【過去の掲載】


コラム「点睛」 印刷新報・2021年4月1日付
 コロナ禍により2020年は新・コミュニケーション元年となった。緊急事態宣言が解除されて人出が増え、大学でも慎重ながら対面授業が始まり出す。ワクチン接種の広がりとともに、ビジネスの面でも徐々に氷が解けていくだろう。コミュニケーションの揺り戻しが起こる▼だが、提案や商談、セミナーの類が完全に元に戻ることはない。オンラインの活用は常識化しつつある。移動時間を省き、集客を増やす効果がある一方、微妙なニュアンスは伝わりにくい。各社各様の試行錯誤が続く▼近頃感じることの一つは、メールマガジンの増加とレベルアップ。具体性を帯びたものが増え、思わず読んでしまう内容が多い。動画の活用も増えた。製品の出来上がる過程や社内・社員の様子が伝わると親近感が湧く。ダイレクトメールはサンプル品やお役立ちグッズなどの同封が目立つ▼いずれにせよ、自社の取組みやサービスの価値を、目に見える形ではっきり伝えることがポイントになる。印象を焼き付け、関係性に紐付けをし、顧客の選択肢に自社を残してもらう。人的交渉の前哨戦の比重が増している。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月18日付
 先日、初めてフリーマーケットサイトを利用した時のこと。出品した私物が1分足らずで売れてしまったことに驚きつつ、発送する商品を自分が過剰梱包していることに気がついた▼消費者の一人として、必要以上の包装は資源のムダであり非効率だと思っていたが、販売する立場を経験したことでクレームを恐れる企業側の心情を肌感覚で理解した出来事だった。立場を変えれば、今までとは異なる視点を得ることができる。顧客目線でビジネスを考えるには、セミナーなどで得る知識だけでは限界がある▼以前、展示会に出展していた印刷会社の担当者が「展示会に出ると、お客さんの気持ちが分かるようになる」とメリットを話していた。販促支援を手がける企業ならば、自ら販促支援を受ける立場を経験することが顧客目線に立つ第一歩ではないか▼このほど結果が発表された第35回全日本DM大賞では、広告主として印刷会社4社が入賞した。広告宣伝を生業としながら、自社のPRを課題と認識する印刷会社は少なくない。自社で培ったノウハウを、もっと印刷会社自身が活用していくべきだと感じる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月11日付
 東日本大震災から10年。この間、日本の何が変わっただろう。与党に反原発を唱える政治家は一部だけ。誘致のために使われた「復興五輪」のフレーズも虚しい。故郷に戻れない人々に対し、孤独担当大臣は何を思うのか▼石巻日日新聞社は、震災の翌日から避難所に手書きの壁新聞を貼り出し、市民に必要な生活情報を提供した。インフラが破壊され、情報が極端に閉ざされる中で、心を支える灯ともなった。ネット隆盛の時代になっても、あの時の壁新聞にメディアの原点を見る▼先日のJAGATカンファレンスでフュージョンの花井秀勝会長は、地域と連携した出版物の可能性を指摘した。たとえば、スポーツ少年団の試合、市民サークルの発表会などの情報を記事やアルバムとして丁寧に扱うことで、地域活性と地元企業の宣伝につなげられる▼花井氏は、特に地方市町村では印刷会社が地域活性化のコンサルティングへの移行期にあると見て、「新しい価値観と文化創造としての印刷ビジネス」を提唱する。デジタルは手段。人は人とのつながりの中でこそ生きられるという本質を決して見失うまい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年3月4日付
 2月は、業界でも老舗の部類に入る印刷会社の廃業の噂をいくつも聞いた。コロナ禍の収束が見通せないなか、傷が浅いうちに整理を考える経営者が増えるのは致し方ない。消極的な意味合いであっても、ひとつの業界再編のあり方に違いない。撤退するにも非常な勇気がいる▼それにしても、業界に多くの黄色信号が点滅し始めている。ほとんどの会社が、2020年に自社のキャッシュフローを真剣に見直した。加えて2021年は、取引先に細心の注意を払い、与信管理を徹底しておく必要がある▼かたや主要取引先の業種によっては、設備と人員をフル稼働しても受注を捌ききれない会社がある。だが、いつまた環境が激変するか、誰にもわからない。今の好調は一時と覚悟し、来たる変化に備えるべきだ▼印刷業界に限らず、五輪関連のインバウンド需要等を見込み、ここぞ、と投資して裏目に出た会社は数知れない。先の見えない時代こそ、あえて中長期に利益を生むビジネスモデルを考えてみてはどうか。流行は人を置き去りにする。追いかければ逃げるが、価値を生む処には必ず立ち寄ってくれる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月25日付
 初のオンライン開催となったpage2021。その基調講演では、テレワークの普及に伴うコミュニケーションロスがコロナ禍の課題として挙がった。顧客との接点が減少しているのに加え、社員同士の意思疎通が疎かになることで仕事上のミスにつながるリスクが指摘された▼リアルの会話では言葉のイントネーションや表情から伝わる情報も多く、メールなどでは細かなニュアンスを読み取ることが難しい。日本印刷技術協会の調査でも、ビデオ会議システムなどを導入している企業ほどテレワークの満足度が高い傾向にあることが明らかとなっている▼また、ヨコ文字のビジネス用語も社員同士の意思疎通にズレを生じさせる要因となっていないか。たとえば「ソリューション」という言葉も、日本語に訳せばさまざまな意味を持つ。SDGsやCSR、DXなども非常に広義な意味を含むだけに、その解釈は人によってバラバラになりがちだ▼ある印刷会社では、そうした言葉の意味について解説した小冊子を制作し、朝礼などで発表している。意思疎通を高めるには、こうした工夫も必要になる。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月18日付
 新型コロナ用のワクチン接種がようやく始まり出す。全国民を対象とした壮大なプロジェクトの混乱が最小限に収まることを願う▼印刷事業者も、そこに加わろうと盛んに関係機関や同業者に働きかけている。コロナワクチン接種の予診票に医療機関コードを事前に印字し、請求用の入力ミス回避や接種会場スタッフの作業負荷軽減を提案する会社。ワクチン接種に伴い自治体で必要となる通知書、接種券、予診票などの印刷・発送業務にあたり、国の要求事項に準拠した製品を社内一貫生産で安心安全に提供できる強みを訴える会社など、さまざまだ▼コロナの影響で多くの印刷需要が消失したが、一方で、人の生活がある限り、必要とされる新しい需要も生まれる。"7割経済"の流れに逆らうのなら、従来の7の仕事が残るうちに、少なくとも新たな3の仕事を掴み取りに行く強い意識を持たなければならない▼経済産業省は3月にも、中小企業の思い切った事業再構築を支援する補助金事業の公募を開始する。通常枠で最大6000万円の補助額が設定されている大規模なものだ。挑戦してみる価値はある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年2月4日付
 同人誌印刷を手がける中小印刷会社を舞台に女性社員の奮闘を描いた漫画『刷ったもんだ!』が現在、週刊モーニングで連載されている。作者の染谷みのる氏は印刷会社で働いていたことがあり、作品内ではその経験を活かした印刷業界のあるあるネタ≠ェ随所に散りばめられている▼2018年に出版された印刷営業の仕事を描いた小説『本のエンドロール』(安藤祐介)など、出版業界の裏方である印刷現場をフィーチャーした作品が増えているのは、読書ファンの興味が作品のさらに奥まで達していることの裏返しだろう。こうした作品が増えることで、業界に対して一層の理解や親しみを感じるきっかけになってほしい▼ただし、業界の周知が進むことは、これまで知られていなかった問題が晒されるリスクもある。フードロスの削減が叫ばれる時勢にあって、金額返品率が4割に近い日本の出版システムはプリントロス≠ニ批されかねない▼新型コロナウイルスという外圧によって世界は一変した。消費者の目という外圧が加わることで従来の出版システムにもパラダイムシフトがもたらされるか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月28日付
 阿辻哲次氏(京都大学名誉教授)の著書『遊遊漢字学』の一節に「《土》という字は大地の神を祭るために作られた盛り土をかたどった象形文字であり、のちに《示》を加えて『社』(おやしろ)と書かれるようになった」とある▼「社員」とは社を奉じる人たちであり、社員の集う場が「会社」ということにもなろうか。会社はもともと神聖なもので、ことさらコンプライアンスなどと強調しなくとも、襟を正すべき存在だと考えれば、「会社は公器」という言葉も納得がいく▼西洋でも、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に代表される思想がある。しかし、利潤の追求が肯定される中で、いつしか神は忘れられ、儲けそのものが目的と化した▼ブラック企業は後を絶たず、コロナ不況による解雇や雇い止めも膨らむ。一方で、医療や介護、教育、保育といった人々の生活に不可欠な分野は、現場がさらに逼迫している。「社」から一度弾かれた人々を、もっと大きな「(公)社」で囲い込む柔軟な仕組みづくりが急がれる。まさに、人こそ「公器」である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月14日付
 大手印刷会社の社員向け年頭あいさつで、3社の社長が揃って同じ思いを述べている。「状況の変化に振り回されず、自分たちから変革を起こしていく…」(大日本印刷・北島社長)、「一人ひとりが、変化をチャンスに変える気概を持ち、自ら行動を起こさなければならない」(凸版印刷・麿社長)、「今こそ、勇気を持って自分から動こう」(共同印刷・藤森社長)▼想定できない事態が続発し、環境がめまぐるしく変化する時代に、正しい答など転がっていない。組織が個を管理し、個が指令を忠実に実行することで勝てたのは昔の話。脳という司令塔を介さずとも、細胞が有機的に分裂・再生を繰り返す人体のホメオスタシスを理想としたい▼もはや、「変化への対応」という言葉さえ古びた。詰まるところ、変化を先に選び取ってしまった方が楽に進める状況にある▼とはいえ、組織も人も、単体で変態を遂げるには弱い存在であり、有効な触媒を必要とする。企業であればM&Aや事業連携、異質な人材の登用、個人であれば異業種交流や外部への出向などが、さらに活発になっていくと思われる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2021年1月1日付
 さまざまな問題を抱えたままの年明けとなった2021年。新年の晴れやかな気持ちは少なく、例年に比べて落ち着いた年末を過ごした方が多いのではないか▼今年は丑年。牛は多くの国にとって牛肉が食文化に欠かせないなど身近な存在だが、環境面では牛の畜産により発生する温室効果ガスが問題視され始めている。それに伴い、飲食チェーンでは代用肉を使用したメニューも増えてきた。食卓から牛肉が消える…、そんな未来を簡単に否定できないのはコロナ禍を経験したからか▼従来の常識が大きく覆った昨年は、社会と経済に大きな混乱と変革をもたらした。デジタル化の流れが一層加速し、印刷業界には多くの逆風が吹いた。しかし、感染症対策関連商品の開発などにより新市場開拓の一歩を踏み出すなど、コロナ禍をチャンスに変えた印刷会社も少なからず存在した▼コロナ以前に停滞感を感じていた成熟産業ほど、社会がリセットされたことによる恩恵もあるはずだ。歴史のターニングポイントとなった2020年が各人、各社にとってどのような意味を成すのかは、これからの行動しだいだ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月17日付
 新キャンパス生活や海外留学に胸膨らませていた学生、旅行・航空・ホテル・テーマパーク業界などへの就職を夢見ていた学生。彼らにとって悪夢のような一年だったことだろう。過去は変えられない。だが、過去に対する思いや見方は時間や経験とともに変わる。今の喪失感を何とかプラスに転じる日々を送ってほしいと願う▼ウィズ・アフターコロナ、新常態という言葉が多用されるが、若いコロナ・トラウマ世代に、「世の中が変わったのだから」と様式を押し付けることがあってはならない。これまで育ってきた時間の重みを、大人の都合で捩じ曲げてはいけない。彼らにも言い分がある▼人の移動が制限された一方、働く場所や働き方については柔軟さがぐっと増してきた。オンラインによる情報発信量もさらに増え、勉強の材料には事欠かない。あとは、人と人との間で、どんな価値を生み出していくか。そこにこそ若者の役割がある▼もう、withコロナは強調しなくていい。新しい関係性の中で「withピープル」、「No分断」を追い求める新年であれ。効率一辺倒の社会の見直しと表裏一体である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月10日付
 ハンコ(印)レス、キャッシュ(札=刷〈さつ〉)レス…、どうも世の中は印刷を締め上げる方向に動いている。今どき、印刷会社は印刷物だけを作っているといった認識は薄れてきているはずだが、では、「企画からお願いします」と真っ先に印刷会社に相談に来る客がどれだけいるかと考えると、心許ない▼印刷需要が減り、ロットも小さくなっていくことは間違いない。だとすれば、上流から下流まで丸ごと仕事を請け負う以外に、印刷会社が利益を確保する道はない。しかし、すぐにデザインだ、発送だと、工程に沿って考えてしまう癖がこの業界に染み付いている▼「モノづくり」から「コトづくり」へ思考回路を切り替えるには、掛け声だけではダメだ。生産性やスキルを測るのに、OEE、時間当たり原価、技能検定などがあるのに、なぜ、コトを生む人間性についての指標はないのか▼業界統一では難しいだろうが、各社で工夫し、発想力診断、グループ討論評価、アイデア案件数、顧客とのアクセス頻度や密接度などで測ることはできる。もっとも、判定できる上司がいるかどうかは別問題だが。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年12月3日付
 完全なる循環型社会を志向する「サーキュラーエコノミー」は今後、日本でも極めて重要な概念になっていく。攻めの環境政策と同時に、利益につながるビジネスモデル。欧州の経済成長戦略の柱でもある。単にSDGsを達成するための仕組みではない▼「儲かるCSR」は成立するか─。いまだに議論は尽きないが、企業経営を危うくする活動はそもそもCSRとは言えず、利益(共益)を伴わなければ社会貢献は持続しない▼地方創生で、巨大資本の投下による成功例はない。小さな利益の循環こそ持続的な活力を生む。今年度の日本サービス大賞で、美容室IWASAKIを全国展開するハクブンが地方創生大臣賞を受賞した。業界で初めて1000円を切るカット料金を提供し、約950店舗の6割超が高齢化・過疎化の進む地方や離島地への出店。そこでサービスを維持し、働きやすさの追求で美容師の雇用と地元定着に貢献する▼つい、高付加価値で高額の商品・サービスを追求しがちだが、弱者に寄り添う息長いビジネスも大きな可能性を秘める。なぜなら、日本、そして世界中に弱者が広がっているからだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月26日付
 ギネスワールドレコーズに「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」と認定されるなど、日本を代表するプロ格闘ゲーマーである梅原大吾氏。2010年のプロ転向後、現在も最前線で活躍している▼その梅原氏は、数年前の講演会でモチベーションを維持するための心構えを次のように語っていた。「ゲームに限らず、同じことをしていれば飽きる。新鮮な気持ちがなければ前向きにならない。初心者にゲームを辞めた理由を聞くと『飽きた』というがそれは違う。ゲームではなく、成長しないことに飽きたのであり、問題は成長しない自分にある。成長を実感できていれば、ゲームであれ何であれ飽きることはない。人間が前向きに努力するためには成長があればいい」▼日本グラフィックサービス工業会は「ジャグラ認定DTPオペレーション技能テスト」をスタートさせる。DTPや工場のオペレータは外部と交流する機会が少なく、自身の成長を実感しづらい環境になりがちだ▼仕事における飽き≠ヘ離職につながる。外部テストなども活用し、成長を実感できる仕組みを社内に実装してはどうか。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月12日付
 バイデン氏がオバマ政権で副大統領に就任したのは12年前。もし、前回の大統領選でヒラリー・クリントン勝利となっていたら、出番はなかった。本人も自分が史上最高齢の大統領になるとは考えていなかっただろう。奇しくもトランプ氏の登場により歴史が変わった。人生の不思議な巡り合わせである▼よくスポーツの世界では、「燃え尽きた偉才」、「奇跡のカムバック」といったドラマが好んで取り上げられる。それはそれで心を打つが、より称賛されるべきは、大きな不調に陥ることもなく、黙々とチームの勝利に貢献し続けた選手たちだ▼コロナ禍で印刷需要の落ち込みはすさまじい。給付金や借入等の手段が一巡し、これから経営は正念場に入る。だが、率直な印象を言えば、印刷業界はよく持ち堪えている。前例のない危機の中で、「これだけは手離せない」という自社の"拠り所"を再確認した会社も多いはずだ。一朝一夕につくれる価値ではない▼今から先は、見定めた価値を磨き直し、デジタルの装いも整えつつ、新しいステージに入る。そろそろスポットライトの当たる存在になっていい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年11月5日付
 加速する社会のデジタル化に対応しなければ印刷業は生き残れない。だが、ひと口に「デジタル化」と言っても、手段とするメディア、デバイス、アプリケーションも、その目的も、各社で大きく異なる▼DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉に馴染めない人は多いが、交通整理されていないデジタル化の現状を包括する概念として捉えてはどうか▼ある印刷会社の営業幹部は「お客様にデジタル化の提案を持っていくと、『社長から"DXをやれ!"と言われているが、何をやればいいのか?』と相談されて困る」と嘆いていた。単なるIT化やアナログからデジタルへの置き換えの域を出ず、双方に戸惑いがあるようだ▼全印工連 産業戦略デザイン室の江森副委員長は「デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを刷新し、仕事のやり方や生活のスタイルそのものを変革することがDX」とし、UberやUber Eatsを例に挙げる。人々がよりメリットを享受できる社会に変えることがDXであり、印刷業もステークホルダーに当てはめて考え、デジタル化を集約してみればいい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月29日付
 最近は何にでも「〇〇〇ハラスメント」といった新しい造語が作られるようになった。劇場映画が公開10日で興行収入100億円を突破するなど社会現象となっている鬼滅の刃にも早速「キメハラ」なる言葉が生まれている。曰く、流行ものを押し付けられることへの抵抗感を示しているそうだ▼セクハラやパワハラなどとは異なり、最近のハラスメントは相手側に悪意のないケースも多い。結婚や子供の有無を尋ねること、酒の席でアルコールを勧めることなども相手が不愉快に感じればハラスメントになり得る。部下とのコミュニケーションにおいても神経をすり減らしている人は多いのではないか▼SNSの登場により、言葉の持つ力が以前に比べて良くも悪くも高まった。広告宣伝を担う印刷業界にとっては、コピーライティングはこれまで以上にバランス感覚が求められる。自身に悪意はなくとも、受け手が不愉快に感じてしまえば広告の意味をなさなくなってしまう▼とはいえ、無難な文言を並べるだけでは人の心は動かない。デジタル時代だからこそ言葉力≠高めることが求められている。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月15日付
 尊敬する企業再建弁護士の村松謙一氏が、新型コロナに関連したコラムで数字を挙げていた。ある感染学者の報告では、今後の感染拡大でも日本での死者数は最大3800人、10万人あたり3人前後。対して、インフルエンザ関連死は毎年1万人ほど。しかし、経済活動は停滞し、多くの人が失職した▼年間の自殺者は2万人前後だが、今年は景気悪化と若者に広がる鬱で増える傾向にある。仮に2万人としても10万人あたり16人。これらから村松氏は「日本人は肉体的にはコロナに強いが、精神的にはストレスに極めて弱い」と指摘している▼国連児童基金(ユニセフ)は38ヵ国の子どもの幸福度調査結果を9月に発表した。「身体的健康」で日本は1位、「精神的な幸福度」は37位。学校でのいじめや自殺率、家庭内不和などが原因だ。子どもの虐待、育児放棄も増え続ける。社会を根底からリセットしない限り、この国の病は治らない。菅さん、どう考える▼自分の両親、そのまた両親と21代溯れば先祖は100万人を超える。綿々と紡がれてきた命の糸を断ち切ることのとてつもない罪にも思いを致したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年10月1日付
 drupaへの出展中止が相次いでいる。日本の常連企業だけでなく、地元ドイツのハイデルベルグまでも。新型コロナの影響で止むなしとはいえ、「ついに来てしまったか」という思いが拭えない。かつて世界の四大印刷機材展の一角であった英国のIPEXはデジタル化の波によって変容を迫られたが、このような形で"業界のオリンピック"の基盤が揺らぐとは想像すらできなかった▼設備投資の気運が萎み、メーカーは苦しんでいる。原因はコロナだけではない。国内では、人口減少に加え、明らかにデジタル化が加速し、紙媒体の需要が縮小している。現実は直視しなければならない▼「ものづくり」の大転換期にあって標榜されているのは、ソリューション(ステークホルダーの困り事の解決)と、課題に気付き、解決手段を提案・提供できる人材の育成だ。それがあって後に、手段の一つとして「もの」を産む設備が必要となる▼「ピンチはチャンス」という言葉は、世の中が変容、混乱するほど多くの課題が発生する様を意味する。悩む時間があるのなら、顧客と腹を割って話せということだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月24日付
 安全上の理由などから中止・延期が相次いでいた展示会イベントだが、9月に入り再開する動きが目 ってきた。東京ビッグサイトや幕張メッセでも大型展示会が開催され始めており、感染症への対策を図りながら、コロナ以前の日常が戻りつつある▼人との接触が憚られるなか、イベントやセミナー、営業活動、記者会見などはオンラインで開催されるようになり、参加する側としては利便性の面でもメリットは大きい。しかし、オンラインはあまりに“ムダ”が少ないように感じる。あいさつを兼ねた立ち話など、リアルに顔と顔を突き合わせるからこそのコミュニケーション、そこから生まれるビジネスもあるはずだ▼10月1日から東京もGoToトラベルの対象となるが、考えてみれば旅行は時間と費用をかけて遠方に出向くという意味ではムダが多い。それでも多くの人が旅行するのは、そのムダを含めたリアルな体験に価値を見出しているからだろう▼なくすべきムダは数多ある。しかし、なくすべきではないムダも少なくないのではないか。効率ばかりを追い求めては、人の心をつかむことはできない。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月10日付
 小学校5年生で英会語に"ハマった"。一番勉強になったのがNHKラジオの講座「基礎英語」。「続・基礎英語」、「英語会話」と進み、毎日夢中になって聴いた。東後勝明先生の名調子に憧れ、会話の背後にあるアメリカ文化の匂いに酔った▼大学受験の季節に聴いたのは、旺文社提供のラジオ講座、通称「ラ講」。もう38年も前の話だ。苦手な数学だったが、土師政雄先生の優しさに触れ、藤原正彦先生の叱咤激励に打ち震えた。学校の授業よりよほど楽しかった。今もこんなに懐しいのは、講師の個性と人間性の賜物だ▼市販のテキストと講師の声だけが頼みの一方通行だったが、毎回の放送が待ち遠しく、力が付くのがわかった。思えばあれも立派なリモート学習だった▼今、デジタル技術によって、はるかに高度な遠隔授業が可能になっている。テーマへの興味と講師の魅力が大事なことに変わりはないが、便利な機能がたくさんあるゆえに、一言も聴き漏らすまいという緊張感や自分なりの尺度で講師と向き合う力が失われるのなら残念だ。もっとも、最大の問題は、受講者本人の瑞々しい感性か(自省を込め)。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年9月3日付
 「知り合いの学校の先生は、夏休みにはウーバーイーツに精を出して、日に1万円以上稼いでいたよ」「だけど、マックで飲み物一つだけ買おうとした友人は、延々と待たされて怒っていた。ウーバーの予約でいっぱいで、出来てくるものがみんなそっちへ回されるとか」「それじゃ実店舗の意味がないね。本末転倒だ」▼「近頃はコーヒー一杯で注文する客もいるというから驚く。究極の出前感覚だ」「たぶん、そこに引け目とか感謝の念はないんだろうな」。インターネットとスマホで働き方、買い物、物流がどんどん変わる▼JR東日本は、東北・石巻で水揚げされたばかりの魚を新幹線の空席を利用して東京に運ぶサービスを始めた。そのうち、車両を丸ごと生簀にして、乗客に移動水族館を見せることになるかもしれない。東京から地方への移住が話題になる中、まだまだ首都圏の消費を当て込んだ地方活性化にも可能性がある▼印刷物も、鮮度の高い小ロットの製品を効率よく早く客先に届けるために、業者間連携による分散印刷や共同輸送、AI活用などを促進すべきだろう。物流革命から目が離せない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年8月27日付
 今年の夏も厳しい暑さが続いている。17日には浜松市で国内最高気温に並ぶ41.1度を記録した。35度を超える猛暑日が当たり前になり、健康リスクが以前にも増して懸念される。都内では8月の熱中症による死亡者数が過去最多となり、同期間での新型コロナウイルスによる死亡者数を大きく上回った▼どうしても感染症対策にばかり目がいきがちだが、熱中症に限らず、日常にはさまざまな危険が潜んでいる。安全に対する意識が高まっている今だからこそ、身の回りのリスクについて再度確認してみてはどうか▼特にここ数年は自然災害による被害が目立つ。昨年の大型台風により多くの印刷工場が浸水するなどの被害を被ったことは記憶に新しいが、今年もすでに九州地方などで豪雨被害が発生している。こらから本番を迎える台風シーズンを前に、先手先手の意識でリスクに備えたい▼新型コロナウイルスへの不安や在宅勤務などによる生活の変化により、メンタル面に不調を抱える人も増えているそうだ。何かと不安なニュースが多いだけに、従業員のメンタルケアにも留意してもらいたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年8月13日付
 出版不況の中にあって、『鬼滅の刃』の快進撃が止まらない。コミックだけでなく、映像や音楽への展開も華々しい。文響社の『うんこ漢字ドリル』シリーズはいまだ売れ続け、累計400万部を突破。高橋書店の『ざんねんないきもの事典』シリーズも380万部を超えた▼ネット媒体云々、活字離れ云々と外部環境のせいにする前に、編集者は真剣に、そして柔らかいアタマで、魅力的なコンテンツを生み出す努力をするべきだろう。人々はいつでも面白く、刺激的なコンテンツを求めている▼今の将棋界も、高校生の藤井聡太棋聖の大活躍で、ルールをよく知らない人まで熱い関心を寄せるようになっている。昔は、オジサンがやる地味な趣味という見方をされていた。羽生善治元七冠の登場から空気が変わり始め、AIとの比較も話題を呼んでブレイクスルーが起きた▼印刷業界はどうか。これほどコンテンツに密接に関わる仕事がこのまま下降するわけがない。変わるポイントは受注体質からの脱却だ。顧客業界を活性化するアイデアを、いかにしつこく、常に考えられるか。思考転換の訓練から始めたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年8月6日付
 相撲や野球などで、いわゆるタニマチ筋の人物と飲食し、コロナ禍にあって騒ぎとなることが多い。たいがい力士や選手が批判を浴びるのだが、スポンサーに誘いを受ければやはり断りづらいもの。いい迷惑と言える。タニマチ廃止論が起こり、応援はクラウドファンディングになっていくのは時間の問題か▼スポーツの試合に観客動員が始まり出した。人数限定の試みのなか、多感で未来のある子どもたち、不自由を強いられている学生たちを優先的に入れてあげてほしい。すでに経験のある大人たちは後回しでもいいだろう▼ランニング時にもマスクといった空気に嫌気がさし、しばらく走るのを止めていたが、五輪開会式があるはずだったスポーツの日に再開した。いつもの道。お年寄りに「こんにちは」、知的障害をもつ方に「がんばれ」と声をかけられ、返事をする。その気持ちよさ。長い梅雨の鬱陶しさも吹き飛んだ▼世論調査で東京五輪の中止を望む声が開催を上回ったが、選手たちの悲痛な心中を考えれば、簡単に中止を口にはできない。開催の是非はともかく、人を追い詰めることのないように望む。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年7月23日付
 ビジネス書として50万部を超えるベストセラーとなっている『ファクトフルネス(FACT FULNESS)』について、既にご存じの方も多いと思う。同書は世間で通説のように語られている事柄に対し、客観的なデータを基にしながら世界の実態を説き明かしている▼その中に「ネガティブ本能」という一章がある。貧困、食糧難、紛争など、さまざまな課題において世界的には改善傾向にある。それにもかかわらず、調査では「世界はどんどん悪くなっている」と考える人が多数を占めているのだ▼実際よりもネガティブに捉える人が多い要因として、同書では受け手側の問題点に加え、ポジティブなニュースよりも悪いニュースの方が広まりやすいことを挙げている。昨今のニュースを見ていても、確かに悪い情報ばかりが目に付く▼インターネットの登場により、私たちが受け取る情報量は爆発的に増えた。便利になった反面、情報の取捨選択も難しくなっている。目に付く情報に流されることなく、自身の尺度を持って善し悪しを判断する重要性を認識するとともに、報道に携わる人間として自らを戒めておきたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年7月16日付
 日本経済新聞の調べでは、10万円の特別定額給付金の支給に合わせ、東京23区と道府県庁所在地の4割強にあたる31市区が商品券、食事券などのプレミアム券を発行する(6月下旬時点)。今後の消費スタイルは、離れた場所に出掛けてというより、地域内での循環に向かいそうだ▼一方、ネット通販が今後さらに拡大していくことも間違いない。人々は店舗で買い物をする習慣を次第に失いつつある。販売側も、地域の商圏だけでは成り立たず、ネット通販で売り場を広げていくことになる▼印刷業界でも、新型コロナを機にネット通販に参入する会社がさらに増えた。地場産業(地産地消)の性格が薄れ、全国を商圏に見立てた生産集約化の方向に進んでいる。分散印刷(適地生産)の可能性もあるが、品質保証と利益確保の観点から、印刷通販会社の多くは自社工場生産、あるいは限定された会社との業務提携を選択している▼企業や個人の印刷発注がネット通販に流れ、デジタルメディアへのシフトも加速する中、地場の印刷会社が活路を見出すには、ニッチ市場を探る眼をより鋭くするしかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年7月2日付
 ひと頃、連日のようにトップ級の扱いで報道されていたAI(人工知能)だが、新型コロナの騒ぎに隠れてやや印象が薄くなっている。事態の拡大を予見できなかった、株価への影響で判断を誤った等々、コロナへのAIの対処に限界が感じられた向きもあるか▼AIは過去の膨大なデータベースがあってこそ威力を発揮する。前例のない事象においては弱点を露呈することがある。今後の働き方改革の中でAIが仕事に活用されていくことは間違いないが、万能の幻想を抱くことは危険だ▼思えばこの数ヵ月、どこまで我慢する、移動する、つながる、補償する、出社するといった判断の一つひとつが、極めて人間的な要素に満ちていた。すべてを科学的なデータに基づいて決め、主観を許すなと発言する専門家もいたが、感染拡大だけ防げればいいわけではない。自粛と経済・文化、命と心の健康、あっちを立てればこっちが立たず、最後は人間の決断に委ねられる▼リモートでの仕事や学び、遊びにしても、総合的な人間力や判断力を養うには、あまりに偶発性や良い意味の猥雑性が足りない気がしている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年6月25日付
 来月行われる東京都知事選挙の投票所入場券が自宅に届いた。その封筒を見ると、ベジタブルインキと再生紙の使用を示す環境ラベルが印刷されていた。普段あまり意識していないが、注意深く見ると食料品や生活雑貨のパッケージにも環境ラベルが目につく。飲料ラベルでは水性フレキソ印刷の採用が増えつつあり、さまざまな場面で環境への対応が進んでいる▼7月1日からは全国で一斉にレジ袋の有料化もスタートする。事業者と消費者の双方が対応を迫られているが、10年以上前からレジ袋有料化を導入しているスーパーを利用してきた筆者の経験から言えば、不便なことはなにもない。エコバッグや折り畳みの袋などを持ち歩く習慣をつける。ただそれだけのことだ▼新型コロナウイルスへの対応も同様に、ソーシャルディスタンスやこまめな手洗い、消毒などの代表的な感染防止対策は、少し意識を変えれば誰にでもできる。そして、継続すればそれが新たな習慣となる▼さまざまな場面でこれまでとは異なる対応が求められる現在、従来の常識にとらわれないことがアフターコロナの社会には不可欠だ。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年6月11日付
 アメリカの一部の映画会社が新作のデジタル配信に踏み切った。映画館は猛反発だが、こうして世の中の慣例や文化、経済は変わっていくのだと実感させられる。今までの当たり前が次々に当たり前でなくなる。社会、生活、人の心の揺さぶりは10年単位で続くだろう▼業態にもよるが、テレワークの日常化は確実に進む。オフィス所有の見直しが進み、不動産業界も激変。自宅に不自由ない作業環境が整った働き手の中から、離職、独立を考える者が出てくるのも自然な流れだ▼高校生のネット署名活動をきっかけに9月入学が検討され、芸能人のツイッター発言で重要法案が見直されるなど、世を変える力学も大きく変わってきた。高校野球という聖域にメスが入るのも時間の問題。年1回、晩秋にドーム球場で開催、各県複数校の出場枠。そう変更されても何ら不思議はない。いつかは新たな伝統となる▼第一生命が小学生などに行った「大人になったら最初に買いたいもの」アンケートでは、意外や男女とも「車」が1位だった。だが、彼らが購入できる頃、車は空中を自動運転で飛んでいるかもしれない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年6月4日付
 東京・高田馬場にある居酒屋のクラウドファンディングが話題になっている。コロナ禍を機に店の存続支援を呼びかけたところ、6月2日現在でなんと2449人から1856万円を集めた。常連に提案されて手探りで始めたらしいが、日頃から客に愛されていたが故だろう。このスピードと温かさ、政府や自治体にはない▼近頃の支援資金の流れは、飲食店やホテル・旅館の利用代金の先払い、スポーツクラブへのファンの寄付、スタートアップ支援の個人投資家向けファンド設立など、明らかに個人、民間が出処となる動きが顕著だ▼印刷業界でも、新製品の開発・販売にあたりクラウドファンディングで資金を募り、実現する例が増えてきた。財力の乏しい中小こそ検討してはいかがか▼東京グラフィックスの会報誌4月号に原田副会長が、「買ってくれ」から「売ってくれ」に変わる時─と題して寄稿した。マスクの売れる様からの連想であり、コロナ後の新しい価値観の中で市場に「売ってくれ」と言わせる製品づくりに備えたいと希望を抱く。人々に愛される会社、望まれる製品がすべての出発点となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年5月28日付
 SNSでの誹謗中傷を苦にした女子プロレスラーの方が亡くなる痛ましい事件が起きた。言葉の暴力は相手を簡単に、そして深く傷つける。しかし、これはSNSに限ったことではない。ビジネスの現場においても、過剰な叱責が過労死を引き起こしてきた▼謙遜の文化が染みついている日本人は褒めることが苦手だ。自らが一歩下がって相手を立てることがよしとされてきた。それ自体は悪いことではないが、自らや近しい人を立てること、つまり褒めることに抵抗感を持つ人が多いように感じる▼ビジネスにおいても、部下には厳しく指導することが是とされてきた。当然ながら、厳しい言葉の裏には成長を願う親心がある。しかし、それが相手に伝わっているのか。信頼関係が築けていない状態で厳しい言葉だけを並べては、相手を傷つける暴力になりかねない▼近年では、褒め方の研修が企業でも広まりつつある。中には軟弱だと感じる人もいるかもしれないが、アフターコロナで迎える新しい社会には不安も大きい。そんな未曽有の時代だからこそ、前向きな言葉で接することを心がけてほしい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年5月21日付
 コロナの感染拡大防止は目下の最優先課題だが、そこにエネルギーが使われるあまり、解決を急ぐべき他の社会課題や本来救われるはずの人たちが置き去りにされる懸念がある。ヒト・モノ・カネの停滞は仕方ないとしても、時間は停滞させてはならない。課題の在り処も常に発信し続けることだ▼近頃、学生時代に読んだ本をおさらいの意味で繰ることが多い。日本消費者連盟編著の『合成洗剤はもういらない』(1980年第1刷)もその一冊。巻末の同連盟発行のパンフレット案内には、『プラスチックの総点検』、『原子力発電は安全か』など、今日につながるテーマがずらりと並ぶ▼この間、バブル崩壊、リーマンショック、大震災・大水害など、喫緊の解決課題を突きつけられるたびに、それらテーマへの取組みは先送りされ、あるいは、炙り出されてきた▼『合成洗剤…』を読んだ若き日から、食器に残った油類や調味料は不用ティッシュで拭い、水道には流さない習慣が身についた。たとえ小さな情報でも、人の意識や行動に及ぼす影響は小さくない。それこそ印刷業界の課題に寄り添える力だといえる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年5月14日付
 花に罪はないものを。自粛警察も許しがたいが、人が集まるという理由で何百万株という季節の花を処分した人間の身勝手さ。休業を半ば強要された店舗の姿にも重なる。一方通行の施策では困難に立ち向かう力は得られない。倒産・廃業、失業、自殺、犯罪…不穏な空気が拡がる▼外出自粛が行き過ぎれば、新たな病気のリスクが高まる。清潔も行き過ぎれば、すぐに別の感染症にやられてしまう。そもそも、「新たな生活様式」とは何事か。国が決めることではないだろう▼マスクを売る八百屋さえある中、いまだにアベノマスクは自宅に届かない。500億円近い経費を医療現場や介護・保育施設の支援に投下していたら状況は大きく変わっていた。国民へのポーズは要らない▼東日本大震災発生の翌日に福島第一原発を視察に訪れた首相もいた。この国のトップは、優先順位のなんたるかをどこまでも理解できない。宮城県の読者から、コロナ危機による地元経済への打撃は「大震災を上回る」と聞いた。行政の混乱を見るにつけ、自分の身は自分で守るしかないと思わされるが、すべては時間との闘いだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月30日付
 数年前、経済産業省が実施する「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出された企業を取材する機会があった。パッケージ製造などを手がけるその会社は、パワフルな女性社長のもと多くの女性社員が働いており、いかにして女性や高齢者などの多様な人材を登用しているのか、興味深く話を聞いた▼しかし、実際に語られたのは多能工化によるスキルアップや時間制限による会議の効率化、経営陣と社員の徹底した意思統一の方法などで、女性よりも男性社員の事例が多かった。その時にハッとさせられた▼ダイバーシティ経営が掲げる「多様な人材の活躍」とは、各企業の屋台骨を支える男性社員も含めた全社員の活躍が目標のはず。にもかかわらず、女性や高齢者に関するものだという先入観にとらわれていたことに気が付かされた▼現在、多くの企業が従来とは異なる働き方に着手しているが、テレワークなどについてもさまざまな先入観が各人に存在していると思う。自身の持つ先入観にとらわれないよう、他の企業の取組みなどの情報を得ながら自社にとって最善な働き方を模索してもらいたい。(駒)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月23日付
 こんな非常時に占いの話なんて、と受け取られるかもしれないが、ある星占いの本を、時に生き方の指針としている。同書によると、2020年は「地」の星座から「風」の星座に移る大きな転機の年だ▼星占いでは木星と土星の会合を大切な時代の節目と捉える。2つの星は、およそ900年かけて火・地・風・水の4つのエレメントを巡る。1842年から2020年が物質世界を象徴する「地」の時代。市場経済が支配的な力を持ち、人々は経済的な成功を目指した▼次の「風」の時代(2020年〜2219年)は、知性とコミュニケーション、自由と移動、理想と関係性を意味するという。言い換えれば、手で触りにくいものをあつかう世界だ。手元にある3年前の本を参考にしているが、まさに2020年は、目に見えないコロナウイルスに人類が対峙し、人々の関係性が大きく変わる年となった▼一国だけでは乗り切れない危機を知ったコロナ後の世界は、人類が知性を介してつながり、今の分断を乗り越えて自由と移動を獲得する時代となるか。物質を離れた新しい価値観の拡がりが予感される。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月9日付
 「SNSに写真や動画の投稿とか書き込みをする人たちは、けっこうアクティブなのよ」とママ。それらに興味がなく、ネット上に居場所がない筆者のような人間は近頃"ひきこもり"と呼ばれるそうだ。キツイ。いつの間にか非主流派に追いやられた我が身。都知事から酒場への出入りを封じる発言もあり、リアルにも居場所を失いつつある▼こんなに入社式が中止されたのは戦後初だろう。在宅研修に切り替えた企業も多い。入社風景、研修内容とスタイル、同期の絆…。「あたりまえ」が様変わりし、新人に異なる感覚や考え方が植わる。会社も同じだ。今年度の新卒採用ではリモート面接もある。確実に来期以降の業務形態に影響してくる▼時間に余裕ができた分、読書量が急に増えた。永年、本棚に眠っていた地元の郷土史を読んで驚嘆。「こんなにも面白かったのか」。来歴・由来を知れば愛が湧く。地域活性化を志す印刷会社には、強く郷土史を薦めたい▼授業開始の延期、再度の一斉休校。せっかくの改訂教科書たちも泣いていよう。でも若者よ、今は自分なりの勉強の仕方をものにするチャンスだよ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年4月2日付
 同じ「自粛」でも、こうも違うものか。東日本大震災の時は、絆の大切さが意識されたが、新型コロナウイルスでは接触しないことが前提。当社の近所の子ども食堂も3月から休みとなった。寂しさと同時に、ますます困窮する人が増えることが痛ましい。小中学校の一斉休校中、対象となった家庭の約3割が、家に子ども一人の状態だという。犯罪の増加も心配だ▼世界でも、これほどまでの入出国制限の広がりは史上類を見ない。人の分断が常態化しかねない懸念がある。感染拡大防止に全力を尽くすことはもちろん、非常事態の渦中にあっても、分断・疎外されてしまった人たちへのケアは最優先されるべきだ▼内定を取り消された学生、入学後の催しが消滅した新入生、五輪内定選手、小規模事業者、契約社員…。中止された春の選抜高校野球は、なんとか夏の代表校との春・夏合同大会にならないか。出来ない理由を挙げればキリがない。前例なき手段こそ、常に歴史上の困難を突破してきた▼それにしても、その夏までにコロナ禍が収まる保証はない。来年に延期された東京五輪にも同じことが言える。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年3月19日付
 この時期になると、日本人はつい桜と入社式の光景を思い浮かべるが、もはや通年での採用活動は当り前だ。ビジネスの加速、追い付かない教育と即戦力要求、深刻化する人手不足、転職志向の高まり、外国人労働者の増加、市民権を得た副業、等々で、かつての時代背景は遥か遠ざかった▼特に中小企業の経営者は、人材の確保と、入社後いかに長く働いてもらうかに心を砕く。ある社長は、子供の教育資金の用途に限り、現在の勤務年数で支払われる額を上限に退職金を前払いする制度を考案した。最も金の掛かる子育て期に充ててもらう仕組みだ。会社が払う総額は変わらない▼別の社長は、新入社員の実家にまで自ら挨拶に行き、会社の説明を行う。地元自治体による、出産・子育てで離職中の女性が就労体験できる「ママインターン」の制度も受け入れ、実施している▼印刷現場にも様々な工夫がある。印刷機に装備したスピーカーからジョブ切替え時にオペレータの好きな曲が流れる会社、お気に入りのアイドルや選手の写真が貼られた機械を愛称で呼ぶ会社…。大きな目線、小さな目線を巡らせたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年3月12日付
 プロ野球セ・リーグへのDH制の導入が再び議論され始めた。巨人軍の原監督も昨年、試行実施の必要について言及した。毎年の交流戦の戦績や日本シリーズでの7年連続のパ・リーグ優勝を見れば、「実力のパ」は否定しようがなく、その一因がDH制にあるとされる▼端的に言えば、パ・リーグでは一人分の打者をレギュラーとして育てられ、投手は相手打線に対して一人も気を抜くことが出来ず、厳しく鍛えられるというわけだ。だが、パ・リーグの強さはそれだけが理由ではないだろう▼ドラフト制度が機能している現在、入団時点で両リーグの新人に才能の差はないはず。しかし、人気球団の多いセに負けてなるものかと、パの選手は発奮し、意地を見せる。実力者が多ければ、押しのけてレギュラーとなるには努力を怠れない。つまり、入団してからの環境が人を育てるのではないか▼犠打など小細工が多いセに比べ、ソフトバンクの柳田選手に代表されるように、パの打者のフルスイングも大きな魅力であり、相手にとっては脅威。中小企業こそパに学び、大企業に対する負けん気で人を育てたいものだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年3月5日付
 全印工連が新型コロナウイルス対策として、当面3月末までのセミナー、会合などの中止または延期の方針を決めた。委員会がそのつど個別に判断を下すより、全体方針を明確にする方が次の行動に移りやすく、感染拡大防止効果も高い▼それにしても、3月10日に横浜で開催されるはずだった「全印工連CSRサミット」の中止は残念だ。組合員以外の企業・団体・市民・学生にも開放し、広くCSRを考察する貴重な機会。改めての開催を期待したい▼登壇予定者の一人であった横浜市立大学の影山摩子弥教授は、SDGsとCSRの関係を、「CSRは自ら考えて行動するものであるのに対し、SDGsは社会的課題(17のゴール)がすでに示されている。SDGsはCSRの中から国連が、世界が取り組むべき重要課題を切り出したものと考えると理解しやすい」と語る▼CSRは、ステークホルダーの要望に応える取組みとは何か、根本から企業に問いかける。想定外の出来事に翻弄されるなか、社会、地域、従業員、取引先をあまねく見渡しながら、答なき答を手探りで見つける作業の連続となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月27日付
 「眼がかゆくはない?」。休日の朝、家人がふと発した言葉に対して、もう花粉は飛んでる、暖冬で桜の開花は早そう、南極で20度以上を記録するぐらいだ、地球環境云々…(シマッタ、マタ、ヤッテシマッタ)▼当然、何の返事もなく、しらけた空気だけが残った。「そうだね、俺も数日前から変だよ。鼻の方はどうだい。マスクが不足してるようだけど、あるかい?」。これぐらいのことをなぜ言えなかったか▼黒川伊保子さんの『妻のトリセツ』、『夫のトリセツ』があれだけ評判になること自体が、問題の根深さを表している。男女脳の違いを理解しただけでは、とても解決しそうにない。そんな時、日印産連のセミナーで小さなヒントがあった▼講師のパク・スックチャ氏は、相手を素直に受け容れるために出来ることとして、「人の判断や評価をする時は、ゆっくり考える」を挙げていた。講演のテーマはダイバーシティだったのだが、「ゆっくり考える」、すなわち、「ゆっくり話す(言葉に変換する)」習慣を持つ(ように努める)だけでも、男女の関係を少しは変えられそうな気がしている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月20日付
 この1週間で人々の心象が一変した。新型コロナウィルスへの対応である。先週の本紙で五輪の開催が展示会を変則的にしていることに触れたが、間の抜けた話になってしまった。今や、ウィルス感染を怖れ、不特定多数の人が集まるイベントのすべてが中止の検討を余儀なくされ始めた▼3月1日に迫った東京マラソンも一般参加ができなくなった。同じランニング愛好家の立場で、高い倍率を潜り抜け、ここを目標に頑張ってきた人たちの無念さ、楽しみを奪われた失意の大きさは痛いほどわかる。しかし、見えない敵には為す術がない▼筆者の地元の伝統的な夏祭りは、数週間前に中止が決定した。五輪競技に警察官や警備員を充てるため、警備体制が整わないという理由だ。このままでは、春の桜まつり、大鯉のぼりイベントもウィルスの影響で危うい▼若い親子、子供たちにとって大切な思い出が奪われる残酷さよ。病気に抵抗する免疫力を高めるには、栄養、運動、休養はもちろん、「笑い」が最も効果的だと聞く。その笑いをイベント中止が奪うなら、代わる明るさを無理にでも生み出さなければいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月13日付
 page2020では、6日のセミナーで「色評価用LED光源を用いる場合の印刷物観察条件ガイドライン作成」に関する進捗報告が行われた。大日本印刷の杉山徹技術開発センター主席研究員によると、「LED照明を使用して、従来の色評価用蛍光灯と同様に見える環境にするための推奨ガイドライン」となる▼国内印刷業界はLED化が大きく遅れ、色評価用蛍光灯が使われ続けてきた。しかしそれも、3年ほど前に製造が終了し入手困難となった。同時に複数社から色評価用LEDの市販が開始された▼製品によって色の見え方が異なるという声があることから、日本印刷学会と日本照明学会が共同で、印刷物の色評価に適したLEDの条件を見出していくことになった。今年1月に実施した本格的な比較実験では、現在販売されている色評価用LEDの10銘柄とも、「違いはあるが、ほぼ許容できるレベル」と判定された▼日本印刷学会では、今夏を目標にガイドラインを発表する予定だ。製品に関してはひと安心だが、正しい色見は、設定条件をきちんと守ってこそ。今度は印刷会社の管理体制が問われる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年2月6日付
 道を曲がると、目の前に鮮やかな若草色の建物が見えてきた。そこが取材先の会社だった。会社のイメージカラーなのだろう。いい色だなと思った。その社長がまだ小学生の頃、先代である父親に「好きな色は?」と聞かれて、答えた色がそのまま会社の建物全体に塗られた▼事業承継では、資産や経営権を継ぐだけではない。会社の理念や経営者の想いを伝えることも重要である。しかし、家業を継いだ後継者は大変だ▼何かと先代と比較されることもあろう。従業員からの目、取引先からの目など、取り巻くさまざまな目を意識せざるを得ない。経営の知識だとか、社員をまとめる力だとか…いろいろなものが自分には足りないと感じてしまう。自信がないから足踏みをしてしまう▼その社長も、経営が思うようにいかず頭を悩ませていた。大事なのは、自分で責任を持つという気概、問題から逃げるのではなく、そこにぶつかっていく勇気。そのことを社長も十分に分かっていた。悩みながらも進んでいく意志を感じた。そう、壁にぶつかった時は社屋の色を見れば、きっと力が湧き上がってくるはずだ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月30日付
 本紙姉妹誌の月刊『印刷情報』2月号では、「災害に備える─ネットワークづくりで対応力を高める」を特集している。昨秋の台風の記憶がいまだ生々しい中、年初から千葉県、茨城県を震源とする地震が相次ぎ、不安が増幅した▼このテーマでの取材は非常に難しい面がある。被災した企業に話を聞きたいが、現在は復旧しているにしても、話が一人歩きして風評被害につながってはいけないと配慮すると、なかなか踏み込めない。災害報道では常に割り切れない思いが付きまとう▼長野県印刷工業組合の新年会では、水害に遭った組合員の印刷会社の中から、3社が報告を行い、『組合の支えが本当に大きかった。心から感謝している』と話があった。同工組では、見舞金だけでなく、組合員に災害ボランティアを呼びかけたところ、60名を超える人たちが復旧作業の応援に駆けつけた▼今年10月9日・10日には長野市で全印工連の「全日本印刷文化典2020」長野大会が開催される。実行委員会によると、4年前のふくしま大会と同様、復興支援の意味合いが濃くなりそうだ。多くの参加で支援したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月23日付
 日本製紙連合会による2019年の内需見込みは、塗工紙が前年比4.5%減、非塗工紙が4.0%減、情報用紙が0.6%減、計3.5%減。数字は連合会の年初予測値にほぼ近く、予測の範囲内と言いたいかもしれない▼だが、大幅な紙の値上げと供給不足による失注、生産抑制、デジタルシフトなどを考え合わせると、本来はもっと上ぶれしていた可能性がある。今年も状況が好転する見込みは立っていない▼長野県製本工業組合の新年会で県洋紙卸同業会の夏目理事長は「生産は若干回復してきているが、トラブルは多発している。製紙会社では海外事業担当が役付きとなり、またバイオマス発電の巨大な工場がどんどん建設されている。(洋紙生産の)ラインへの投資が少なく、流通に回ってこない」と述べた▼印刷・製本業界ではしきりに、注文を待つのではなく、仕事を創り出すことの大切さが強調される。東京五輪関連の需要への期待もある。製紙業界のスタンスはそこに水を差すものだ。品種の絞り込み、受発注や物流の効率化など、出来得る限りの方策を話し合うテーブルにまず着くべきだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月16日付
 2009年5月に全印工連の訪問団に随行し、ピッツバーグのアメリカ印刷工業会(PIA)本部で市場分析と将来予測に関するプレゼンテーションを受けた。そこでは、2020年までの米国印刷産業の姿が俯瞰されていた▼その年となった今、当時の予測は概ね合っている。ただし、2020年に生き残る平均的な印刷会社の売上構成比とされた「インク・オン・ペーパー」53%、「デジタル印刷」33%、「付帯サービス」14%は、付帯サービスの部分がさらに膨らんでいるようだ▼リーマンショックの影響は当然あるにしても、スマートフォンや電子商取引の急速な伸展は想定以上だったか。米国でもデータハンドリングやデジタルマーケティング、フルフィルメントへの対応力で二極化が起きている▼PIAの2009年レポートにある高収益企業となるための6つのキーは、専門特化による差別化戦略、学習する組織(自発的に学習し問題解決を図る組織)、コスト管理、利益還元(投資)、付帯サービス、価格競争力。M&Aも加味しつつ、これらは2030年に向けた戦略でもそのまま通用するだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2020年1月2日付
 2020年は阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件から25年、東西ドイツ統一から30年、大阪万博、70年安保闘争から50年にあたる。歴史は繰り返すが、人は過ぎたことを忘れ去る生き物でもある。決して風化させてはいけない事物の存在に改めて向き合いたい▼本年最大の国民行事は、是非はともかく、やはり東京オリンピック・パラリンピック。特殊事情が企業の働き方に与える影響も大きい。それにしても、開催の順番はパラリンピックを先にできないものか。オリンピック閉会式から2週間以上の間を空けて、熱が再び高まるか、心配だ▼4月1日から小学校で新学習指導要領が全面実施され、外国語、道徳、プログラミングの教育が始まる。新時代への適応は大事だが、生きるために必要な心と躰の強さを養う基本軸は外してほしくない▼人生百年時代が言葉として飛び交う一方、気になるのは、「長生きなんかしたくない」と言う若い人が実感として増えていること。選挙の投票率も低く、聞けば「どうせ変わらないから」のあきらめモード。若者がわくわくする世の中へ、印刷業界にできることは何か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年12月19日付
 仕事柄、一般の方からも印刷に関する相談を受けることがあり、印刷会社を紹介して感謝される。今の発注先に対する不満や疑念が発端だ。明らかなミスマッチングでも、素人である発注者は比較する術がないために泣き寝入りしている▼食料品店が毎年発行する通販カタログ。書籍印刷主体の老舗が担当し、大量の写真を手作業に近い感覚で煩雑に処理。店のマネージャーも面倒を強いられるうえ、高額な請求。長年の付き合いと、印刷原稿を預けているため、変更を言い出せないでいた▼小さな商社が発注する先では、名刺百枚でも電車を使って納品。原稿確認はすべてファックスで、一部修正でも毎回入力するため校正が面倒。値段は高く、紙以外への印刷には対応できない。高齢の社長が年金をもらう傍らやっている様子。スタッフの一人は「この前はお歳暮を届けに来た。そんな暇があるなら良いサービスを!」と怒った▼社内の名刺デザインを統一したい、自社のクリアファイルを作りたい、校正はデータでやりたい…。ずっと語られた。そうしたお客を大事にしなければ。因習がはびこる印刷業界の闇は深い。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年12月12日付
 伊丹十三監督の映画「スーパーの女」を観た人も多いだろう。激安スーパーに客を根こそぎ奪われ、経営が傾いていた弱小スーパーを、宮本信子演じる主婦店員が奮闘し立て直すというストーリーだ。PHP総研主席研究員で立教大学大学院特任教授の亀井善太郎氏は、この映画のワンシーンからCSR(企業の社会的責任)の本質を見ることができると言う▼映画の中で、主婦店員は、客の目線に立った店づくりを訴える。そして、総菜の鮮度を重視したり、売れ残りの肉や魚のリパックを廃止したりと改革を次々と実行する▼店の売上が上昇に転じたきっかけは、店員たちが帰りに自分の店の品を買うようになったことだった。それまでは他の店で買い物をしていたのだ。自分の店でいいかげんな品を売っているのを知っていたので、決して買おうとはしなかったわけである▼CSRとは、「企業が社会に応えること」であり、その始まりとなるのは「従業員」であると亀井氏は指摘する。従業員は会社のことを最もよく知っていると同時に、ひとたび会社の外に出れば、強い世間の目線を持つ存在でもあるのだ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年12月5日付
 ラグビーW杯日本チームのスローガン「ONE TEAM」が2019年の新語・流行語年間大賞に決まった。至るところで挨拶の中に使われていて、大賞は早い段階で「当選確実」だった▼"ワンチーム"は、異なる個性(役割)を一つに束ね、最大限に力を発揮する理念から、企業経営にたとえればダイバーシティやインクルージョンに通じる。ラグビー日本チームでは、個々のフィジカルの強さはもちろん、明確な目標の下での選手同士の結束が見事だった。厳しさの中でこそ光る認め合い、助け合いとでも言おうか▼さて、印刷業界の今年の流行語は何か。「スマート○○」も多用されたが、新味は足りない。ここに来て急速に使われ始めた「サブスクリプション」はどうだろう。顧客との新しい関係性を意味するこの言葉もまた、チームとしての在り方を考えさせる▼製品を「売る人・使う人・保守する人・支払う人」の枠を超えた、包括的サービスでつながる主客一体のワンチーム。理念、利益の共有による相互成長。ようやく製品販売ビジネスモデルも、ソリューションを軸とした21世紀型に目覚めた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月28日付
 12月3日は「カレンダーの日」。明治5年の太陽暦への改暦に由来する。太陰太陽暦は同年12月2日までで、その翌日が明治6年1月1日とされた。当時の暮らしに相当な混乱を与えたようだ。記念日は昭和62年に業界団体が制定した▼天皇の退位・即位、令和への改元があり、特にこの数年、カレンダー関連業界の混乱と受難が続いた。先だってカレンダー専門業者から、2020年版に「なんで体育の日が入ってないんだ」と取引先に叱られたという笑い話もあった。今年の「即位の礼」の祝日も周知に手間取ったが、「体育の日」は「スポーツの日」と名称が変わり、2020年に限り7月24日とされる▼最近の若者は部屋にカレンダーを掛けないと聞く。一方、ギフト関連会社が行った職場の紙製カレンダー(壁掛け・卓上など)に関するアンケートでは、約7割の人が使っている。「書込みがしやすい」、「予定が目に入りやすい」が主な理由だ▼全国カレンダー出版協同組合連合会の「2020年版カレンダー展示会」が12月2〜4日に東京・有楽町で開かれる。毎年、時代の流れを反映して興味深い。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月21日付
 未来予測の専門家で経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏の講演を聴く機会があった。「今後10年で最も重要な技術はAI(人工知能)」であり、「企業はAIを見ておかなければ事業計画が狂う」、「政治問題の中心にもなる」という▼頭脳労働はAIに取って代わられやすく、反対に人の手足を使う仕事、言語理解が必要な仕事は置き換えが難しい。いずれにせよ、非正規労働者でこなせる仕事が増え、給与は減り、今の職種の半分は消滅してもおかしくないと予測する▼10年以内にトヨタ自動車が経営危機に陥る可能性も指摘した。世界的な電気自動車化の流れに加え、完全自動運転技術が実用化すると、AIソフト、モーター、蓄電池を購入すれば誰でも車を造れるようになる。ヤマダ電機やアイリスオーヤマが20〜30万円の車を売り出す時代も遠くないと鈴木氏は見ている▼汎用PC、テレビ、写真フィルム、ゲーム機など、絶対と信じられていた牙城が崩れた事実が過去にある。鈴木氏は、人口統計と同様、「技術革新はかなりの確度で先が読める」といい、経営者は変化の予測を怠ってはならないと戒める。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月14日付
 谷口一郎さんが亡くなった。東軽工、日軽印という響きも懐しいが、そこで会長を務められた。細身で色白の役者顔、端唄で鍛えた渋い喉、粋で軽妙洒脱、常に清潔な空気を纏った谷口さんには、会うたびに鮮やかな印象を抱いた。また一人、江戸のイイ男が去った▼10日の即位祝賀パレードは、これ以上ない秋晴れに恵まれた。一私人としての天皇陛下を素直に見た時、やはり人格者なのだろうと感じる。そして、雅子さまが心身の不調に苦しんだ際の、自分が守るのだという毅然とした会見には、男気さえ感じた▼12月に公開される映画『つつんで、ひらいて』は、装幀家の菊地信義氏を中心に描いたドキュメンタリー。当社が事務局を務めていた造本装幀コンクールでは、菊地氏も審査委員の一人だった。選考会で、他の委員を「あなたに装幀を語る資格はない」と一刀両断した時の迫力、プロとして漲る自信には、しばし仕事を忘れて、惚れた▼各地で災害が起こるたびに頭をよぎるのが、ボランティアとしての生き方を貫く尾畠春夫さんの顔だ。80歳となった今も、その姿勢はぶれない。背筋が伸びる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年11月7日付
 自治体の競争入札で伝わる・見やすいユニバーサルデザイン(UD)対応を条件とする事例が増えている。群馬県の前橋市と伊勢崎市は2018年、二市共同の一括委託事業「次期大量プリント提案依頼書」で、ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)の認証の取得を入札基準として明記した▼愛知県豊田市は2019年、納税通知書等印刷封入封緘業務委託プロポーザルで「UD業務履歴」を求め、認証取得件数や担当者の経験能力、帳票デザイン体制などを基準に、評点で落札者を決定した▼こうした動きは、当然ながら民間企業の発注にも影響してくる。総務省や金融庁、消費者庁は、顧客本位の業務運営、消費者の権利保護に関する施策を強化中だ。インバウンド消費の増大も新しい流れを作る▼UCDAの武田専務理事によると、近年、全国のシステムインテグレーター(SI)企業がUD化提案を武器に自治体への働きかけを強めている。多くのSI企業がUCDAの資格認定講座の受講に来ているとのことだ。UD対応を商機と捉えるSI業界に負けない認識と戦略が必要とされている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月31日付
 中小企業庁が今月発表した「取引条件改善状況調査」では、併せて中小企業が直面する人手不足の問題でもアンケートを実施した。意外なのは、主要26産業分類でみた「現在の人員の過不足状況」の結果だ▼警備業では94%の企業が「不足」と回答。アニメーション制作、トラック運送・倉庫、情報サービス、建設機械が続く。これは頷ける。ところが、採用難が深刻と思われている「印刷業」(回答569社)は、「不足」29.3%、「適正」66.1%、「過剰」4.6%で、不足の割合は全産業の中で最も低い。他に低いのは卸売、小売、広告、紙・紙加工品など▼まず浮かぶのは、人を雇うほどの仕事がない、受注減少という理由。また、高年齢者の活用による対応、繁閑ギャップの大きさ、廃業した会社からの人員シフトが活発といった事態も考えられる▼「働き方改革を進める上での障害(人手不足度)」を訊いた設問でも、印刷業は26産業の中で最も低かった。調査は、企業規模に比例する傾向を指摘するが、「やるべきことが多いので足りない」と、むしろ人手が恋しいようでなければ、この業界の将来は不安だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月24日付
 広範囲に被害をもたらした台風19号と、ラグビーW杯での日本の歴史的勝利が重なったのは、なんとも複雑だった。被災者のことを思えば素直に喜べないが、選手たちの全力プレーに多くの人が勇気をもらったことはたしかだ▼台風の影響で、W杯史上初めての試合中止も起きた。12日に予定されていた対戦では、決勝T進出が濃厚だったニュージーランドが「天気はコントロールできない。安全第一の正しい判断」とコメント。一方、イタリアは勝てば進出の可能性が残されていただけに、まったく納得していない▼どんな事情があるにせよ、世界大会で戦わずして勝敗を決めることがあってはならない。たとえ無観客試合にせよ、代替日、代替競技場を用意して実施するべきではなかったか。台風シーズンのこの時期、事態は十分に予測できた。「仕方ない」で済まさず、来年の東京五輪に向けて徹底した検証と議論を尽くしてほしい▼そうした中、カナダとナミビアは、すでに1次リーグ敗退が決まっていたとはいえ、開催予定だった釜石でのボランティア活動や交流会を笑顔で行った。救われる思いがする。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月10日付
 仙台市のユーメディアが企画・運営するビール祭り「仙台オクトーバーフェスト」が9月中旬に12日間にわたり開かれ、10万人以上の来場者を集めた。2006年の第1回から今年で14回目。東北を代表するビッグイベントに成長した▼毎年、ビールは本場ドイツから輸入する。膨大な量だけに、半年前には発注を掛けなければならない。ユーメディアの今野均社長が大きな決断を迫られたのは2011年3月に発生した東日本大震災の後。自身の会社と従業員のことに心を砕いている中で、輸入業者はオクトーバーフェストを開催するのかしないのか催促してくる。迷い抜いた末に開催を決め、結果として過去最高の人出を記録した▼この時の経験から今野社長は「自分たちは地域を元気にできる」と強く思った。今年8月にはレストラン運営会社との共同事業で「Route 227s'Cafe」をオープン。食を通じて東北の魅力を発信している。227は東北の市町村の数を表す▼地元愛に基づく事業は、地域だけでなく同社にも元気を与え、新しい人材も育った。印刷とプロモーションの売上比率は7対3までになった。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年10月3日付
 司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読了した。四国・松山の佐川印刷を訪れた際、佐川正純社長から「本は長いので、ぜひNHKのドラマを観てください」と勧められたが、そう言われるとかえって読破したくなるのが性分で、一読、吸い込まれるように終章まで駈けた▼近代明治国家と日露戦争史を主題にしたこの大作は、領土拡張、軍事競争、戦争の悲惨という暗い側面とは別に、国家の目指すところと国民の志、感情が一つになって突き進むことのできた幸せな時代のエネルギーが充溢している▼今の成熟(老成?)しきった日本で、再び国民の力を結集するには、新しい構想力とビジョンが要る。安倍首相の唱える抽象的な愛国心教育では決してない。経済産業省が打ち出すIT立国、第4次産業革命の戦略に国民が共感するか。それもない▼明治維新後の日本には、極東の弱小国が列強の属国にされてしまうという強烈な危機意識があった。国策として、16歳に達した若者全員を1年間留学させてはどうか。いかに世界の中で日本が弱くちっぽけな国か痛感するに違いない。新時代のビジョンは彼らから生まれよう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月26日付
 さて、消費税率の引き上げである。価格転嫁が難しい小規模事業者が大半を占める印刷業にあっては、経営を圧迫する大きな要因となる。矢は放たれた。政府は、教育・社会保障に役立てる目的税の性格を貫き、使途を明確にし、少子高齢化の課題解決にはっきり切り込むべきだ▼最低賃金の引き上げも10月から各都道府県で順次始まる。最低賃金を上げるのであれば、官庁入札における最低制限価格、民間取引における下請適正取引の徹底と実効性の確保も図られるべきだろう▼帝国データバンクによると、金融円滑化法の終了以降も、金融庁の要請により金融機関のリスケ(返済猶予)実施率に大きな変化はないが、今年上半期のリスケ企業倒産が目立って増えている。経営者の高齢化と後継者不在が影響している可能性が指摘される▼加えて、働き方改革の制度面の足枷が中小企業の業績に与えるマイナス影響は間違いなく浮上してくる。印刷業がこのヤマを乗り越えるには、他の産業をリードするぐらいの覚悟で取り組まなければならない。それにしては、具体的な情報交流の勢いがまだまだ足りないと感じる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月19日付
 日本のソフトパワーを活用する「クールジャパン戦略」は、極めて持続的な経済政策であり、外交政策だ。その戦略が、2015年の策定以来、初めて大幅に見直された。外国人を中心とした評価委員会では、日本の「魅力」に対する認識の不足、外国人の視点の不足などが指摘されてきた▼印刷業界でも、海外での販路開拓や展示会出展の経験を持つ人たちは、「いかにも日本的なもの」より、「日本人が当たり前と思っているもの」がかえって共感を得ると一様に口にする。地域によっても、アジア諸国では「かわいい」という感覚が受けるが、欧州では伝統や風格、シンプルさが好まれる▼これまでのクールジャパン戦略は、「アニメ」に象徴されるある種の"子供っぽさ"を中心に据えて、効果が半減していたのではないか。日本の魅力は全国至る処の町並、路地裏、自然に見つけることができる。マンホールの蓋でさえ、その豊かなデザイン性に注目が集まる▼永い歴史を背景に、生活に深く根差したものだからこそ、人は心を揺さぶられる。それは、日本人が外国に出かけた場合もまったく同じだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月12日付
 同い年の高校教師と話していて、「印刷業はたいへんでしょ。だって、昔から寅さんのタコ社長だから」と言われてしまった。このフレーズはまだ生きていたのか。妙に感心するやら悔しいやら。50代までは、映画『男はつらいよ』で太宰久雄演じる社長の姿が刻まれている人は多い▼その下の世代となると、さすがに通じにくいだろう。だが昨今、これでもかとばかりドラマ化される池井戸潤の作品には、中小企業の悲哀も誇張されて描かれている。苦難の連続を乗り越えるから感動するわけだが、視聴した若い世代が、やり甲斐を感じる前に敬遠してしまわないか心配になる▼『本のエンドロール』(安藤祐介)や『活版印刷三日月堂』(ほしおさなえ)にしても、印刷に関わる人たちの実直さや温かさが丁寧に描かれているが、多くの若者を、この世界で働きたいと思わせるには少し弱い気がする▼全印工連の広報プロジェクト「大喜利印刷」では、映像による発信力と反響の大きさを改めて感じた。いっその事、印刷会社を舞台にしたイケメン俳優主役のトレンディドラマでも、誰か制作してくれないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年9月5日付
 全印工連が2004年10月に発表した「業態変革推進プラン」には、「業態変革のミニマム(出発点)と到達点」として計画の工程表が載っている。IT基盤整備など4分野で5段階ステップの考察を行ったものだ▼この時点でのミニマムは、eメールの活用、自社分析、5Sの実践、支部活動での信頼関係構築というレベルにとどまる。驚くのは「到達点」。IT基盤整備では「コンピュータ to コンピュータによる情報の情動流通」とある。まさに、今日言うところのIoT、AIの活用であり、「デジタルネットワークは、人間を介在しないコンピュータ同士のコミュニケーションに発展してこそ格段の効率化が達成される」と解説している▼そして、共創ネットワークの到達点は「新事業展開のための業種を越えたネットワーク作り」。政府が現在提唱している「コネクテッド・インダストリーズ」そのものだ▼発表から15年。世の流れが追い付いたと言いたいが、どれだけ実践されたか。プランを実践してきた会社には、しっかりした根と枝葉があるはずだ。マーケティングの到達点には「顧客創造」とある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月29日付
 9月は印刷の月。電胎法による鉛製鋳造活字を用いて日本の近代印刷術の礎を築いた本木昌造の命日(9月3日)に因む。その本木が長崎製鉄所の技師であった時の徒弟で、汽船の船長であった時は機関手として労苦をともにしたのが平野富二である▼信任厚かった富二は、本木から活字事業の将来を託され、長崎から上京。活字の製造・販売に乗り出す。手引印刷機の国産化にも着手し、活版印刷の普及に大きな足跡を残した。同時に、造船事業も開始し、今日のIHI(石川島播磨重工業)に発展する。富二の研究で知られる片塩二朗氏は、小さな活字と巨大な船に生涯を捧げたこの人物のスケールの大きさをこよなく愛する▼本木の陰に隠れがちであった平野富二の生誕の地碑建立記念祭が昨年11月に長崎市で開かれ、除幕式には田上市長も出席した。新資料の発掘と合わせ、富二の偉業に改めて光が当たる▼近年の研究で、明治5年、富二が東京に開設した長崎新塾出張活版製造所の所在地は、現在の千代田区神田和泉町一(伊勢国津藩藤堂和泉守上屋敷跡)であると判明した。凸版印刷の本社は同所にある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月22日付
 全日本シール印刷協同組合連合会の田中祐会長の会社は東京・八王子にある。得意は、航空機や鉄道の機内・車内の表示ラベル、機体・車両のラッピング・マーキング。高い技術力に加え、図面設計、貼り施工など前後工程まで手がけることで強力な差別化を図った▼価格競争で消耗しないため、印刷会社が自身のブランディングを確立する必要を痛感している。社員に求めるところも同じだ。面接で「百人一首大会で県の代表になった」という女性。だが、全国に代表は47人いる。「他には?」と訊くと、沖縄のエイサー踊りでも全国レベル。採用を決めた▼「百人一首×エイサーはオンリーワン。なんでも二軸志向でいきたい」と田中氏。そんな同社に対しても、破格の値段で新規参入を試みてくる業者がある。気を緩めることはできない▼ブランディングと同時に重視するのがマーケティング。「お客様は商品の機能だけでなく体験やイメージを売っている。そのメッセージをきちんと理解し伝えられるのが選ばれるモノづくり企業。お客様のお客様を把握していますか?」。田中氏はそう問いかける。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月8日付
 事業承継は、日本の中小企業が抱える最大の課題のひとつだ。全国の地場の銀行や信用金庫にとっても、廃業・解散がこのまま増え続ければ経営基盤を失うことになる。M&A専門会社に負けず、マッチング営業を強化している。また、将来の後継者候補を早くから囲い、実力を付けさせるための経営塾を運営する金融機関も多い▼地方に行くと、「後継者のいない印刷会社ばかり。あとはM&Aしか道が残されていない」といった声をよく聞く。だが、M&Aにせよアライアンスにせよ、特色をもつ会社であることが大事で、財務内容も条件になる。簡単ではない▼「顧問税理士が同じだった」、「ロータリーで昔から一緒」など、会社や経営者同士が結び付きやすい要因があると事は運びやすい。コンサルタントを介さず自力で統合する例が増えた。また、官庁入札での有利を考え、統合した後も社名を別々に残して営業する例など、内容は多様化している▼いずれにしても、当事者同士の都合だけでなく、取引先や従業員などステークホルダーをいかに守っていくか、その視点を欠いては上手くいかないようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年8月1日付
 東京五輪の開幕まで1年を切った。カウントダウンイベントなどが一斉に報じられ、タレントは不自然なほど明るさを振りまき関連番組を盛り上げる。"権威"に飲み込まれる流れが気になる▼神戸大学の小笠原博毅教授は、「参加と感動」の強要、東日本大震災からの復興支援を謳う強引な演出、国民生活の犠牲など、数多くの理由を挙げ、一貫して開催に反対してきた。東京都が負担する六千億円の費用を都の納税世帯数で割ると、一世帯あたり約九万円になる▼五輪後の経済急落を懸念するどころではなく、すでに過大な負担は課せられている。被災地に回るはずの資金や人員も優先的に東京に吸い上げられてきた。地方の五輪ボランティア応募者からは高騰する首都圏のホテル代に悲鳴が上がる。小笠原教授は「これだけのカネを使うのだから、どうせやるなら"みんな"で成功させましょう」という風潮にも警鐘を鳴らす。五輪の主体、責任者はいったい誰なのか▼スポーツがもつ絶対的な感動とは別に、この世界最大のイベントに必ず付きまとう利権の現実を直視しなければ、大きなツケを払わされる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月25日付
 「印刷」の定義は数百年もの間、版の大量複製であり続けた。だが、伝達手段がデジタルに移行したことで、入手したい情報はクラウドの状態にあり、各人が勝手にアクセスすれば済むようになった。コピーも瞬時、一斉配信も瞬時。もはや印刷業は数量勝負ができない▼しかも、生き方や嗜好が多様化し、各人が必要とする情報は千差万別。汎用的な情報だけを用意したのでは用が足りない。AIを活用したデジタルマーケティング、地域や分野に精通した目利きなどが求められる▼印刷業が生き残る道は、デジタルデータの編集技術と、情報に誘導する検索・アプリ関連技術の運用がひとつ。あくまで印刷で勝負するのであれば、「あなたが欲しいものはコレですよね」と、ある種の"おせっかいな"DMやカタログ、情報誌、アイキャッチに優れたパッケージ、ラベルなどで興味・関心を引き寄せることだ▼いずれにせよ、クリエイティブな発想と編集・デザインが鍵を握る。そして、もう一つの選択肢である顧客の必要な一切のソリューションを提供する道にしても、相手の身になって考える想像力が不可欠だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月18日付
 30年前に発行された「ランニング百科」には、有名ランナーが「最低でも一日に腹筋100回」、スポーツ科学の教授が「筋肉がピキッと反応するまで運動前にストレッチを一箇所90秒以上」などと、アマチュア向けに怖い事が書いてある▼現在は身体パフォーマンスを著しく低下させる行為とされているが、この本の少し前までは、ウサギ跳びが当たり前に行われ、「練習中に水を飲むな」と言われた時代である。常識とはそれほど脆く、移ろいやすい▼栄養学でいえば、おそらく10年後には、「朝食を欠かさない」、「一日30品目」、いま流行りの「糖質ダイエット」、「肉食のススメ」などは死語になっているだろう。あらゆる専門家と呼ばれる人たちが論をかざすため混乱も極まる。最後は自分の躰との対話で判断する以外にない▼仕事の世界も同じだ。企業を見抜けとは就活生に酷かもしれないが、業界や企業の評価、そこでの常識は瞬く間に変わる。人気ランク上位の企業を「今がピーク」と突き放して見られるか。不安が募る時ほど、企業にしがみつき疲弊するのではなく、わが心を大事にしてほしい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月11日付
全日本製本工業組合連合会は、2025年をゴールとした「製本産業ビジョン2025」の策定を進めている。「再・創業」をキーワードに、デジタル技術の活用、戦略的パートナーシップ構築、新市場創造への取組みを目指す方向だ▼製本専業者は後継者難や利益低迷から廃業が相次ぐ。それもあり、今年3月の繁忙期には全国的に仕事が滞留する事態が起きた。だが、4月に入れば潮は引き、年間を通して仕事が埋まる会社は少ない▼前・ビジョン2018の策定時に比べて委員の顔ぶれは若返り、議論の活発さは増した。未来に目標や夢を持てる業界にしたいという思いは強い。委員会では、「製本」という言葉そのものが、自分たちの視野を狭めているのではないかという問題提起もなされた。イメージの拡がりに期待したい▼本紙姉妹紙の『日本製本紙工新聞』では先日、元気のいい若手経営層6人による座談会を行った。うち5人の前職がSE、空調機器エンジニアなど、製本と関わりないことに驚いた。製本に愛着はあるが、他の何かをやっても社員だけは守るという発言も。若い世代からの業態変革の予感がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年7月4日付
 「なりたての頃は、『やってやるぞ』という気持ちばかり強くて、力が入り過ぎていました」と、30代後半で父親から印刷会社を引き継いだ社長。それから5年ほど経ち、いくら自分がよかれと思って勧めても、社員が納得して自主的に動かなければ会社は変わらないことを学んだ▼当初は、この機械を導入すれば、こんな新しいことができるはず、と設備に目が行きがちだったという。20人規模の製造業の話ではあるが、会社を買い漁って業績を急落させた大手ベンチャー企業に通じなくもない。野心には、少し制約が掛かるぐらいがいい▼幸いにしてこの印刷会社の若手社長は、手元資金に限りもあって、自社の資産を最大限に活かす道を選んだ。すなわち"人"である。「企業は人がすべて」と言葉にするのはたやすいが、たとえ社長でも、身をもって実感するには時間も経験も要る▼設備と言わず、人員を増やす余裕も今はない。そこで業務改善活動に力を入れたところ、今度は各部門から「人を増やしてほしい」という声が上がった。現場なりの人材の解釈がある。社長の新しい挑戦がまた始まった。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月27日付
 「アカデミックはしんどい」とは、専門書・学術書を出版する国立大学系出版部のある幹部の発言。硬い内容をかじる人は減り、かつてのようなベストセラー、ロングセラーは望めない。書店数の減少、販売寿命の短期化、専門書棚の縮小と環境は厳しさを増すばかり。アマゾンなどネット書店への依存が高まる▼海外の名門大学出版部も事情は同じ。ケンブリッジ大学は英語教材、オックスフォード大学は辞書やオンラインジャーナルで専門書の売上げ低下を補う経営状態。一方で、北京大学、清華大学など中国の名門大学系の出版部には元気がある▼旺盛な教材需要に加えて、国家からの資金援助。その余裕をバックに、専門書の電子化と世界発信を強力に進めている。韓国も電子化の推進に積極的だ。日本の後れは大きい。先の大学出版部幹部は「相当由々しき事態。日本のことを研究する人がどんどん減っている」と憂える▼インバウンド需要を喚起し、国内での活発な消費を期待することも大事だが、長い目で日本という国にきちんと向き合ってくれる有為な人材を増やす努力を忘れてはいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月20日付
 「お客の困り事の解決」のおもしろい事例を聞いた。京都の製本会社の展開である。直接の顧客ではない。間に立つデザイナーの負担を軽くする発想で始まり、結果としてホテルなどから間接的に備品全般を受注した▼プロダクトデザイナーが扱う領域は膨大で、しかもデザインする製品の納品まで任される。本業のデザインどころではなく、手配に追われて大変なストレスになる。これを聞いて、「では当社が代わりにやりましょう」と製本会社。その時は何のツテもなかったそうだ▼言ったからにはやるしかない。ホテルのルームキー、ペン、バインダーファイル、禁煙サイン等々、あらゆる品について手探りで業者を探した。バインダーも、リングはシルバーでなく黒で、内側はベルベット仕様でといった注文が付く▼苦労しながら発見したのは、ほとんどが印刷・製本加工につながっていて、既存の技術、業者で回せることだった。それほどこの業界、裾野が広い。今では、感謝されたデザイナーから、キーホルダーやトートバッグの依頼もある。そこに印刷物が含まれていることは言うまでもない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月13日付
 国立環境研究所の五箇(ごか)公一生物・生態系環境研究センター室長の講演を聴く機会があった。生物の多様性がなぜ必要か。それは、生態系が似た者同士に近づくほど、環境変化に対して共倒れとなる確率が高まり、種の存続が難しくなるからだ▼人間が他の生物と共生することの必然について五箇氏は、「エコではなく、自分たちが生き延びるための『エゴ』で考えればいい」と言う。多様性は社会発展の基盤であり、そこから今、ダイバーシティやインバウンドが注目されているとも▼実態は、単に自分勝手なエゴにより、絶滅危惧種を生み、森林資源の破壊、水産資源の枯渇、異常気象を招いている。その源は、どこまでも欲望が肥大化した人間の日々の営みだ▼自然界の生物ピラミッドは、裾野に行くほど種類も厚みも増すが、「天敵を持たない人間は自然のすべてを吸い上げ、ピラミッドを逆三角形にした」と五箇氏。後を絶たない幼児虐待や通り魔も、血縁・地縁を失い、押さえる者を持たない人間の暴走の果てか。あるいは、増えすぎた個体のストレスか。生活の豊かさは生存本能の破壊と表裏にある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年6月6日付
 日印産連の会報誌4月号が、米国の印刷市場動向を有力情報サイトの調査結果から紹介している。2019年の「ビジネス上の課題」(複数回答)は、「他の印刷会社との競合」が39%で1位。続いて、価格政策、人材の確保、事業承継、資材価格、従業員のスキル、デジタルメディアエージェンシーとの競合、自動化ワークフローの実現の順となる▼「有望なビジネス分野・要素」については、「顧客のアウトソーシングの増加」47%、「顧客の販促活動におけるメディアミックス」37%、「景気回復」31%、「製本や後加工分野」21%など。他社との協業やM&Aの回答も多い▼今後の設備投資分野としては、「デジタルプレスの後加工設備」(39%)が2位の「MISシステム」(20%)を大きく離した。全体に、ソフトウェアやデジタル機器を活用し、高効率ワークフローの確立で顧客にアピールする志向が見て取れる▼日本でも似た結果が出るのではないか。米国の印刷会社の平均従業員数は日本とあまり変わらない。この産業の特性を今の時代に活かし切ることが共通のミッションであるはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月30日付
 グーテンベルクの印刷機は神(聖書)を民に降臨させた。以来、「紙」はその神通力で人類の文化・文明、経済の成長と発展を担い続けてきた。その紙が、製造コストを問題にされ、瀕死の危機に陥っている▼王子ホールディングスが情報系用紙の40万トンの減産を決めた(うち20万トンは新聞用紙の段ボール原紙等への製造転換)。「他のマシンへの生産移管を進めていく」と発表しているが、具体的な計画は示されていない。本音を言えば、「造っても儲からない製品は止めにしたい」というところか。印刷業界は長期的なリスクを覚悟しなければならない▼佐々涼子さんの『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』は、東日本大震災からわずか半年で再稼働した日本製紙石巻工場を舞台にした渾身のノンフィクションだが、あの復興時の迫力を持って、現状の紙の危機に向き合えないものか。このままでは人災によって文化が死ぬ▼製紙側の主張は「デジタル化で紙需の減少は避けられない」の一点張りだ。採算に関する情報提供や提案はなく、紙メディアの地位向上について話し合いの場を持つ気配もない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月23日付
 先日、ある神奈川県の印刷会社の取組みについて話を聞いた。社員24名の同社は、待ちの営業スタイルをやめ、"「想い」を伝えるツールを創る"ことで地域に貢献する道を志した。その結果、イベントの企画運営や取材・編集の仕事が増え、もちろん印刷物の受注にもつながっている▼感動したのは、地元の少年野球チームの活動記録の制作だ。今どきの少年野球の練習は本格的で、親の出番も多い。親子揃って熱心に打ち込んでも、卒団時に渡されるのはたかだか4頁か8頁の簡単なつくりの記録冊子だけ。自身もかつて野球少年だった専務は素直に「かわいそう」と思った▼そこで提案したのがPOD機で制作する50〜60頁の活動記録。写真をふんだんに盛り込み、表紙は子供一人ひとりのプレー姿の可変印刷。撮影からの苦労はあるが、大変喜ばれた。この記録集が欲しくて、わざわざ遠方から入団した子がいたという。それなりの売値で利益性は良い。横展開もできる▼同社は行動指針にCSR、SDGsを掲げるが、理念先行ではなく、「なんとかしてあげたい」という気持ちの発露である点がさわやかだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月16日付
 日本人、日本企業には創造性が不足していると言われる。要因として大きいのは、日本人の生真面目さ、体面の重視、その反面の内向き志向だろう。創造性に不可欠なゆとり、遊び心の欠如とも言い換えられる▼新しい技術の芽に対した時、それで何を変えられるかとイメージを膨らませるのではなく、すぐに効率化、コストダウンと目先の利益に走る。失敗を許す風土がないせいか。アイデアをまず人に語り、表に出すことも苦手だ。貯蓄をしてから結婚を考える男女に似て、苦労しながら一緒に創り上げる喜びを遠ざけている▼AIへの反応では、人員削減が優先する。メーカーも銀行も、自動化・省力化で生まれた余剰時間を社員がより創造的な業務に充てられるようにすると言うが、コストありきの発想では甚だ心許ない▼池袋、滋賀、愛知と立て続けに幼児を巻き込む交通事故が起きた。無人運転は後回しにして、8割の開発段階でいいので自動感知・緊急停止のAIシステム搭載を義務付けられないものか。ドライバーの劣化がこれほど顕在化した今、事を急がなければ痛ましい事故はまた繰り返される。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年5月9日付
 10連休の終盤に、「休み明けの憂鬱をどう乗り切るか」という類いの報道が複数のメディアで見られた。世界には、住む家がなく、今日の食べ物や水も手に入らない数億人の人々が、それでも必死に生きているというのに。憂鬱という悩みを語れる日本の平和を思う▼とはいえ、新入社員がブルーな気分に陥りやすい時期ではある。胸膨らませ、「さあ、やるぞ」と入社していきなりの長期休暇は、余計な想念を抱き、迷いを生じる確率が高まる。経団連が打ち出した通年採用拡大の方針が、いくらかでも緩和材料となるか▼令和への移行に伴い、歴史家の磯田道史氏は過去にない新しさとして、生前退位を実行できるほど寿命が延びた、退位・即位の日を分離し直接の引継ぎを行わなかった、天皇・皇后とも長期の留学経験がある、等を指摘する。企業の事業承継に通じるものがある▼承継時の経営者の平均年齢層は、中小企業で70代が最多だ。承継の決断と内外への表明は早い方がいい。そして、承継までに新時代に対応した教育を積ませ、ひとたび退いたら後継者に一切を任せること。祝われる承継を増やしたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月25日付
 日印産連が3月に開いたデジタル印刷に関する調査報告会は、話題の中心が運用とマーケティングだった。徹底した自動化・省人化の追求と、かたや高付加価値化で進化するデジタル印刷だが、オフセットの受注の仕組みを残したまま運用することで、効率性を損ね、小ロットの採算性でも印刷通販に押されるなどの問題点がある▼鍵となるのは、WebやAIの活用による顧客データの収集・分析、的確なターゲットに向けたハンドリングだ。報告会ではアメリカの現状として、個別の提案営業を捨て、IT技術者やマーケティング専門家の採用に急速に傾く印刷会社の話が出た▼日本でも"営業マンは会社の花"と言われた時代は遠のきつつある。マーケティング、販売促進、営業がすべてデジタルでつながる今、当然ながら顧客企業が求める人材、そして教育の中身は大きく変わる。印刷会社も仕組みと人づくりの大転換が必要だ▼ITやマーケティングに強い人材を雇えば会社が回ると思うのは幻想で、彼らを束ねられるタレントがいなければ始まらない。データの前に、まず人のハンドリングが先になる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月18日付
 再生紙の品不足の遠因には、米中の貿易摩擦問題がある。中国で原材料となる古紙の輸入相手が米国から日本に変わったことで日本国内に古紙が不足し、価格が急騰した▼オフセットインキの値上げにも中国が密接に絡む。インキメーカーの説明によれば、有機顔料やUVインキの光重合開始剤、油性インキのロジン系樹脂などの基幹原料の生産はほとんどを中国に依存している。それが、中国の環境規制強化で多くの生産プラントが操業停止となり、大幅に原料価格が上昇した。かつて製本用ホットメルトも、ロジンの価格高騰で2割ほど値上がりし、製本業界が混乱したことがある▼新興諸国全体での需要増加もあるが、中国が及ぼす影響はとてつもなく大きい。2017年には「環境配慮型の印刷の支援」が第13次5カ年計画に採択されるなど、いまや環境保全は中国の国家的な命題のひとつ。環境規制の厳格化もさらに進むだろう▼用紙の不足で印刷に制限がかかる異常事態が続く。デジタルメディアへの移行による市場縮小とは別に、物理的な制約から生じる印刷の機能不全には、どこまでも警戒が必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月11日付
 「平成最後の○○」が流行ったかと思えば、早速、「令和最初の○○」が飛び交っている。元号をファッショナブルに語ることが、日本人の仲間意識の醸成に使われている気がして気持ちが悪い▼ある外国籍の女性コラムニストは、新元号について安倍総理が、日本の普遍的な価値、文化の芳しさという言葉で説明したことに対し、「井の中の蛙」「卑屈」な印象を持ったと指摘した▼日本の伝統技術や職人技を取り上げた日本礼賛番組もブームとなっている。たしかに素晴らしい一面ではあるが、かたや、昨年発表された時価総額ランキングで、世界の上位100社に日本企業は2社のみ。トヨタ自動車の46位が最高だった。この30年で日本企業の地位は大きく低下し、新たに世界を驚かせる企業は現れていない▼日本は特別な国という一種のごまかしがいつまでも続くようでは、ますます世界から取り残される。日本の個性は個性として、はっきり誰にでも解かる形で説明できてこそ、世界に認められ、価値が生まれる。印刷業界も、その特殊性で語ることは止めて、令(零)からリセット、再出発すべきだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年4月4日付
 新元号「令和」が1日に発表された。「平成」は旧来の価値観から抜け出すための移行期であったと言える。本当に脱皮できるか、いよいよ試される新たな時を迎えて、印刷業界、そして業界団体のあり方にも変革が求められる▼昨年の日本フォーム印刷工業連合会の理事会で櫻井会長は、野球の球団運営を例に挙げて日米の違いを示した。計算の方法はいろいろあるが、単純に20年前と比較して、日本の12球団の総売上が現在約1.5倍なのに対して、メジャーリーグ30球団は約5倍に増やした。企業間の壁を取り払い、全球団の収益を集めて再分配する制度、全体で野球人気を盛り上げる連携戦略があればこその結果だ▼それぐらいの発想転換がなければ印刷業界も生き残れない。企業単独での努力には限界があり、今起きている紙の値上がりと品不足のような非常事態に対しても無力だ▼日印産連が重点テーマに掲げる「SDGs」にしても、圧倒的に多数を占める小規模の会員企業は、その意味合いを実感できていない。業界の共通利益を実現する求心力の高い取組みとなるよう、議論を尽くすことを望む。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年3月28日付
 イチローが45歳で引退し、羽生善治が48歳で無冠になった。羽生は先日のNHK杯を優勝するなど、さすがの粘りを見せているが、わかりやすい手筋を見逃す場面が増えた。イチローの場合、筋力は鍛えられても、動体視力や反射神経のコンマ何秒かの遅れが、インパクトの瞬間の微妙なズレを生んでいると想像できる。どんなに節制していても衰えは訪れる▼自分はいまだに現役ですよ、と先輩にうそぶいたところ、「会社員の衰えは気力に現れる」と一蹴された。返す言葉はない。自ら企画し実行する力、疑問を突き詰め議論する力は、明らかに40台後半から淡白になったと感じる▼羽生にはもう一度タイトルを奪取してほしいし、カズには最年長ゴールを決めてもらいたい。しかし、当人たちにとって、期待するのは他人の勝手で、今は自分自身との日々の闘いに集中しているはずだ▼順位戦からの降格や先発メンバーからの陥落など、数字やポジションではっきり去就を迫られる勝負師と違い、会社員の仕事は焦点がぼやけやすい。せめて、引退時期を自分で決めるぐらいの誠実さはあっていいだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年3月21日付
 自宅近所のクリーニング工場は別企業の社宅に変わった。友人の息子が外国人シェアハウス管理の仕事に就いた。叔母の出た小学校は廃校して介護付き老人ホームとなり、叔母自身が入居した…。筆者一人の身の回りでさえ、これだけ世相の変化を感じさせる出来事が起きている▼日本では今後、確実に空き家、空き店舗、空き工場の数が増えていく。その効果的な転用は、日本が抱える重大な課題であり、社会の活力に直結する▼駐車場やトランクルームも必要だが、産業育成や地域コミュニティには結びつかない。地場に根付く印刷会社が支援できることはないか。また、自分たちの土地・建物の活用について、業界内に情報共有し相談できる仕組みを作れないか▼保育所、起業家向けシェアハウス、学習スペース、複合型ビジネス施設、地域支援センターなどに転用した事例がすでにある。そうした選択肢の存在や運用ノウハウを知っておくことは、いざという際の助けにも、新規事業のヒントにもなる。自治体や地域、学校を味方に付け、内と外に顔の利く人材(キーマン)を得ることが鍵となるようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年3月14日付
 募集しても来ない、採用できても定着しない、期待と違う…。採用に関する悩みは尽きない。求人難から、多くの会社が通年で採用活動を行うようになった。担当者の気苦労も増える一方だ▼ハローワーク池袋に求人を出したある東京の製本会社は、日替わり面談会の実施を知った。特定の日に複数の求職者と30分ずつ面談できる全国初の取組みで、利用した結果、12人の応募があり、質の高い5人の社員を採用できたという。ハローワークも変わってきた▼地方のある小規模印刷会社は、企業と高校のマッチングを行う自治体の仕組みを利用し、地元高校生の採用で少しずつ成果を上げている。その過程で、必ずしも高い給与を求めて若者は都会に出るのではなく、福利厚生の充実や働きやすさがあれば、地元での就職も十分考えられることが分かった▼新卒か中途か、という悩みもよく聞く。中途採用の難しさの多くは、前職での色が着き過ぎていることにあるが、思い切って経験やスキルを見ずに、一から全く新しい業務に付けて育てるぐらいの発想も必要になる。当面、採用のダイナミズムから目が離せない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年3月7日付
 第42回日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を樹木希林さんが受賞した。授賞式では、昨年9月に亡くなった本人に代わり娘の内田也哉子さんが「映画作りという真剣勝負の場で、彼女は人を傷付けたこともあったと思います。母に代わってお詫び申し上げます」と語った。受賞挨拶としては異例だが、清々しい。余命少ないことを知った本人が、自分と関わった人に謝ってから逝きたいと話したらしい▼準備の暇があればこそ、そうした思いも、言動も成り立つ。とはいえ、人生には儘ならない厳しい現実がある。東日本大震災から3月11日で8年。どれほど多くの無念があったことか▼在位三十年記念式典で天皇陛下は、「近現代において初めて戦争を経験せぬ時代」と「平成」を言い表し、また、相次いだ災害に耐え抜き、寄り添う全国の人々の姿を「私の在位中の忘れ難い記憶の一つ」と述べられた。生前退位であればこそ伝えられる国民へのメッセージでもある▼祝賀ムードと長期連休の仕事の混乱から騒然としそうな新時代の幕開けだが、そこには、戦争と災害に寄せる静かな思いが底流にあるべきだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年2月28日付
 今月12日に開かれた中小印刷産業振興議員連盟の総会では、用紙値上げと品薄状態、再生紙の生産中止に関わる問題の2つが議題に取り上げられた。どちらも、品物が手に入らなければ、受注したくても出来ませんという話だ▼一斉値上げに疑念はあっても、踏み込みにくいゾーンではあるのか、議員と省庁による意見交換の3分の2は再生紙に関して。答弁では、新聞古紙の輸出急増と国内の不足から来る価格上昇、新聞発行部数の低下などの構造的な要因が具体的に示された。だからメーカー側も経営的に厳しいという話まで出たが、グリーン購入の実態に合わないのであれば法律や評価基準を見直すしかない▼議員からは「家庭紙と違って、B to Bの用紙は値上げしてもいいのか」、「用紙の製造コストが上昇しているなら、(印刷製品を)買う側が、紙は高いものだと思わないといけない。そうした見方もある」との声も▼たとえ取引がB to Bでも、最終的に印刷物が手に渡るのは生活者。用紙値上げは生活に大きな影響を及ぼすという認識を、すべての関係者、そして国民自身が持つように運べないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年2月21日付
 かつての熱血野球少年は、プロ野球キャンプが始まるとそわそわしだす。3月はセンバツ高校野球も待っている。まさに球春の訪れだ。誰もが"にわか評論家"になる季節でもある▼近年の野球で気に入らないのは、好投している投手を交代し、みずみす相手を喜ばせて二番手が打ち込まれる試合が多いこと。せっかくの良い流れを自ら断ち切る必要はあるまい。球数制限の影響よりも、指揮官が「勝利の方程式」なる言葉に囚われていると見る。継投策が常識化したために野球が小粒になった▼わざわざアウトを一つ献上する送りバントも好きではない。それを調子の波に乗っている選手にさせる神経がわからない。相手は「助かった」と感じるだけだ。野球殿堂入りが決まった権藤博氏もかつてコラムに書いた。「試合では常識やセオリーより勢い、雰囲気が大事になる。人間同士の戦い、最後は気迫」▼日々の仕事も、企業経営も同じ。ビジネス書が説いている通りに運ぶことなど滅多にない。春は新人への期待が膨らむ季節。若者よ、休み方改革が世の常識になりつつあるけれど、もっと大事なのは気迫だよ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年2月14日付
 ある業界団体の新年会。年配の社長たちは懇親の席でも、仕事が減る、価格が安いと愚痴のオンパレードだったが、中締めに登壇した青年会の会長は違った。「私の会社ではノー残業、完全週休2日を実現し、教育やいろいろな制度に力を入れている。会社の価値を高めてお客様にアピールしていけば、必ず理解していただけるという心意気で会社一丸となって取り組んでいる」▼そうなのだ。仕事が減る、資材や物流費が値上がる、人が採れない、休日の義務化が負担だと嘆いていても仕方ない。差別化に真剣に取り組んでいるか、価格交渉をしているか、ムリ・ムダ・ムラをなくす努力をしているか、会社の魅力を情報発信しているか▼愚痴をこぼす経営者にかぎって、具体策を打たない。取引に必要な認定・認証を取るわけでもなく、設備投資や採用に有利な補助金の情報を調べるわけでもない。そんな例を散々見てきた▼設備より人材に投資すべき時代だという。では、具体的な教育カリキュラムを持ち、働き方の制度設計やモチベーション維持のための工夫を実践しているか? 画に描いた餅では前に進めない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年2月7日付
 全印工連のCMYKプロジェクト第一弾「大喜利印刷」は、世の中が印刷業に抱くイメージを覆そうという意欲的な対外広報戦略の試みだ。ツイッター上のつぶやきを丹念に探ると、意外に印刷に絡んだニーズが多い。その中から9つを選び、4社が製品化に挑んだ▼生まれたプロダクトは、製作ストーリーと合わせてSNSなどで拡散を図る。プロジェクトは複数年にわたるが、まず初年度は、インパクトを与え、話題を撒き、目立つことが第一の目標だ。プロダクトの遊び心を理解できない方には、違和感があるかもしれない▼印刷業に対する一般的な印象は、真面目・地味・堅いといったところか。それが取柄でもあるが、もっと人々に寄り添う身近な存在であっていい。CMYKプロジェクトが殻を破り、若い世代にどこまで迫れるか。楽しみだ▼挑戦した4社は、唐突なお題、日常業務とのギャップに悩みながらもアイデアを捻り出し、形に仕上げた。業界の対外広報であると同時に、各社の社員が発想を膨らませ、企画脳を鍛えることで内部変革につながった側面もあると聞く。後に続いてみてはいかがか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年1月31日付
 page2019の全体テーマは「デジタル×紙×マーケティング」。今日の印刷業界の重要なキーワードだが、人によって想起する内容はさまざまだろう▼印刷人が数百年にわたり手がけてきた「紙」媒体の立場に立てば、3つの視点が必要だと考える。紙を増やす、紙以外の素材や媒体に展開する、紙とデジタルを組み合わせる。これらは相反するようでも、どれひとつ欠かせない▼紙媒体の減少は今後も避けられないが、紙の良さのアピールや新商品の開発などで減らさない努力は必要だ。一方、フィルムや壁紙、ウインドウ、食品まで印刷可能な素材は無限にある。電子チラシや電子コミックにしても、コンテンツは印刷用データが基になる▼紙媒体とQRコード、ARとの融合はまだ普及初期。メールで一次案内、見込み客には高級DMを郵送、あるいはSNSで拡散しWebに誘導して申込・購買、籠落ち客にはデジタル印刷ですぐにフォローDMとなれば、完全にマーケティング戦略の領域だ。スマートフォンへの情報配信では動画スキルの習得も必要になる。印刷会社に立ち止まっている暇などない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年1月24日付
 前回、AIが経済・文化の新たな成長ストーリーを導くという見通しを述べたが、あまりに楽観的すぎるというお叱りもあるだろう。年末年始にNHKで放映された「"衝撃の書"が語る人類の未来〜ホモ・デウス」をご覧になった方は、特にそう感じられるかもしれない▼歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が著した『ホモ・デウス』は、人間とコンピュータが融合することによる限りない可能性を示す一方、人間がチップやデータと化し、データの洪水の中で存在が消え失せ、挙句の果てにAIに支配される最悪のシナリオを描いて警鐘を鳴らした▼その端緒が、個人の信用度をAIが判定する「信用スコア」だ。すでに中国では、数値が就活や婚活、融資の査定に影響し始めている。日本でも、金融機関がこぞって信用スコアの採用に動き出した▼人間は、スコアを落とさぬようビクビクしながら、規格品の生き方を強いられるのか。新たな選民思想、階層社会の始まりが予感される。「俺には関係ねえよ」と強がり、不良ぶるほど、スコアは下がり続け、居場所が狭められていく地獄のループが恐ろしい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年1月17日付
 「印刷革命が人類の文化・文明を変えた。知識が主役の座を得たのも活版印刷の発明以降のことだった」、「印刷革命の後、今日の情報技術出現までの約500年間、知識労働の生産性に関しては大した進展は見られなかった」。かのピーター・ドラッカーが、2005年に雑誌のインタビューで語った言葉だ▼今、これほどIoT革命、AI革命が叫ばれていても、本質は変わっていないのではないか。ホワイトカラーの生産性の低さが言われ続け、特に日本では深刻な問題となっている▼IoT、AIが真に活用されるのはこれからで、今は過渡期、混乱期にある。やがて、「印刷」と同じく生活や知識活動のインフラとして定着した時、経済と文化の新たな発展が始まると期待できる。働き方、生き方も大きく変質するだろう▼同じインタビューの中でドラッカーは「文明をつくるのは技術であり、テクノロジストだ」と述べた上で、「新技術についての予測は無効であり、必要なのはモニタリング。観察し、評価し、判定していくことこそがマネジメントの責任である」と、新技術に向き合う心得を説いた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2019年1月3日付
 2019年の印刷需要はどうなるか。特需としては改元、選挙、消費税率改定、プレミアム商品券、五輪関連のほか、活発な企業の合併・再編などがある。だが、すでに和暦を回避した印刷物が出回っている。消費税関連も、印刷物への影響は大きくなさそうだ。以前とは、帳票や商品カタログのWebへの移行度合いが違う▼用紙や刷版の出荷統計を見ても、紙ベースの製品の需要は明らかに減少している。特需に期待する発想そのものを改めた方がいい。あくまでも「特」需であり、経営に寄与する持続性はない。目指すは、やはり仕事の創造だ▼新しい製品やサービスを生み出すうえでは、印刷会社が持つ編集、加工、品質保証に関わる力は大きな武器となる。自社内でデザインし、印刷物を好きなだけ作れる業種も他にない。姉妹誌の月刊『印刷情報』1月号には、地域密着型の新媒体を活用した高収益ビジネスモデルの開発事例などを紹介している。ぜひお読みいただきたい▼仕事をいただくという受け身の発想から抜けきれない会社は、今後ますます厳しくなる。「困り事の解決」─すべての突破口はそこにある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年12月20日付
 2018年は、「働き方改革」が叫ばれ続けた一年だった。試行錯誤する多くの経営者に話を聞いた。結果を早く出そうと焦り過ぎた経営者もいる。従業員には、それぞれの仕事の流儀、プライド、残業代が減ることへの不安、会社への愛着・反骨など、実にいろいろな感情が渦巻いている。そうした全体を束ね、良い方向へと導くには、やはり一定の時間がかかる▼正月の箱根駅伝が近づいてきた。5連覇に最も近い位置にいる青山学院大学の原晋監督は、選手の自主性を引き出すことで結果を出してきた。規律や指導はもちろん大事だが、各人が自分の頭で考え、行動することは、もっと大事だ▼先日、こんな話を聞いた。社長が「全部門残業時間10%削減」を目標に掲げたところ、効率化では今以上の上積みが少ない工場の管理者から、最も残業が多い営業部のサポートを製造部が行いたいと申し出があった。「会社全体として10%削減になればいいのではないですか」と。▼この会社は良くなると予感した。会社はチーム、かつ一人ひとりの自律がある。法改正への対応とは別の眼も持つ来年でありたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年12月13日付
 「教科書に書いてあることをすべて信じてはいけない」。2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑・京都大学特別教授による科学者としてのモノを見る姿勢が伝わってくる言葉だ。「科学誌に出ているものの9割は嘘」と語り、事実を見極めるには自分の目で確かめ、自分の頭で考えることの大切さを説く▼2012年に大阪のオフセット校正印刷会社で発生した胆管がん問題の際、主任研究者として問題の調査・原因究明にあたった大阪労働衛生総合センター所長・圓藤吟史氏による日印産連の講演があった▼従業員の身体をいつの間にか蝕み、潜伏期間が長い有害化学物質による「職業がん」。圓藤氏は、判明しているのは氷山の一角であり、「もし校正印刷会社の事例が明るみに出なかったら、今もその危険性はわからなかっただろう」と発見の難しさを指摘する▼「うちは有機則や特化則に載っているものは使っていない」「安全データシート(SDS)に発がん性があると書いていない」。だから…大丈夫だと思ってやしないか。圓藤氏は「安全神話を疑え」「SDSを批判的に読め」と訴える。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年12月6日付
 2025年の大阪万博は東京五輪の5年後。前回も五輪から1970年の万博まで5年半。まるでフィルムを巻き戻したかのようだ。だが、人口増加に支えられた当時の高度経済成長期とはまったく状況が異なる▼その成長期にあってさえ、万博の後ほどなくして二度のオイルショックを経験し、さらに昭和の終わりのバブル崩壊まで突き進んだ。今度は何が待ち構えるのか。次に来る経済の冷え込みはリーマンショックの比ではないと予測する人もいる。開催決定に浮かれてばかりはいられない▼大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。AI、IoT、VRが想像を超える進化を遂げ、人類の未来を見せることになるのだろう。そして、オイルショックが石油依存経済の脆弱さを露呈したように、エネルギー問題が正面から取り上げられることも間違いない▼来年6月に大阪でG20サミットが開かれる。昨年のG7サミットでは「海洋プラスチック憲章」を承認しなかった日本も、開発途上国を含めた取組みの推進を条件に賛同する意向だ。印刷業界にとって、複雑な対応を迫られる問題でもある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月29日付
 働き方改革関連法の施行による影響が、いよいよ現実味を帯びて迫ってきた。来年4月から有給休暇5日取得の義務化、再来年4月から時間外労働の上限規制が中小企業でも始まる。法を守れ、税金は納めよというが、仕事時間は制限、人手は不足で逃げ場がない。嘆き節がそこかしこで聞かれる▼人海戦術が通用しないなら生産性の向上しかない。改善程度では焼け石に水。異次元の生産効率の追求をやり切れるかどうか。そこが生命線となる▼国の課題も同じだ。人口減少社会の中で成長を目指すには、全産業、全職種で労働生産性を向上させる以外にない。併せて、旧弊で非効率な行政手続き、商習慣、教育制度も改める必要がある▼懸念されるのは、働き方改革が価値の創出ではなく、単純に業務量の削減に向かう傾向だ。普通郵便や宅配便の土曜配達、地銀の昼時間業務などの中止が検討され始めた。役所の業務も追随するはずだ。市民は今でも役所や銀行の土日サービスの不在で、必要があれば仕事を休まなければならない。安易な労働負荷軽減はサービスの質の低下を招き、他者の改革の足を引っ張る。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月22日付
 大手製紙各社の値上げ発表は、またしても同時期の発表、同一の値上げ幅、同一日の出荷分からの実施となった。この不公正に対して、印刷業界もこれまで散々抗議し、改善を求めてきた。しかし、製紙業界は我関せずの構えだ。強力な資金力と政治力をバックにした強気が感じられる▼各社一様に原燃料価格や物流経費の上昇を理由に挙げるが、第2四半期決算では業績の上方修正と下方修正に分かれている。値上げの実施か否か、あるいは値上げ幅にも差があって当然だ。大王製紙は「電子化による構造的な需要減少」まで理由に加えている。それこそ、まさに印刷業界の悩みであり、主客逆転ではないか▼過去の値上げでは、実施から1、2年で緩やかに価格が下がり、再び一斉の値上げ発表を繰り返してきた。そのたびに印刷業界は翻弄され、余分な神経を遣わされる▼抄紙機の停止など、国内向けは各社とも減産の方向が明らか。ただし、個別の操業効率向上と好調な輸出にだけ目が行き、製紙業界全体での生産協調がないため、需給バランスの適正化につながらない。日本製紙連合会の指導力を問いたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月8日付
 10月に高知で開催された全印工連フォーラムの初めに、細井俊男副会長が紹介した英国のメトロバンクの話に刺激を受けた方も多いだろう。2010年に創業され、瞬く間に5大銀行の仲間入りを果たした▼徹底的に顧客満足を追求する同行は、従来の銀行のイメージを完全に覆した。ほぼ年中無休で営業し、ガラス張りの店舗、明るいウェアの行員が満面の笑みで対応、ペット連れもオーケー、子どもが来ればキャンディをあげ、ドライブスルー付きの店舗もあるとか▼金利は他行より低く、金融商品も絞っているが、浮いたコストをすべて顧客満足向上のためのサービスに注ぎ込んでいる。結果的にお客が選んだのはメトロバンクだったというわけだ▼細井副会長は「私たちはどうしてもコストと品質の両方を求めてしまうが、本来はトレードオフ。どちらも中途半端に終わっては本当の変革になりえない。他社が躊躇するぐらいの変革をやらなければ差別化はできず、業態を百八十度方向転換するぐらいでないと未来はない」と話した。歴史と伝統ある印刷業だからこそ、やれていないことは多いはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月1日付
 「カネは現場に落ちている」と言われる。社内で当り前と思い込んでいる事にメスを入れるだけで利益率は大きく違ってくる。その一つに業務の「見える化」がある。先日も某セミナーで、すべての業務情報のデータベース化から始め、社員に改善意識を浸透させ、成果をものにした印刷会社社長の話を聞いた▼キーワードは「定性化から定量化へ」。金額と時間で仕事の達成目標を点数化し、全社員の成績をネット環境で共有したところ、経常利益はたちまち6%近く跳ね上がった。同社は現在、粗利率が60%台後半(同業他社平均は42%、※日本政策金融公庫調べ)、経常利益率が10%台前半(同2%強)で推移している▼見える化セミナーは頻繁に開かれているが、一向に業界に浸透せず、講師にも徒労感が強い。聴く側に「あの会社は特別。うちはそこまでできない」という諦めが最初からあるように思える▼従業員とは、現状を変えたくない生き物。経営者がそれを打ち破る以外にない。ライバルとの競争以前に、本当の戦いは内部にある。社長は会社をどうしたいのか? 見える化以前の「見せる化」が重要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月25日付
 トッパンフォームズ関西では、パート従業員のチーム編成を決めるのにAIを活用している。最も作業効率の上がる組合せは何か。あらゆる可能性が考えられる中、監督者の裁量ではどうしても限界があり、主観も入る。1年間試行した結果、AIに軍配が上がった▼個々の従業員の経験、スキル、実績などの情報を入力するのは人間だが、AIが自己学習を重ね、仕事内容に合わせてより適切な判断を下せるようになっていく。従業員の満足度も向上した。取引先の大手企業もその話題に興味津津だという▼別の印刷会社では、工務が行っている生産機へのジョブの割振りにAIの導入を検討中だ。広島のアスコンは、AIを活用して折込チラシの修正前後の照合を行う自動校正システムを方正と共同開発した。AIと聞くと、すぐにビッグデータの解析・分析を思い浮かべてしまうが、現場に近い地味な作業にもいろいろな可能性がある▼AIが仕事を奪うと恐れる声がある。しかし、この場合、責任から幾分解放され、能率も業績も上がって安心するのは、監督者であり、工務や校正者であるかもしれない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月18日付
 地方に出張して、タクシーの運転手や店主などに印刷に関連した取材でやってきた旨を告げると、例外なく、「印刷は大変でしょう」と同意を求めるような答が返ってくる。楽なわけではないので、半面は正しいが、半面は正しくない。説明が面倒なので、大概うやむやな話に終わってしまう▼それほど、一般の人たちに経営的に"キツイ"印刷のイメージが浸透していることは、由々しき事態である。彼らの言葉には、これも必ずと言っていいほど、「今はなんでもネットだからね」と続く。ほぼ国民全員が同じ認識でいると考えて間違いない▼本当は、紙媒体がなければ有効なクロスメディア戦略もできないのですよ。印刷会社の仕事の領域は恐ろしく拡がりを見せているのですよ。その真実を一体どのように伝えていけばいいのか▼全印工連高知大会で講演した作家の山本一力氏は、印刷された物にどれほど人の手が掛かっていて、だからこそ信頼があることを語りながら、出版不況を嘆く前に編集者はスマホではなく本を読めと諭した。これからは印刷の真実を、誰にでもわかるように地道に語っていこうと思う。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月11日付
 ローソンと金足農業高校が共同開発した「金農パンケーキ」が大人気だ。甲子園での活躍で秋田県内では常に品薄状態。量産体制を整えて、東北6県の1100店舗でも発売された。同県では、秋田印刷製本による地元の米農家支援やブランド食品開発も有名だ▼仙台市のユーメディアが主催するビールの祭典「仙台オクトーバーフェスト」は今年13回目を迎えた。来場10万人のイベントに育ち、秋の恒例行事として定着した。印刷業を母体とする会社の運営だとは、お客の多くは意識していないはずだ。今野均社長は「食」に大きな可能性を感じ、レシピ開発による販促支援なども視野に入れる▼先日取材した西日本の印刷会社では、この夏から始めたクラウドファンディング事業の支援先の一つとして、地元の牧場と食品加工業者による提携を選んだ。和洋折衷の新感覚の商品開発で、新たな地元の名産を育てたいと意気込む▼「食」は不況に強いだけでなく、素材と流通の間で何かがスパークした時の勢いは計り知れない。業態変革のきっかけとして、印刷会社が描く新たな食のストーリーに今後も期待したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月4日付
 先日聴いたダイバーシティ経営セミナーでは、登壇した各地の印刷会社の経営層が一様に採用難を口にしていた。若い人を育てたいが、高校生の多くが県外に流出してしまい、シニア層に頼らざるをえない。中途採用、外国人労働者、派遣社員のほか、廃業した会社にツテを頼った例もあった▼過去に見学した先進企業における障害者雇用の好事例も紹介された。食品トレー製造大手のエフピコ(福山市)では、回収トレーの選別作業に採用し、高い集中力を活かして生産性と品質が向上。食品包装資材製造の吉村(東京都品川区)では、目の不自由な社員を電話業務に付けることで、根気強く先方にアプローチを続けてくれるという▼「多様な個性を職場に活かすダイバーシティ経営は、印刷会社が選ばれていくための重要な戦略」という言葉が、明快に本質を言い当てていた。「こんな会社で働いてみたい」と思わせる人材戦略は、「こんな会社に仕事を頼みたい」と思わせる経営戦略でもある▼「人が足りないから補充する」は無策。「人を活かすために会社が変わる」意識を持つことが、企業の生命線となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月27日付
 「自社の商品には自信を持っている。しかし、それだけでは…」。近頃、メーカーの弱気の声を聞く。家電にせよ、食品にせよ、日本の厳しい品質基準をクリアし、機能や味も申し分ない。それなのに、「質の良さだけでは売れない。その前での差別化が勝負」というわけだ。メーカーは、より多くの「いいね!」を手に入れることに汲々としている▼この商品がなぜ優れているのか、コンセプトからじっくり説き起こしても、現代の消費者をつかまえることは難しい。頭の構造はすっかり3Dイメージ化していて、商品そのものが持つ価値より、使っている自分の心地よさ、おしゃれ度合、他人から見られた時のイメージが最優先なのだ▼そうした消費者を引き付ける方法はひとつしかない。作ってから宣伝力で売るのではなく、商品開発段階から生活シーンでの徹底した快適な使用感を描き、コンセプトに沿った商品を実現することだ▼リーマンショックから10年。いまやSNSに翻弄される企業の課題解決を手伝うのなら、印刷業界も開発段階からの参画という大きなハードルをクリアしないわけにはいかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月20日付
 北海道胆振東部地震では、震源地に最も近い印刷会社で印刷機や加工機がすべて転倒し、シリンダーが折れるなどの被害があったと聞く。それほど地震のエネルギーは凄まじい。屋根の落下や機械のズレも報告された。札幌市でも液状化現象や配管のズレなどが起きた一方、市内の別の場所では物ひとつ落ちなかった会社がある▼今回の地震では停電による被害が道全体に及んだ。災害時でもつながりやすいと謳われた通信回線サービスが機能せず、社員の安否をつかむのに時間を要した会社が多い。サーバーへのアクセス集中による混線はいつでも避けがたい▼スマホの充電具合を気にしながら、メーカーからの個別の状況確認に対応するのが大変だったという声も。メーカー連携で一次情報が共有され、業界関係者がそれを一覧できる仕組みがあれば、それぞれの負担が大きく軽減されるだろう▼台風21号では、浸水や印刷工場の屋根、シャッター、看板、外壁の破損等の被害が伝わる。台風については少なくとも10月下旬まで警戒を怠れない。被災企業と地域の、一日も早い復旧と今後の無事を祈るばかりだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月13日付
 ホモ・サピエンスとともに残り、最後は絶滅したネアンデルタール人。両者の運命を分けたのは、その生活規模にあったとされる。家族単位で分散していた後者に対し、ホモ・サピエンスは4〜5万年前に、すでに百数十人規模での生活の痕跡がある。道具などの新しい工夫は集団の中で伝播し、進歩を促し、生存を有利にした▼地球規模で情報が飛び交い、たちどころに最新知識が共有される現代は、幾何級数的に進化の速度が増すのも当然だ。何百万年もかけて進化してきたヒト属が、生き物としてどこまで追いつけるか。生存で不利を被るのは誰か▼無人店舗の実現はそう遠くない。街で拾っていたタクシーも、配車アプリで無人車を呼び、乗車する人が行き先を自分で入力し、目的地まで黙って運んでくれる未来シーンの中に消え去りかねない▼壁画や石柱、巻物、四十二行聖書の昔から、印刷の原点はコミュニケーション支援にあった。そして、デジタル技術が社会を大きく変えるほど、未来の印刷はコミュニケーションの創造や再生、コミュニティづくりを使命とする方向へと比重が傾いていく予感がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月6日付
 先月28日に行われた印刷工業会の講演会は、リクルート出身の藤原和博氏を講師に迎えた。テーマとなった「坂の上の坂」とは、司馬遼太郎の作品『坂の上の雲』に対する言葉である。藤原氏は、明治、昭和・平成、そしてこれからの時代を生きる3世代の「人生のエネルギーカーブ」の違いについて語った▼明治は、若くしてピークに至り40〜50代を境に隠居して余生を送る「坂の上の雲型」。昭和・平成は、60〜65歳での定年退職を前提にした「富士山型一山主義」。人生百年となり時間が大幅に増えた次世代は、いくつもの山を登る「八ヶ岳型連峰主義」でなければ生きづらいという▼「若い人なら、10個ぐらいの足場を築く複線型でいい。親の世代も、今ならスイッチの切り替えはまだ間に合う」と藤原氏。さて、当日の参加者はどう受け止めたか▼母親が世話になっている老人ホームの入居者の平均年齢は86歳。80歳ではまだ若いと言われる。とはいえ、どう見ても"時の止まった"人たちばかりなのが寒々しい。長く生きるほど価値が積み上がる生き方に向けて、準備は早すぎるぐらいでいいようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月30日付
 IGAS2018でも言葉が飛び交った「スマートファクトリー」。会場の特別企画ゾーンでは連日多くの関連情報が発信されたが、肝腎のスマートファクトリーの定義については、各社で解釈やスタンスがまちまちなのが興味深かった▼オーソドックスな意見としては、「AIやIoTを活用した自動化・標準化」に集約される。だが、あるデジタルプレスメーカーは「ソリューション提案、生産性向上、効果測定のサイクルを回すこと」だと言い、別のソフトウェアベンダーは「トラッキング可能なデマンドチェーンが拡大する中で、お客様のインフラになること」だと言う▼いずれにせよ、製造本位の狭い領域の話ではない。ウイル・コーポレーションの若林圭太郎社長は「ビジネスのスマート化」をテーマに、印刷工場の都合で顧客のマーケティング施策が制限されるのではなく、顧客がその先の顧客に対し、最適な情報を最適なメディアとタイミングで届けるために印刷会社と工場はどうあるべきかを語った▼印刷工場は、もはや製造事業所というより、サプライチェーンマネジメントの拠点となりつつある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月23日付
 政府が「新たな外国人材の受入れ」を改革の基本方針に打ち出し、在留資格の見直しを始めた。中小企業の深刻な人手不足を考えると、かなり柔軟な仕組みの運用が予想される▼印刷・製本業界も今後、外国人採用なくして成り立たない可能性がある。埼玉県の折り専業者では、60人の従業員のうち、すでに3分の1が中国・ベトナムを中心とした外国人。ベトナムの印刷会社と提携する愛知県の製本会社では、現地で日本語の勉強と折り・断裁などの実習を行った上で毎年採用し、従業員の半数を海外研修生が占める▼慣れない環境で挫折する者もいるが、多くは勤勉で向上心が旺盛。急な休日出勤も厭わないので助かるという話を聞く。採用を継続するには、新人をうまく指導し、生活面の相談にも乗れる母国の"良き先輩"の存在がポイントになる▼法務省の在留外国人統計によると、技能実習生が増えるに伴い、職場からの失踪者も増加傾向にある。門戸を開いても、受入れ企業のコンプライアンスや風土に難があっては元も子もない。そこは国に先んじて各業界が自主的に啓発・点検を進めるべき課題だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月9日付
 印刷業界にもIoTが急速に浸透し始めている。プリプレスからポストプレス、配送・納品、在庫管理、メンテナンスに至るまで、あらゆる工程・機器の進捗・稼働状況がインターネットでリアルタイムに可視化できる時代が来た。把握しやすくなった製造原価、設備効率、エネルギーコスト、労働分配率などの情報をどう経営に活かすか▼このことは、働き方改革を進めるうえでも極めて重要になる。言うまでもなく、やみくもに「残業を減らせ、効率化せよ」では、社員は動きようがない。生産性を上げる効率的な働き方を実現する指標として、IoTで得られるデータは有効だ▼メーカー、印刷会社の双方に、労働力の確保が困難になるので、IoTやAIを活用して自動化・無人化を目指すという風潮があるのが気になる。それは結果であって、決して目的ではない▼今働いている社員の能力とチーム力を引き上げることが、業務の見える化の第一の目的であり、仕事の正当な評価とセットで考えなければならない。時間短縮を図った分、成果を報酬で還元する仕組みがあって、初めて社員の行動が伴う。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月2日付
 IGAS2018の最大のキーワードは、「つながり」だった。技術の融合、工程間連携、企業間連携のほか、顧客との連携、社内での連携など、実に幅広いテーマを含んでいる。その先には、「コネクテッド・インダストリーズ」、産業界全体の連携が待っている▼IGAS期間中に聴いたセミナーでも、多くの示唆に富む話があった。その一つに、販売と製造の断絶がある。市場や顧客を起点に出発すべきなのに、多くの企業が製造から始めてしまう。結果として、どんなに頑張っても「売れないモノ」を作り、苦しむ。マーケティング視点の欠如は致命的だ▼宣伝・販売方法がWebやSNSに偏りすぎることの弊害も指摘されていた。「デジタルは心を動かさない。ネットCMやメール一つでモノを買うことは少ない。リアルなモノや体験を重視している」と生活用品のブランドオーナーの話。そこに印刷会社の出番がある▼どちらもポイントに挙げられていたのは、販売と製造、商品と顧客の間を上手につなぐことのできる「人材」の大切さ。こればかりは、デジタルテクノロジーではどうにもならないようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月26日付
 万国博と百貨店、どちらも1850年代に生まれた。松岡正剛氏によると、すべての情報を一堂に集め、その興奮に参加してもらうコンセプトは、百科事典とマスメディアの出現を経て、経済文化モデルの近代の頂点に位置づけられる▼特にインターネットの登場以前、海外の最新情報が簡単に手に入らなかった時代は、印刷関連の展示会の興奮も大きなものがあった。その代表がドイツのdrupaであり、日本のIGASだ。情報が常に出回る現在は、趣が少し異なる▼本紙が届く頃、ちょうどIGAS2018が東京ビッグサイトで開幕しているはずだ。博覧会としての意義に変わりはない。ネットで得た情報で「わかったつもり」になるのではなく、IGASという"現場"であえて自分の既成概念を壊し、ブレークスルーを試みることが大事だろう。お客になってはいけない▼次回IGASの開催は2022年の予定。それまでIGASを上回る規模の印刷関連の国内展示会は見当たらない。ぜひ、五輪後の日本も見据えて見学いただきたい。ただし、酷暑への対策は怠りなく、体調には十分注意されるように。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月19日付
 西日本豪雨で孤立した被災者、避難所の人たちの安全確保は時間との戦いだ。だが、そうした切迫した状況が、すぐ我が身にも降りかかる可能性があると身構えている人が、たとえば首都圏にどれだけいるかとなると、甚だ心許ない▼近頃、東京駅の新幹線口に立ち、あまりの混雑に恐怖を覚えることがある。外国人客の増加も影響しているのだろう。もし災害やテロが起きたなら、パニックが引き起こす被害は尋常でない。それでも人間には「自分だけは大丈夫」という根拠なき正常性バイアスが働く▼ユーチューブで見られる警告映像に、東京消防庁による首都圏水没のシミュレーション動画がある。「荒川氾濫」で検索できるので、ぜひご覧いただきたい。水害の恐怖を実感できるはずだ。内閣府の「南海トラフ巨大地震」という動画もある▼豪雨の被害が拡大した要因の一つとして大学教授が、昼に比較的雨量が少なく、夜間に集中的に降り続いたことを挙げていた。「この分なら夜も平気だろう」という思い込み、夜は自宅待機という習慣からの縛り。それらをどう自分で壊していくか。生死を分ける境目となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月12日付
 「AIを知らなければ生きていけない」という人がいる。AI(人工知能)不在の世に逆戻りすることがないのは事実だが、AIを主、人間を従とする感性は、ますます人間の弱体化を招くだけではないか▼「AIにビジョンは語れない」、「AIはあえて損をすることができない」─そうした発言も、人間らしさとは何かを意識する中から出てくる。先日の某新聞には、「AIは死ぬことができない」という作家の言葉があった。死を意識するのは、究極の人間の主体性かもしれない▼もっとも、泣き笑いだけでなく、同情したり、悲観したりする「高度な感情を持つAI」の研究開発も進められている。脳の機能の解明に活かすのはいいが、人間に近づけることにどれほどの意味があるか▼AIは人を育てるかという命題もある。教育とはつまるところ、庇護者がいなくなっても、本人が強く生き抜いていけるようにすることが目的。そして、一人で最期を迎える時、「ああ、いい人生だった」と思えるようにすることだ。「AIロボットがいてくれて楽しい人生だった」と感謝して世を去る人の時代も来るのだろうか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月5日付
 製本用資材に含まれる溶剤の問題で製本業界が揺れている。都の労基署から改善要請を受けた事例が出たことがきっかけだ。溶剤そのものは禁止物質ではなく、取扱いにもさほど問題はなかったが、企業に要求される対応レベルは年々高くなる一方▼今回の例では、労働時間の調査などが主目的だったにも関わらず、蓋を開けてみれば労働環境全般に細かいチェックが及んだ。働き方改革の流れが強まる中、改めて労働安全衛生にも厳しい視線が向けられている▼2016年に改正労安法が施行され、指定化学物質を取り扱う事業場にリスクアセスメントの実施が義務づけられた。しかし、昔から使い続け、日常化している溶剤を見直すには、実際の意識がなかなか追い付かない▼東京都製本工業組合では今月18日、組合員を対象に特別セミナーを開催すると同時に、リスクアセスメントへの認識などアンケート調査を実施した。まずはSDS(安全データシート)の理解に立ち戻り、リスクの未然防止に向け底辺からの取組みを進める。印刷業界全体を震憾とさせた胆管がん問題から6年。教訓を忘れてはいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月28日付
 6月6日の中小印刷産業振興議員連盟の総会では、知的財産権の適切な取扱いに関する各県印刷工業組合の啓発活動成果として好事例が報告された。愛知県では「印刷会社が修正・作成した印刷用データの著作権は、元データを県が提供した場合でも印刷会社に帰属するので、提出させることはできない」と庁内で注意喚起している▼兵庫県では、仕様書でデザイン・レイアウト等を「要」とした場合やイラストを「作成」、写真を「業者準備」とした場合、「著作権は県に帰属する」とは記載できない。また仕様書にデータを求めるかどうかの記載欄を設け、求める場合もPDFデータのみとした▼福岡県は、イラストレータや高画質PDFなど流用可能なデータ形式で納品を求める文言を仕様書から削除し、「ホームページ掲載用のPDFデータ」といった利用目的を定めた表記に改めた▼全印工連の池尻淳一専務理事は「やっと認められた知財権の財産的価値をきちんとものにするには、官庁の担当者より進んだ勉強をすべき。内容を問われて答えられないようでは困る。今後問合せが増えることも間違いない」と話す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月21日付
 18日朝、大阪府北部で震度6弱の地震。発生から1時間ほどして豊中市に住む妹から届いたメールには「今まで経験したことのない揺れでした。怖い。家がグチャグチャ。息子は電車に閉じ込められたけど、今は駅で降ろされたようです」とあった。その後も、「震度2程度でも心臓がバクバクする」との連絡あり▼震源が浅く局所的に大きな揺れが起きたと気象庁の発表。近い地域でも、どこに居るかによって体感度や恐怖は大きく違う。一概に数字だけで判断できない。警戒を緩めてはならないが、パニックになるのもいけない▼今回も大手メディアがネットニュースで、店舗内に商品が散乱したツイッターの投稿写真を紹介しながら、「被害甚大か」と報道した。水や食糧の過度の買い占めを煽るような報道の仕方は慎むべきだ▼大阪の前日には、群馬で震度5弱の地震。いつ、どこで震災が起きてもおかしくない。一次被害の後に待ち構えているのは、インフラの麻痺、避難所での健康障害、この時期は特に雨による地盤の崩れや食中毒など。発生から時間が経過しても困難は続く。正しい情報配信の大切さは増す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月14日付
 本紙には、たしかにハード・ソフトの導入読み物が多い。「どの会社が何を買ったという話より、新しいビジネス展開をもっと紹介せよ」との意見もいただく。しかし、会社の投資は戦略そのもの。よく読んでもらえれば、導入の背景にある経営者のビジョンと判断、顧客や現場が抱える課題と解決への知恵が見て取れる▼最近の記事では、製本の入口である断裁を高速化・自動化することでセットアップ時間を大幅短縮したシュウエイ、OEE(総合設備効率)の限界に挑むマルアイやウエマツなど、利益創出のカギが現場にまだまだあることを窺わせる▼インラインフォイラーを偽造防止技術に応用し顧客の困り事の解決を目指す中央印刷、制作・営業部門と顧客を直接つなぐワークフローの確立で双方の作業負荷やミス・ロスを削減したユニバーサルポストのように、価格ではなく、サービスの質で評価されるための果敢な投資も目を引く▼記事では特定の製品名が先に立つ事情もあるが、それは導入各社の経営戦略の一部。語られている情勢判断や哲学に思いを寄せて、会社全体を読み解いていただければ助かる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月7日付
 前号掲載の座談会で、アサプリホールディングスの松岡祐司社長が「私の夢は、情報産業の中で"多角化連邦経営"ができる一流の中小企業グループになること」と発言している。1社で売上100億円、利益10億円の会社をつくることは難しい。そこで、得意分野が異なる売上10億円、利益1億円の会社を10社つくる構想だ▼印刷・製本会社から出発したシー・レップの北田浩之社長も、同社を中核とするCCGグループ5社を形成し、不動産、アミューズメント、教育など業界特化型のビジネスで売上50億円を超えた。北田社長は100億円のグループ売上、100人のリーダーの育成、100通りの事業モデルの実現を掲げる▼両者に共通するのは、リーダーをたくさん生むことで、ポジションや年収が増え、社員のやる気が増し、多角化と相乗効果で経営基盤の安定にもつながるという考え方だ▼若い社員には売上1000万円、利益100万円の事業の立上げを働きかけてみてはどうか。ただし、5年後に売上1億円、利益1000万円となる構想と計画を、初めにしっかり説明させることが肝要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月31日付
 電子出版制作・流通協議会(電流協)は、「海賊版サイト対策研究WG」を新設し、電子出版に関わる各ステークホルダーと連携しながら対策に本格的に取り組む。鎌仲宏治会長は「電子出版だけでなく紙の出版の市場にも大きな影響がある。今年は特にこの活動に力を入れる」と話す▼政府の知的財産戦略本部は4月13日に発表した緊急対策で、インターネット・サービス・プロバイダーに対し、海賊版サイトへの自主的なブロッキングを促した。その悪質性についに国も動き出した▼5月22日の電流協総会では、経済産業省コンテンツ産業課の来賓が「違法事業者への削減要請の継続、法的な措置、消費者への広報活動、広告出稿の抑制依頼などを合わせて取り組むことが大事だ。関係業界団体や省庁と連携しながら、権利者とクリエイターの適正な利益確保に努めていく」と述べた▼海賊版サイトによる出版物関連の年間被害額は1兆円を超えるともいわれる。運営管理者は海外のネットサーバーを経由し、巧みに身を隠す。コンテンツは本来"タダ"ではない。利用者にも毅然とした姿勢を求めたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月24日付
 全日本印刷工業組合連合会は、物流コスト上昇への理解を取引先に求める文書を発行。全国グラビア協同組合連合会も、軟包装資材の原材料費の上昇に理解を求める文書の中で、物流コストの高騰を文面に盛り込んだ。資材価格だけでなく、物流費の上昇分を請求する動きが活発になっている▼適正運賃を推進するため、国土交通省と厚生労働省は「トラック運送業の適正運賃・料金検討会」を立ち上げ、そこでの議論を踏まえて国土交通省が昨年11月に「標準貨物自動車運送約款」を改正、運送の対価である「運賃」と、運送以外の役務の対価としての「料金」の区分を明確にするよう定めた▼物流費の適正な請求の流れを捉え、印刷業も業界を挙げて運動を進める必要がある。3月に開かれた出版物流協議会では、印刷・製本業界側から、業量の減少と併せたコスト上昇への危機感が、出版社や取次会社に訴えられた▼東京都製本工業組合書籍・雑誌部会の金子誉部会長は「設備、物流の両面にわたり、製本会社も互いにシェアできるところはシェアし、プラットフォームの共有化を進めることが大事だ」と話す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月17日付
 各印刷関連団体から、今年度以降の新たな事業計画が発表されている。常々感じるのは、それぞれ似たテーマを掲げ、おびただしい数のセミナーや研修を実施している非効率だ。各団体の独自色が強い企画は別にしても、働き方改革や事業承継、需要開拓、IT活用など、共通する課題については垣根を越えた参加形式や共同主催がもっとあっていい。集客や設営に関わる労力、講師料・会場費・資料代などのムダもない▼もうひとつは、受講者が主体的に加われる内容が少ないこと。講師からの一方通行の伝達は心を波立たせない。自身で考え、発言し、他の参加者と交流できるプログラムを増やすべきだ▼できれば、会員企業の中から講師に名乗り出られるような流れを作りたい。あるいは、自社をオープンにした見学会の開催に手を挙げてもらう企画など。すばらしい実践をしていて、それを他社に話したい、見てもらいたいと望む企業は業界内にたくさんある▼もちろん、他社を知りたい要望はもっと多い。互いにカネをかけず、刺激しあいながら学び、交流や資産の共有にもつながる能動的な方法はきっとある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月10日付
 じわじわと拡がった活版ブームと同じく、ほしおさなえさんの『活版印刷三日月堂』(ポプラ文庫)が静かにヒットしている。活版から受ける地味な連想ゆえ手に取るのが遅れたのだが、一読心をつかまれ、涙腺は刺激されっぱなしだった▼埼玉・川越を舞台に、祖父が営んでいた活版印刷所を再開した月野弓子。彼女と三日月堂に関わる人々の物語が連作形式で展開される。さながら、「印刷業界のニューヒロイン誕生」と言いたくなる主人公は、職人でありながら、本人は意識せずに見事な営業手腕を発揮している点でも興味深い▼同書では、心に沁みる句・歌・詩の味わいとともに、人の思いを形にして残す印刷の仕事の意義が浮かび上がる。シリーズ三作目に収められた『川の合流する場所で』は、盛岡の川口印刷工業がモデル。現代の先端技術や採算性の問題との対比で、違う角度から意義を考えさせる▼物語は今、祖父が残した平台の大型活版印刷機を動かそうと弓子が意気込むところまで。さて、この先どうなるか。著者には、ひとまずここまでという考えもあるようだが、ぜひ続編を望みたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月26日付
 初めて銀行口座を持った我が娘に、現物の通帳はない。初めからネットバンキングである。大学の履修届けもすべてネットから。世代間で感性まで変わってきて当然だろう。金融機関は連帯保証なしの融資サービスの導入を始めた。AIが入出金データなどから与信判断を下すという▼総務省は、2040年までに実現したい社会から逆算した未来ビジョンをまとめ、急激な人口減少の負をICT導入で消し去る成長戦略を打ち出した。未来の生活シーンに描くのは、完全キャッシュレスの支払と購買履歴や信用形成の自動化、遠隔地にいる祖父母と孫がリアルなVRで一緒に海中散歩、24時間受付が当り前の自治体ではネット窓口で執事ロボが対応、など▼21世紀は仮想の時代、割り切りの時代にどんどん向かい、所有を前提としない社会が近づく。生活の質感の薄れが人の心にどう影響していくか▼この春、横浜市のみなとみらい地区に、10年間の期間限定小学校が開校した。開発が一段落した後を見越した発想は斬新だが、子供たちの心にまで合理化が及ばないように。心の拠りどころにも確かな発想が欲しい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月19日付
 3月には、凸版印刷元社長で日本印刷産業連合会元会長の藤田弘道氏、全日本印刷工業組合連合会元会長の中村守利氏が相次いで亡くなられた。両氏とも、時代の大きな節目にあたり、先見性を持って業界を導いたリーダーであった▼2007年印刷文化典での「印刷文化賞」受賞謝辞で藤田氏が、若い頃に営業として味わった悔しさをバネに、なんとか印刷業界の地位を引き上げたい一心で頑張ってきたことを明かしたのが強く印象に残る。そして、「日印産連会長を12年間務める間、印刷業界に立派な若者が大勢来るように努力してきたつもりだ」と、印刷産業への愛を語った▼中村氏が全印工連会長に就任したのは、翌年に中小企業近代化促進法の廃止を控えた1998年。それ以前から組合独自の業界計画策定に着手し、2000年に「全印工連2005計画」を発表。目先の利益追求ではなく、価値創造による永続的な企業体質づくりを目指し、経営のソフト化を打ち出した▼中村氏が唱えた「共創ネットワーク」という言葉と思想は、今日なお、印刷業界の課題解決の鍵として我々に突き付けられている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月12日付
 チラシ印刷を主力にする会社の元気な事例を続けて見聞きした。企画・デザイン制作の力を磨き、お客と直に接して、集客や販促についての要望を丁寧に掬い上げ、お客から頼りにされている。社長が率先して行動し、社員への教育投資を惜しまない▼北関東のM社は、美容室チェーンの新たなロゴマーク、セールスコンセプトの作成を依頼され、それが経営方針書にまで採用された。北陸のN社は、包装紙の印刷で付き合いのある老舗製菓店から、戦略的なアンテナショップの店舗設計すべてを任された。両社とも、最終決定に至るまで何十もの案を作り、繰り返し提案を行う▼「『あなたの伝えたい をお手伝い』 日本一のお客様に寄り添える会社へ」、「人々の心に歓びを創り、社会をより豊かにする」─。経営理念も明確だ。やり方は泥臭いかもしれないが、目指すところに向かって一心に勉強し、知恵を絞る▼両社のホームページは、一見しただけで、「この会社なら、きっと何かをやってくれる」と期待を抱かせる。扱う媒体が「前年比○%減」などという統計数字には、「とても構っていられない」ことだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月5日付
 ドイツで先行したインダストリー4.0に対して、アメリカの産業政策はROI(投資収益率)重視の傾向が強いと指摘される。生産システムの自動化・効率化はいいが、そこで処理する仕事そのものがなければ始まらない。新しい需要を生み出すためのカネは積極的に使って利益につなげるという考えだ▼ムダの徹底した削減を図るのも、マーケティングとアイデアで市場創造を図るのも、無論どちらも重要であり、兼ね備えた国は世界最強となるはずだ▼さて、「コネクテッド・インダストリーズ」政策を掲げる日本。IT後進国といわれ、大企業の内部留保は膨らむばかり。給与所得は増えず、労働人口の減少を補うためのロボットやAIに投資が集中する。中小企業は、ものづくり補助金でハードは厚みを増す一方、働き方改革は長時間労働の抑制が中心。生産性向上が価値創造に結び付かない▼このままでは、ドイツにもアメリカにもなれずに終わる危惧がある。本気で変わろうとする企業をより大きく伸ばし、産業の核として育てるぐらいの、メリハリの利いた政策がなければ追い付けない位置にいる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年3月29日付
 全国大学生協連の調査で、読書時間ゼロの大学生が初めて5割を超えた。1日の平均読書時間(電子書籍含む)は23.6分。最近、40代の印刷会社社長からも「スマホを使っているうちに本が読めなくなった。数ページで頭に入らなくなってしまう」と打ち明けられた。ITスキルと根気の両立は難しい▼他人の話を聞くことも同様だが、対象にじっくり向き合う習慣が薄れれば、記憶、感受、理解、整理の仕方が変わる。そこを見抜いて情報発信する側も、コンパクトでインパクトのある接触を試みてくる▼広告市場の変化について電通の北原利行氏は「従来マス広告の利用が盛んだった業種でネットへの出稿が増加。ブランディングは一般的に長期的な記憶に基づいて形成されると考えられるが、短期的な効果を追究するネット広告に新たな可能性が開けてきた」と指摘する▼アナログとデジタルの組合せが重要なことは自明でも、単純に「印刷メディアの役割は読ませる工夫」ともいかなくなってきた。感性に刺さる表現、商品を買う理由の直感的な伝達が、印刷側の今日的なクリエイティブの課題となる。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2018年3月20日付
  印刷可能な広告媒体は無限大▼某社の新年会の席で偶然隣り合った方が、梱包資材を扱う会社の部長だった。聞けば、フルカラーの段ボール印刷機を独自開発し、今年から本格稼働させるという。新しい分野に踏み込んでいく活気が伝わってきた。▼日本製紙連合会の統計を見ても、段ボール原紙の出荷は変わらず好調。アマゾンや楽天をはじめ、ネット通販の成長が主な要因だ。それを背景に段ボールが媒体として注目されている。▼今年1月の日本HP事業説明会で、同社のデジタルプレスビジネス本部長は、2018年は広幅・輪転タイプのデジタル印刷機の拡販に努めていく方針を述べた。狙いは、段ボールや化粧箱の需要であり、「これまで開拓してきた小ロット分野に続いて、大ボリュームの仕事もデジタル印刷に取り込んでいく」という。▼国土が広く、店舗での買物より注文・配送が向いているアメリカでは、昔から段ボールは広告手段のひとつだった。ようやく日本でも認知されてきたようだ。フレキソ印刷機やデジタル印刷機の高品質化という条件も整ってきた。▼インターネット広告の成長は著しいが、印刷可能な広告媒体の余地はまだまだ残されている。▼今でこそ電車や飛行機にまで当たり前に施されるラッピング広告も、初めてバスの車体に見かけた時は驚き、思わず写真を撮ってしまった。フロア広告なども、足で踏んでいいのか、最初はためらってしまったものだ。▼技術は日々進化する。だが、「これは広告媒体ではない」という人間の既成概念の方が可能性を邪魔している。そう思えば、デジタルサイネージなどは、派手な映像が流れはするが、案外おもしろみや意外性に欠ける気がする。▼だれでも目に触れ、手にするものでは、食品への広告がこれから広がる予感がある。世界的キャンペーンとしてコカ・コーラとHPが行った数百種類の名前入りバリアブルボトル販売は大きな話題となった。飲料の次は食品で広告宣伝が本格化するのではないか。以前から直に印刷できる可食インキは開発されている。媒体としての可能性は無限大といえる。SCREENホールディングスは3月から、製薬業界向けに小型錠剤印刷機を販売した。小さな菓子への応用も十分可能だ。▼一方、ウィンドウの表と裏や、見る角度によって異なる広告を見せる演出、通路や部屋を移動するたびに次々異なる映像を映し出すプロジェクションマッピングなども増えるだろう。未来型の生活空間と、生活に密着した広告の融合。その調和が広告の将来トレンドと思われる。