員向け年頭あいさつで、3社の社長が揃って同じ思いを述べている。「状況の変化に振り回されず、自分たちから変革を起こしていく…」(大日本印刷・北島社長)、「一人ひとりが、変化をチャンスに変える気概を持ち、自ら行動を起こさなければならない」(凸版印刷・麿社長)、「今こそ、勇気を持って自分から動こう」(共同印刷・藤森社長)▼想定できない事態が続発し、環境がめまぐるしく変化する時代に、正しい答など転がっていない。組織が個を管理し、個が指令を忠実に実行することで勝てたのは昔の話。脳という司令塔を介さずとも、細胞が有機的に分裂・再生を繰り返す人体のホメオスタシスを理想としたい▼もはや、「変化への対応」という言葉さえ古びた。詰まるところ、変化を先に選び取ってしまった方が楽に進める状況にある▼とはいえ、組織も人も、単体で変態を遂げるには弱い存在であり、有効な触媒を必要とする。企業であればM&Aや事業連携、異質な人材の登用、個人であれば異業種交流や外部への出向などが、さらに活発になっていくと思われる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月1日付
 さまざまな問題を抱えたままの年明けとなった2021年。新年の晴れやかな気持ちは少なく、例年に比べて落ち着いた年末を過ごした方が多いのではないか▼今年は丑年。牛は多くの国にとって牛肉が食文化に欠かせないなど身近な存在だが、環境面では牛の畜産により発生する温室効果ガスが問題視され始めている。それに伴い、飲食チェーンでは代用肉を使用したメニューも増えてきた。食卓から牛肉が消える…、そんな未来を簡単に否定できないのはコロナ禍を経験したからか▼従来の常識が大きく覆った昨年は、社会と経済に大きな混乱と変革をもたらした。デジタル化の流れが一層加速し、印刷業界には多くの逆風が吹いた。しかし、感染症対策関連商品の開発などにより新市場開拓の一歩を踏み出すなど、コロナ禍をチャンスに変えた印刷会社も少なからず存在した▼コロナ以前に停滞感を感じていた成熟産業ほど、社会がリセットされたことによる恩恵もあるはずだ。歴史のターニングポイントとなった2020年が各人、各社にとってどのような意味を成すのかは、これからの行動しだいだ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月17日付
 新キャンパス生活や海外留学に胸膨らませていた学生、旅行・航空・ホテル・テーマパーク業界などへの就職を夢見ていた学生。彼らにとって悪夢のような一年だったことだろう。過去は変えられない。だが、過去に対する思いや見方は時間や経験とともに変わる。今の喪失感を何とかプラスに転じる日々を送ってほしいと願う▼ウィズ・アフターコロナ、新常態という言葉が多用されるが、若いコロナ・トラウマ世代に、「世の中が変わったのだから」と様式を押し付けることがあってはならない。これまで育ってきた時間の重みを、大人の都合で捩じ曲げてはいけない。彼らにも言い分がある▼人の移動が制限された一方、働く場所や働き方については柔軟さがぐっと増してきた。オンラインによる情報発信量もさらに増え、勉強の材料には事欠かない。あとは、人と人との間で、どんな価値を生み出していくか。そこにこそ若者の役割がある▼もう、withコロナは強調しなくていい。新しい関係性の中で「withピープル」、「No分断」を追い求める新年であれ。効率一辺倒の社会の見直しと表裏一体である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月10日付
 ハンコ(印)レス、キャッシュ(札=刷〈さつ〉)レス…、どうも世の中は印刷を締め上げる方向に動いている。今どき、印刷会社は印刷物だけを作っているといった認識は薄れてきているはずだが、では、「企画からお願いします」と真っ先に印刷会社に相談に来る客がどれだけいるかと考えると、心許ない▼印刷需要が減り、ロットも小さくなっていくことは間違いない。だとすれば、上流から下流まで丸ごと仕事を請け負う以外に、印刷会社が利益を確保する道はない。しかし、すぐにデザインだ、発送だと、工程に沿って考えてしまう癖がこの業界に染み付いている▼「モノづくり」から「コトづくり」へ思考回路を切り替えるには、掛け声だけではダメだ。生産性やスキルを測るのに、OEE、時間当たり原価、技能検定などがあるのに、なぜ、コトを生む人間性についての指標はないのか▼業界統一では難しいだろうが、各社で工夫し、発想力診断、グループ討論評価、アイデア案件数、顧客とのアクセス頻度や密接度などで測ることはできる。もっとも、判定できる上司がいるかどうかは別問題だが。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月3日付
 完全なる循環型社会を志向する「サーキュラーエコノミー」は今後、日本でも極めて重要な概念になっていく。攻めの環境政策と同時に、利益につながるビジネスモデル。欧州の経済成長戦略の柱でもある。単にSDGsを達成するための仕組みではない▼「儲かるCSR」は成立するか─。いまだに議論は尽きないが、企業経営を危うくする活動はそもそもCSRとは言えず、利益(共益)を伴わなければ社会貢献は持続しない▼地方創生で、巨大資本の投下による成功例はない。小さな利益の循環こそ持続的な活力を生む。今年度の日本サービス大賞で、美容室IWASAKIを全国展開するハクブンが地方創生大臣賞を受賞した。業界で初めて1000円を切るカット料金を提供し、約950店舗の6割超が高齢化・過疎化の進む地方や離島地への出店。そこでサービスを維持し、働きやすさの追求で美容師の雇用と地元定着に貢献する▼つい、高付加価値で高額の商品・サービスを追求しがちだが、弱者に寄り添う息長いビジネスも大きな可能性を秘める。なぜなら、日本、そして世界中に弱者が広がっているからだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月26日付
 ギネスワールドレコーズに「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」と認定されるなど、日本を代表するプロ格闘ゲーマーである梅原大吾氏。2010年のプロ転向後、現在も最前線で活躍している▼その梅原氏は、数年前の講演会でモチベーションを維持するための心構えを次のように語っていた。「ゲームに限らず、同じことをしていれば飽きる。新鮮な気持ちがなければ前向きにならない。初心者にゲームを辞めた理由を聞くと『飽きた』というがそれは違う。ゲームではなく、成長しないことに飽きたのであり、問題は成長しない自分にある。成長を実感できていれば、ゲームであれ何であれ飽きることはない。人間が前向きに努力するためには成長があればいい」▼日本グラフィックサービス工業会は「ジャグラ認定DTPオペレーション技能テスト」をスタートさせる。DTPや工場のオペレータは外部と交流する機会が少なく、自身の成長を実感しづらい環境になりがちだ▼仕事における飽き≠ヘ離職につながる。外部テストなども活用し、成長を実感できる仕組みを社内に実装してはどうか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月12日付
 バイデン氏がオバマ政権で副大統領に就任したのは12年前。もし、前回の大統領選でヒラリー・クリントン勝利となっていたら、出番はなかった。本人も自分が史上最高齢の大統領になるとは考えていなかっただろう。奇しくもトランプ氏の登場により歴史が変わった。人生の不思議な巡り合わせである▼よくスポーツの世界では、「燃え尽きた偉才」、「奇跡のカムバック」といったドラマが好んで取り上げられる。それはそれで心を打つが、より称賛されるべきは、大きな不調に陥ることもなく、黙々とチームの勝利に貢献し続けた選手たちだ▼コロナ禍で印刷需要の落ち込みはすさまじい。給付金や借入等の手段が一巡し、これから経営は正念場に入る。だが、率直な印象を言えば、印刷業界はよく持ち堪えている。前例のない危機の中で、「これだけは手離せない」という自社の"拠り所"を再確認した会社も多いはずだ。一朝一夕につくれる価値ではない▼今から先は、見定めた価値を磨き直し、デジタルの装いも整えつつ、新しいステージに入る。そろそろスポットライトの当たる存在になっていい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月5日付
 加速する社会のデジタル化に対応しなければ印刷業は生き残れない。だが、ひと口に「デジタル化」と言っても、手段とするメディア、デバイス、アプリケーションも、その目的も、各社で大きく異なる▼DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉に馴染めない人は多いが、交通整理されていないデジタル化の現状を包括する概念として捉えてはどうか▼ある印刷会社の営業幹部は「お客様にデジタル化の提案を持っていくと、『社長から"DXをやれ!"と言われているが、何をやればいいのか?』と相談されて困る」と嘆いていた。単なるIT化やアナログからデジタルへの置き換えの域を出ず、双方に戸惑いがあるようだ▼全印工連 産業戦略デザイン室の江森副委員長は「デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを刷新し、仕事のやり方や生活のスタイルそのものを変革することがDX」とし、UberやUber Eatsを例に挙げる。人々がよりメリットを享受できる社会に変えることがDXであり、印刷業もステークホルダーに当てはめて考え、デジタル化を集約してみればいい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月29日付
 最近は何にでも「〇〇〇ハラスメント」といった新しい造語が作られるようになった。劇場映画が公開10日で興行収入100億円を突破するなど社会現象となっている鬼滅の刃にも早速「キメハラ」なる言葉が生まれている。曰く、流行ものを押し付けられることへの抵抗感を示しているそうだ▼セクハラやパワハラなどとは異なり、最近のハラスメントは相手側に悪意のないケースも多い。結婚や子供の有無を尋ねること、酒の席でアルコールを勧めることなども相手が不愉快に感じればハラスメントになり得る。部下とのコミュニケーションにおいても神経をすり減らしている人は多いのではないか▼SNSの登場により、言葉の持つ力が以前に比べて良くも悪くも高まった。広告宣伝を担う印刷業界にとっては、コピーライティングはこれまで以上にバランス感覚が求められる。自身に悪意はなくとも、受け手が不愉快に感じてしまえば広告の意味をなさなくなってしまう▼とはいえ、無難な文言を並べるだけでは人の心は動かない。デジタル時代だからこそ言葉力≠高めることが求められている。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月15日付
 尊敬する企業再建弁護士の村松謙一氏が、新型コロナに関連したコラムで数字を挙げていた。ある感染学者の報告では、今後の感染拡大でも日本での死者数は最大3800人、10万人あたり3人前後。対して、インフルエンザ関連死は毎年1万人ほど。しかし、経済活動は停滞し、多くの人が失職した▼年間の自殺者は2万人前後だが、今年は景気悪化と若者に広がる鬱で増える傾向にある。仮に2万人としても10万人あたり16人。これらから村松氏は「日本人は肉体的にはコロナに強いが、精神的にはストレスに極めて弱い」と指摘している▼国連児童基金(ユニセフ)は38ヵ国の子どもの幸福度調査結果を9月に発表した。「身体的健康」で日本は1位、「精神的な幸福度」は37位。学校でのいじめや自殺率、家庭内不和などが原因だ。子どもの虐待、育児放棄も増え続ける。社会を根底からリセットしない限り、この国の病は治らない。菅さん、どう考える▼自分の両親、そのまた両親と21代溯れば先祖は100万人を超える。綿々と紡がれてきた命の糸を断ち切ることのとてつもない罪にも思いを致したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月1日付
 drupaへの出展中止が相次いでいる。日本の常連企業だけでなく、地元ドイツのハイデルベルグまでも。新型コロナの影響で止むなしとはいえ、「ついに来てしまったか」という思いが拭えない。かつて世界の四大印刷機材展の一角であった英国のIPEXはデジタル化の波によって変容を迫られたが、このような形で"業界のオリンピック"の基盤が揺らぐとは想像すらできなかった▼設備投資の気運が萎み、メーカーは苦しんでいる。原因はコロナだけではない。国内では、人口減少に加え、明らかにデジタル化が加速し、紙媒体の需要が縮小している。現実は直視しなければならない▼「ものづくり」の大転換期にあって標榜されているのは、ソリューション(ステークホルダーの困り事の解決)と、課題に気付き、解決手段を提案・提供できる人材の育成だ。それがあって後に、手段の一つとして「もの」を産む設備が必要となる▼「ピンチはチャンス」という言葉は、世の中が変容、混乱するほど多くの課題が発生する様を意味する。悩む時間があるのなら、顧客と腹を割って話せということだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月24日付
 安全上の理由などから中止・延期が相次いでいた展示会イベントだが、9月に入り再開する動きが目 ってきた。東京ビッグサイトや幕張メッセでも大型展示会が開催され始めており、感染症への対策を図りながら、コロナ以前の日常が戻りつつある▼人との接触が憚られるなか、イベントやセミナー、営業活動、記者会見などはオンラインで開催されるようになり、参加する側としては利便性の面でもメリットは大きい。しかし、オンラインはあまりに“ムダ”が少ないように感じる。あいさつを兼ねた立ち話など、リアルに顔と顔を突き合わせるからこそのコミュニケーション、そこから生まれるビジネスもあるはずだ▼10月1日から東京もGoToトラベルの対象となるが、考えてみれば旅行は時間と費用をかけて遠方に出向くという意味ではムダが多い。それでも多くの人が旅行するのは、そのムダを含めたリアルな体験に価値を見出しているからだろう▼なくすべきムダは数多ある。しかし、なくすべきではないムダも少なくないのではないか。効率ばかりを追い求めては、人の心をつかむことはできない。(駒)