【過去の掲載】


コラム「点睛」 印刷新報・2018年12月6日付
 2025年の大阪万博は東京五輪の5年後。前回も五輪から1970年の万博まで5年半。まるでフィルムを巻き戻したかのようだ。だが、人口増加に支えられた当時の高度経済成長期とはまったく状況が異なる▼その成長期にあってさえ、万博の後ほどなくして二度のオイルショックを経験し、さらに昭和の終わりのバブル崩壊まで突き進んだ。今度は何が待ち構えるのか。次に来る経済の冷え込みはリーマンショックの比ではないと予測する人もいる。開催決定に浮かれてばかりはいられない▼大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。AI、IoT、VRが想像を超える進化を遂げ、人類の未来を見せることになるのだろう。そして、オイルショックが石油依存経済の脆弱さを露呈したように、エネルギー問題が正面から取り上げられることも間違いない▼来年6月に大阪でG20サミットが開かれる。昨年のG7サミットでは「海洋プラスチック憲章」を承認しなかった日本も、開発途上国を含めた取組みの推進を条件に賛同する意向だ。印刷業界にとって、複雑な対応を迫られる問題でもある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月29日付
 働き方改革関連法の施行による影響が、いよいよ現実味を帯びて迫ってきた。来年4月から有給休暇5日取得の義務化、再来年4月から時間外労働の上限規制が中小企業でも始まる。法を守れ、税金は納めよというが、仕事時間は制限、人手は不足で逃げ場がない。嘆き節がそこかしこで聞かれる▼人海戦術が通用しないなら生産性の向上しかない。改善程度では焼け石に水。異次元の生産効率の追求をやり切れるかどうか。そこが生命線となる▼国の課題も同じだ。人口減少社会の中で成長を目指すには、全産業、全職種で労働生産性を向上させる以外にない。併せて、旧弊で非効率な行政手続き、商習慣、教育制度も改める必要がある▼懸念されるのは、働き方改革が価値の創出ではなく、単純に業務量の削減に向かう傾向だ。普通郵便や宅配便の土曜配達、地銀の昼時間業務などの中止が検討され始めた。役所の業務も追随するはずだ。市民は今でも役所や銀行の土日サービスの不在で、必要があれば仕事を休まなければならない。安易な労働負荷軽減はサービスの質の低下を招き、他者の改革の足を引っ張る。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月22日付
 大手製紙各社の値上げ発表は、またしても同時期の発表、同一の値上げ幅、同一日の出荷分からの実施となった。この不公正に対して、印刷業界もこれまで散々抗議し、改善を求めてきた。しかし、製紙業界は我関せずの構えだ。強力な資金力と政治力をバックにした強気が感じられる▼各社一様に原燃料価格や物流経費の上昇を理由に挙げるが、第2四半期決算では業績の上方修正と下方修正に分かれている。値上げの実施か否か、あるいは値上げ幅にも差があって当然だ。大王製紙は「電子化による構造的な需要減少」まで理由に加えている。それこそ、まさに印刷業界の悩みであり、主客逆転ではないか▼過去の値上げでは、実施から1、2年で緩やかに価格が下がり、再び一斉の値上げ発表を繰り返してきた。そのたびに印刷業界は翻弄され、余分な神経を遣わされる▼抄紙機の停止など、国内向けは各社とも減産の方向が明らか。ただし、個別の操業効率向上と好調な輸出にだけ目が行き、製紙業界全体での生産協調がないため、需給バランスの適正化につながらない。日本製紙連合会の指導力を問いたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月8日付
 10月に高知で開催された全印工連フォーラムの初めに、細井俊男副会長が紹介した英国のメトロバンクの話に刺激を受けた方も多いだろう。2010年に創業され、瞬く間に5大銀行の仲間入りを果たした▼徹底的に顧客満足を追求する同行は、従来の銀行のイメージを完全に覆した。ほぼ年中無休で営業し、ガラス張りの店舗、明るいウェアの行員が満面の笑みで対応、ペット連れもオーケー、子どもが来ればキャンディをあげ、ドライブスルー付きの店舗もあるとか▼金利は他行より低く、金融商品も絞っているが、浮いたコストをすべて顧客満足向上のためのサービスに注ぎ込んでいる。結果的にお客が選んだのはメトロバンクだったというわけだ▼細井副会長は「私たちはどうしてもコストと品質の両方を求めてしまうが、本来はトレードオフ。どちらも中途半端に終わっては本当の変革になりえない。他社が躊躇するぐらいの変革をやらなければ差別化はできず、業態を百八十度方向転換するぐらいでないと未来はない」と話した。歴史と伝統ある印刷業だからこそ、やれていないことは多いはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年11月1日付
 「カネは現場に落ちている」と言われる。社内で当り前と思い込んでいる事にメスを入れるだけで利益率は大きく違ってくる。その一つに業務の「見える化」がある。先日も某セミナーで、すべての業務情報のデータベース化から始め、社員に改善意識を浸透させ、成果をものにした印刷会社社長の話を聞いた▼キーワードは「定性化から定量化へ」。金額と時間で仕事の達成目標を点数化し、全社員の成績をネット環境で共有したところ、経常利益はたちまち6%近く跳ね上がった。同社は現在、粗利率が60%台後半(同業他社平均は42%、※日本政策金融公庫調べ)、経常利益率が10%台前半(同2%強)で推移している▼見える化セミナーは頻繁に開かれているが、一向に業界に浸透せず、講師にも徒労感が強い。聴く側に「あの会社は特別。うちはそこまでできない」という諦めが最初からあるように思える▼従業員とは、現状を変えたくない生き物。経営者がそれを打ち破る以外にない。ライバルとの競争以前に、本当の戦いは内部にある。社長は会社をどうしたいのか? 見える化以前の「見せる化」が重要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月25日付
 トッパンフォームズ関西では、パート従業員のチーム編成を決めるのにAIを活用している。最も作業効率の上がる組合せは何か。あらゆる可能性が考えられる中、監督者の裁量ではどうしても限界があり、主観も入る。1年間試行した結果、AIに軍配が上がった▼個々の従業員の経験、スキル、実績などの情報を入力するのは人間だが、AIが自己学習を重ね、仕事内容に合わせてより適切な判断を下せるようになっていく。従業員の満足度も向上した。取引先の大手企業もその話題に興味津津だという▼別の印刷会社では、工務が行っている生産機へのジョブの割振りにAIの導入を検討中だ。広島のアスコンは、AIを活用して折込チラシの修正前後の照合を行う自動校正システムを方正と共同開発した。AIと聞くと、すぐにビッグデータの解析・分析を思い浮かべてしまうが、現場に近い地味な作業にもいろいろな可能性がある▼AIが仕事を奪うと恐れる声がある。しかし、この場合、責任から幾分解放され、能率も業績も上がって安心するのは、監督者であり、工務や校正者であるかもしれない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月18日付
 地方に出張して、タクシーの運転手や店主などに印刷に関連した取材でやってきた旨を告げると、例外なく、「印刷は大変でしょう」と同意を求めるような答が返ってくる。楽なわけではないので、半面は正しいが、半面は正しくない。説明が面倒なので、大概うやむやな話に終わってしまう▼それほど、一般の人たちに経営的に"キツイ"印刷のイメージが浸透していることは、由々しき事態である。彼らの言葉には、これも必ずと言っていいほど、「今はなんでもネットだからね」と続く。ほぼ国民全員が同じ認識でいると考えて間違いない▼本当は、紙媒体がなければ有効なクロスメディア戦略もできないのですよ。印刷会社の仕事の領域は恐ろしく拡がりを見せているのですよ。その真実を一体どのように伝えていけばいいのか▼全印工連高知大会で講演した作家の山本一力氏は、印刷された物にどれほど人の手が掛かっていて、だからこそ信頼があることを語りながら、出版不況を嘆く前に編集者はスマホではなく本を読めと諭した。これからは印刷の真実を、誰にでもわかるように地道に語っていこうと思う。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月11日付
 ローソンと金足農業高校が共同開発した「金農パンケーキ」が大人気だ。甲子園での活躍で秋田県内では常に品薄状態。量産体制を整えて、東北6県の1100店舗でも発売された。同県では、秋田印刷製本による地元の米農家支援やブランド食品開発も有名だ▼仙台市のユーメディアが主催するビールの祭典「仙台オクトーバーフェスト」は今年13回目を迎えた。来場10万人のイベントに育ち、秋の恒例行事として定着した。印刷業を母体とする会社の運営だとは、お客の多くは意識していないはずだ。今野均社長は「食」に大きな可能性を感じ、レシピ開発による販促支援なども視野に入れる▼先日取材した西日本の印刷会社では、この夏から始めたクラウドファンディング事業の支援先の一つとして、地元の牧場と食品加工業者による提携を選んだ。和洋折衷の新感覚の商品開発で、新たな地元の名産を育てたいと意気込む▼「食」は不況に強いだけでなく、素材と流通の間で何かがスパークした時の勢いは計り知れない。業態変革のきっかけとして、印刷会社が描く新たな食のストーリーに今後も期待したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年10月4日付
 先日聴いたダイバーシティ経営セミナーでは、登壇した各地の印刷会社の経営層が一様に採用難を口にしていた。若い人を育てたいが、高校生の多くが県外に流出してしまい、シニア層に頼らざるをえない。中途採用、外国人労働者、派遣社員のほか、廃業した会社にツテを頼った例もあった▼過去に見学した先進企業における障害者雇用の好事例も紹介された。食品トレー製造大手のエフピコ(福山市)では、回収トレーの選別作業に採用し、高い集中力を活かして生産性と品質が向上。食品包装資材製造の吉村(東京都品川区)では、目の不自由な社員を電話業務に付けることで、根気強く先方にアプローチを続けてくれるという▼「多様な個性を職場に活かすダイバーシティ経営は、印刷会社が選ばれていくための重要な戦略」という言葉が、明快に本質を言い当てていた。「こんな会社で働いてみたい」と思わせる人材戦略は、「こんな会社に仕事を頼みたい」と思わせる経営戦略でもある▼「人が足りないから補充する」は無策。「人を活かすために会社が変わる」意識を持つことが、企業の生命線となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月27日付
 「自社の商品には自信を持っている。しかし、それだけでは…」。近頃、メーカーの弱気の声を聞く。家電にせよ、食品にせよ、日本の厳しい品質基準をクリアし、機能や味も申し分ない。それなのに、「質の良さだけでは売れない。その前での差別化が勝負」というわけだ。メーカーは、より多くの「いいね!」を手に入れることに汲々としている▼この商品がなぜ優れているのか、コンセプトからじっくり説き起こしても、現代の消費者をつかまえることは難しい。頭の構造はすっかり3Dイメージ化していて、商品そのものが持つ価値より、使っている自分の心地よさ、おしゃれ度合、他人から見られた時のイメージが最優先なのだ▼そうした消費者を引き付ける方法はひとつしかない。作ってから宣伝力で売るのではなく、商品開発段階から生活シーンでの徹底した快適な使用感を描き、コンセプトに沿った商品を実現することだ▼リーマンショックから10年。いまやSNSに翻弄される企業の課題解決を手伝うのなら、印刷業界も開発段階からの参画という大きなハードルをクリアしないわけにはいかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月20日付
 北海道胆振東部地震では、震源地に最も近い印刷会社で印刷機や加工機がすべて転倒し、シリンダーが折れるなどの被害があったと聞く。それほど地震のエネルギーは凄まじい。屋根の落下や機械のズレも報告された。札幌市でも液状化現象や配管のズレなどが起きた一方、市内の別の場所では物ひとつ落ちなかった会社がある▼今回の地震では停電による被害が道全体に及んだ。災害時でもつながりやすいと謳われた通信回線サービスが機能せず、社員の安否をつかむのに時間を要した会社が多い。サーバーへのアクセス集中による混線はいつでも避けがたい▼スマホの充電具合を気にしながら、メーカーからの個別の状況確認に対応するのが大変だったという声も。メーカー連携で一次情報が共有され、業界関係者がそれを一覧できる仕組みがあれば、それぞれの負担が大きく軽減されるだろう▼台風21号では、浸水や印刷工場の屋根、シャッター、看板、外壁の破損等の被害が伝わる。台風については少なくとも10月下旬まで警戒を怠れない。被災企業と地域の、一日も早い復旧と今後の無事を祈るばかりだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月13日付
 ホモ・サピエンスとともに残り、最後は絶滅したネアンデルタール人。両者の運命を分けたのは、その生活規模にあったとされる。家族単位で分散していた後者に対し、ホモ・サピエンスは4〜5万年前に、すでに百数十人規模での生活の痕跡がある。道具などの新しい工夫は集団の中で伝播し、進歩を促し、生存を有利にした▼地球規模で情報が飛び交い、たちどころに最新知識が共有される現代は、幾何級数的に進化の速度が増すのも当然だ。何百万年もかけて進化してきたヒト属が、生き物としてどこまで追いつけるか。生存で不利を被るのは誰か▼無人店舗の実現はそう遠くない。街で拾っていたタクシーも、配車アプリで無人車を呼び、乗車する人が行き先を自分で入力し、目的地まで黙って運んでくれる未来シーンの中に消え去りかねない▼壁画や石柱、巻物、四十二行聖書の昔から、印刷の原点はコミュニケーション支援にあった。そして、デジタル技術が社会を大きく変えるほど、未来の印刷はコミュニケーションの創造や再生、コミュニティづくりを使命とする方向へと比重が傾いていく予感がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年9月6日付
 先月28日に行われた印刷工業会の講演会は、リクルート出身の藤原和博氏を講師に迎えた。テーマとなった「坂の上の坂」とは、司馬遼太郎の作品『坂の上の雲』に対する言葉である。藤原氏は、明治、昭和・平成、そしてこれからの時代を生きる3世代の「人生のエネルギーカーブ」の違いについて語った▼明治は、若くしてピークに至り40〜50代を境に隠居して余生を送る「坂の上の雲型」。昭和・平成は、60〜65歳での定年退職を前提にした「富士山型一山主義」。人生百年となり時間が大幅に増えた次世代は、いくつもの山を登る「八ヶ岳型連峰主義」でなければ生きづらいという▼「若い人なら、10個ぐらいの足場を築く複線型でいい。親の世代も、今ならスイッチの切り替えはまだ間に合う」と藤原氏。さて、当日の参加者はどう受け止めたか▼母親が世話になっている老人ホームの入居者の平均年齢は86歳。80歳ではまだ若いと言われる。とはいえ、どう見ても"時の止まった"人たちばかりなのが寒々しい。長く生きるほど価値が積み上がる生き方に向けて、準備は早すぎるぐらいでいいようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月30日付
 IGAS2018でも言葉が飛び交った「スマートファクトリー」。会場の特別企画ゾーンでは連日多くの関連情報が発信されたが、肝腎のスマートファクトリーの定義については、各社で解釈やスタンスがまちまちなのが興味深かった▼オーソドックスな意見としては、「AIやIoTを活用した自動化・標準化」に集約される。だが、あるデジタルプレスメーカーは「ソリューション提案、生産性向上、効果測定のサイクルを回すこと」だと言い、別のソフトウェアベンダーは「トラッキング可能なデマンドチェーンが拡大する中で、お客様のインフラになること」だと言う▼いずれにせよ、製造本位の狭い領域の話ではない。ウイル・コーポレーションの若林圭太郎社長は「ビジネスのスマート化」をテーマに、印刷工場の都合で顧客のマーケティング施策が制限されるのではなく、顧客がその先の顧客に対し、最適な情報を最適なメディアとタイミングで届けるために印刷会社と工場はどうあるべきかを語った▼印刷工場は、もはや製造事業所というより、サプライチェーンマネジメントの拠点となりつつある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月23日付
 政府が「新たな外国人材の受入れ」を改革の基本方針に打ち出し、在留資格の見直しを始めた。中小企業の深刻な人手不足を考えると、かなり柔軟な仕組みの運用が予想される▼印刷・製本業界も今後、外国人採用なくして成り立たない可能性がある。埼玉県の折り専業者では、60人の従業員のうち、すでに3分の1が中国・ベトナムを中心とした外国人。ベトナムの印刷会社と提携する愛知県の製本会社では、現地で日本語の勉強と折り・断裁などの実習を行った上で毎年採用し、従業員の半数を海外研修生が占める▼慣れない環境で挫折する者もいるが、多くは勤勉で向上心が旺盛。急な休日出勤も厭わないので助かるという話を聞く。採用を継続するには、新人をうまく指導し、生活面の相談にも乗れる母国の"良き先輩"の存在がポイントになる▼法務省の在留外国人統計によると、技能実習生が増えるに伴い、職場からの失踪者も増加傾向にある。門戸を開いても、受入れ企業のコンプライアンスや風土に難があっては元も子もない。そこは国に先んじて各業界が自主的に啓発・点検を進めるべき課題だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月9日付
 印刷業界にもIoTが急速に浸透し始めている。プリプレスからポストプレス、配送・納品、在庫管理、メンテナンスに至るまで、あらゆる工程・機器の進捗・稼働状況がインターネットでリアルタイムに可視化できる時代が来た。把握しやすくなった製造原価、設備効率、エネルギーコスト、労働分配率などの情報をどう経営に活かすか▼このことは、働き方改革を進めるうえでも極めて重要になる。言うまでもなく、やみくもに「残業を減らせ、効率化せよ」では、社員は動きようがない。生産性を上げる効率的な働き方を実現する指標として、IoTで得られるデータは有効だ▼メーカー、印刷会社の双方に、労働力の確保が困難になるので、IoTやAIを活用して自動化・無人化を目指すという風潮があるのが気になる。それは結果であって、決して目的ではない▼今働いている社員の能力とチーム力を引き上げることが、業務の見える化の第一の目的であり、仕事の正当な評価とセットで考えなければならない。時間短縮を図った分、成果を報酬で還元する仕組みがあって、初めて社員の行動が伴う。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年8月2日付
 IGAS2018の最大のキーワードは、「つながり」だった。技術の融合、工程間連携、企業間連携のほか、顧客との連携、社内での連携など、実に幅広いテーマを含んでいる。その先には、「コネクテッド・インダストリーズ」、産業界全体の連携が待っている▼IGAS期間中に聴いたセミナーでも、多くの示唆に富む話があった。その一つに、販売と製造の断絶がある。市場や顧客を起点に出発すべきなのに、多くの企業が製造から始めてしまう。結果として、どんなに頑張っても「売れないモノ」を作り、苦しむ。マーケティング視点の欠如は致命的だ▼宣伝・販売方法がWebやSNSに偏りすぎることの弊害も指摘されていた。「デジタルは心を動かさない。ネットCMやメール一つでモノを買うことは少ない。リアルなモノや体験を重視している」と生活用品のブランドオーナーの話。そこに印刷会社の出番がある▼どちらもポイントに挙げられていたのは、販売と製造、商品と顧客の間を上手につなぐことのできる「人材」の大切さ。こればかりは、デジタルテクノロジーではどうにもならないようだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月26日付
 万国博と百貨店、どちらも1850年代に生まれた。松岡正剛氏によると、すべての情報を一堂に集め、その興奮に参加してもらうコンセプトは、百科事典とマスメディアの出現を経て、経済文化モデルの近代の頂点に位置づけられる▼特にインターネットの登場以前、海外の最新情報が簡単に手に入らなかった時代は、印刷関連の展示会の興奮も大きなものがあった。その代表がドイツのdrupaであり、日本のIGASだ。情報が常に出回る現在は、趣が少し異なる▼本紙が届く頃、ちょうどIGAS2018が東京ビッグサイトで開幕しているはずだ。博覧会としての意義に変わりはない。ネットで得た情報で「わかったつもり」になるのではなく、IGASという"現場"であえて自分の既成概念を壊し、ブレークスルーを試みることが大事だろう。お客になってはいけない▼次回IGASの開催は2022年の予定。それまでIGASを上回る規模の印刷関連の国内展示会は見当たらない。ぜひ、五輪後の日本も見据えて見学いただきたい。ただし、酷暑への対策は怠りなく、体調には十分注意されるように。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月19日付
 西日本豪雨で孤立した被災者、避難所の人たちの安全確保は時間との戦いだ。だが、そうした切迫した状況が、すぐ我が身にも降りかかる可能性があると身構えている人が、たとえば首都圏にどれだけいるかとなると、甚だ心許ない▼近頃、東京駅の新幹線口に立ち、あまりの混雑に恐怖を覚えることがある。外国人客の増加も影響しているのだろう。もし災害やテロが起きたなら、パニックが引き起こす被害は尋常でない。それでも人間には「自分だけは大丈夫」という根拠なき正常性バイアスが働く▼ユーチューブで見られる警告映像に、東京消防庁による首都圏水没のシミュレーション動画がある。「荒川氾濫」で検索できるので、ぜひご覧いただきたい。水害の恐怖を実感できるはずだ。内閣府の「南海トラフ巨大地震」という動画もある▼豪雨の被害が拡大した要因の一つとして大学教授が、昼に比較的雨量が少なく、夜間に集中的に降り続いたことを挙げていた。「この分なら夜も平気だろう」という思い込み、夜は自宅待機という習慣からの縛り。それらをどう自分で壊していくか。生死を分ける境目となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月12日付
 「AIを知らなければ生きていけない」という人がいる。AI(人工知能)不在の世に逆戻りすることがないのは事実だが、AIを主、人間を従とする感性は、ますます人間の弱体化を招くだけではないか▼「AIにビジョンは語れない」、「AIはあえて損をすることができない」─そうした発言も、人間らしさとは何かを意識する中から出てくる。先日の某新聞には、「AIは死ぬことができない」という作家の言葉があった。死を意識するのは、究極の人間の主体性かもしれない▼もっとも、泣き笑いだけでなく、同情したり、悲観したりする「高度な感情を持つAI」の研究開発も進められている。脳の機能の解明に活かすのはいいが、人間に近づけることにどれほどの意味があるか▼AIは人を育てるかという命題もある。教育とはつまるところ、庇護者がいなくなっても、本人が強く生き抜いていけるようにすることが目的。そして、一人で最期を迎える時、「ああ、いい人生だった」と思えるようにすることだ。「AIロボットがいてくれて楽しい人生だった」と感謝して世を去る人の時代も来るのだろうか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年7月5日付
 製本用資材に含まれる溶剤の問題で製本業界が揺れている。都の労基署から改善要請を受けた事例が出たことがきっかけだ。溶剤そのものは禁止物質ではなく、取扱いにもさほど問題はなかったが、企業に要求される対応レベルは年々高くなる一方▼今回の例では、労働時間の調査などが主目的だったにも関わらず、蓋を開けてみれば労働環境全般に細かいチェックが及んだ。働き方改革の流れが強まる中、改めて労働安全衛生にも厳しい視線が向けられている▼2016年に改正労安法が施行され、指定化学物質を取り扱う事業場にリスクアセスメントの実施が義務づけられた。しかし、昔から使い続け、日常化している溶剤を見直すには、実際の意識がなかなか追い付かない▼東京都製本工業組合では今月18日、組合員を対象に特別セミナーを開催すると同時に、リスクアセスメントへの認識などアンケート調査を実施した。まずはSDS(安全データシート)の理解に立ち戻り、リスクの未然防止に向け底辺からの取組みを進める。印刷業界全体を震憾とさせた胆管がん問題から6年。教訓を忘れてはいけない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月28日付
 6月6日の中小印刷産業振興議員連盟の総会では、知的財産権の適切な取扱いに関する各県印刷工業組合の啓発活動成果として好事例が報告された。愛知県では「印刷会社が修正・作成した印刷用データの著作権は、元データを県が提供した場合でも印刷会社に帰属するので、提出させることはできない」と庁内で注意喚起している▼兵庫県では、仕様書でデザイン・レイアウト等を「要」とした場合やイラストを「作成」、写真を「業者準備」とした場合、「著作権は県に帰属する」とは記載できない。また仕様書にデータを求めるかどうかの記載欄を設け、求める場合もPDFデータのみとした▼福岡県は、イラストレータや高画質PDFなど流用可能なデータ形式で納品を求める文言を仕様書から削除し、「ホームページ掲載用のPDFデータ」といった利用目的を定めた表記に改めた▼全印工連の池尻淳一専務理事は「やっと認められた知財権の財産的価値をきちんとものにするには、官庁の担当者より進んだ勉強をすべき。内容を問われて答えられないようでは困る。今後問合せが増えることも間違いない」と話す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月21日付
 18日朝、大阪府北部で震度6弱の地震。発生から1時間ほどして豊中市に住む妹から届いたメールには「今まで経験したことのない揺れでした。怖い。家がグチャグチャ。息子は電車に閉じ込められたけど、今は駅で降ろされたようです」とあった。その後も、「震度2程度でも心臓がバクバクする」との連絡あり▼震源が浅く局所的に大きな揺れが起きたと気象庁の発表。近い地域でも、どこに居るかによって体感度や恐怖は大きく違う。一概に数字だけで判断できない。警戒を緩めてはならないが、パニックになるのもいけない▼今回も大手メディアがネットニュースで、店舗内に商品が散乱したツイッターの投稿写真を紹介しながら、「被害甚大か」と報道した。水や食糧の過度の買い占めを煽るような報道の仕方は慎むべきだ▼大阪の前日には、群馬で震度5弱の地震。いつ、どこで震災が起きてもおかしくない。一次被害の後に待ち構えているのは、インフラの麻痺、避難所での健康障害、この時期は特に雨による地盤の崩れや食中毒など。発生から時間が経過しても困難は続く。正しい情報配信の大切さは増す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月14日付
 本紙には、たしかにハード・ソフトの導入読み物が多い。「どの会社が何を買ったという話より、新しいビジネス展開をもっと紹介せよ」との意見もいただく。しかし、会社の投資は戦略そのもの。よく読んでもらえれば、導入の背景にある経営者のビジョンと判断、顧客や現場が抱える課題と解決への知恵が見て取れる▼最近の記事では、製本の入口である断裁を高速化・自動化することでセットアップ時間を大幅短縮したシュウエイ、OEE(総合設備効率)の限界に挑むマルアイやウエマツなど、利益創出のカギが現場にまだまだあることを窺わせる▼インラインフォイラーを偽造防止技術に応用し顧客の困り事の解決を目指す中央印刷、制作・営業部門と顧客を直接つなぐワークフローの確立で双方の作業負荷やミス・ロスを削減したユニバーサルポストのように、価格ではなく、サービスの質で評価されるための果敢な投資も目を引く▼記事では特定の製品名が先に立つ事情もあるが、それは導入各社の経営戦略の一部。語られている情勢判断や哲学に思いを寄せて、会社全体を読み解いていただければ助かる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年6月7日付
 前号掲載の座談会で、アサプリホールディングスの松岡祐司社長が「私の夢は、情報産業の中で"多角化連邦経営"ができる一流の中小企業グループになること」と発言している。1社で売上100億円、利益10億円の会社をつくることは難しい。そこで、得意分野が異なる売上10億円、利益1億円の会社を10社つくる構想だ▼印刷・製本会社から出発したシー・レップの北田浩之社長も、同社を中核とするCCGグループ5社を形成し、不動産、アミューズメント、教育など業界特化型のビジネスで売上50億円を超えた。北田社長は100億円のグループ売上、100人のリーダーの育成、100通りの事業モデルの実現を掲げる▼両者に共通するのは、リーダーをたくさん生むことで、ポジションや年収が増え、社員のやる気が増し、多角化と相乗効果で経営基盤の安定にもつながるという考え方だ▼若い社員には売上1000万円、利益100万円の事業の立上げを働きかけてみてはどうか。ただし、5年後に売上1億円、利益1000万円となる構想と計画を、初めにしっかり説明させることが肝要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月31日付
 電子出版制作・流通協議会(電流協)は、「海賊版サイト対策研究WG」を新設し、電子出版に関わる各ステークホルダーと連携しながら対策に本格的に取り組む。鎌仲宏治会長は「電子出版だけでなく紙の出版の市場にも大きな影響がある。今年は特にこの活動に力を入れる」と話す▼政府の知的財産戦略本部は4月13日に発表した緊急対策で、インターネット・サービス・プロバイダーに対し、海賊版サイトへの自主的なブロッキングを促した。その悪質性についに国も動き出した▼5月22日の電流協総会では、経済産業省コンテンツ産業課の来賓が「違法事業者への削減要請の継続、法的な措置、消費者への広報活動、広告出稿の抑制依頼などを合わせて取り組むことが大事だ。関係業界団体や省庁と連携しながら、権利者とクリエイターの適正な利益確保に努めていく」と述べた▼海賊版サイトによる出版物関連の年間被害額は1兆円を超えるともいわれる。運営管理者は海外のネットサーバーを経由し、巧みに身を隠す。コンテンツは本来"タダ"ではない。利用者にも毅然とした姿勢を求めたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月24日付
 全日本印刷工業組合連合会は、物流コスト上昇への理解を取引先に求める文書を発行。全国グラビア協同組合連合会も、軟包装資材の原材料費の上昇に理解を求める文書の中で、物流コストの高騰を文面に盛り込んだ。資材価格だけでなく、物流費の上昇分を請求する動きが活発になっている▼適正運賃を推進するため、国土交通省と厚生労働省は「トラック運送業の適正運賃・料金検討会」を立ち上げ、そこでの議論を踏まえて国土交通省が昨年11月に「標準貨物自動車運送約款」を改正、運送の対価である「運賃」と、運送以外の役務の対価としての「料金」の区分を明確にするよう定めた▼物流費の適正な請求の流れを捉え、印刷業も業界を挙げて運動を進める必要がある。3月に開かれた出版物流協議会では、印刷・製本業界側から、業量の減少と併せたコスト上昇への危機感が、出版社や取次会社に訴えられた▼東京都製本工業組合書籍・雑誌部会の金子誉部会長は「設備、物流の両面にわたり、製本会社も互いにシェアできるところはシェアし、プラットフォームの共有化を進めることが大事だ」と話す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月17日付
 各印刷関連団体から、今年度以降の新たな事業計画が発表されている。常々感じるのは、それぞれ似たテーマを掲げ、おびただしい数のセミナーや研修を実施している非効率だ。各団体の独自色が強い企画は別にしても、働き方改革や事業承継、需要開拓、IT活用など、共通する課題については垣根を越えた参加形式や共同主催がもっとあっていい。集客や設営に関わる労力、講師料・会場費・資料代などのムダもない▼もうひとつは、受講者が主体的に加われる内容が少ないこと。講師からの一方通行の伝達は心を波立たせない。自身で考え、発言し、他の参加者と交流できるプログラムを増やすべきだ▼できれば、会員企業の中から講師に名乗り出られるような流れを作りたい。あるいは、自社をオープンにした見学会の開催に手を挙げてもらう企画など。すばらしい実践をしていて、それを他社に話したい、見てもらいたいと望む企業は業界内にたくさんある▼もちろん、他社を知りたい要望はもっと多い。互いにカネをかけず、刺激しあいながら学び、交流や資産の共有にもつながる能動的な方法はきっとある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年5月10日付
 じわじわと拡がった活版ブームと同じく、ほしおさなえさんの『活版印刷三日月堂』(ポプラ文庫)が静かにヒットしている。活版から受ける地味な連想ゆえ手に取るのが遅れたのだが、一読心をつかまれ、涙腺は刺激されっぱなしだった▼埼玉・川越を舞台に、祖父が営んでいた活版印刷所を再開した月野弓子。彼女と三日月堂に関わる人々の物語が連作形式で展開される。さながら、「印刷業界のニューヒロイン誕生」と言いたくなる主人公は、職人でありながら、本人は意識せずに見事な営業手腕を発揮している点でも興味深い▼同書では、心に沁みる句・歌・詩の味わいとともに、人の思いを形にして残す印刷の仕事の意義が浮かび上がる。シリーズ三作目に収められた『川の合流する場所で』は、盛岡の川口印刷工業がモデル。現代の先端技術や採算性の問題との対比で、違う角度から意義を考えさせる▼物語は今、祖父が残した平台の大型活版印刷機を動かそうと弓子が意気込むところまで。さて、この先どうなるか。著者には、ひとまずここまでという考えもあるようだが、ぜひ続編を望みたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月26日付
 初めて銀行口座を持った我が娘に、現物の通帳はない。初めからネットバンキングである。大学の履修届けもすべてネットから。世代間で感性まで変わってきて当然だろう。金融機関は連帯保証なしの融資サービスの導入を始めた。AIが入出金データなどから与信判断を下すという▼総務省は、2040年までに実現したい社会から逆算した未来ビジョンをまとめ、急激な人口減少の負をICT導入で消し去る成長戦略を打ち出した。未来の生活シーンに描くのは、完全キャッシュレスの支払と購買履歴や信用形成の自動化、遠隔地にいる祖父母と孫がリアルなVRで一緒に海中散歩、24時間受付が当り前の自治体ではネット窓口で執事ロボが対応、など▼21世紀は仮想の時代、割り切りの時代にどんどん向かい、所有を前提としない社会が近づく。生活の質感の薄れが人の心にどう影響していくか▼この春、横浜市のみなとみらい地区に、10年間の期間限定小学校が開校した。開発が一段落した後を見越した発想は斬新だが、子供たちの心にまで合理化が及ばないように。心の拠りどころにも確かな発想が欲しい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月19日付
 3月には、凸版印刷元社長で日本印刷産業連合会元会長の藤田弘道氏、全日本印刷工業組合連合会元会長の中村守利氏が相次いで亡くなられた。両氏とも、時代の大きな節目にあたり、先見性を持って業界を導いたリーダーであった▼2007年印刷文化典での「印刷文化賞」受賞謝辞で藤田氏が、若い頃に営業として味わった悔しさをバネに、なんとか印刷業界の地位を引き上げたい一心で頑張ってきたことを明かしたのが強く印象に残る。そして、「日印産連会長を12年間務める間、印刷業界に立派な若者が大勢来るように努力してきたつもりだ」と、印刷産業への愛を語った▼中村氏が全印工連会長に就任したのは、翌年に中小企業近代化促進法の廃止を控えた1998年。それ以前から組合独自の業界計画策定に着手し、2000年に「全印工連2005計画」を発表。目先の利益追求ではなく、価値創造による永続的な企業体質づくりを目指し、経営のソフト化を打ち出した▼中村氏が唱えた「共創ネットワーク」という言葉と思想は、今日なお、印刷業界の課題解決の鍵として我々に突き付けられている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月12日付
 チラシ印刷を主力にする会社の元気な事例を続けて見聞きした。企画・デザイン制作の力を磨き、お客と直に接して、集客や販促についての要望を丁寧に掬い上げ、お客から頼りにされている。社長が率先して行動し、社員への教育投資を惜しまない▼北関東のM社は、美容室チェーンの新たなロゴマーク、セールスコンセプトの作成を依頼され、それが経営方針書にまで採用された。北陸のN社は、包装紙の印刷で付き合いのある老舗製菓店から、戦略的なアンテナショップの店舗設計すべてを任された。両社とも、最終決定に至るまで何十もの案を作り、繰り返し提案を行う▼「『あなたの伝えたい をお手伝い』 日本一のお客様に寄り添える会社へ」、「人々の心に歓びを創り、社会をより豊かにする」─。経営理念も明確だ。やり方は泥臭いかもしれないが、目指すところに向かって一心に勉強し、知恵を絞る▼両社のホームページは、一見しただけで、「この会社なら、きっと何かをやってくれる」と期待を抱かせる。扱う媒体が「前年比○%減」などという統計数字には、「とても構っていられない」ことだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年4月5日付
 ドイツで先行したインダストリー4.0に対して、アメリカの産業政策はROI(投資収益率)重視の傾向が強いと指摘される。生産システムの自動化・効率化はいいが、そこで処理する仕事そのものがなければ始まらない。新しい需要を生み出すためのカネは積極的に使って利益につなげるという考えだ▼ムダの徹底した削減を図るのも、マーケティングとアイデアで市場創造を図るのも、無論どちらも重要であり、兼ね備えた国は世界最強となるはずだ▼さて、「コネクテッド・インダストリーズ」政策を掲げる日本。IT後進国といわれ、大企業の内部留保は膨らむばかり。給与所得は増えず、労働人口の減少を補うためのロボットやAIに投資が集中する。中小企業は、ものづくり補助金でハードは厚みを増す一方、働き方改革は長時間労働の抑制が中心。生産性向上が価値創造に結び付かない▼このままでは、ドイツにもアメリカにもなれずに終わる危惧がある。本気で変わろうとする企業をより大きく伸ばし、産業の核として育てるぐらいの、メリハリの利いた政策がなければ追い付けない位置にいる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年3月29日付
 全国大学生協連の調査で、読書時間ゼロの大学生が初めて5割を超えた。1日の平均読書時間(電子書籍含む)は23.6分。最近、40代の印刷会社社長からも「スマホを使っているうちに本が読めなくなった。数ページで頭に入らなくなってしまう」と打ち明けられた。ITスキルと根気の両立は難しい▼他人の話を聞くことも同様だが、対象にじっくり向き合う習慣が薄れれば、記憶、感受、理解、整理の仕方が変わる。そこを見抜いて情報発信する側も、コンパクトでインパクトのある接触を試みてくる▼広告市場の変化について電通の北原利行氏は「従来マス広告の利用が盛んだった業種でネットへの出稿が増加。ブランディングは一般的に長期的な記憶に基づいて形成されると考えられるが、短期的な効果を追究するネット広告に新たな可能性が開けてきた」と指摘する▼アナログとデジタルの組合せが重要なことは自明でも、単純に「印刷メディアの役割は読ませる工夫」ともいかなくなってきた。感性に刺さる表現、商品を買う理由の直感的な伝達が、印刷側の今日的なクリエイティブの課題となる。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2018年3月20日付
  印刷可能な広告媒体は無限大▼某社の新年会の席で偶然隣り合った方が、梱包資材を扱う会社の部長だった。聞けば、フルカラーの段ボール印刷機を独自開発し、今年から本格稼働させるという。新しい分野に踏み込んでいく活気が伝わってきた。▼日本製紙連合会の統計を見ても、段ボール原紙の出荷は変わらず好調。アマゾンや楽天をはじめ、ネット通販の成長が主な要因だ。それを背景に段ボールが媒体として注目されている。▼今年1月の日本HP事業説明会で、同社のデジタルプレスビジネス本部長は、2018年は広幅・輪転タイプのデジタル印刷機の拡販に努めていく方針を述べた。狙いは、段ボールや化粧箱の需要であり、「これまで開拓してきた小ロット分野に続いて、大ボリュームの仕事もデジタル印刷に取り込んでいく」という。▼国土が広く、店舗での買物より注文・配送が向いているアメリカでは、昔から段ボールは広告手段のひとつだった。ようやく日本でも認知されてきたようだ。フレキソ印刷機やデジタル印刷機の高品質化という条件も整ってきた。▼インターネット広告の成長は著しいが、印刷可能な広告媒体の余地はまだまだ残されている。▼今でこそ電車や飛行機にまで当たり前に施されるラッピング広告も、初めてバスの車体に見かけた時は驚き、思わず写真を撮ってしまった。フロア広告なども、足で踏んでいいのか、最初はためらってしまったものだ。▼技術は日々進化する。だが、「これは広告媒体ではない」という人間の既成概念の方が可能性を邪魔している。そう思えば、デジタルサイネージなどは、派手な映像が流れはするが、案外おもしろみや意外性に欠ける気がする。▼だれでも目に触れ、手にするものでは、食品への広告がこれから広がる予感がある。世界的キャンペーンとしてコカ・コーラとHPが行った数百種類の名前入りバリアブルボトル販売は大きな話題となった。飲料の次は食品で広告宣伝が本格化するのではないか。以前から直に印刷できる可食インキは開発されている。媒体としての可能性は無限大といえる。SCREENホールディングスは3月から、製薬業界向けに小型錠剤印刷機を販売した。小さな菓子への応用も十分可能だ。▼一方、ウィンドウの表と裏や、見る角度によって異なる広告を見せる演出、通路や部屋を移動するたびに次々異なる映像を映し出すプロジェクションマッピングなども増えるだろう。未来型の生活空間と、生活に密着した広告の融合。その調和が広告の将来トレンドと思われる。


コラム「点睛」 印刷新報・2018年3月15日付
 良い経営者の要素を問われて浮かぶのは、開けた性格、旺盛な気力、数字に対する強さ、変化を読む眼力などいろいろある。だが、それだけで人や運が寄ってくるわけではない▼カリスマ性より腰の低さ、頭脳明晰よりひたむきさ、謹厳居士より人間らしさ。少し抜けたところがあるぐらいが、むしろ愛される。企業の大小にかかわらず同じではないか▼「メザシの土光さん」はずいぶん怖い人だったらしいが、お客が誤って便壺に落とした入れ歯を潜って拾い上げた本田宗一郎、事業撤退の判断をどうにも決めかね最後はサイコロを振った樋口廣太郎といった人々のエピソードが忘れられない▼長期にわたり製品データを偽り、顧客を平気で欺き、従業員の努力を無にするような企業が跋扈する世の中。経営者、役員に共通するのは、「自分さえよければ」という心根の卑しさだ。粉飾決算で株価を吊り上げたH氏、賭博に会社の巨額のカネをつぎ込んだI氏。顔を見るたび憤然たる思いにかられるが、彼らを面白おかしく持ち上げるマスコミも同罪。「捨て置くにはもったいない」と、そこでも欲が理を勝るのか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年3月8日付
 2月に流れた恵方巻の大量廃棄のニュースに心痛めた方も多いだろう。国内で焼却される廃棄物の半分が食品だ。紙やプラスチックのリサイクルは進んだが、食品に関しては大きく遅れている。年間2兆円にのぼる廃棄物処理コストのほぼ半分を、税金を使ってただ食品を燃やしている▼それでも、2001年に日本が世界で最初に食品リサイクル法を施行した。世界中で食品ロスが大きな問題となり、先進国は日本に学んでいる。民間企業の取組みも広がりを見せてきた▼日本フードエコロジーセンター(相模原市)は、乳酸発酵により食品廃棄物を液体飼料に変える方法を開発。エネルギーコストが低く、質も優れている。国内養豚の1割にあたる100万頭にまで採用が広がってきた。熊本清掃社(熊本市)は、40日かけて発酵分解・熟成・乾燥させた農業用肥料を日に35トン製造する能力を持つまでになった。両社のバイオの力は世界から注目を集めている▼年間約2800万トン排出される国内の食品廃棄物の7割は事業系。資源化の挑戦の次は、「多めに造り余す」ことの悪を、いかに元から断つかだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年3月1日付
 今年も「3月危機」の懸念が高まってきた。すでに仕事が満杯というオフ輪会社、製本会社が出ている。仕事を確保しても引き受け手がない印刷会社の混乱が繰り返されるのか。紙媒体の需要減少を上回る形で、プレーヤーが退場した。自社設備を廃棄し、外注に切り替える会社の増加も影響している▼page2018のテーマは「アライアンスNEXT」だった。新しい市場を創造するための戦略的な提携は印刷業界の最優先事項に違いない。一方で、日常業務における不均衡を解消しなければ、大事な顧客の信頼を失うことになる▼解決策として考えられるのは、ITや自動化ソフトの導入による生産性向上、各社の設備や空き時間のオープンネットワーク構築、顧客と協力した業量の平準化、そして、過剰クレームや大量一括発注によるムダな印刷物の発生の抑制だ▼よく聞くのは、部署や支店・営業所の数が多い企業ほど、自社が発注する印刷物の種類や数量をまるで把握できていないという話。しかも納品物が活用されていない。見える化による問題解決が、双方に大きな利益をもたらすことは間違いない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年2月22日付
 日本での生活と企業活動におけるリスクとして、改めて豪雪を意識しないわけにはいかなくなってきた。福井県や新潟県をはじめ、日本海側で大きな被害が発生している。高齢化が余計に状況を難しくする▼製品出荷の唯一のルートを完全に塞がれ、往生する印刷会社も多い。BCP対策として首都圏への工場設置や、業務提携先の確保に動くところも出てきた。一種の分散印刷である▼同じ寒気の中にあっても、隣の国の平昌五輪では熱い世界が繰り広げられている。男子フィギュアスケートの金銀W表彰、スピードスケート小平奈緒選手の念願の金メダル…。その陰で、女子モーグル解説者として画面に出ていた上村愛子元選手の"すがすがしさ"が印象深かった▼どんな競技であれ、たとえコンマ100分の1秒でも、1位と2位、3位と4位の間には「微差大差」がある。その上でなお、初の長野冬季五輪での7位入賞から、6位、5位、4位と一段ずつしか上がっていかれなかった彼女の、今にして何と真っ直ぐな目、屈託のない爽やかな話しぶりであることか。微差を追い求めた人の芯の強さと美しさを見た。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年2月15日付
 日本の法人でも、「不利なことはハッキリ断る」態度を見聞きする機会が増えた。東印工組浅草支部の五十嵐支部長は新年会で、「いつも年始に訪問している会社が『あいさつだけならご遠慮いたします』と掲げていた。これも確かに残業を増やさない働き方改革の一つだ」と紹介した▼本紙姉妹誌『印刷情報』1月号の寄稿の一つには、「迷惑行為により、診療をお断りすることがあります」と掲示する医療機関、採用ページの初めに「弊社では喫煙者を採用していません。それが企業の競争力に直結すると思っているからです」と表示される星野リゾートの例などが挙げられている▼取引先、患者、志願者であろうと、曖昧な対応を続けていたのではリスクがかさむ。そんな緊張感が伝わる。印刷業界でようやくメスが入り出した官公需契約の適正化も、時代の風潮からして当り前の主張だ▼今後のビジネスは、「できる・できない」を明確にした交渉が間違いなく増える。「お客様は神様」は遺物。「お客様第一」は永遠。リスク管理と最適サービスのバランスを巡り、当面大きく揺れ動くことになる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年2月8日付
 印刷工程全体の中で、後加工がこれほど注目された時代はなかったのではないか。箔押し、エンボスなどの表現がデジタル技術で可能になったことや、加工の付加価値がマーケティングの要になり得ることへの気付きが影響している▼手動写植から電算写植、活版からオフセットへ移行した高度成長期。90年代から本格化したDTP、CTP、デジタルプルーフなどプリプレスのデジタル化、高精細印刷やFMスクリーニングなど製版表現の深化、デジタル印刷の進化。いつでも、プリプレス、プレスが主役であった▼ポストプレスが、アナログ領域に属するという先入観が支配していたせいもある。だが、前工程のデジタル化が進むほど、作業効率においては後加工でのボトルネックの課題が浮上し、品質面においては後加工での差別化の可能性が浮上した▼印刷の方向性も明らかに厚紙や薄紙に特化してきた。今から2020年代にかけて、デジタル印刷を含む後加工に焦点が当たるだろう。どこと組み、どうノウハウを蓄え、顧客へ提案していくか。7月のIGAS2018でも間違いなく主要なテーマとなる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年2月1日付
 アマゾンが世界中で小売店、各種専門店など既存店舗の市場を席巻している。米国の2017年eコマース売上シェアは、アマゾン43.5%に対し、イーベイ6.8%、ウォルマートとアップルが3.6%と、独り勝ちだ▼多くの有名店も倒産に追い込まれる中、米国の小売業は、アマゾンを競合視するグーグルとのビジネス提携や、究極のカスタマイズ商品提供などで対抗している▼日本でも、成長し続ける通信販売を支えるのはeコマース(ネット通販)だ。大手・中堅のカタログ通販会社や小売店が軒並みネットへシフトする姿勢を鮮明にしている。印刷会社は紙媒体の減少を嘆いているだけでは始まらない▼著名なマーケターであるルス・スティーブンス氏によると、米国の印刷会社は、顧客以上にソリューションの多角化を急速に進め、提案の幅を広げている。データサービス、コールセンター、フルフィルメント、発送代行、ネット広告、オファー(動機付け)開発、販促物品調達、コンテンツ開発、マーケティング支援…。市場の厳しい現実に向き合う中で、もはや業態を吟味している暇さえない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年1月25日付
 世界史における大転換期の70年周期がある。クリミア戦争、南北戦争、普仏戦争などが相次いだ1860年代前後。それから70年して第二次世界大戦。さらに70年でリーマンショック。日本では明治維新、太平洋戦争、東日本大震災が重なる▼パラダイムシフトと価値観の転換を迫られるわけだが、さしずめ現在は、デジタル革命、データ革命、AI革命が進行する中で、モノやカネではなく、生命と知性、健康、地球環境、人の絆、幸福の意味が問い直される新たな「心」の時代の入口か▼親子一世代が約30年、企業の賞味期限も30年と言われる。どうやら、70年サイクルの真ん中あたりでも、潮目の変化が繰り返されている。年末年始の番組などを観ると、バブル再来かと疑うような発言と浮かれた気分を感じたが、間もなくバブル崩壊から30年。気を引き締めてかからなければならない▼北朝鮮の度重なる挑発に対して、トランプ米大統領は核戦力増強に向けた姿勢を示し始めた。1980年後半から90年代初頭にかけての冷戦終結、核軍縮とは反対の流れだ。ここでも30年周期の亡霊が現れるのか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年1月18日付
 素人の目で印刷物を指摘されてハッとすることがある。いつもの居酒屋の見慣れた品書き。最近は料理の名前を知らない若者が多い。まして外国人がこれから増えるのに…という話から、「外国人にはまず絵の付いたメニューでしょ」と客の一人▼考えてみると、写真やイラストどころか、外国語表記を付ける店も和食系には少ない。これぞ印刷会社がやって当然のこと。宗教やアレルギーなどに対応した食材ピクトグラム表記の試みもあるが、そのはるか手前で停滞している▼2017年の訪日外国人数が、対前年2割増で過去最高となったもようだ。五輪を抜けた先には、多国籍国家ニッポンのあり方が必ず議論されるようになる。「おもてなし」から「共生社会」への意識の転換。公私のサービスはもちろん、媒体表現やマーケティングも変化を迫られる▼○○圏の人の心にぐっと刺さる表現や好まれる色、彼らの生活習慣や消費性向、動線などの研究が深まるだろう。潜在需要は大きいが、アプローチの複雑さは増す。強いネットワークと影響力を持つSNS発信のキーマンも、外国人をカバーすべき時代となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年1月11日付
 カルチュア・コンビニエンス・クラブには徳間書店、主婦の友社、美術出版社、ライザップには日本文芸社、ぱど、タイヘイには近代映画社などのグループ会社がある。市場縮小の中で寒風にさらされる出版社だが、買収戦略を進める企業の目には、大きな魅力も映る▼出版社には、長年築いたブランド、企画力、コンテンツ編集力、販売網があり、それらは一朝一夕に手に入るものではない。伝統的なメディアで磨かれてきた強みに新しい命を吹き込むことで、事業拡大に活かせると各社は考えている▼どんな業界も、成熟化あるいは競争激化が進めば、他の領域に活路を見出すしかない。大手印刷会社がここ数年収益を伸ばしてきたBPO事業にしても、DM系、計算センター系、システム系など、あらゆる業種からの参入が始まっており、ライバルの数が増えている▼印刷会社のライバルが印刷業界にいた時代は終わった。境界を超えて他業種が常にチャンスを窺い、時には昨日の顧客が今日のライバルともなり得る。業界内での相対力学だけでなく、外の動向にも細心の注意を振り向ける必要がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2018年1月4日付
 古今、SF小説が描く未来に明るいものは少ない。もっとも、バラ色の理想社会を描いてもドラマにならないわけで、必定、暗い内容になりがちだ。一番多いのは、人間が何らかの権威やテクノロジーに支配、管理され、身も心もスポイルされた社会に対し、疑念を抱く主人公が挑んでいくパターンか▼多くの才能ある作家が同じ発想をするということは、管理社会に向かう危険をたしかに感じている証拠だ。半世紀前にSFに登場した未来技術は、ほぼ現実になっている。IoT、AI、ロボットの進化は止まるところを知らないが、人間疎外につながるテクノロジーだけは、どうか現実化しないでほしいと願う▼核や細菌兵器が乱れる第三次世界大戦も、SFではお馴染みのプロット。地政学リスクが高まっている今、こちらも大いに心配だ。軍事に費やされているカネが、仮にすべて教育や地球環境保全、農林水産業の振興に使われるなら、どれほど世界は明るくなるか。望むべくもないが、少しでも近づける努力はしたい▼印刷産業は人と人のコミュニケーションを援ける産業。社会から必要とされないわけがない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年12月21日付
 将棋の羽生永世七冠、囲碁の井山七冠への国民栄誉賞の授与を政府が検討し始めた。28歳の井山さんには勢いがあろうが、47歳の羽生さんには後がない。永世七冠の称号獲得の記者会見で自身の強みを問われ、「引き算で考えることを経験で得たのが大きい」と答えた▼企業でも、資金や人材を注ぎ込むほど良いものができるとは限らない。むしろ、力を抜くことで上手く運ぶことが多い。色数を減らし簡素なデザインでコストを抑えつつ、しかも高い効果を得る広告の例もある▼近年、あえてPOSデータを集めない小売店が出てきた。どれほど膨大なデータを収集しても、「すでに起きたことの側面」に過ぎない。本当はピークが近いにも関わらず、絶好調と判断して資金を投入すれば経営を危うくする。これから膨らむ潜在需要をつかむには、あえて余分なものを見ない引き算の思考も大事だ▼たくさんの手が見えるほど迷う。であれば、初めから情報を絞り、本質に近いところで深く考え抜く。羽生さんが感得した強みは、資金も人材も限られる中小企業が生きる力を磨く上で、一種の勇気を与えてくれる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年12月14日付
 美術館に飾られている絵画の説明文はなぜ右下にあるのか。缶コーヒーの新商品はなぜ自動販売機の左上に置かれるのか。すべて右脳、左脳の違いから導かれた理由がある。優れたデザイナーは、人間の脳の機能を理解したうえで、生活の場で表現し、新しい体験を提供する▼前号でソリューションの見える化の可能性に触れた。印刷メディアが人の知覚や感性に及ぼす影響の実証的な把握も、古くて新しい課題であり続けている。販売促進ではデジタルメディアと印刷メディアの組合せが有効であり、学習に印刷メディアは不可欠とは誰しも思うが、最適な手段を問われると明確に答えられない▼これまでも、脳機能科学の第一人者による基調講演や、小売業と連携した実証実験などが行われてきたが、散発的な試みにとどまり、生活者や顧客にいつでも示せる印刷産業の共有資産はできていない▼「自信を持って対外発信できるアカデミックな裏付けのあるデータが欲しい。外国の情報だけでなく、日本人の脳の構造に合わせた検証を望みたい」とは、最近会った印刷会社社長の声。同様の思いを抱く人は多いはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年12月7日付
 最近聴いた講演会で、米国のマーケティング専門家が、ターゲット、オファー(動機付け)、クリエイティブの3要素について、最高のレスポンスを得るための各位置づけは50%、30%、20%だと断言。調査結果と科学、法則に対して漲る自信が印象的だった▼多分に曖昧さがある人の行動も数値化できる。そうした突っ込んだ発想を持たないと、AI、IoTで急速に進む自動化社会が理解できなくなる。今回、カラー認証の取材の中でも、米国のカラー標準規格G7の普及度に対し、日本はいまだ目視が幅を利かせ、数値化が浸透しない現実が指摘され、感じるものがあった▼日本公庫による今年度上半期のソーシャルビジネス関連融資実績は、件数が前年同期比7.1%増、金額が10.4%増。地域活性化や女性活躍推進など社会課題の解決を目的とする事業者向けの融資が大きく増加した▼これは融資や予算の側面だが、サービス分野にも見える化の切り口はある。印刷業界が目指すソリューション・プロバイダーが、目標や効果測定の数値化を試みることで、顧客への説得力や自らの動機付けの強化となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年11月30日付
 太平洋戦争末期、最後の海軍大将となった井上成美は、威勢のいい言動を毛嫌いし、合理主義に徹した。兵力が実戦で発揮できる力はその二乗に比例すると軍内で臆せず話す人であった。同じ艦を日本が5隻、アメリカが10隻保有するなら、戦いの場面では25対100。つまり、日本は勝てないと知っていた▼だが昨今、これほどまで大企業の不祥事が続くと、大きいことがいいとはとても言えない。規模の有利は、数を二乗にできてこそ生まれるもの。正しい指揮命令系統がなければ、かえって足を引っ張り合う。上層部が自らの保身や成績だけを気にかければ、かつての日本陸軍のように硬直化し、自滅する▼最近の講演会で、多くの大企業はサラリーマン社長であり、ソフトバンクやユニクロのような思い切った勝負ができない弱さが指摘された。大組織を束ね、成果を生むには、創業者に近いパワフルな統率力も時には必要か▼彼らとて、元は挑戦者。ベンチャー企業が伸びる土壌が育ち、若者の働く先が流動化すれば、大企業の改革にもつながる。陸海ではなく、空の機動力が時代を変えた実例がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年11月23日付
 「人生百年時代」という言葉が好きではない。日本人の平均寿命を考えると、百歳までの人生設計が必要ということなのだが、それにしても…である。いったい、若い人が百年を想定した生き方をしていいものだろうか。一方で、高齢者の「終活」も、計算して死を迎えるようで味気ないこと夥しい▼高名なテレビプロデューサーで小説家でもあった久世光彦は、統計としての平均寿命の弊害を説いた。「もし厚生省が、発表したデータは間違いで、実は信長の時代と同じだったと訂正したら、どうなるのか」。要は、まだ時間があると考えることから作家の怠惰、文芸の衰弱が始まる、だから人生に自ら線引きし、目の前の仕事に集中せよ、と言っている▼文芸の世界と一般人の人生が別物だとは思わない。経営者となれば、社員の人生設計にも責任を負うが、生きる姿勢はあくまで個人のものだ▼「日没の時間が決められているから、落暉はいつも美しいのだ」。波乱に満ちた生涯を送った久世は、多くの仕事を抱えたまま70歳で急死した。それを早すぎると言えるか。いや、本人も決してそうは思わなかったはずだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年11月16日付
 昨今、M&Aが喧伝され、小欄でも何度か話題を取り上げた。業界人の意識が高まり、正しい知識が広まるのはいいことだが、一方で、行き過ぎを快く思わない経営者もいる▼ある地方の印刷会社社長は、会社の売り・買いの話題が先行する風潮をどう思うかと尋ねてきた。父から受け継ぎ、長い年月をかけて得がたい社風を醸成し、市町村合併の嵐を乗り越え、地域社会から感謝される会社に育て上げた社長にしてみれば、売り・買いは簡単に論じるべきものではない▼別の社長は「統合や買収を否定はしないが、社内コミュニケーションの力が落ちれば弊害の方が大きい」と話す。百人百様の考え方があって当然。M&Aこそ印刷業界が生き残るための最強手段と断言する人もいる▼どんな場合でも、最も優先されるべきは社員の思い。M&Aはトップ同士が極秘で進めるものだが、「この会社で働きたい」、「今の境遇を変えたくない」と願う社員は必ずいる。一人ひとりの顔を浮かべ、立場を思いながら判断を下すのが経営者。そして、「本当に最善を尽くしているのか」と静かに自分へ問いかけることになる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年11月9日付
 社員満足が大事とはよく聞くが、社員の家族にまで意識が及ぶ会社は少ない。印刷産業のブランディングを考える時、真っ先に味方につけるべきは、最も身近にいる家族だ▼金羊社は、工場などに社員の家族を招き、父や母、夫や妻がどんな仕事をし、どんな環境で働いているかを見てもらう「会社参観日」を設けている。荷札屋本舗を運営する浜松市の第一印刷は、毎年決算月に「おつかれ会」を開き、家族での参加を奨励している。同社では、休日に急な仕事が入った時なども、子どもを連れて出社することができる。田中社長は「家族の支えあっての仕事。その家族を大事にすることは基本」と考える▼社内報は、社員が互いを知るきっかけになると同時に、家族に自分の仕事、会社について知ってもらうためでもある。家の居間に置かれた社内報。そこに紙媒体で発行する良さがある▼印刷会社の後継者には、自社の仕事内容をほとんど知らずに入社する例が多い。後から覚えればいいと考えるのでは、会社を引き継ぎ、なんとしても発展させるという覚悟は生まれない。それこそ社員の家族を不幸にしてしまう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年11月2日付
 今の総労働時間抑制、残業規制は明らかに行き過ぎだ。働きたい人の権利を国が侵害している。特に電通ショック以降、ピリピリした空気が漂う職場も多いのではないか。初めのハードルが低いと、若木を後から鍛えるのは至難の業となる▼プレミアムフライデーのために仕事を自宅に持ち帰るようでは本末転倒。ブラック企業を調査する学生ナイトツアー対策で、部屋の灯りを消して社員が衝立の陰で仕事をするなどは、まさにブラックユーモアの世界だ▼先日も、あるメーカーユーザー会で「世間には“働くな改革”の風潮がある。ベンチャー企業や大きな成長を遂げた企業の経営者は驚くほど働いている。現状は本来の働き方改革とは異なるように思う」という挨拶があった。働きたい人の自由も保障しながら、社員がしっかり噛み合う会社こそ力を発揮できる▼一方で女性活躍推進にしても、管理職の○%を女性に、などと規定するのはどうか。昇進を望まない人の自由もあるわけで、あえて正社員を選ばず、時短勤務でいきいきと働き楽しむ女性も多い。柔軟な働き方は官が築くものではない。民に任せよ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月26日付
 システムの自動化やマーケティングの話題が花盛りだ。コストを下げる、仕事を獲りに行く。もちろん大事なことだが、一方、設備のメンテナンスについては、相も変わらず意識が低い会社が多く見受けられる。カネを生むことが実感できないと、なかなか取り組めないようだ▼印刷機保守指導の専門家であるタケミの柴崎武士社長は「どんなに印刷機の自動化が進もうと、メンテナンスの重要性は30年前と変わらない」と話し、500円のベアリングの交換を怠ったために、修理代に200万円かかった例なども挙げる▼自宅のゴミは捨てても、会社に落ちているゴミは拾うことすらしない。大事な資本である自分の躰でさえ不摂生で痛めつける。そんな人間の抜きがたい習性は、当然持ってしかるべき日々使う高価な設備への愛着も消し去ってしまう▼だとすれば、変に良心に期待せず、チェックシートの活用、内部・外部の監査制度、コンサルティングの導入、会社見学の受入れなど、仕組みや第三者の目を利用する方が確実だ。やればやるほど成果を生み、数値管理にもつながるメンテナンスを再考したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月19日付
 日本印刷技術協会(JAGAT)が創立50周年を迎えた。半世紀も前、独・英・米などに存在していた印刷技術の研究機関を日本にも作りたいとの思いから、元会長の塚田益男氏が中心となって設立に奔走した▼その辺りの経緯は、塚田氏が2003年に著した『JAGATと私』という冊子に詳しい。著書には、社団法人格を得るために苦労していた塚田氏が、工業技術院に呼び出され、印刷技術の定義について係官に問われる件がある。不意を突かれ、しどろもどろの返答しかできなかった塚田氏は、「実は今もって私は印刷技術の定義は分からないでいる。」と吐露している▼ただでさえ正体を見極め難い「印刷技術」が、それでも成熟化したと言われ、デジタル方式へ移行してきた。インターネットとモバイルの日常化が加わり、混乱に拍車を掛けている。JAGATそのものの定義も揺れざるをえない▼紙にインキを載せる伝達表現は減る傾向にあるが、現在のモバイル社会を、すべての人が電子ペーパーを持ち歩いていると考えれば、そこにコンテンツを表出させる行為も「印刷技術」の発展形と言えるのではないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月12日付
 10月4日に東京で開かれたレディバードクラブ全国大会には、過去最高の500人の参加者があった。セミナーは「M&A」という旬のテーマで、小松印刷、東京リスマチック、ウエマツの3社社長の登壇が話題を呼んだ▼話の中では、企業価値を高めるための有力な選択肢の一つとしてM&Aがあることが明確に述べられた。参加者からは「M&Aに対する印象が変わった」、「前向きな気持ちになった。印刷業界はまだまだやれるのではないか」といったプラスの意見が聞かれた。抵抗感が薄らぎ、真正面から向き合う会社が増えれば、この先、業界内の統合・再編はますます加速するだろう▼レディバードクラブ副理事長、プリ・テック会長の高井昭弘氏は業界におけるM&Aの先駆者。懇親会のあいさつで高井氏は、かつてアメリカで、M&Aにより社員がみな喜んでいた様を目にした体験が大きかったと話し、有効な手段であると断じた▼一方で、「本体の経営がしっかりしていなければ弱体化する。カネも人もどんどん出ていく」と注意を促した。協業や業務提携など、緩やかなところから始める手もある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月05日付
 「まだ写す? ラーメン店主の湯気のぼる」、「撮ってない! 箸をのばして叱られる」─インスタ映えもいいが、実際にこんな体験をするのは興醒めだ。だが、表現の主役に写真や動画が躍り出ている。ボーン・デジタル世代ほど、ボーン・イメージに近似する▼コミュニケーション手段に携わる印刷人は、テキスト、組版、静止画の役割と美を守るだけでなく、映像への理解も深めなければならない。3D映像、音声動画、静止画から動画への誘導、デジタルサイネージでの双方向受発信など、テーマは数えきれない▼家事の合間にユーチューブを幼児に見せる親が増えた。電車内でも珍しくない。1編あたり数十秒から、せいぜい1、2分という長さがお守りには丁度いいのだとか。テレビCMの影響で思考が細切れになる弊害が指摘された昔を思い出す▼近頃は、2時間の映画は長過ぎるとカット編集され、大学の授業も90分では集中力がとても保たないとか。映像の世紀は、腰を据えて対象に向き合う力の欠如を伴う。読書の秋を懐かしむ吾人は、しっかり食事に対しなさいとも言いたくなるのである。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月28日付
 印刷業界でも、採用難以上に定着率の低さを嘆く声が聞かれる。隣の芝生が青く見えるのは人の常。だが、一度は他社へ流れた社員が復職し、確かな戦力として活躍する例も多い▼最近、相次いで2人の社長から、「よそで働いてみて初めて、いかに自分が恵まれていたか分かった社員は、戻ってからは辞めることなど考えず、一所懸命に働く」という話を聞いた。外から会社を見つめ直し、異なる経験を積んだことも強みで、会社の求心力の核となる▼統計こそないが、そうした例は増えているのではないか。復職希望者の採用に抵抗を感じる経営者がいることはたしかだ。だが、若い時はだれしも腰が据わらないもの。「もう一度やらせてほしい」と願い出るのにも、それなりの勇気と覚悟が要る。会社として、多様な人材から成る職場形成のための選択肢の一つとして、道を開けておく手はある▼前述の社長との会話で、「夫婦ではなかなか同じことは起こりませんね」と笑ったのだが、会社員が戻る場所も一種のファミリー。厳しくも温かい社風は小さな会社ほど魅力となりやすく、家族的経営の競争力の素となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月21日付
 2030年ビジョンを語る経営者が少しずつ出てきた。激変する社会情勢ゆえ、先読みしても仕方ないという考えもあるが、ビジョンとは未来予測ではなく、自分はこうしたいという意思の現われだ。経営ビジョンの不在は、自身の人生ビジョンがないに等しい▼とはいえ、経営環境の影響は免れない。2020年以降、五輪関連投資の反動、人口減少と高齢化の加速は想定できる。そして、気になるのがAIの進化。経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏は近著『仕事消滅』の中で、2025年にはタクシーや長距離のドライバー、デイトレーダーが絶滅すると予測する▼ルノー・日産・三菱連合は15日に発表した中期経営計画で、2022年までの無人運転車開発と配車サービス事業への参入を明記した。現実が追い付いている▼鈴木氏によると、2030年に専門的頭脳労働、2035年に研究者やクリエイターの仕事が消える。DTPや印刷のオペレータは? 経営判断は? そもそもコミュニケーションとは? 世のAI化が進むほど、「何をしたいのか、どう生きたいのか」が問われることになる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月14日付
 今年に入っての印刷需要の明らかな減少は、資材関係の数値や各地の印刷会社のヒヤリングから全国共通に見てとれる。本当の曲がり角がやってきた。バブル期を上回る内部留保を抱える日本企業ではあるが、情報発信の方法、広告宣伝の予算配分がかつてとは様変わりしている▼21世紀を窺う頃から、印刷物はメディアの中の「ワン・オブ・ゼム」と言われ始めた。その認識は正しいが、だからと言って、顧客のコミュニケーション手段をトータルに切り盛りできる印刷会社が増えたという印象はない。むしろ、プリントマネジメントやネット受注の志向が強まった▼印刷業を所管する経済産業省の担当課の名称が、コンテンツ産業課と改められた。さまざまな意見があろうが、印刷業にとってもコンテンツこそ生命線。それあっての「メディア」であり、「ものづくり」であり、「トータルソリューション」である▼コンテンツの入口に立ち、デジタル編集力を持つ印刷業の強みはとてつもない。そこを自覚し、磨くことでしか、いわゆる「印刷」部分での後退を前向きの力に変える術はないのではないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月7日付
 「もっと早く言ってくれていたら、いいアドバイスができたのに」─。事業承継の問題を検討する印刷業界の会合に出席した際、居合わせた経営者から何度も似たような発言が出た。「廃業」の二文字はたしかに重い。資金繰りの苦しさから逃れたい、会社を自分の代で畳むのは忍びない。そんな思いが交錯するだろう。しかし、近い人に相談することで、思わぬ好展開もある▼残念ながらこの先も、廃業する印刷会社の数が減る気配はない。それでも、タイムアウトぎりぎりまで粘る会社が減るだけで、業界にとっては大切な資産が残ることになる。顧客、信用、人材、技術、経験、財産のすべてにおいて▼廃業や事業承継、売却、いずれを選ぶにせよ、時間が必要だ。大事なのは早目の決断と初動であり、動きの中でさまざまな情報やアドバイス、環境変化を得て、当初の思いや計画が変わる可能性もある▼M&Aの話題がいまや業界で日常的になったように、廃業に関しても、社長独りで悩む時代ではない。感情論を脱し、合理的な選択をしやすい環境をつくることは、業界全体の大きなテーマとなる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月31日付
 2016年度の国内通信販売市場売上高が28日に日本通信販売協会から発表された。前年度比6.6%増の6兆9400億円となり、18年連続で増加した。直近10年の平均成長率は6.6%という高さだ▼10年前の2007年度の売上高が3兆8800億円。市場はおよそ2倍に膨らんだ。日本通信販売協会では、市場の傾向として、アパレル通販やB to B通販の堅調さ、プラットフォーム系を含む通販支援サービスの充実などを挙げている▼家人の購買行動を見ても、本や家電、知人への贈り物まで、ほとんどがネット通販。おかげで、せっかくの休日も宅配業者への対応でくつろげない。小物一つでも贅沢に使われている段ボールもなんとかならないか。日本製紙連合会の統計では、7月の段ボール原紙の出荷量は前年同月比4.5%増、今年1月からの累計でも前年同期比2.3%増と好調に推移している▼一方、カタログ通販最大手の千趣会は、約7500万部発行するカタログの部数を、今後5年間で5分の1に減らし、ネット通販に重点を移すという。店舗、印刷物、郵便には受難の時代である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月24日付
 10月にアラブ首長国連邦で開かれる第44回技能五輪国際大会に、印刷職種では亜細亜印刷の早瀬真夏さん、グラフィックデザイン職種では図書印刷の青木美穂さんが日本代表として出場する。メダル獲得はもちろん期待したいが、それ以上に、出場に至る過程で選手が得るものは大きい▼早瀬さんは、昨年の代表決定後から大会への出発直前まで、社内・社外を含め、計60回以上の強化トレーニングに励む。今回は、ドイツに出向き、競技で使用されるハイデルベルグの印刷機を使ったほか、国内では他社製のUV印刷機も扱い、幅広い技量を培った。また、国内の印刷会社を8社ほど訪ね"他流試合"も行った▼日本印刷産業連合会によると、顔つきは明らかに変わり、メンタル面が相当強化された。すばらしいと感じたのは、早瀬さんの訪問を受けて共に作業したオペレータにも大きな刺激を与えたという話だ▼印刷現場の社員は、自社以外の環境を知る機会がほとんどない。見学会等に行くだけでも多くを吸収する。工場のオープン化や人材の交流促進によって業界の価値を高められる余地は大きい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月10日付
 出版科学研究所の調査によると、今年上半期の紙の出版物の推定販売金額は前年同期比5.5%減となった。書籍が2.7%減の3954億円、雑誌が8.5%減の3327億円。雑誌はかつてない激減だ。一方、電子出版は1029億円、コミックを中心に21.5%増加した。紙と電子を合算すると2.8%減となり、2.7%分の減少を電子出版が補った▼全国大学生活協同組合連合会の調べでは、大学生の1日の読書時間は平均24.4分。前年に比べ4.4分減少した。約半数が、1日の読書時間を「0」と回答するなど、読書離れが進む▼大日本印刷は武庫川女子大学に電子図書館システムを導入し、学生がスマホやタブレット等で読書しやすい環境を整備することで、読む習慣を定着させる実証実験を7月から開始した▼慶應義塾大学とKADOKAWA、講談社、集英社、小学館、出版デジタル機構は、未来の出版に関するラボの設置で合意し、電子書籍標準規格EPUBや日本での電子出版について研究・推進する。読書の概念が拡散し、いよいよ「電子」という冠が外れる日が近づきつつある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月3日付
 「ちょい」消費をものにした企業の強さが目立っている。日高屋は「ちょい飲み」効果で14期連続の最高益更新、410円タクシーの「ちょい乗り」然り。団体客の宴会や長距離乗車の客を狙う時代とは明らかに異なる時代となった▼タクシーでいえば、日がな一日、長距離客ばかり狙ってヤマを張る運転手は、結局空振りに終わることが多いと聞く。ところが、初乗りの客をつないでいくうちに、ドーンと大きな客にも巡り合う。ほとんどの運転手はそう言う。ホームランバッターばかり9人並べても野球は勝てるものではない。バントも盗塁も大切なのだ▼印刷の特性が、同じハンコを使っての大量複製であることに間違いはない。ゆえに、大ロット、リピートを狙いたくなるのは人情だが、この業界でも「ちょい刷り」で稼ぐ会社が確実に増えてきた▼ちょい刷りで利益を上げるために高効率のやり方を考え、見える化を図り、営業の評価を改める。そんな会社の評判がクチコミで伝わり、客を増やし、頼まれ事が集まり、いつしか大きな仕事や囲い込みにもつながる。ちょい経営を軽んずるなかれ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月27日付
 19日のハイデル・フォーラム21で講演した辻野晃一郎氏は、グーグル日本法人の社長を務めた経験から、グーグルを生む土壌と日本および日本企業の違いについて、「Global Scalability」の概念の有無によるものと指摘した。発案したアイデアが「世界に通用するか」を常に問われ、社内のいたる所に「地球目線」を意識させる映像などがあったという▼講演で、それ以上にスケールの大きさを感じさせたのは、「いつ、誰に質問しても、仕事の手を止めて答え(応え)てくれる」という社風の紹介。クラウドを使いこなすグーグルの超速経営の話の後だっただけに、余計に意外な感を受けた▼優秀な頭脳集団であるほど、自身の成果や評価だけを気にする社員が増えると空中分解を起こす可能性が高まる。大きな組織をがっちり束ねることができる唯一の指標が「地球」ということになるのかもしれない▼全員の目線がより良き世界の現出に向いているとすれば、チームはライバルではなく同志の集まりとなる。悲しいほどに内向きの日本の政治を見るにつけ、世界を向く教育の実現は遠いと思わざるを得ない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月20日付
 30万8084人減、前年比0.24%減(日本人住民)、14万8959人増、前年比6.85%増(外国人住民)。総務省から発表された日本の人口統計(平成29年1月1日現在)で驚いたのは、外国人の増加率。出生者数も1万6579人で増加傾向にあり、調査開始の平成24年以降最多となった▼日本人の減少については、「ついに下り坂が始まるか」と重たい気持ちになるが、想定の範囲内でもある。だが、その半分を定住外国人が補っているとなれば、国としての対応指針がいよいよ必要になる。インバウンド対応は「接客」だが、定住者対応は「責務」だ▼言葉、教育、就職、医療、公共サービス、地域交流等々、あらゆる場面で統一した指針やシステムが足りない。言語の表示、ユニバーサルなデザイン、文書書式の作成・整理、携帯端末用のデータ変換、地域コミュニケーションなどに長けた印刷会社の出番は間違いなく増える▼約232万人の外国人住民の7割は三大都市圏(東京、関西、名古屋)に住む。地方には孤立しがちな住民も多いはず。それぞれの地域で、新しいまなざしが求められる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月13日付
 震災から1年余り経った熊本の町では、まだ至る所にブルーシートを被った民家、工事中の建物があった。解体、修繕、建設関係の業者が仕事量の多さに追い付けず、復興に時間がかかっている▼熊本県印刷工業組合の藤井理事長の話では、観光施設やイベント会場が機能しなくなり、入場券、パンフレット、チラシ等の印刷物需要に直接打撃があったという。改めて、印刷会社にとって地域のインフラがいかに大切であるかを思わされる▼熊本に限った話ではないが、人口減少、人材採用難、輸送困難、資材価格上昇などで、特に地方の印刷会社は厳しい状況にある。そこへ突発的なマイナス要因が加わることがどれほど大変か。地域愛だけでは乗り切れない。ゆえに今、BCP連携、事業連携、事業承継、遠隔教育、入札改善などに関する業界の取組みが急がれている▼今後、印刷会社のネットワークによる分散印刷や全自動生産、ビッグデータのマーケティング活用といったテーマもさらに顕在化するはずだ。愛国心に満ちた坂本龍馬がブーツを履き、銃を手にしたように、新しいツールによる武装の必要が高まる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月6日付
 将棋の藤井聡太四段の活躍が、一種の社会現象となっている。史上最年少のプロ棋士デビューから負けなしで公式戦29連勝の新記録を達成。天才中の天才だけが集うプロ棋士の世界で、常識を覆す強さを誇る。そこには紛れもなくデジタルの影響がある▼5年ほど前まで、棋士がインターネットを使う意味は、過去の棋譜の検索、もしくは、誰かが指した最新の戦形を研究するための棋譜や解説の入手だった。つまり、すべて「人」が生んだ元ネタの取り寄せである。だが、将棋ソフトの急速な進化が勝負の概念を変えた▼今や自己学習機能を備えたAIが、人智を超えて限りなく強さを増している。現在の棋士は、精密かつ、定跡にない作戦や勝負手を当然のごとく繰り出すソフトと、ネット上でいつでも対戦できる環境にある。若い頭脳や感性が「新世代」を形成しないわけがない▼間違いなく、将棋界も囲碁界も戦いはさらにレベルアップする。同じことが、AIが介入する余地のある、世の中のあらゆる職業で起こるはずだ。印刷の技能を引き上げ、媒体の価値を高めるAIとは何か。大いに議論したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年6月29日付
 中小印刷業の官公需対策がヤマ場を迎えている。7月に閣議決定される「国等の契約の基本方針」に、全印工連が要望してきた改善内容が反映される見込みで、前進が大いに期待される。重要なのは、新たな方針が地方自治体に浸透することであり、そのためには、まず印刷業者自身の認識と行動が問われる▼国の方針は変わったが、当人たちから何のアクションもないのでは、有名無実となりかねない。基本方針に基づく文言を契約書に盛り込めるよう、各地元の首長や議員に働きかける必要がある▼全印工連の臼田会長は、知財権保護の次には、予定価格の積算が取引改善の要になると見ており、「根拠ある積算をできる職員が少ない。われわれが組織的に手法まで提供しないと進まない問題だ」と話す。各印刷工業組合の力を結集し、業界として積算仕様書や入札条件を示さない限り、低価格等に歯止めを掛けられないという認識だ▼全印工連では、全国の官公需取引の実態を正確に把握したうえで、国の方針改正に対応した全印工連としての行動マニュアルを年内にも作成し、業界内に周知させていく予定だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年6月22日付
 「カルチャースクールも、バッグや服の販売などブランドビジネスもやっています。でも、それは出版業を続けたいからです。足りない売上を補完するために、今までにない事もやる。それが当社の姿勢です」。製本団体の講演会で、小学館の速水健司制作局シニアマネージャーが語った言葉だ▼前回の小欄で、印刷業の業態の多様化に触れた。変化への柔軟な対応は重要だが、原点まで見失ってしまっては、業態不鮮明企業になりかねない。自社の強みも顧客への訴求力も失う。大手印刷会社でも、社名から「印刷」の文字は外していない▼同じ講演の中で速水氏は「紙メディアとデジタルメディア、買う人はそれぞれ違う。足し算、引き算をしてはいけない。デジタルのことを気にする前に、編集者はもっと本業に頭を使うべきだ」とも語った。一方で、製造コストを下げるためのデジタル印刷への取組みには不退転の決意を見せる▼いまや未来実験室ともいえるコンビニエンスストア。「便利」という言葉を冠された宿命で、小売の概念を大きく超える。その経営者にとって"本業"とは何か。気にかかる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年6月15日付
 印刷業界団体はどこも会員数の減少を課題に抱える。致し方ない面はあるが、数は力なり。少しでも会員は多い方が、外に向けた発言力の大きさにつながる▼いわゆる「印刷業」の業態は多種多様化している。印刷設備を持たないデザイン制作、封入発送、イベントプロデュース等の企業が会員となっている例は多い。そうした業態を取り込むことは、組織増強だけでなく、内部でのシナジー効果を期待できる。団体の定款変更だけで済む場合もあれば、加入する会社の定款に「印刷関連」と謳っていることが必要な場合もある。各県の中小企業団体中央会の取決めによって異なるようだ▼近年、会員数を維持・増加している団体の一つである岩手県印刷工業組合の斎藤理事長によると、東日本大震災の後に「組合に入っていて良かった」という声が多く聞かれたという。真に厳しい局面にあってこそ、人は仲間がいる心強さを実感できる▼いまだに組織のメリット云々の話は絶えないが、「いざ」という場に立たされた時の支え、そこに対する投資といった長い心持ちで加入する考えがあってもいい。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2017年6月5日付より
 神奈川県製本工業組合の総会後に行われたセミナーでは、印刷業・製本業専門のコンサルティング会社、認定支援機関の株式会社GIMS、寶積(ほうづみ)昌彦氏が「製本業で活用できる補助金」をテーマに講演した。▼中小企業診断士である寶積氏は、印刷機械メーカー出身の異色のコンサルタントで、7月1日に横浜市で開催される全製工連の商業印刷製本専門委員会でも講演を行う予定だ。GIMSは認定支援機関として印刷業関連では圧倒的に採択実績が多い。▼寶積氏は、今年1月で公募が終了した平成28年度補正ものづくり補助金について次のような数字を紹介している。申請総数1万5547件のうち、採択数は6157件(採択率39.6%)。うち、印刷・製版・製本関連は220件で3.6%。事業計画名から可能な限り導入設備を類推したところ、「後加工」(製本機・折り機・表面加工機・レーザーカッター・ミシン・グルア等)が220件中61件(28%)で最も多く、次いで、「POD・インクジェット」50件、「不明」44件、「印刷周辺機器」25件、「ITその他」21件などとなっている。▼ここ数年の傾向として後加工機の導入が多くなっている。寶積氏は、「中間工程に位置する印刷業に比べて、製本業は製品の形状や機能自体がらりと変わるため、採択員にイメージを訴えやすく、理解されやすい。採択員は後加工についての知識は少なく、新しいチャレンジと受け止めてくれる。ぜひその優位性を活かして、製本会社の方々にはもっと積極的に補助金を活用してほしい」と話す。▼ただし、有利な面がある一方、後加工分野に目を付ける印刷会社その他も増えており、採択が簡単ではないことは心得ておく必要がある。▼神奈川工組のセミナーでは、地域限定の制度の例として横浜市の「中小製造業設備投資等助成制度」(補助上限額1000万円)が紹介された。「本社が市外であっても横浜市内への投資を行う場合にも活用可能」、「リースによる導入も対象となる」など、幅がある。寶積氏は「都道府県単位で製本業が活用できる補助金も多い。特に、毎年4月から7月頃にかけて公表されるので、小まめに情報を確認していただきたい」とアドバイスした。▼29年度に初めて実施された「IT導入補助金」「事業承継補助金」、おそらく来年度も実施される「小規模事業者持続化補助金」(上限額は50万円。販促用印刷物の製作やWebサイト構築など対象)等、支援内容は多岐にわたってきている。公的支援制度の情報は、中小機構の「J-net21」、中小企業庁の「ミラサポ」などから入手できる。


コラム「点睛」 印刷新報・2017年5月25日付
 小学生の花丸、二重丸ではないが、どんな小さなことでも、人は褒められると嬉しいものである。事を成した人の多くは、幼少期に忘れられない褒められ体験を持つ。たとえ相手が一人でも効果抜群なのだから、大勢の前でなら尚更だ▼高齢だからとあきらめてはいけない。世に「マスターズ」なるものがある。陸上でいえば、マスターズ大会にはたとえ80歳、90歳になろうと参加でき、タイムは公式記録として残る。5歳刻みの年代別競技ゆえ、自分も相手も生きている限り生涯のライバルが存在する。つくづく良くできた仕組みだと思う。ゴルフの青木功だってマスターズで健在。実に楽しそうだ▼あらゆる分野にマスターズ制を採り入れたら、社会が大いに活性化すること間違いない。今年10月に行われる国際技能五輪も、若者だけでなく全ての年代に開かれると、とてつもないベテランの技に青年が驚嘆する場面が出てくるのではないか▼人生百年時代と言われる昨今。ただ長生きするだけではつまらない。社会貢献をするも、人の手本となるも、まずは活き活きした自分があってこそ、と思うのである。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年5月18日付
 このところ相次いで、高校の同窓会報と大学時代に関わっていた団体の会報が「紙」でなくなった。サイトの専用ページ閲覧と、一方は登録アドレスへのメール配信である。年々増え続ける会員に対応するコストと労力を考えると、異を唱えるのは難しい▼広報紙(誌)も情報伝達媒体の一つであり、同様に、電子決済の増加による伝票関連から事務書類、教材、名簿、カタログ、マニュアルまで、情報の閲覧と記録ができればひとまず事足りる媒体のデジタルへの移行は必然の流れとなる▼今後、紙で残るのは、思索や感性、保存の価値を備えた媒体だろう。考え味わう内容の書籍・雑誌などは、むしろ紙がふさわしい。いずれにしても、既存の印刷市場の縮小は避けられない▼印刷会社の価値は、オフセットかデジタルかという生産方式の違いを超えて、ICTの「C」の部分にどれだけ関われるかにかかってくる。デジタル情報が世に増えるほど、効率化された時間を人々がより生産的な事に振り向けるためのアドバイス、あるいは、時に思索や感性の価値に誘導する役割まで担うことになる。実に大事な仕事だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年5月11日付
 フランス大統領選挙の結果を受け、連休明けの日経平均株価は2万円台を窺う急上昇を見せた。不安が取り除かれた直後には似た現象が起こる。だが、楽観に浸りたい人間心理の逆を突いて、虎視耽耽と売抜けのタイミングを図る勢力がある▼史上最高値の株価水準にある米国も個人消費は増えない。中国・上海では、住宅購入価格が平均所得の14倍に達し、バブル崩壊直前の東京23区の水準に近いという。首都圏、地方を問わずマンションやホテルの建設が続く日本。世界的に根拠なき楽観が蔓延している▼売抜け競争の後塵を拝した組が椅子取りゲームに走るには、少しのきっかけがあれば十分だ。80年代、90年代、2000年代と、金融・不動産・ITバブル崩壊の大きな潮目は10年周期の終いと初頭にやって来た▼ある中堅不動産会社の社長は「一気に状況が変わるのではなく、次の経済危機は音もなく近づいてくるのではないか。問題が表面化する頃には"ゆでガエル"状態で、企業も個人も大変な試練を迎える」と話す。希望と楽観は似て非なるもの。あえて距離を取る冷静さで現実的な手を打ちたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月27日付
 印刷工業会の4月19日のセミナーで「ダイバーシティ」について講演した経済産業省の藤澤秀昭経済社会政策室長に、浅野健副会長は「多様な人材の受け入れを言いながら、日本の教育は均一な人材を育てていないか」と質問した▼藤澤室長は「おっしゃるとおり。求める人材の育成に対して企業の危機感と苛立ちが強まっている。文部科学省と人材育成会議を立ち上げ、産学官連携で議論を始めた。同時に初等中等教育においても、個々の能力に合った教え方の導入を検討している」と、教育の重要性に認識を示した▼「人生百年時代」が言われる中、企業はもちろん、子どもたちも多様性を小さな頃から身近に感じ、コミュニケーションを学ばなければ、ますます複雑、渾沌となる社会を生き抜いていけない。障害者学級と明確な区別を設ける日本は、その点で欧州などに後れを取っている▼同時に、ブラックな側面が色濃くなる社会にあって、お金の扱い、仕事の仕組み、詐欺や犯罪、ネットとの付き合い方など、身を守るための現実的な術と心構えについて、子どもたちに教えざるをえない時代となった。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月20日付
  辞める現象面だけ見ればもっと早いが、一般には入社3、4年目が社員の身の振り方の転機だろう。組織や仕事の実情が見えるようになったと捉えれば、社員自身の成長であり、つなぎ留められるかどうかは、会社の力量が問われる。そこを乗り越えれば、経営目線を備えた優秀な人材の育成に近づく▼社員の意識が経営側に立つ強い組織の実現には、仕組みからのアプローチが欠かせない。究極は、社長が不在でも仕組みで回る組織が目指すべき理想といえる▼欧米の先進的な印刷会社を訪問して驚くのは、100人、200人の企業であっても、営業専任者が数人しかいないことだ。それでも、バックアップ部門との緊密な連携、ICTの活用などで、リアルタイムな最適サービスを顧客に提供する。日本の印刷会社には感覚的につかみにくい▼専任が少ないからといって、社長がトップ営業に走り回っているわけでもない。意外に自社の現場に顔を出す時間が多く、内情に精通している。そこへ重要な顧客を招き、濃厚なおもてなしで心をつかむ。そんな文化に日本企業が変わると、若い社員の意識も必ず変わる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月13日付
 コンサルタントの田中信一氏は、2030年に生き残る印刷会社の現実的な戦略として、「特化─多様型ビジネス」を挙げる。特化する「顧客/市場」を選び、多様な製品/サービスを提供するか、あるいは、特化する「製品/サービス」を選び、多様な顧客/市場に提供するか、である▼言い換えれば、「一点集中突破、全面展開」という古来あまた用いられてきた兵法の基本。自社の何を強みと捉え、どこに狙いを定めるか。まさに経営者の眼力が問われる。流行だけを追いかけていて成功するものではない▼縮小が続く出版市場であっても、そこに特化してきた印刷会社には、他社には見えない独自のソリューションがある。出版物製作の完全一貫工程を備えた地方の印刷会社が、分業に慣れた東京の同業者では解決に時間がかかるトラブルに即座に対処し、出版社からの信頼と仕事を得た話も聞く▼スモールメディア/リッチコンテンツという言葉もある。印刷会社の得意な小さな媒体こそ、特化した分野や地域で魅力を発揮できる。地方の小規模企業が勝機を呼び寄せる時代は、むしろ「これから」という気がする。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月6日付
 糖尿病とは、栄養が満ち足り過ぎたため、自己防衛本能で躰が自ら、「生きることを止める」病のこと。部分壊死から始まり、全身の機能不全に陥る。情報過多、便利過ぎる現代が、「精神的糖尿病社会」に映る。人の人たるゆえんは、自分の頭で考え、動き、他者に思いを伝える行為に尽きるが、徐々に弱まりつつある危惧を覚える▼深夜1時の某レストランチェーン店。ウェイトレスはバングラディシュ人か。厨房の彼は明らかに韓国の人。酔って寝入った客の扱いに困った2人に、店がはねたばかりの中国人のママとホステスが笑いながらアドバイス。いつの間にか珍しい光景ではなくなった。日常が世界と同化するグローバル化が着実に進行する▼本当のグローバル社会とは疲れるものだろう。さまざまな相手の素性を慮りながら、上手に会話や気配りをするなど、日本人には苦手かもしれない。日本にいれば、まだ日本をバックに接している。20年後にはどうなっているか▼新人が街にあふれる季節。彼らも結構大変なのだと思いつつ、自分が育った時代を土台に安易に判断してしまう世代の限界を同時に感じる。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2017年4月5日付
 電通の「2016年日本の広告費」によると、総広告費に占める媒体別の割合は、マスコミ四媒体45.5%、プロモーションメディア33.7%、インターネット20.8%となる。マスとプロモーションが前年から1%ずつ減った分、ネットが2%増えた。この傾向が近年続いている。同じペースで進むと、10年後にはマスが35%、プロモーション24%、ネット41%と主役が完全に交代する。当然、販売促進の手法も広告宣伝予算の配分も大きく変わってくる。これに伴う関係者の混乱はすさまじいだろう。人は皆、自分の立場や持ち場を守ろうとするからだ。▼官公庁や民間企業においては、言わずと知れた「予算の取り合い」。まともな組織であれば当然、最も効果的、効率的な販売促進や広告宣伝について、部門間をまたいで議論や調整が行われるものだが、自部門の権益、評価を高めるために、そこにはどうしても恣意的な力が働いてしまう。ゆえにメディア戦略に誤りを生じる。中には、前任者が大きな成果を上げたプロモーションについて、まさに「前任の功績を認めたくない」という理由だけで、継続の検討は一切なく、白紙に戻す担当者さえいる。▼メディア戦略を提案する立場にある広告代理店の側も、本音と建前は大きく食い違う。とにかく成績を上げたい営業は、テレビ広告が劣勢になりつつあることを自覚しながらも、目の前のCM 1本の額がアタマを占め、積極的にスポンサーに勧める行動を採る。かたや、時代の趨勢から明らかに今後の主役となっていくクロスメディア・プロモーションは、案件ごとの利幅が相対的に薄い。それでも、担当部門としては成績を伸ばし、目標を達成しなければ社内で生き残れない。昨年起きた電通の過労死事件には、長時間労働以上に、発言力の弱い部門に配属されながら、結果をシビアに求められることの精神的なストレスがチーム全体を蝕み、最も耐性の弱い社員が犠牲となった側面がある。▼広告とは極めて人間臭い行為であり、調査数字から浮かび上がるデータだけでは予算配分を決められない性質を持つ。印刷業界も含めて、そこで商売をしようとする者は、組織内の力関係までよく読んだうえで、接し方を練る必要がある。▼難しいのは、生まれながらにインターネットやスマートフォンに囲まれて育ったデジタルネイティブ世代が、組織で発言力を持ち始めた時。彼らの思考や行動から生じる力学は、今とは必ず違ったものになる。日本の古い因習を変える期待を抱きつつ、メディアに携わる難しさに思いを新たにする。


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月23日付
 札幌市に本社を置くフュージョンが2月に札証に上場した。同社は、パラシュート(2007年に札幌凸版印刷から社名変更)のマーケティング専門のグループ会社として1991年に設立された。この時から、グループは「ダイレクトマーケティング」を事業ドメインに設定し、新分野に舵を切った▼小さな印刷会社を継いだ花井秀勝会長は、アメリカで先端マーケティングを学んだことをきっかけに自身を変革し、会社を変革してきた。2008年にフュージョン、2010年にパラシュートの社長を任された佐々木卓也氏(42歳)は、レタッチマンから身を起こした人であり、ものづくりの原点とマーケティングへの情熱を併せ持つ▼現在、グループ売上に占める印刷関連の割合は約4分の1だが、花井会長は「ものづくりを手放すことは考えていない。そこにこそ、われわれの強みがある」と話す。一方、ダイレクトマーケティング事業で培ったノウハウを携えて、海外展開を見据える▼大手企業との人材獲得競争が激しさを増すなか、上場で調達した資金は主に、優秀な人材の採用と育成に充てていくという。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月16日付
 eラーニングによる学習改革への期待は高い。成功するプログラムには、学ぶ必然性がある(単位・資格の取得、昇進・昇給の条件など)、双方向性があり能動的になれる、コンテンツ内容が自分の関心に極めて近い等の理由がある▼コンテンツの魅力が視聴率に結びつくとは限らないのが難しいところ。「いつでも、どこでも」の謳い文句は、テレビ番組の録りだめと同じで、便利さでは人は動かない。ある種の強制力や緊張感、費用を伴う方がいい▼生のセミナーやディスカッションでも、鍵を握るのは「参加する臨場感」だ。講師の問いかけ、受講者の発言、ポストイットなど道具や手を使った思考整理、隣の人との会話や握手だけで、何倍もいきいきとした体験に変わる▼印刷業界ほど数多くの団体が膨大な講演会や研修会を開催し、情報発信している業界は他にない。あり余る情報の整理、共有、有効活用は、業界全体に大きな恩恵をもたらす。全印工連は3月から遠隔教育システムのテスト実施を始めた。ジャグラの「ジャグラBB」などの先行事例を参考に、思い切った新しいeラーニングの道筋を示してほしい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月9日付
 11日で丸6年。東日本大震災で刻まれた体験や心象は、同じ日本人でも一様ではない。西日本では、多くの人が報道でしか東で起きている現実を知りようがなかった。それが昨年4月の熊本地震では、一転して身近な危機に変わる。記憶の風化以上に恐れるべきは、想像力の欠落か▼都心にある本社で3.11を経験したY社長は、その瞬間、元キャビンアテンダント(CA)の秘書からテキパキと指示を受けた。「閉じ込められます。ドアを開けてください」、「すぐコンビニで食料をまとめ買いしてください。帰れない社員が出ます」…。後ですべて的確だったと知る▼CAが最初に教わるのは、我が身を守ることだという。Y社長は「まず自分が生き延びてこそ他人を助けられる。次に家族の安全。それができれば会社、地域、国を元気にできる。インサイドアウトが正解だ」と学んだ▼会社経営にもリスクが不意に訪れる。トップの冷静で的確な指示が命運を分けるが、目線が社員の安全(生活)確保に向いていることが重要だ。社員さえ元気なら会社は再生できる。会社の大儀に殉じる行動を求めてはならない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月2日付
 電通の「2016年日本の広告費」によると、総広告費に占める媒体別の割合は、マスコミ四媒体45.5%、プロモーションメディア33.7%、インターネット20.8%となる。「ネットはまだ5分の1」と思うなかれ。マスとプロモーションが前年から1%ずつ減った分、ネットが2%増えた。ほぼ同じ傾向が近年続いている▼この分でいくと、10年後にはマスが35%、プロモーション24%、ネット41%と主役が完全に交代する。当然、販売促進の手法も広告宣伝予算の配分も大きく変わってくる▼2月に来日した米国の著名なマーケティング専門家、ロン・ジェイコブス氏が強調していたのは、欲しい製品・サービスの情報を得るために、消費者が行うファーストコンタクトはネットであり、営業マンではないということだ。いまや企業のホームページさえ通過され、クチコミ、SNSが信用される。若者はサイト経由ではなく、登録アプリから情報を取る▼広告代理店の媒体分類も見直しを迫られる。ネット広告費の細かい内訳やツール別分析のほか、紙とデジタルの複合メディアに対する定義が必要になるだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月23日付
 今の印刷業界を「下りのエスカレーターを一所懸命に駆け上がっている」と譬える人がいる一方、「昇りのエスカレーターは必ずある。それも、近くに必ずあるはずだ」という声もある。一人で探すよりも、複数で探した方が早い▼近年、「協業」の必要を意識する経営者が増えた。全印工連では21世紀の入口に、すでに「共創ネットワーク」を唱えていた。再び脚光を浴びているのは、当時よりさらに厳しい経営環境もあるが、互いのオープン化が進んだことが理由。昔はタブー視されたM&Aという言葉が、いまや業界団体の事業テーマに挙がる時代だ。互いを知る機会は、組織の大きなメリットといえる▼ある地方の経営者は、ネット印刷通販ならぬ、地域密着印刷通販連合を構想する。得意を持ち寄る印刷会社が、全力で地域のお客をサポートする態勢を目指す。ネットより速く伺い、オンデマンド機より速く対応する▼この動きはイヤでも周囲の目に触れる。印刷以外の仕事を頼まれることは間違いない。昇りのエスカレーターが向こうから寄ってくるイメージか。小さな会社同士の大きな戦略になり得る。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月16日付
 昨年4月から始まった電力小売りの全面自由化。印刷業界にも恩恵があると思われたが、明らかなコスト低減を実現した例を寡聞にして知らない。東日本大震災以降、印刷業界はピークカットや省エネ機器の導入に積極的に取り組んできた。わずかな料金の差では効果が見えないと言えば結構な話だが、総じて仕事量が減り、電力消費量も下がったとすれば喜べない▼埼玉県に複数の工場を持つあるオフ輪企業の場合、最大の工場では、以前から結んでいたピークカット契約の方が新電力会社の提案よりも割安なため、購買先を変更しなかった。新電力と契約した他の工場でも、削減率は1%程度と期待を下回った▼電気の基本料金は最大需要に合わせて決まる。昼夜や季節で使用料の変動が大きい施設はメリットがあるが、24時間稼働の工場では変動が少なく、すでに契約電力の有効活用ができていたという話である▼無理な拡張競争がたたり経営破綻した新電力も少なくない。エネルギーの見直しは経営体質を強化するが、他人頼みには限界がある。むしろ、自社設備を使った発電、売電の好事例が印刷業界でも増えてきた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月9日付
 トランプ・ショックは、国際的な分断とともに、アメリカ国内の分断を招いた。反トランプ派の州による独立戦争まで起きかねない勢いだ。合衆国の建国理念が大きく揺らぎつつある。国家としての賞味期限が切れたか。器を重んじ、過度の保護主義に走ると、未来に向かうフロンティア・スピリットと競争力は失われる▼かつての南北戦争ならぬ、現代流の凄まじい白い戦争が進行しているのだろう。すべての人が色分けされ、懐柔や説得、操作、弾圧、切崩しの嵐が起こる。そこにネットが巧みに使われる。人々は皆、疑心暗鬼となり、国家の活力が低下する▼華々しく女性知事が誕生した東京都だが、議会の動きを見ると、他国の例を云々できない。人口流入と五輪開催に胡坐をかいていては、活力を維持できないことが明白だ。統計によると、平成27年までの20年間で、東京都全体の人口は16%増加するも、20歳〜24歳人口は34%減少した▼枝葉(東京)だけが繁り、養分を吸い取られた根回り(地方)が朽ちても、木は足下から倒れる。東京の賞味期限を見直し、新たなフロンティアを探る時に来ている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月2日付
 マーケティングとは、仮説と検証の不断の繰り返しだが、情報量が多いほど仮説が立てやすく、検証がしやすいか。そう単純なものではない。しかし、市場分析、顧客分析と称して、ツール開発や情報収集に力点が置かれている現状がある▼世の中の常識では、同じ商品であれば、消費者はより安い企業や店舗から買い、同じ値段であれば、より高品質で多機能な商品を買うものとされてきた。ところが、モノがあふれ、個人の背景や思いが複雑に交錯する現代では、これまでの前提が大きく崩れ始めている▼データは一面の真実を映すが、平均値だけを見ていては本質から遠ざかる。秀でたマーケターとは、時に大胆な仮説に基づき、独自の切り口で市場に風穴を開け、いまだ気付かれない商品価値を明るみに引き出す能力を持つ。分析者というより創造者に近い点で、デザイナーやコピーライターを思わせる▼マーケティング視点からの顧客アプローチが弱いとされる印刷業界。情報量では大手企業に敵わなくとも、創造的な視点をニッチな分野で活かすことができれば、中小企業でも十分に勝機はある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年1月26日付
  やはり、今年はどの新年会でも、トランプ、トランプ…が聞かれた。早々にトヨタの批判を繰り出すなど、国内では期待よりも不安が大きく先行している。オバマ氏の路線も一蹴された。しかし、二大政党制にあっては当然起こり得ること。日本のすばやく的確な対処が問われるわけで、問題は自国の内にある▼不透明、想定外といった言葉が何百万遍繰り返されようと、人は、つい自分にとって都合の良い方向に物事を考えがちな生き物。往々にして期待は裏切られ、必要以上の混乱に陥る▼アメリカの選挙ではないが、白か黒か、常に対立する二軸の流れ、考え方、結果を頭の中で転がしておくことは有効だろう。あえて単純化し、極端な差を意識する。その上で、自分がなってほしくない結果が出た場合の対処を少しでもシミュレーションしておけば、最初の一歩の速さが違ってくる▼災害、テロ、ウィルス、通貨危機、政変から会社の人事や失言、偽装、情報流出、家族の病や事故まで、すべてに初動の大切さが言える。2030年に紙の新聞、オフセット印刷がなくなると言う人もいる。さて、どう動くか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年1月19日付
 箱根駅伝は青山学院大学の圧勝、3連覇となった。高校時代に飛び抜けていた選手は少ない。脱・精神論、躰をいじめるのではなく緩める、いわゆる「青トレ」で大きく変わる。明るいチームカラーと合わせて"しなやかな時代"を象徴する話だ▼それにしても根強いスポーツ界の筋肉志向。一流アスリートの姿を切り取った映像の多くが、がむしゃらなベンチプレスや腹筋運動のような内容で、若者や指導者の認識を歪めている。市民ランナー向け雑誌でさえ近頃は筋トレ礼讃のあり様。さらに、炭水化物カット、水素水、サプリメント、フォアフット(前足)着地、心拍数計測GPSウォッチなど、あり余る情報が飛び交う▼江戸時代の飛脚は、草鞋履きでも一日に100キロ以上走ることが珍しくなかったという。怪我をしたら仕事を失う。そんな飛脚たちが筋トレをしたか。主食は米、味噌、漬物だったのではないか▼数値に囚われ、脳で考えて躰を縛る悪弊から如何に抜け出すか。メダルの数が問題なのではない。笑顔が自然に出る躰の使い方を誰もが会得すること。東京五輪で試される大事なテーマだと考える。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2017年1月12日付
 2013年に約1億2700万人、2100年に約5200万人、2210年(200年後)に約1391万人、2310年(300年後)に約423万人、2500年に約44万人、そして2900年に約4000人、3000年に約1000人。これは、昨年11月に全日本印刷産業政治連盟の勉強会で自民党の石破茂衆議院議員、前・地方創生大臣が講演した際に配付・説明した資料にある日本の将来人口の推計である。国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2015)」から政府が作成したものだ。推計値は、平成25年(2013)の総人口を基準に、この年の女性の年齢別出生率(合計特殊出生率1.43)、出生性比(女性100に対して男性105.1)および生命表による死亡率(平均寿命、男80.21年、女86.61年)が仮に今後一定とした場合の人口予測となっている▼遅かれ早かれ、今は人口爆発している新興国も、1000年後には似たような運命をたどるだろう。すると、全世界の人口はせいぜい数万人となってしまう。広い地球上に点在もいいところだ。ああ、原始時代に逆戻りの道をひた走っている我が人類。自分が世を去った後のことはどうでもいい、1000年後を考えて、今、何をどうしろ言われても困る。そういう人もいるだろう。だが、つまらない見栄や保身で今この時だけをやり過ごすことの虚しさが、少し芽生えはしないか。中学生たちは学校の授業で、エジプトや中国に存在した4000年前の文明の歴史の一端を学ぶ。それを思えば、1000年は決して長いとは言えない▼さて、石破氏は「地方から創生する我が国の未来」と題したその日の講演で、急速な人口減少に直面している日本の問題点、それを打開するための地方における職業や給与所得の確保、一人当たり生産性向上の方策について語った。豊かな日本の自然と日本人の感性、ものづくりの力を活かし、地方の潜在力を発揮することが鍵になるとし、「その業界や地域にしか分からない『今だけ、ここだけ、貴方だけ』の価値がある。それを一番よく知っている印刷業界のみなさんから政治家に提言してほしい。新しい日本をともに創ろう」と呼びかけた▼社会への貢献の一番の近道は、本業に勤しむことであり、自分の足元(家庭や地域)を元気にすることだ。印刷・製本会社だからこそ、自分だからこそ生むことのできる価値は何か。若者が働きたい、住みたい、家庭を持ちたいと感じられる会社や地域をつくるために、2017年、何か一つは証を残されては如何か。


コラム「点睛」 印刷新報・2017年1月5日付
 本紙姉妹誌・月刊『印刷情報』の経営者インタビュー連載「印刷元気企業の条件」が、1月号で第241回を迎えた。取材・執筆される田中肇氏(たなか経営研究所)の壮健と旺盛な好奇心に支えられ、一度も休まずに今年で21年目に▼業界が下降線に入ったと言われる頃に始まりながら、登場いただきたい経営者はまだまだいる。環境を言い訳にできない何よりの証拠だ。同行記者も毎回、大変良い勉強をさせてもらっている。人生の出発点、会社の原点から懐に飛び込む田中氏の直球勝負に思わず釣り込まれ、時に涙を滲ませる経営者もいる▼第241回は、「クリエイター専用シェアオフィスでものづくりの町を支援する企画提案型印刷企業」として東京・墨田区のサンコー、有薗克明社長。長男の悦克氏との父子での取材は連載初。会社を継ぐ決心をするまでのストーリーに泣かされる▼同社もそうだが、連載に登場するのは、実子であっても、全く違う畑で経験を積んだ後、図らずも事業承継した会社、あるいは娘婿が継いだ会社の割合が非常に多い。業界の常識に囚われない。そこに元気の秘訣がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年12月22日付
 「米国中央情報局(Central Intelligence Agency)と使う時のIntelligenceは、命を賭してでも入手したり破棄しなければならない、社会に重大な影響を及ぼしかねない重要な情報を意味する。もし、CIAのIがInformationであったら、合衆国中央観光局のようなお気楽な緩い政府機関をイメージさせてしまうようだ」。野村直之氏は近著、『人工知能が変える仕事の未来』(日本経済新聞出版社)でこう指摘している▼使い慣れたITという言葉についても、もはやInformation Technologyではなく、Intelligence Technologyの訳を当てはめた方が相応しい局面が社会全体に増えてきた▼爆発的に増大する情報量に、人は、企業はどう対処するべきか。少年(組織)老い易く学成り難し。情報に振り回されず、「いかに情報を取捨選択し正しく判断するか」に重きが置かれる2017年となりそうだ▼「3歳の息子がYouTubeばかり見ているんだよ」という話も耳にした。傍らで、母はスマホで通販、父はPCで映画を観る光景がもはや日常化。そんな時代の情報流の大整理を行うのは誰か。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年12月20日付
 一般財団法人経済調査会は、印刷発注と費用積算のための実務書として、毎年2月に『積算資料 印刷料金』を発行している。その2016年版では、これまでの工程別料金資料のほかに、特集記事としてフルフィルメント分野の料金調査結果が紹介された。印刷業の業務領域が広がる中、印刷関連サービスの新しい積算体系の確立が課題として浮上してきたことに対応するものだ。▼経済調査会では2014年11月に「印刷関連サービス積算体系検討委員会」を発足させた。全印工連、ジャグラ、日本印刷技術協会など業界団体からも委員が派遣され、継続的に議論を重ねている。検討対象となるサービスは多岐にわたるが、委員会ではまず、印刷物の封入封緘、梱包・発送・在庫管理などに関わるフルフィルメントに的を絞り、印刷会社の実態調査を基に検討を進めた。▼プロジェクトを担当する見隆登氏(調査研究部第二調査研究室)は「関連サービスをどう考えたらいいのか、印刷会社にやってもらえるのか、といった問合せが増えている。このあたりを体系化し、発注者に情報提供していきたい」と話す。▼川下方向のフルフィルメントに続いて、現在検討が進められているのが、川上方向のプランニングやプロデュース(マーケティング、販促、キャンペーン、DM、店頭販促、イベント、企画など)。併せて、デジタルメディアを含めた印刷関連ビジネスのソリューション全般について、名称や定義、条件、料金項目を整備し、費用との関係を明らかにする作業を進めている。▼こうした動きの背景には、印刷物発注者の戸惑いのほかに、印刷単価の下落や、印刷関連サービスが無償になりがちなことへの危惧がある。実は、同プロジェクトの発端は、全印工連を中心とする印刷業界側からの働きかけによるものだ。▼現在の予定では、『積算資料 印刷料金 2018年版』に、一連の新料金体系を掲載し、それ以降、体系の啓発と、市場調査に基づく体系の更新を継続していくことになる。▼印刷関連サービス全般が見直されると、当然、従来のプリプレス、印刷、製本・加工の料金との兼ね合い、つまりトータルサービスとしての値付けをどうするかが問題となってくる。単純に、従来の料金に周辺サービスを加算する見積りにはならないはずだ。また、製本・加工業者が川上・川下に進出するにあたっても、新サービスの料金を顧客にどう提案するかが課題となる。適正な対価を得るための顧客との関係構築の大きなチャンスでもあるだけに、十分に注意を払っておきたい。


コラム「点睛」 印刷新報・2016年12月8日付
 業界団体の某支部長が夫婦して交通事故に巻き込まれ、重傷を負った。対向車がセンターラインを越えて突っ込んできたという。運転手は87歳。加速する高齢ニッポン。日常が危険に満ちてきた▼老いることはすべての人間に平等だが、上手に自覚するのは相当に難しい。「自分だけは大丈夫」という錯覚が悲劇を生む。人生の幸福度は、晩年がいかに穏やかであるかで決まる。その大事な時期にトラブルを起こしてはならない▼オレオレ詐欺に遭い、不自然な預金の引き落としをしている高齢者に銀行スタッフが指摘すると、「私が騙されるわけがない」と逆上するケースがほとんどと聞く。他人の忠告に耳を傾けなくなったら要注意▼機能の衰えをカバーするロボットや自動運転の開発もいいが、まずは足腰を使い、能動的な仕事や趣味、交流を持つこと。地域でのイベント開催、MUDの推進、高齢者の見守りシステム開発、ペット飼育用の便利な紙製品開発、歩きと買物を結びつけたポイント事業運営、等々。印刷会社の取組みを見るにつけ、健康、癒し、安心安全の観点から貢献できる余地は大きいと感じる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年12月1日付
 ウサイン・ボルトの足がどんなに速かろうと、自動車には敵わない。だからといって、ボルトの走りに意味がないと思う者はいない。来年、いよいよ羽生善治棋士が将棋のAIソフトに挑むという。勝つのは難しいかもしれない。プロ棋士が百連敗を喫することさえあり得る。だからといって、将棋の魅力や価値は失われない▼数パーセントしか機能を使っていないと言われるヒトの脳が、AIの選択肢を深く分析することで進化する可能性も十分にある。それを実現できるのは、将棋でいえば数ある定石を覚え、実戦で検証を繰り返し、弛まぬ研究を続けるからこそである▼AIの普及で、入学試験などにおける「暗記」の必要は大きく低下するだろう。感性、創造力、応用力こそ人間の真価。とはいえ、その土台として、九九や漢字を覚え、歴史年表や元素記号を覚え、百人一首を暗誦する努力は外せない。ヒトとなるには時間がかかる▼車に乗ることでヒトの肉体は退化した。AIを使わない未来は考えられない。丸投げせず、いかに頭脳の退化を防ぐか。AIの元ネタだって、全部ヒトが考えたものだ。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年11月20日付
 年末が近づくと、流行語大賞、今年の漢字一字など、その年を印象付けるフレーズで盛り上がる。リオ五輪の日本人選手の活躍などを除けば、総じて明るい話は少ない。熊本地震、舛添都知事の辞職、障害者施設の襲撃事件といったニュースが先に浮かんでしまう。「偽」が今年の漢字に選ばれた時には、たまげると同時に砂を噛むようなイヤな思いがしたが、これだけ企業の不祥事が明るみに出ても教訓が生かされない▼帝国データバンクの調べでは、2015年度のコンプライアンス違反企業の倒産は289件。前年度に比べて3割増え、過去最多を記録した。そのうち、「粉飾」が85件を占め、最も多かった。2016年度ははたしてどうか▼同社では「近年の景気回復基調に伴って増加する仕事量に対し、資金繰りや社内体制強化が追い付かなくなる中小企業も多く、粉飾決算や融通手形、循環取引、不透明な資金操作、詐欺などの法令違反が相次いでいる。成長戦略の陰で歪みが表面化した」と分析している▼リーマン・ショックの余波に飲まれた2009年度のコンプライアンス違反倒産は94件。前年度から実に4割も減っている。ところが、2010年からは一貫して増加傾向にある。倒産件数が多い大不況下で、かえってコンプライアンス違反倒産は減るのが興味深い。企業が法令やモラルに反する余裕さえ無くし、先に企業体力を奪われていたと見ることもできる▼コンプライアンス違反の罠に陥るのは、欲得にまみれた人の心。初めは粉飾など考えてもいなかった経営者が、期末にどうしても営業成績を上げたい金融機関の営業担当者に持ちかけられ、決算にお化粧を施して借入れをしてしまったというアブナイ話も耳にする。身近な外部の者にも要注意だ▼一方、日本政策金融公庫が2016年度上半期に実施したソーシャルビジネス関連融資が半期の実績としては過去最高を記録した。NPO法人向けだけで724件、36億円。公庫では融資増加の背景として、高齢者、障害者の介護・福祉、子育て支援、地域活性化といった地域社会の課題解決に取り組む事業者が増えていることを挙げている。融資の対象や基準も今後は大きく変わってくるだろう▼企業とは公器であり、さらに法人格という"人格"を備える。成長を目指すつもりで全てを失うリスクを負うより、亀の歩み、年輪経営であっても最後に勝つのは真っ当な企業であるはずだ。ただし、プロフェッショナルな詐欺行為も横行している。人の良さだけを売り物にして利用されないよう、心してかかられたい。


コラム「点睛」 印刷新報・2016年11月17日付
 帝国データバンクの全国景気動向調査では、10月の景気DIが9月に続いて改善した。2ヵ月連続は1年7ヵ月ぶり。「中小企業」「小規模企業」はともに4ヵ月連続で改善している。倒産件数も歴史的な低水準だ。同社は今後1年を「緩やかな上向き」と見る▼だが、基調は上向きでも、視界不良。四つん這いの前進を強いられているのが日本経済。国内景気を引っ張ってきた自動車産業はトランプ大統領の就任で身を固くし、建設・建築も五輪や復旧工事頼みでアテにならない。参院選やリオ五輪が出荷量を支えた印刷用紙も、材料出尽くしの感がある▼直近の日本株は、米国株の連れ高で推移しているが、10年周期説がまた現実になるとすれば、今は2007年夏の株高ピークを控えた前年の状況によく似ている。引き金となるのはトランプ氏の暴走か▼見えているのは、人口減少、人手不足、空き家の増加、円高が後押ししたインバウンド消費の翳り、円滑化法終了後も続いた金融機関の緩和措置の息切れ、消費税率の引上げ、等々。細心かつ大胆、今ならばまだ最悪を予想しながら思い切った手を打てる位置にある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年11月10日付
 読書の秋というには、あまりにも秋が短い。10月末まで夏日があったかと思えば、もう年末モード。それでなくとも、ハロウィンだ、ポケモンGOだと、最近の子どもたちは書に親しむ環境から遠ざけられている▼時間のある高齢者は増えても根気は薄れ、若者はスマホに浸り、習い事に忙しい。サラリーマンも新聞や週刊誌から離れた。出版受難の時代は続く▼出版科学研究所の佐々木利春主任研究員は、定期誌が今後10年で半減、コミックは紙と電子が3年後に拮抗と市場を予測する。「新刊が少なく読者を育てていない雑誌に対し、小さい頃から読書習慣を根付かせることができるのが書籍の強み」と、書籍主導の活性化に期待する▼全国1千の自治体で幼児への読み聞かせ運動が展開され、学校での10分間読書も広がる。読書時間の多い子どもほど、将来就きたい職業が早く決まるという大手出版社の調査結果も出た。自分は何者か、人生とは何か。自省し、心を養う上で本は掛け替えがないものだ。印刷業界も、需要が細るから離れるのではなく、国の将来のために子どもの読書振興に力を貸すようでありたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年11月03日付
 自宅近くの文具店K屋。常にシャッターが閉まり、廃業したものと思いこんでいたら、家人が左利き用のハサミを買った。テレビでK屋の紹介を観た遠方の姉から頼まれたという。店は平日のみ開け、K屋は卸商にシフト、しかも文具だけでなく調理具など左利き用の豊富な品揃え。メーカーと組んだ近所の「ニッチトップ」に、わが不明を恥じた次第▼日本の回転寿司は、好きなネタを明瞭価格で注文できる点で重宝するが、酢飯握りだけをオンデマンドで製造・納品する専門業も現れた。寿司店を米に関わる心配から解放する。「マス」を支える酢飯に、個別注文対応を組み合わせた、これも「マスカスタマイゼーション」の一つか▼囲い込みによる逆効果の例が各スーパーの過剰サービス。誕生日割引だ、ボーナスポイントだといっては本人証明やカードを求め、手間取る年配の客にレジに並ぶ人は苛立ち、本人も委縮する場面には不快を覚える▼国勢調査で総人口が初めて減少、訪日観光客消費は先行き怪しい。製造業だけでなく、流通小売の世界も、オープンイノベーションによる最適なカスタマイズが鍵となりそうだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月27日付
 「印刷付帯サービスの価格体系づくりが経済調査会の中で検討されるようになったが、もう一つお願いがある。今の印刷積算はアナログの計算方法をコンピュータに置き換えただけ。本当に積算した価格で利益が出るのか。AI(人工知能)をフルに活用して、分析できる仕組みを作っていただけないか」▼全日本印刷文化典ふくしま大会での井昭弘全印工連相談役による受賞者代表謝辞の一節である。謝辞は「働けば働くほど利益の上がる業界になってほしい」と結ばれた▼同じく今回受賞した喜瀬清全印工連参与は、「全印工連2025計画」に寄稿した「22世紀の印刷人へ」の中で、AIに人間が支配される危険を警告したうえで、「デジタルの二進法の発想ではなく、人間の存在価値である"感性"が伝わる社会を目指し、印刷産業は感性教育のお手伝いをしたい」と記した▼井氏74歳、喜瀬氏68歳。期せずして両人ともAIを意識し、どう付き合い、活用するかを模索している。共通するのは、マネーやテクノロジーに振り回されず、人が主役の真っ当な世の中を次世代に残したいという強い思いである。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月20日付
 本人も自覚しないことが、傍からは長所と映ることがある。印刷業界の「真面目さ」もその一つか。1字1句を大切にする、納期を確実に守る…。印刷会社にとっては当たり前だが、IT業界の人に言わせると「すごい」ことらしい。一度定着した情報は取り返しがつかない。その厳しさから来る責任感が業界を鍛えてきた▼個々の企業でも、真面目な社風は立派な強みとなる。別次元の誠実さを追求することで、他社や他業界が及びもつかない強さを獲得できる可能性がある▼全印工連の策定した業界ビジョンについて、千葉県中小企業団体中央会に話を聞く機会があった。ライバルともなり得る同業のために、自ら時間と労力と費用をかけて指針を作ることは稀有な例であり、他業界には真似ができない、と驚きと称賛を隠さなかった▼印刷業界団体のビジョンはどれも、決して外部に丸投げせず、当たり前のごとく委員が手弁当で作り込んでいる。経済産業省も高く評価するところだ。この業界を疎かにしてはならない─。そうした気持ちを顧客にも抱かせるよう、体質を業界の資産と認識し、継承したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月13日付
 印刷業の業態の多様化が進んでいる。社名と業態が一致せず、同業者間でも業務内容を把握することは難しくなってきた。ましてや、昔ながらのイメージを抱く得意先にとって、印刷会社との距離は開くばかり。放っておくとビジネス機会をどんどん失ってしまう▼近年、顧客を自社に招き、現場スタッフを交えてプレゼンテーションや語らいの場を設ける試みが目に見えて増えた。営業が10回訪問するより、1回のおもてなしで距離がぐっと縮まり、理解が深まることに、どの会社も気付き出している▼販売促進に有効な商材を日々求めている顧客も真剣勝負だ。各社のプライベートショーや工場見学会などを見ると、顧客は早くからそうした企画を求めていたのだと感じる。先端の技術やサービス、CSRへの取組みに素直に感動する姿は、印刷会社の努力が伝わっていないことの裏返しでもある▼架空のショップ体験やサンプル制作、限定セミナー、社員発表会、オープンカフェなど、工夫もさまざま。新幹線で約2時間、東京の得意先が日帰りで見学、商談できる某社は、工場そのものを常設ショールーム化している。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月06日付
 東京工芸大学の流れを汲む「印刷技術懇談会」が発足40周年を迎えた。9月17日に行われた記念講演会では金羊社の浅野健会長が、新規事業としてのフレキソ印刷への取組みについて率直に語った。フレキソの可能性に賭け、ほとんど知識を持たない状態から出発した同社は、まだ駆け出しの段階で3M社を訪ね、学んだ▼開発過程で生じた失敗作から、剥がれる糊という逆転発想の「ポストイット」を商品化した3M。同社には、勤務時間の15%を本業以外の事に使うルールがあるという。3年以内の黒字化を果たせず撤退を余儀なくされた事業担当者に対し、「よかったね。これでまた新しい事ができる」と声をかける企業風土があることに、浅野会長は新鮮な驚きを覚えた▼フレキソ印刷に踏み込んだのは、自社に挑戦する企業風土を根付かせたいという強い思いの表れだった。ようやく今、スタート台に立ったと感じている▼全国各地のフレキソ印刷同業者との定期情報交流会の立上げ、デジタル軟包装印刷の開始、小ロット軟包装を対象としたWeb受注の開始など、挑戦の行方は止まる所を知らない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年9月29日付
 印刷業界は、ITの活用で共同作業の効率が高まっているはずだが、「外注」にまつわるトラブルが減ったという話は聞かない。商習慣に根ざす取引面での不満、技能継承の滞りから来る品質面での不満を聞く機会はむしろ増えた▼レンタルボックスやコンテナ事業を全国展開するエリアリンクの林尚道社長は、「進化外注」を唱える。発注側と外注先、双方の成長や進化につながる外注のあり方を指す造語だ。一例として、週に100箇所のコンテナ現場の清掃を任す外注先との関係がある▼従来同社では、すべての現場を社員が巡回チェックしていた。効率化に知恵を絞った結果、3箇所の現場だけをランダムに回り、1箇所でもきちんと清掃されていなければ費用は支払わないと取り決めた。厳しいようだが、それにより清掃会社のレベルも格段に上がり、新規取引を獲得できた▼経済産業省は9月15日、公正な取引環境の実現を目指し「未来志向型の取引慣行に向けて」を発表した。年度内に業種別下請ガイドラインの改訂も行う。公正さの追求の先には、共に進化できる取引関係の構築という大きな命題が待つ。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年9月20日付
 ハイデル・フォーラム21のポストプレス研究会会長を務める橋野昌幸社長(旭紙工、大阪府松原市)のdrupa報告を聴く機会があった。drupa2016は、事前に第四次産業革命(インダストリー4.0)が喧伝されたこともあって、話は「ポストプレスのIoT(Internet of Things)化は可能か」といったテーマに向かったが、橋野社長は、製本の現場がいかにファジーな要素に満ちていて、日々格闘が繰り広げられているかを語り、IoT化は難しいと結論づけた。一例として挙げたのが、刷り本の品質だ。同社では毎月「ファインプレー賞」として社員を表彰しているが、表彰理由の8割は「印刷不良を見つけた」ことによるという。会場には笑いも起きたが、笑って済まされる話ではない。事故が起きれば、作り直しや代金を要求されるのは製本会社であるケースがほとんどだからだ▼全製工連の書籍・雑誌専門委員会がこのほど実施したアンケートでは、ほぼ半数の製本会社が「不当と思われるクレームがあった」と答え、悲痛な文字が並ぶ。「得意先に確認し、合意のうえで製本したものが納品後、クライアントからクレームが付き、刷り直し対応となって応分の請求をされた」、「8頁折で印刷をお願いして、版付も送ってOKをもらったが、16頁折で印刷をしてきて、いつまで経ってもインキが乾かない物を16頁折にして製本させられ、汚れが付いたことから作り直しになった」。印刷会社も超短納期を求められているせいか、インキが乾いていない状態での納品による汚れ、傷、色落ちなどのトラブルが特に目立つ。納期以前に、先方担当者の後工程に対する知識不足、経験不足を指摘する声も多い▼全製工連はトラブル対策ハンドブックとして『製本虎の巻』を完成した。制作に携わった委員の一人は「トラブルに対して製本会社がきちんとした返答できていない課題もある。印刷物の状態について、私たちも見極められるようになる必要がある」と話す▼たしかにファジーな印刷・製本の世界だが、だからこそ、可能な限り科学的に迫り、情報を互いに共有し、標準化を追い求めなければいけない。IoT化とまでは言わないが、トラブル要因の分類やトラブル分析結果のデータベース化、業界内での情報共有化などにデジタルは大いに活用した方がいい。知識の裏付けがあって、初めて取引先とのコミュニケーションが成り立つ。クレーム、トラブルを前向きな力に変えるしたたかさを身に付けたい。


コラム「点睛」 印刷新報・2016年9月15日付
 全印工連が毎年実施する「印刷業経営動向実態調査」の平成27年度調査結果がまとまった。有効回答企業数は241社。1社当たり平均人員は66.9人。1人当たりの売上高は1874.0万円で前年比2.9%増。4年連続で増加し、10年前の水準よりも高い▼外注加工費・商品仕入費の割合が前年より減少したが、材料費の割合が2.7%増加したため、1人当たり加工高は914.6万円と1.0%の減少。1人当たり純加工高は821.5万円、前年比17.9%増と大きく伸びた▼営業員売上高は前年より増加したが、人件費(1人平均485.0万円)、営業利益率(1.7%)、経常利益率(2.4%)は減少。加工高対人件費比率は0.5%増加した一方、自己資本比率は減少し、4年ぶりに30%台(39.7%)となった▼調査は、全組合員に対してインターネット上で調査を行ったものだが、有効回答企業数は2年前調査の半分に満たず、組合員数の約5%。経営実態を正しく反映するために、回答を組合員の要件とする、回答企業へインセンティブを与えるなど、思い切った方策も必要になってくる。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年9月5日付
 企業30年説がある中で、50年、100年と事業を継続させていくのは並大抵なことではない。それでも帝国データバンクの調べでは、創業100年を超える長寿企業は全国に約2万6000社ある。全体の6割は従業員数が10人未満の企業である。地域では、京都、滋賀、山形、富山、新潟、福井、長野、島根などが、長寿企業の輩出率が高い。業種別では、清酒製造、酒小売、服・服地小売、旅館・ホテル経営、貸事務所業などが多い。紙卸を含む印刷関連業も、地場に根差した業種として比較的多い方だろう▼今年100歳を迎えた企業は1916年(大正5年)生まれ。製本関連では、尾寳サ作所、ミューテックがある。尾寳サ作所は「東京都神田区紺屋町(現千代田区神田紺屋町)に尾寤刷製本綴機製作所を創業。針金綴機を製造・販売」、ミューテックは「三浦五郎松が三浦鐵工所を創業。紙工用足踏み式角丸断裁機の製造・販売を開始」と、両社の社史にある。ミューテックは、1923年(大正12年)の関東大震災で工場を焼失し、翌年再建とあるが、特に東京や横浜の会社は創業間もない時期に、程度の差こそあれ、大震災に見舞われ、それを乗り越えてきたはずである。そして、太平洋戦争…。戦後は経済復興の中で、技術の激しい変化の波が待ち受けていた▼前身の塚田印刷から数えると、やはり今年で100歳となった錦明印刷(東京都千代田区)は、終戦の2年後に創業者が、「これからは活版ではなくオフセットの時代だ」と見通し、オフセット部門を独立させる形で立ち上げた会社である。恐るべき先見の明というほかない。しかし、驚くなかれ、日本には800年以上の歴史を持つ印刷会社がある。和歌山県の高野山で御経や御札などを印刷している経久(きょうきゅう)印刷である。鎌倉時代の1201年(建仁元年)に創業。特別な環境の中にあったとはいえ、創業以来の原点を守り続け、今なお伝統の印刷を続けていることには、それこそ霊的な力さえ感じてしまう。御経には折りが付きものであることを思えば、同社は日本最古の製本会社と言えるかもしれない▼21世紀の今日、企業経営は3年先でさえ見通すことが難しい環境となっている。ただし、企業を永続させるための条件は、どんなに時代が移ろうとも変わらない。創業の理念(原点)を大事にしつつ、時代の変化に適確に対応する。お客、地域、従業員を大事にし、信頼とブランドを築く。それが可能な企業風土こそ宝であり、決して一朝一夕に得られるものではない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年9月1日付
 創業百周年を迎えた錦明印刷の塚田司郎社長の話を伺いながら、ごく自然に「技術」という言葉が口を突いて出てくることに新鮮さを感じた。ともすると、近頃はソフトサービス、マーケティングの掛け声が独り歩きし、実態を伴わないことが多い▼もちろん、塚田社長はハードを志向しているわけではない。顧客の欲しがるものを満たすためには、常に時代の先端を行く技術の習得が欠かせないと考える。それが、フォトビジネス、動画制作、バリアブルプリント、ITシステム開発、GISエリア分析、アッセンブリなどのサービスに発展している▼「仮説と検証を繰り返し、お客様の潜在的なニーズに結び付けていく」─。目的はあくまでもソリューションの提供。だが、どんなに顧客のビジネス分析を深掘りしても、その印刷会社が持つ能力以上の貢献をすることはできない▼塚田社長の父、故・塚田益男氏は、事あるごとに印刷業の「メタモルフォーゼ」(変態)を説いた。脱皮するためには、皮を破る具体的なきっかけとツールが要る。それを技術に沿って語れるところに、錦明印刷の伝統と強さを見た。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月25日付
 広告費の推移を見ると、インターネット広告の成長が目立つ一方、プロモーションメディア広告も健闘している。リーマンショックによる一時的な落ち込みを除けば、過去5年ほど横ばいで推移。中でもPOP広告は、総広告費の指数を常に上回る。DMも一定の水準を維持している▼低落傾向にあるのは新聞広告、雑誌広告、折込など。情報を伝えたい消費者にどれだけ刺さっているか、広告主にとっての実感の違いが結果に現われている。効果を示せる手法を開発できれば、今は劣勢の広告媒体にも復権の芽はある▼日本ダイレクトメール協会の調査によると、DM閲覧後、男性20代、女性20〜30代で、「ネットで検索」、「知人と話題にする」など、何らかの行動を起こす割合が高い。紙媒体による"私だけに届いた"と感じさせる特別感の演出は、ネット世代に対しても有効だ▼日印産連は今年から、「9月 印刷の月」周知ポスターの制作を中止した。本当に伝えたい一般生活者の目に触れないというのが理由。協賛イベントでのチラシ配付やロゴ掲示に切り替える。業界自体のプロモーションにまだまだ工夫が必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月18日付
 異能の士たちが集う五輪の期間は、まさに眼福(がんぷく)を得たいがために連日寝不足に追い込まれる。同時に、さまざまな命題も突き付けられる。興醒めは承知で、多くは経営、組織、人づくりに通じるものがある▼発達障害を克服するために水泳に巡り合ったフェルプス選手。衝動性や多動性をひとたび転換すれば、爆発的な集中力や挑戦意欲を生む。ボルト選手は、脊柱側湾症を抱えるが故に、スプリンターのセオリーにはない独特の"揺らす"ダイナミックなフォームを獲得した。弱点は武器に変えられる▼5位に終わった女子柔道、田代選手の「勝たなければ意味がない」。初めは、不遜な言葉、メダルを獲れなかった他の選手に失礼と感じた。だが、「利益を出せなければ経営者ではない」と置き換えたらどうか。持つべき覚悟、責務から思わず出た発言と受け取れる▼8年ぶりの出場で金メダルを手にした平泳ぎの金藤選手。まさかのロンドン五輪代表落ちの後、「辞めたい」と言う彼女に加藤コーチは、「逃げるな」ではなく、「逃がさないぞ」と迫ったと聞く。それほどの気迫を持って人を育てているか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月11日付
 近頃は戴くことが稀になったが、暑中見舞いには書き手の素の肌ざわりを感じる。儀礼の入る余地が少なく、身に軽く寄り添ってくるからだろう。対して年賀状には、儀礼の匂いが付き纏う。書き手にも、幾分か心の負担がある。それでも年賀状の習慣が廃れないのは、日本人らしい▼郵政は「かもめーる」を根付かせようとしたが、所詮無理があった。決まった人に、決まったように書く性質のものではないからだ。と言いつつ、この夏、二年前に亡くなった父の信州の郷へ送った便りでは、かなり型を意識した。都会と田舎の距離感、盆への思いの違い、存命な伯父伯母、久しく訪ねていない不義理…。相手を思うと、そこは電話でも、従兄弟へのメールでもなかった▼昨年、必要があって信州の役所から取り寄せた父の戸籍謄本に、自分から遡ること六代前、天保と嘉永生まれの初めて知る夫妻の名を見つけた。血脈という言葉がよぎる。平成の次ともなれば、もはや「昭和は遠くなりにけり…」か▼十一日は「山の日」。すでに立秋も過ぎた。山国信州の朝晩が冷え込むのは早い。便りもいいが、やはり逢いに行こうか。(銀河


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月4日付
 都知事に就任した小池百合子さんは、かつて演説では決まって、クールビズを広めた自分の成果を前面に出していた。環境大臣を務めた10年ほど前、世の男性は真夏でもまだ、ネクタイをするかどうかで迷う人が多かったように思う。当時、ワイシャツだけで動く人は、かなり奇異な目で見られていた▼ところが、今や、である。ずいぶんと楽な時代になった。やはりクールビズが根付くにも10年はかかった。本号では、ダイバーシティ特別企画として女性同士の対談を載せたが、その中で小野綾子さんは「日本人はルールを決めて、みんながやっている環境を作ってあげれば乗りやすい。隣の人も同じだと安心する」と話されていた▼然り、と思う。本当は、前例がなくても自ら変える気概がほしいが、それが苦手なのも国民性なら、誰かが先にルールを作るのも現実的な手かもしれない▼建前を重んじる男性に対して、本音で生きる女性。もし日本人の国民性が変わるとすれば、職場や地域で意識上の男女差なく動くことが当たり前になった時だろう。真の開襟社会へ、小池都知事の誕生が呼び水となるか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月28日付
 ビッグデータから事実に迫るには、自ずと限界がある。たとえばPOSレジ。地域、時間帯、商品種別の売れ筋は把握できても、「誰がどう消費するか」までは追えない。それを食材で可能にしたのが、共同印刷の開発した「リア食」だ▼モニターに毎食の食卓を撮影してもらい、年代、性別、収入、職業や食材、調理の有無などの情報と紐付けて分析することで、店舗で販売された品がどう食べられているかを把握できる。すでに5000人以上が登録。画像は月10万点ペースで増え、年内には100万点に達する見込みだ。食品業界に導入が進んでいる▼恵方巻きを丸かぶりする人は少なく、切って食卓にのる方が多い。「ハロウィンにかぼちゃ」の家庭は少数派。料理を楽しく飾る日となっていて、便利な餃子の皮がよく売れる、等々。販売側の常識があっさり崩れ、売り方も見直される▼「クックパッドのレシピには自慢が入るが、ポイント取得が動機のリア食には実態が出る」と開発担当者。ビッグデータやマーケティングオートメーションもいいが、「現場」を知るためのITに大いに知恵を注ぐ余地があると見た。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月21日付
 ある印刷会社では、七十代の古参社員が、今も朝3時間だけ出社。若い人たちが「今日もよろしくお願いします」と挨拶する。ごく自然な教育だ。社長いわく「勤務時間はだんだん短くしているが、毎日来てもらうことが大事」。いつまでも働ける会社、という安心感も良い社風につながっている▼「ポケモンGO」の世界的なヒットで、任天堂の株価が急上昇。昨年7月、55歳で亡くなった岩田聡社長に、せめて1年生きていてほしかった。「Wii」の大ヒット、故にスマホへの対応遅れと業績急落、酷評…。だが、間違いなく今の任天堂があるのは岩田氏のおかげだ▼絶頂期こそリスクを思え─。ビジネスも人生も、強気と弱気が交錯するからこそドラマがある。ランニング指導者の岩本能史氏がよく使う「金脈まで、あと5センチ」。虚しく掘り続けても、ツルハシもうひと振りの下に金塊があるかもしれない。誰にも答えは出せない▼「50歳まで現役」を口にするイチローの、あとバットひと振り、はいつやってくるか。ベンチ入りに限りがある野球で、「居てくれるだけでいい」は許されない。安打数以上に興味がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月14日付
 27年度補正「ものづくり補助金」の2次公募が7月8日に開始された。先月まで「2次公募は実施しません」と言っていたのに、である。しかも、年内に発注から支払まで完了せよという忙しさ。採択予定も100件程度の狭き門となる▼7月1日に施行された中小企業等経営強化法に関して、「経営力向上計画」の認定を受けた事業者には審査で加点が行われる。新法を補強するための臨時措置と読めなくもない。中小企業庁は「1次公募の結果、予算の残額が生じることが予想されるため」というが▼認定支援機関GIMSの寶積昌彦氏は、1次公募で「条件付採択」約500件が急遽追加された点について、全国中央会から上がった採択者数に対して中小企業庁側の件数が少なすぎるため補助額を下げる条件付きで追加指示が出された、予算総額は増額していないので追加以前に初めから2次公募を考えていたはずだと指摘する▼さらに今回の2次公募公表。事業者を翻弄する場当たり的な措置に不信感が募る。が、行政とはそんなものと割り切り、したたかに申請書作成に向かう事業者こそ上手を行く存在か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月7日付
 「グランドデザイン深耕年」─日本印刷産業連合会(日印産連)の今期基本方針を端的に表した言葉だ。印刷産業の社会的役割の明確化と内外への発信が柱の一つ。その遂行は回りまわってすべての印刷関係者の利益につながる▼社会とつながる産業の窓口として日印産連は、印刷会社の地域貢献のアピールにも力を入れる。9月に発行を予定する『社会責任報告書』では、全国各地の地域貢献活動の事例も紹介する。会員10団体から事例を収集中だ。日印産連ホームページでも発信していく▼ホームページは近く刷新し、各会員団体の貴重な情報も見られる形を目指す。日印産連が関連団体ネットワークのハブとして機能することで、業界内情報の有効活用と対外発信機能の強化につなげる。ホームページは重要なツールであり、現在、「印刷用語集」がアクセス増に寄与している▼コンプライアンス対応はもちろん重要。加えて、印刷産業のイメージや認知を向上させる仕事も楽しく進めたい。お父さん、お母さんの働く会社が褒められたら、親子そろって嬉しい。グランドデザインをそう翻訳してみてはどうか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月30日付
  drupa2016の来場者数は、4年前の前回より5万人ほど少なかった。テロを警戒して出展や来場が控えられたことや、会期が3日減った影響もある。だが、一番大きな要因は、出展内容の変化、すなわち印刷産業自体の質的な変化にあると思われる▼昔のように、見てすぐにわかり、手に取ってすぐに感じられる製品、それを生み出す装置のオンパレードはない。日本国内の展示会も同様の傾向にある。デジタル技術の存在感が高まるほど、展示会の肌ざわりはドライになり、上辺だけを撫でていたのでは理解できない。視察するにも主体性と覚悟が要る時代になったのだ▼大事なのは、デジタルにせよアナログにせよ、機能にアイデアを載せて、顧客にどんな新しい価値を提供できるかだ。次の時代のビジネスモデル、サービス方法、ワークフローの発見に行き詰まっているが故にdrupaを"あきらめた"人も多いはずだ▼まさに、ソリューション・プロバイダーよ、来たれ。印刷技術の成熟は、必ずしも印刷産業の成熟を意味しない。印刷人の胸の中に、未開拓の荒野と冒険心はどれだけあるか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月16日付
 デジタル化が人間の精神にどう作用するか、検証するにはまだ多くの時間を要する。文部科学省のデジタル教科書検討会議も、教育効果や健康面への影響について、検証が不十分であり、当面は紙の教科書を基本として、部分的にデジタル教科書を使用することが適当、との方向性を出した▼だが、明らかに精神が蝕まれている場面に出くわす機会は増えた。幼い子が一所懸命話しかけているのに、親はスマホに夢中で返事もしない、目も合わせようとしない。「ああ、取り憑かれているな」と感じる瞬間だ。世の中全体に、人間としての土台が大きく違う方向に動き出している▼今年2月、校舎から飛び降りた県立高校生が、遺書らしきものをスマホに残していたという。この違和感は何か。先日は、従妹から叔父の死に顔を写した画像がLINEで送られてきて、葬儀にも呼ばれなかったと憤る女性に会った。ネット上で墓参りをするバーチャル霊園の普及も。ついにデジタルは死の領域まで侵食し始めた▼心さえあればいいというが、心を込めるには形を伴う。寂しいかな、そう考える人も次第に少数派になっていくのだろう。(銀河


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月9日付
 「地方」という言葉自体が、「中央」の目線を感じさせて好きではないが、実際に、東京人と地方在住者とでは、肌感覚に厳然と差がある。それは無理に埋める性質のものではない。大事なのは、違いを理解し、それぞれの良さを活かしあうことだ▼今、首都東京の発想は、2020年の五輪を大きな指標として動いている。だが、たとえば震災からの復興も思うように進まない東北地域にとって、いけいけ、どんどんで国全体が動いてしまうと、人や資金、建設に絡む労力や重機・車両まで首都圏に引っ張られ、さらに復興が遅れることになる▼国の顔は東京だけではない。自然災害のたびにテレビやネットで瞬く間に世界中へ映像が流れ、強いインパクトを残す。それは、たしかに負の顔であるかもしれないが、底辺から力強く立ち直る姿を世界に見てもらい、前向きな国の顔に変えることもできる▼危機に満ちているはずの日本の、都知事の行状もまた世界へ発信される。知事の椅子にしがみついての立ち直りは、決して共感を呼ぶことはない。地位のある人間ほど、進んで地方へ出掛け、肌感覚を磨くべきだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月2日付
 平成26年工業統計(産業編)の確報値では、「印刷業」(4人以上)の出荷額が前年比0.4%増と増加した。「印刷・同関連業」で見ても0.1%減にとどまる。だが、7年ぶりに出荷額が増加した「印刷業」でも、事業所数は3.9%減、従業者数は2.2%減となった▼これは、1社あたり出荷額の増加を意味し、1人平均の出荷額2.6%増、付加価値額1.0%増という数字も出ている。各業界団体の総会が一段落したが、長のあいさつでは工業統計を基に、「今後も存続していけば、経営は成り立つ」という内容が目立った▼ただし、存続するためには戦略が必要であり、志と覚悟が伴っていなければならない。今後10年、20年と、何をもって顧客や社会に貢献し、必要とされる強みにいかに磨きをかけ、人財を育てていくのか▼全印工連の経営革新マーケティング委員会では今期新たに、企業価値の算定、後継や相続に関する課題解決、M&Aの活用などを含む「事業承継」について研究する。各社が存続の意義と価値、可能性を正しく見極めることは、業界全体のバランス維持と優良資産の継承につながる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年5月26日付
 5月18日、朝8時から自民党本部で開かれた中小印刷産業振興議員連盟の総会。官公需取引に関する印刷業界からの要望に対し、中小企業庁担当官の説明は、たしかに通り一遍だった。議員の募るイライラが場の空気で感じられた。要は、「私たちもやることはやっています」─その一言なのだ▼議員連盟には、印刷に関係の深い議員も多い。「小さな製版会社の息子として業界に育ててもらった」という茨城選挙区の上月良祐議員は「本当に中小企業を守る気があるのか」と憤った。元印刷会社経営の神奈川選挙区・田中和徳議員は「値段だけでやられたら小さな会社はいなくなる。そうなったら地域がどんなに大変か、わかるでしょ」と迫った▼議員連盟には今、衆議院88名、参議院31名の自民党議員が所属する。設立の経緯は、2007年に全印工連が米国印刷工業会を訪問し、団体としてロビー活動を積極的に展開する様子を目の当たりにした時まで遡る▼全印工連が「2025計画」を発表した。国に対して印刷産業の価値を認めさせる内容でもある。我々の価値はどこにあるのか。議論の深まりが期待される。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年5月19日付
  5月12日に仙台市で行われた宮城県印刷工業組合の創立60周年記念講演では、神戸市から株式会社レックの高橋泉社長を講師に招いた。シングルマザーの身で28歳の時に会社を立ち上げ、いまや年商150億円、グループ従業員は760人を超える▼エステサロンを多店舗展開していたが、創業6年目に阪神・淡路大震災で店は全滅。「絶望の淵から這い上がり、無我夢中で働き続けた」。冠婚葬祭を核に、婚礼アルバム制作、ブライダルカフェ、ファミリー葬、家具の輸入販売、電報、介護など、ビジネスを多角展開。事業選定の最も重要なポリシーとして「その事業に社会的価値があるか」を据える▼震災では、体育館に安置された何百もの遺体を前に、「これ以上の悲惨は戦争しかない」と痛感したことから、企業理念に「世界の平和」を加えた▼「終わったな、と思ったが、実は何も終わっていなかった。物は後から買えば何とでもなる。でも、人の命や心はそうはいかない。人を優先する国にしなければ」。高橋社長の不屈の闘志と母性は、震災の不安で縮こまりがちな世の中に大きな勇気を与える。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年5月12日付
 コンピュータの勝利がついに囲碁にまで及んだ。AIが世を騒がせている。だが、人間対AIの構図だけを強調するのは肝腎カナメを失う。人間そのものに対する洞察を怠る言い訳にしてはいけない▼そんな危惧を抱いていたら、先月の東京新聞、「将棋界40代がなぜ強い?」の記事が核心を突いていた。名人位を占めたのは2000年まで二十代、2010年まで三十代、そして2011年以降は四十代。なんてことはない、羽生世代がスライドしているだけだ。PCやネットを駆使できる世代は、豊富な情報量、効率いい学習から言えば強くあってしかるべきだが、結果は「自分の脳をいじめて鍛える訓練ができている」世代に勝てない▼箱根駅伝や実業団の高い人気とは逆に、アフリカ人ランナーとの差は開くばかり。瀬古利彦氏いわく、「至れり尽くせりのサポートが日常化してしまい、選手はそれなしに走れない状態なのではないか」▼過保護を脱し、余計なエネルギーをあえて使うことがタフさを生む。そんな共通項が見える。AIもいいが、デジタルネイティブが主流となった世の中の方が大いに気懸かる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月28日付
 競争から調和へ、21世紀は環境の世紀と謳われた転換点から16年。時代がようやく理念に追いついてきたか。いまや企業CSRにも環境が大きな位置を占める▼昨秋、タカラトミーを取材した際、環境課の係長から「全国の小・中学生たちが使う教科書にGPマークを入れられないのですか」と反対に質問された。環境への意識を高め、印刷業界を訴求する上でも最善というわけだ。同社は環境自主基準である「エコトイ」認定を設け、製品の安全性やライフサイクルに配慮している▼今年に入り、バンダイも自社製品に対する審査・認定制度を始めた。玩具業界の統一環境基準ができる可能性もあるが、子どもたちに極めて身近な玩具でもまだ先の話。2006年にGP認定制度をいち早く開始した印刷業界の取組みは特筆される▼さて、米国オバマ大統領の広島訪問という歴史的なニュースの一方で、残念なのは川内原発に対する原子力規制委員会の見解。熊本を中心に地震が頻発する中、耐震基準の設定に甘さはないのか。一体誰が責任を持つのか。福島の教訓はどこへ消えたのか。今度事故が起きれば、日本そのものが吹き飛びかねない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月21日付
 かなり有力な製本会社でも、かつてはホームページがないことが多かった。その理由が「最後に仕事をもらう私たちが、自社の宣伝をしても仕方がない」、「細かい問合せばかり増えても対応に追われるだけ」という消極的なものだった▼今でもホームページを持つ割合は高くはないが、製本業界の事情は変わってきた。若い経営者たちが積極的に活用し、自社のブランド力向上、仕事の受注、販路開拓、人材獲得に結びつけている。たとえば東京の篠原紙工、博勝堂、埼玉のエスフィールド…▼今や、何をおいてもまずは「検索」の時代。ホームページは会社の顔であり、最強の営業マンになり得る。事実、新規開拓営業を一人も置かず、仕事がフル回転する製本会社もある。ロットは小さくとも、値段で叩かれない。リピート率が高く、クチコミ効果も大きい。中には、カリスマアニメ作家の豪華本やネット通販化粧品用の高級紙箱の仕事が飛び込んだ話もある▼新しいビジネスを考えつく人ほど、既存の業者を知らず、発想をカタチにしてくれる相手を常に探している。後加工がネットで最前列に引き出されてきた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月14日付
 スポーツ選手の麻薬や賭博行為が相次いで明るみに出た。叩けば幾らでもあることは容易に想像がつく。いちいち騒ぎ立てても仕方がないだろう。すべての選手や芸能人がシロになる世は百年後にも来ないのだから。それに、ドーピングや政治家の黒いカネ、企業の粉飾決算の方がよほど悪質と思える▼週刊誌ネタをいじる普通のサラリーマンとて明日は我が身。主婦のカードローン地獄、パチンコ地獄は事件にもならない。誰しも忸怩たる思いがあるのではないか。「のむ・うつ・かう」から疎遠になった今の若者にも、ネット中毒や出会い系サイトの罠が待ち受ける▼闇はカネ、孤独、無知に群がる。反社会勢力なら、幼少の頃から「これは」と見込む選手に羊の顔で近づき、援助を惜しまない。純粋な子であるほど、我が味方を擁護する。気づいた時には狼に羽を毟り取られている▼その道一筋に駆け、若くして分不相応のカネと名声を手にした者の悲劇もあろう。導ける先輩も少なくなった。理想のスターの仮面も美談も要らぬ。合法的な遊びなら大いに結構、周囲も認めたらいい。遊び方を知ることは、大人になるための大事な一歩だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月7日付
 政府は、訪日客を2020年に4000万人、2030年に6000万人に増やす目標を打ち出した。従来目標から倍増だが、それでも年間8000万人を超えるフランスには及ばない。目標は大きい方がいい▼2030年に3人に1人が高齢者となる日本。活力の維持は厳しい。人口の半分にあたる6千万人が年間に出入りするとなれば、経済効果と社会への刺激は計り知れない。絶対数が増えることで、水があふれるように地方への波及も起こる▼19年ラグビーW杯、20年東京五輪に続き、21年5月には「関西ワールドマスターズゲームズ2021」が近畿一円で開催される。原則だれでも参加できる成人・中高年の4年に一度の"国際大運動会"。北京・ロンドン五輪の参加選手数1万人強に対して、こちらは5万人(海外2万・国内3万)を目指す▼スポーツだけではない。日本が誇るアニメやファッション、武芸などの国際イベントを毎年企画・実施することは可能だ。雇用の創出にも貢献する。それらビッグイベントに日本の情緒と国を挙げたもてなしが噛み合えば、政府が掲げる目標はあながち大風呂敷ではない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月24日付
 なぜ、火災で逃げ遅れて亡くなる人が多いのか。実は火事で亡くなる原因のほとんどが、一酸化炭素(CO)中毒である▼COは空気とほぼ同じ比重で無色・無臭であるため、その存在に気付かない。しかし非常に強い毒性があり、わずかでも吸い込むと中毒を起こし、死に至る危険がある。またCOが体内に入ると体が動かなくなってしまい、気付いた時には手遅れという場合が多い▼日印産連と新コスモス電機が共同開発した「VOC警報器」が発売されている。2012年に大阪の印刷会社従業員に相次いで発症した胆管がん問題を受け開発されたもので、オフセット印刷工場内で有機溶剤によるVOC濃度が一定レベルを超えると警報で注意を促す装置だ▼ある印刷会社社長は「インキローラーの洗浄時には必ず警報が鳴るが、鳴らない時間がほとんどだ。設置する必要があるのか」と話していた。もちろん警報が鳴らないに越したことはない。VOCもCOと同様に目に見えない。そのため、万一、高濃度になっても換気などの初動対策が打てなかったのが問題だった。目に見えない危険から社員を守るためにも早期設置が望まれる。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月17日付
 結果がわかっているものに対する働きが「作業」、結果がわかっていないものに対する働きが「仕事」であるという。自動車など工業製品の製造は規格どおりでなければ事故につながるので「作業」でよし。一方、料理の提供など、多くの要素を取り込み、最高の満足に向けて思いを込める場合は「仕事」に類する▼工業製品に余分な思いは不要だが、料理は書かれたレシピどおりに機械が作っても美味しくない。理想の自動車工場は完全無人のロボット生産。理想の料理店は、腕が立つ料理人と温かいスタッフを揃えれば近づける▼労働人口の減少により人員確保が困難になる印刷業は、自動化・省力化が避けられない課題だ。だが印刷業こそ、工業であり、同時に多くの思い入れが必要な究極のハード・ソフト産業といえる▼マーケティングオートメーション、IoT、デジタルスマートファクトリ…、かたや人間力、企画提案、ソリューション…。作業と仕事、効率と手間を包含する高次元のバランスワーク。6月のdrupa2016は、印刷業の価値ある未来に向けた有益な答えがすでに見え隠れしている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月10日付
 東日本大震災から11日で丸5年。ついこの間の出来事であった気がする。被災された方々が引きずる生活と心の重い荷が、本当の意味で解ける日は、ずっとずっと先のことだろう。直後のニュース映像で見た、津波で家を流され中洲に取り残された家族。「この子たちはさっき婚姻届けを出してきたばかりなんです!」。声を絞り出す義父の横で放心していた新妻。どうしているのか▼発生が3月であったことが、多くの人に独特の陰影を落とした。思い出あふれる卒業式の突然の暗転。東京電力に入社が決まっていた若者たち。明るい大学生活の始まりを疑わなかった新入生たちも、今は卒業して社会に出ている▼娘からのプレゼントで三陸を旅行中に命を落とした夫婦。東京都町田市の量販店では建物の崩落により夫婦が亡くなった。最近、設計した建築士に対して有罪判決が下された。祝賀会の中止も相次いだ。某印刷団体の事務局長の退任慰労会はまさに11日だった。必死で経営を立て直し、繁忙期の売上でついにトンネルを抜け出るはずだった印刷会社は力尽きた▼「もうひとつの震災」ともいうべき、行き場のない思いが漂っている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月3日付
 総務省が2月26日に発表した「平成27年国勢調査」の人口速報では、22年からの5年間で94万7000人が減少し、総人口は1億2711万人。大正9年の調査開始以来、初めて減少した。上位9都道府県で53.9%を占めるも、大阪府がついに減少に転じた。対して、東京都は35万4000人の増加だ▼全国1719市町村のうち、人口が減少したのは1416市町村(82.4%)。5%以上の減少は全市町村の48.2%を占める▼印刷業界では、地域活性化のためのマーケティングの重要性が語られるが、土地の事情で見える風景はまるで異なる。「とにかく、何をやろうにも町に人がいないんですから。東京の人が考える方法は通用しません」。半ばあきらめ気味の声をよく聞く▼東京とて地域によるバラツキは大きく、すでに空洞化が始まり出した町も散見される。他人事ではない。どの道、日本の人口減少を逆回転させることは困難を極める。だとすれば、労働生産性の改善で所得と自由に使える時間を増やし、生活の保障を厚くし、経済を回す中で、東京圏と地方都市の動線を少しずつ増やしていくことこそ現実的だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年2月25日付
 寿司、富士山、カラオケなど、英語にしなくても海外で通じる日本語はかなりある。坂本九の名曲「上を向いて歩こう」も、英国で「すき焼き」(Sukiyaki)ソングとしてカバーされ、有名になった▼ビジネス語でも、そのまま通じる日本語は多い。日本が誇るトヨタの生産システム「カンバン」(kanban)や「改善」(Kaizen)は、世界でも通用する▼ハイデルベルグ社が開いたdrupaプレスカンファレンスで、富士フイルムとの共同開発による「B1インクジェットデジタル印刷機」が発表された。会見の中で、両社は今回のプロジェクトにあたり、「合宿」(gasyuku)を重ね、一つのチームとして取り組んだと強調していた。「ワークショップ」という言葉もあるが、少しニュアンスが違うのだろう▼両社は徹底した膝詰めの「合宿」を通じ、社員同士が互いの技術や能力をリスペクトするとともに、日本人とドイツ人のそもそも真面目で実直な性格も功奏し、このプロジェクトが1 年半という短時間で成功に至った。両社では今後も「合宿」を続けていくという。新たなものづくりへ。「合宿」が世界中で通用する日を期待したい。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年2月18日付
 6日に開催されたプリントネクスト2016は、「新しい価値創造への挑戦!」がテーマであった。午前のパートナーズ企業によるプレゼンテーションで始まり、基調講演、6つのテーマ別分科会と続く中で強く感じたのは、仕事はやはり「人」で成り立つものであり、印刷業の今後の方向は「コトづくり」であるということだ▼紙かデジタルか、といったメディア論がよく交わされるが、本来は「コトづくり」が先に立つべきで、そのためには「ソリューション提供」の視点が、根底には「困り事を解決してあげたい」という"愛"に近いものがなければ何も始まらない。手法は後から付いてくる▼今回のパートナーズセッションは、企業の宣伝臭さがほとんどなく、良い内容であった。社会・地域・顧客の課題解決のために実践している付加価値の高い取組みをテーマに据えた故だが、メーカーの新しい側面を見た▼「印刷物を作らせてください」「機械を買ってください」は究極のところ、相手への押し付けとなる。そうは言っても、最後はそこへどうつなげるか。「有償の愛」を互いに認め合うところに信頼が生まれる。(銀河)