【過去の掲載】


コラム「点睛」 印刷新報・2017年11月2日付
 今の総労働時間抑制、残業規制は明らかに行き過ぎだ。働きたい人の権利を国が侵害している。特に電通ショック以降、ピリピリした空気が漂う職場も多いのではないか。初めのハードルが低いと、若木を後から鍛えるのは至難の業となる▼プレミアムフライデーのために仕事を自宅に持ち帰るようでは本末転倒。ブラック企業を調査する学生ナイトツアー対策で、部屋の灯りを消して社員が衝立の陰で仕事をするなどは、まさにブラックユーモアの世界だ▼先日も、あるメーカーユーザー会で「世間には“働くな改革”の風潮がある。ベンチャー企業や大きな成長を遂げた企業の経営者は驚くほど働いている。現状は本来の働き方改革とは異なるように思う」という挨拶があった。働きたい人の自由も保障しながら、社員がしっかり噛み合う会社こそ力を発揮できる▼一方で女性活躍推進にしても、管理職の○%を女性に、などと規定するのはどうか。昇進を望まない人の自由もあるわけで、あえて正社員を選ばず、時短勤務でいきいきと働き楽しむ女性も多い。柔軟な働き方は官が築くものではない。民に任せよ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月26日付
 システムの自動化やマーケティングの話題が花盛りだ。コストを下げる、仕事を獲りに行く。もちろん大事なことだが、一方、設備のメンテナンスについては、相も変わらず意識が低い会社が多く見受けられる。カネを生むことが実感できないと、なかなか取り組めないようだ▼印刷機保守指導の専門家であるタケミの柴崎武士社長は「どんなに印刷機の自動化が進もうと、メンテナンスの重要性は30年前と変わらない」と話し、500円のベアリングの交換を怠ったために、修理代に200万円かかった例なども挙げる▼自宅のゴミは捨てても、会社に落ちているゴミは拾うことすらしない。大事な資本である自分の躰でさえ不摂生で痛めつける。そんな人間の抜きがたい習性は、当然持ってしかるべき日々使う高価な設備への愛着も消し去ってしまう▼だとすれば、変に良心に期待せず、チェックシートの活用、内部・外部の監査制度、コンサルティングの導入、会社見学の受入れなど、仕組みや第三者の目を利用する方が確実だ。やればやるほど成果を生み、数値管理にもつながるメンテナンスを再考したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月19日付
 日本印刷技術協会(JAGAT)が創立50周年を迎えた。半世紀も前、独・英・米などに存在していた印刷技術の研究機関を日本にも作りたいとの思いから、元会長の塚田益男氏が中心となって設立に奔走した▼その辺りの経緯は、塚田氏が2003年に著した『JAGATと私』という冊子に詳しい。著書には、社団法人格を得るために苦労していた塚田氏が、工業技術院に呼び出され、印刷技術の定義について係官に問われる件がある。不意を突かれ、しどろもどろの返答しかできなかった塚田氏は、「実は今もって私は印刷技術の定義は分からないでいる。」と吐露している▼ただでさえ正体を見極め難い「印刷技術」が、それでも成熟化したと言われ、デジタル方式へ移行してきた。インターネットとモバイルの日常化が加わり、混乱に拍車を掛けている。JAGATそのものの定義も揺れざるをえない▼紙にインキを載せる伝達表現は減る傾向にあるが、現在のモバイル社会を、すべての人が電子ペーパーを持ち歩いていると考えれば、そこにコンテンツを表出させる行為も「印刷技術」の発展形と言えるのではないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月12日付
 10月4日に東京で開かれたレディバードクラブ全国大会には、過去最高の500人の参加者があった。セミナーは「M&A」という旬のテーマで、小松印刷、東京リスマチック、ウエマツの3社社長の登壇が話題を呼んだ▼話の中では、企業価値を高めるための有力な選択肢の一つとしてM&Aがあることが明確に述べられた。参加者からは「M&Aに対する印象が変わった」、「前向きな気持ちになった。印刷業界はまだまだやれるのではないか」といったプラスの意見が聞かれた。抵抗感が薄らぎ、真正面から向き合う会社が増えれば、この先、業界内の統合・再編はますます加速するだろう▼レディバードクラブ副理事長、プリ・テック会長の高井昭弘氏は業界におけるM&Aの先駆者。懇親会のあいさつで高井氏は、かつてアメリカで、M&Aにより社員がみな喜んでいた様を目にした体験が大きかったと話し、有効な手段であると断じた▼一方で、「本体の経営がしっかりしていなければ弱体化する。カネも人もどんどん出ていく」と注意を促した。協業や業務提携など、緩やかなところから始める手もある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年10月05日付
 「まだ写す? ラーメン店主の湯気のぼる」、「撮ってない! 箸をのばして叱られる」─インスタ映えもいいが、実際にこんな体験をするのは興醒めだ。だが、表現の主役に写真や動画が躍り出ている。ボーン・デジタル世代ほど、ボーン・イメージに近似する▼コミュニケーション手段に携わる印刷人は、テキスト、組版、静止画の役割と美を守るだけでなく、映像への理解も深めなければならない。3D映像、音声動画、静止画から動画への誘導、デジタルサイネージでの双方向受発信など、テーマは数えきれない▼家事の合間にユーチューブを幼児に見せる親が増えた。電車内でも珍しくない。1編あたり数十秒から、せいぜい1、2分という長さがお守りには丁度いいのだとか。テレビCMの影響で思考が細切れになる弊害が指摘された昔を思い出す▼近頃は、2時間の映画は長過ぎるとカット編集され、大学の授業も90分では集中力がとても保たないとか。映像の世紀は、腰を据えて対象に向き合う力の欠如を伴う。読書の秋を懐かしむ吾人は、しっかり食事に対しなさいとも言いたくなるのである。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月28日付
 印刷業界でも、採用難以上に定着率の低さを嘆く声が聞かれる。隣の芝生が青く見えるのは人の常。だが、一度は他社へ流れた社員が復職し、確かな戦力として活躍する例も多い▼最近、相次いで2人の社長から、「よそで働いてみて初めて、いかに自分が恵まれていたか分かった社員は、戻ってからは辞めることなど考えず、一所懸命に働く」という話を聞いた。外から会社を見つめ直し、異なる経験を積んだことも強みで、会社の求心力の核となる▼統計こそないが、そうした例は増えているのではないか。復職希望者の採用に抵抗を感じる経営者がいることはたしかだ。だが、若い時はだれしも腰が据わらないもの。「もう一度やらせてほしい」と願い出るのにも、それなりの勇気と覚悟が要る。会社として、多様な人材から成る職場形成のための選択肢の一つとして、道を開けておく手はある▼前述の社長との会話で、「夫婦ではなかなか同じことは起こりませんね」と笑ったのだが、会社員が戻る場所も一種のファミリー。厳しくも温かい社風は小さな会社ほど魅力となりやすく、家族的経営の競争力の素となる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月21日付
 2030年ビジョンを語る経営者が少しずつ出てきた。激変する社会情勢ゆえ、先読みしても仕方ないという考えもあるが、ビジョンとは未来予測ではなく、自分はこうしたいという意思の現われだ。経営ビジョンの不在は、自身の人生ビジョンがないに等しい▼とはいえ、経営環境の影響は免れない。2020年以降、五輪関連投資の反動、人口減少と高齢化の加速は想定できる。そして、気になるのがAIの進化。経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏は近著『仕事消滅』の中で、2025年にはタクシーや長距離のドライバー、デイトレーダーが絶滅すると予測する▼ルノー・日産・三菱連合は15日に発表した中期経営計画で、2022年までの無人運転車開発と配車サービス事業への参入を明記した。現実が追い付いている▼鈴木氏によると、2030年に専門的頭脳労働、2035年に研究者やクリエイターの仕事が消える。DTPや印刷のオペレータは? 経営判断は? そもそもコミュニケーションとは? 世のAI化が進むほど、「何をしたいのか、どう生きたいのか」が問われることになる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月14日付
 今年に入っての印刷需要の明らかな減少は、資材関係の数値や各地の印刷会社のヒヤリングから全国共通に見てとれる。本当の曲がり角がやってきた。バブル期を上回る内部留保を抱える日本企業ではあるが、情報発信の方法、広告宣伝の予算配分がかつてとは様変わりしている▼21世紀を窺う頃から、印刷物はメディアの中の「ワン・オブ・ゼム」と言われ始めた。その認識は正しいが、だからと言って、顧客のコミュニケーション手段をトータルに切り盛りできる印刷会社が増えたという印象はない。むしろ、プリントマネジメントやネット受注の志向が強まった▼印刷業を所管する経済産業省の担当課の名称が、コンテンツ産業課と改められた。さまざまな意見があろうが、印刷業にとってもコンテンツこそ生命線。それあっての「メディア」であり、「ものづくり」であり、「トータルソリューション」である▼コンテンツの入口に立ち、デジタル編集力を持つ印刷業の強みはとてつもない。そこを自覚し、磨くことでしか、いわゆる「印刷」部分での後退を前向きの力に変える術はないのではないか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年9月7日付
 「もっと早く言ってくれていたら、いいアドバイスができたのに」─。事業承継の問題を検討する印刷業界の会合に出席した際、居合わせた経営者から何度も似たような発言が出た。「廃業」の二文字はたしかに重い。資金繰りの苦しさから逃れたい、会社を自分の代で畳むのは忍びない。そんな思いが交錯するだろう。しかし、近い人に相談することで、思わぬ好展開もある▼残念ながらこの先も、廃業する印刷会社の数が減る気配はない。それでも、タイムアウトぎりぎりまで粘る会社が減るだけで、業界にとっては大切な資産が残ることになる。顧客、信用、人材、技術、経験、財産のすべてにおいて▼廃業や事業承継、売却、いずれを選ぶにせよ、時間が必要だ。大事なのは早目の決断と初動であり、動きの中でさまざまな情報やアドバイス、環境変化を得て、当初の思いや計画が変わる可能性もある▼M&Aの話題がいまや業界で日常的になったように、廃業に関しても、社長独りで悩む時代ではない。感情論を脱し、合理的な選択をしやすい環境をつくることは、業界全体の大きなテーマとなる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月31日付
 2016年度の国内通信販売市場売上高が28日に日本通信販売協会から発表された。前年度比6.6%増の6兆9400億円となり、18年連続で増加した。直近10年の平均成長率は6.6%という高さだ▼10年前の2007年度の売上高が3兆8800億円。市場はおよそ2倍に膨らんだ。日本通信販売協会では、市場の傾向として、アパレル通販やB to B通販の堅調さ、プラットフォーム系を含む通販支援サービスの充実などを挙げている▼家人の購買行動を見ても、本や家電、知人への贈り物まで、ほとんどがネット通販。おかげで、せっかくの休日も宅配業者への対応でくつろげない。小物一つでも贅沢に使われている段ボールもなんとかならないか。日本製紙連合会の統計では、7月の段ボール原紙の出荷量は前年同月比4.5%増、今年1月からの累計でも前年同期比2.3%増と好調に推移している▼一方、カタログ通販最大手の千趣会は、約7500万部発行するカタログの部数を、今後5年間で5分の1に減らし、ネット通販に重点を移すという。店舗、印刷物、郵便には受難の時代である。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月24日付
 10月にアラブ首長国連邦で開かれる第44回技能五輪国際大会に、印刷職種では亜細亜印刷の早瀬真夏さん、グラフィックデザイン職種では図書印刷の青木美穂さんが日本代表として出場する。メダル獲得はもちろん期待したいが、それ以上に、出場に至る過程で選手が得るものは大きい▼早瀬さんは、昨年の代表決定後から大会への出発直前まで、社内・社外を含め、計60回以上の強化トレーニングに励む。今回は、ドイツに出向き、競技で使用されるハイデルベルグの印刷機を使ったほか、国内では他社製のUV印刷機も扱い、幅広い技量を培った。また、国内の印刷会社を8社ほど訪ね"他流試合"も行った▼日本印刷産業連合会によると、顔つきは明らかに変わり、メンタル面が相当強化された。すばらしいと感じたのは、早瀬さんの訪問を受けて共に作業したオペレータにも大きな刺激を与えたという話だ▼印刷現場の社員は、自社以外の環境を知る機会がほとんどない。見学会等に行くだけでも多くを吸収する。工場のオープン化や人材の交流促進によって業界の価値を高められる余地は大きい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月10日付
 出版科学研究所の調査によると、今年上半期の紙の出版物の推定販売金額は前年同期比5.5%減となった。書籍が2.7%減の3954億円、雑誌が8.5%減の3327億円。雑誌はかつてない激減だ。一方、電子出版は1029億円、コミックを中心に21.5%増加した。紙と電子を合算すると2.8%減となり、2.7%分の減少を電子出版が補った▼全国大学生活協同組合連合会の調べでは、大学生の1日の読書時間は平均24.4分。前年に比べ4.4分減少した。約半数が、1日の読書時間を「0」と回答するなど、読書離れが進む▼大日本印刷は武庫川女子大学に電子図書館システムを導入し、学生がスマホやタブレット等で読書しやすい環境を整備することで、読む習慣を定着させる実証実験を7月から開始した▼慶應義塾大学とKADOKAWA、講談社、集英社、小学館、出版デジタル機構は、未来の出版に関するラボの設置で合意し、電子書籍標準規格EPUBや日本での電子出版について研究・推進する。読書の概念が拡散し、いよいよ「電子」という冠が外れる日が近づきつつある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年8月3日付
 「ちょい」消費をものにした企業の強さが目立っている。日高屋は「ちょい飲み」効果で14期連続の最高益更新、410円タクシーの「ちょい乗り」然り。団体客の宴会や長距離乗車の客を狙う時代とは明らかに異なる時代となった▼タクシーでいえば、日がな一日、長距離客ばかり狙ってヤマを張る運転手は、結局空振りに終わることが多いと聞く。ところが、初乗りの客をつないでいくうちに、ドーンと大きな客にも巡り合う。ほとんどの運転手はそう言う。ホームランバッターばかり9人並べても野球は勝てるものではない。バントも盗塁も大切なのだ▼印刷の特性が、同じハンコを使っての大量複製であることに間違いはない。ゆえに、大ロット、リピートを狙いたくなるのは人情だが、この業界でも「ちょい刷り」で稼ぐ会社が確実に増えてきた▼ちょい刷りで利益を上げるために高効率のやり方を考え、見える化を図り、営業の評価を改める。そんな会社の評判がクチコミで伝わり、客を増やし、頼まれ事が集まり、いつしか大きな仕事や囲い込みにもつながる。ちょい経営を軽んずるなかれ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月27日付
 19日のハイデル・フォーラム21で講演した辻野晃一郎氏は、グーグル日本法人の社長を務めた経験から、グーグルを生む土壌と日本および日本企業の違いについて、「Global Scalability」の概念の有無によるものと指摘した。発案したアイデアが「世界に通用するか」を常に問われ、社内のいたる所に「地球目線」を意識させる映像などがあったという▼講演で、それ以上にスケールの大きさを感じさせたのは、「いつ、誰に質問しても、仕事の手を止めて答え(応え)てくれる」という社風の紹介。クラウドを使いこなすグーグルの超速経営の話の後だっただけに、余計に意外な感を受けた▼優秀な頭脳集団であるほど、自身の成果や評価だけを気にする社員が増えると空中分解を起こす可能性が高まる。大きな組織をがっちり束ねることができる唯一の指標が「地球」ということになるのかもしれない▼全員の目線がより良き世界の現出に向いているとすれば、チームはライバルではなく同志の集まりとなる。悲しいほどに内向きの日本の政治を見るにつけ、世界を向く教育の実現は遠いと思わざるを得ない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月20日付
 30万8084人減、前年比0.24%減(日本人住民)、14万8959人増、前年比6.85%増(外国人住民)。総務省から発表された日本の人口統計(平成29年1月1日現在)で驚いたのは、外国人の増加率。出生者数も1万6579人で増加傾向にあり、調査開始の平成24年以降最多となった▼日本人の減少については、「ついに下り坂が始まるか」と重たい気持ちになるが、想定の範囲内でもある。だが、その半分を定住外国人が補っているとなれば、国としての対応指針がいよいよ必要になる。インバウンド対応は「接客」だが、定住者対応は「責務」だ▼言葉、教育、就職、医療、公共サービス、地域交流等々、あらゆる場面で統一した指針やシステムが足りない。言語の表示、ユニバーサルなデザイン、文書書式の作成・整理、携帯端末用のデータ変換、地域コミュニケーションなどに長けた印刷会社の出番は間違いなく増える▼約232万人の外国人住民の7割は三大都市圏(東京、関西、名古屋)に住む。地方には孤立しがちな住民も多いはず。それぞれの地域で、新しいまなざしが求められる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月13日付
 震災から1年余り経った熊本の町では、まだ至る所にブルーシートを被った民家、工事中の建物があった。解体、修繕、建設関係の業者が仕事量の多さに追い付けず、復興に時間がかかっている▼熊本県印刷工業組合の藤井理事長の話では、観光施設やイベント会場が機能しなくなり、入場券、パンフレット、チラシ等の印刷物需要に直接打撃があったという。改めて、印刷会社にとって地域のインフラがいかに大切であるかを思わされる▼熊本に限った話ではないが、人口減少、人材採用難、輸送困難、資材価格上昇などで、特に地方の印刷会社は厳しい状況にある。そこへ突発的なマイナス要因が加わることがどれほど大変か。地域愛だけでは乗り切れない。ゆえに今、BCP連携、事業連携、事業承継、遠隔教育、入札改善などに関する業界の取組みが急がれている▼今後、印刷会社のネットワークによる分散印刷や全自動生産、ビッグデータのマーケティング活用といったテーマもさらに顕在化するはずだ。愛国心に満ちた坂本龍馬がブーツを履き、銃を手にしたように、新しいツールによる武装の必要が高まる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年7月6日付
 将棋の藤井聡太四段の活躍が、一種の社会現象となっている。史上最年少のプロ棋士デビューから負けなしで公式戦29連勝の新記録を達成。天才中の天才だけが集うプロ棋士の世界で、常識を覆す強さを誇る。そこには紛れもなくデジタルの影響がある▼5年ほど前まで、棋士がインターネットを使う意味は、過去の棋譜の検索、もしくは、誰かが指した最新の戦形を研究するための棋譜や解説の入手だった。つまり、すべて「人」が生んだ元ネタの取り寄せである。だが、将棋ソフトの急速な進化が勝負の概念を変えた▼今や自己学習機能を備えたAIが、人智を超えて限りなく強さを増している。現在の棋士は、精密かつ、定跡にない作戦や勝負手を当然のごとく繰り出すソフトと、ネット上でいつでも対戦できる環境にある。若い頭脳や感性が「新世代」を形成しないわけがない▼間違いなく、将棋界も囲碁界も戦いはさらにレベルアップする。同じことが、AIが介入する余地のある、世の中のあらゆる職業で起こるはずだ。印刷の技能を引き上げ、媒体の価値を高めるAIとは何か。大いに議論したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年6月29日付
 中小印刷業の官公需対策がヤマ場を迎えている。7月に閣議決定される「国等の契約の基本方針」に、全印工連が要望してきた改善内容が反映される見込みで、前進が大いに期待される。重要なのは、新たな方針が地方自治体に浸透することであり、そのためには、まず印刷業者自身の認識と行動が問われる▼国の方針は変わったが、当人たちから何のアクションもないのでは、有名無実となりかねない。基本方針に基づく文言を契約書に盛り込めるよう、各地元の首長や議員に働きかける必要がある▼全印工連の臼田会長は、知財権保護の次には、予定価格の積算が取引改善の要になると見ており、「根拠ある積算をできる職員が少ない。われわれが組織的に手法まで提供しないと進まない問題だ」と話す。各印刷工業組合の力を結集し、業界として積算仕様書や入札条件を示さない限り、低価格等に歯止めを掛けられないという認識だ▼全印工連では、全国の官公需取引の実態を正確に把握したうえで、国の方針改正に対応した全印工連としての行動マニュアルを年内にも作成し、業界内に周知させていく予定だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年6月22日付
 「カルチャースクールも、バッグや服の販売などブランドビジネスもやっています。でも、それは出版業を続けたいからです。足りない売上を補完するために、今までにない事もやる。それが当社の姿勢です」。製本団体の講演会で、小学館の速水健司制作局シニアマネージャーが語った言葉だ▼前回の小欄で、印刷業の業態の多様化に触れた。変化への柔軟な対応は重要だが、原点まで見失ってしまっては、業態不鮮明企業になりかねない。自社の強みも顧客への訴求力も失う。大手印刷会社でも、社名から「印刷」の文字は外していない▼同じ講演の中で速水氏は「紙メディアとデジタルメディア、買う人はそれぞれ違う。足し算、引き算をしてはいけない。デジタルのことを気にする前に、編集者はもっと本業に頭を使うべきだ」とも語った。一方で、製造コストを下げるためのデジタル印刷への取組みには不退転の決意を見せる▼いまや未来実験室ともいえるコンビニエンスストア。「便利」という言葉を冠された宿命で、小売の概念を大きく超える。その経営者にとって"本業"とは何か。気にかかる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年6月15日付
 印刷業界団体はどこも会員数の減少を課題に抱える。致し方ない面はあるが、数は力なり。少しでも会員は多い方が、外に向けた発言力の大きさにつながる▼いわゆる「印刷業」の業態は多種多様化している。印刷設備を持たないデザイン制作、封入発送、イベントプロデュース等の企業が会員となっている例は多い。そうした業態を取り込むことは、組織増強だけでなく、内部でのシナジー効果を期待できる。団体の定款変更だけで済む場合もあれば、加入する会社の定款に「印刷関連」と謳っていることが必要な場合もある。各県の中小企業団体中央会の取決めによって異なるようだ▼近年、会員数を維持・増加している団体の一つである岩手県印刷工業組合の斎藤理事長によると、東日本大震災の後に「組合に入っていて良かった」という声が多く聞かれたという。真に厳しい局面にあってこそ、人は仲間がいる心強さを実感できる▼いまだに組織のメリット云々の話は絶えないが、「いざ」という場に立たされた時の支え、そこに対する投資といった長い心持ちで加入する考えがあってもいい。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2017年6月5日付より
 神奈川県製本工業組合の総会後に行われたセミナーでは、印刷業・製本業専門のコンサルティング会社、認定支援機関の株式会社GIMS、寶積(ほうづみ)昌彦氏が「製本業で活用できる補助金」をテーマに講演した。▼中小企業診断士である寶積氏は、印刷機械メーカー出身の異色のコンサルタントで、7月1日に横浜市で開催される全製工連の商業印刷製本専門委員会でも講演を行う予定だ。GIMSは認定支援機関として印刷業関連では圧倒的に採択実績が多い。▼寶積氏は、今年1月で公募が終了した平成28年度補正ものづくり補助金について次のような数字を紹介している。申請総数1万5547件のうち、採択数は6157件(採択率39.6%)。うち、印刷・製版・製本関連は220件で3.6%。事業計画名から可能な限り導入設備を類推したところ、「後加工」(製本機・折り機・表面加工機・レーザーカッター・ミシン・グルア等)が220件中61件(28%)で最も多く、次いで、「POD・インクジェット」50件、「不明」44件、「印刷周辺機器」25件、「ITその他」21件などとなっている。▼ここ数年の傾向として後加工機の導入が多くなっている。寶積氏は、「中間工程に位置する印刷業に比べて、製本業は製品の形状や機能自体がらりと変わるため、採択員にイメージを訴えやすく、理解されやすい。採択員は後加工についての知識は少なく、新しいチャレンジと受け止めてくれる。ぜひその優位性を活かして、製本会社の方々にはもっと積極的に補助金を活用してほしい」と話す。▼ただし、有利な面がある一方、後加工分野に目を付ける印刷会社その他も増えており、採択が簡単ではないことは心得ておく必要がある。▼神奈川工組のセミナーでは、地域限定の制度の例として横浜市の「中小製造業設備投資等助成制度」(補助上限額1000万円)が紹介された。「本社が市外であっても横浜市内への投資を行う場合にも活用可能」、「リースによる導入も対象となる」など、幅がある。寶積氏は「都道府県単位で製本業が活用できる補助金も多い。特に、毎年4月から7月頃にかけて公表されるので、小まめに情報を確認していただきたい」とアドバイスした。▼29年度に初めて実施された「IT導入補助金」「事業承継補助金」、おそらく来年度も実施される「小規模事業者持続化補助金」(上限額は50万円。販促用印刷物の製作やWebサイト構築など対象)等、支援内容は多岐にわたってきている。公的支援制度の情報は、中小機構の「J-net21」、中小企業庁の「ミラサポ」などから入手できる。


コラム「点睛」 印刷新報・2017年5月25日付
 小学生の花丸、二重丸ではないが、どんな小さなことでも、人は褒められると嬉しいものである。事を成した人の多くは、幼少期に忘れられない褒められ体験を持つ。たとえ相手が一人でも効果抜群なのだから、大勢の前でなら尚更だ▼高齢だからとあきらめてはいけない。世に「マスターズ」なるものがある。陸上でいえば、マスターズ大会にはたとえ80歳、90歳になろうと参加でき、タイムは公式記録として残る。5歳刻みの年代別競技ゆえ、自分も相手も生きている限り生涯のライバルが存在する。つくづく良くできた仕組みだと思う。ゴルフの青木功だってマスターズで健在。実に楽しそうだ▼あらゆる分野にマスターズ制を採り入れたら、社会が大いに活性化すること間違いない。今年10月に行われる国際技能五輪も、若者だけでなく全ての年代に開かれると、とてつもないベテランの技に青年が驚嘆する場面が出てくるのではないか▼人生百年時代と言われる昨今。ただ長生きするだけではつまらない。社会貢献をするも、人の手本となるも、まずは活き活きした自分があってこそ、と思うのである。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年5月18日付
 このところ相次いで、高校の同窓会報と大学時代に関わっていた団体の会報が「紙」でなくなった。サイトの専用ページ閲覧と、一方は登録アドレスへのメール配信である。年々増え続ける会員に対応するコストと労力を考えると、異を唱えるのは難しい▼広報紙(誌)も情報伝達媒体の一つであり、同様に、電子決済の増加による伝票関連から事務書類、教材、名簿、カタログ、マニュアルまで、情報の閲覧と記録ができればひとまず事足りる媒体のデジタルへの移行は必然の流れとなる▼今後、紙で残るのは、思索や感性、保存の価値を備えた媒体だろう。考え味わう内容の書籍・雑誌などは、むしろ紙がふさわしい。いずれにしても、既存の印刷市場の縮小は避けられない▼印刷会社の価値は、オフセットかデジタルかという生産方式の違いを超えて、ICTの「C」の部分にどれだけ関われるかにかかってくる。デジタル情報が世に増えるほど、効率化された時間を人々がより生産的な事に振り向けるためのアドバイス、あるいは、時に思索や感性の価値に誘導する役割まで担うことになる。実に大事な仕事だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年5月11日付
 フランス大統領選挙の結果を受け、連休明けの日経平均株価は2万円台を窺う急上昇を見せた。不安が取り除かれた直後には似た現象が起こる。だが、楽観に浸りたい人間心理の逆を突いて、虎視耽耽と売抜けのタイミングを図る勢力がある▼史上最高値の株価水準にある米国も個人消費は増えない。中国・上海では、住宅購入価格が平均所得の14倍に達し、バブル崩壊直前の東京23区の水準に近いという。首都圏、地方を問わずマンションやホテルの建設が続く日本。世界的に根拠なき楽観が蔓延している▼売抜け競争の後塵を拝した組が椅子取りゲームに走るには、少しのきっかけがあれば十分だ。80年代、90年代、2000年代と、金融・不動産・ITバブル崩壊の大きな潮目は10年周期の終いと初頭にやって来た▼ある中堅不動産会社の社長は「一気に状況が変わるのではなく、次の経済危機は音もなく近づいてくるのではないか。問題が表面化する頃には"ゆでガエル"状態で、企業も個人も大変な試練を迎える」と話す。希望と楽観は似て非なるもの。あえて距離を取る冷静さで現実的な手を打ちたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月27日付
 印刷工業会の4月19日のセミナーで「ダイバーシティ」について講演した経済産業省の藤澤秀昭経済社会政策室長に、浅野健副会長は「多様な人材の受け入れを言いながら、日本の教育は均一な人材を育てていないか」と質問した▼藤澤室長は「おっしゃるとおり。求める人材の育成に対して企業の危機感と苛立ちが強まっている。文部科学省と人材育成会議を立ち上げ、産学官連携で議論を始めた。同時に初等中等教育においても、個々の能力に合った教え方の導入を検討している」と、教育の重要性に認識を示した▼「人生百年時代」が言われる中、企業はもちろん、子どもたちも多様性を小さな頃から身近に感じ、コミュニケーションを学ばなければ、ますます複雑、渾沌となる社会を生き抜いていけない。障害者学級と明確な区別を設ける日本は、その点で欧州などに後れを取っている▼同時に、ブラックな側面が色濃くなる社会にあって、お金の扱い、仕事の仕組み、詐欺や犯罪、ネットとの付き合い方など、身を守るための現実的な術と心構えについて、子どもたちに教えざるをえない時代となった。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月20日付
  辞める現象面だけ見ればもっと早いが、一般には入社3、4年目が社員の身の振り方の転機だろう。組織や仕事の実情が見えるようになったと捉えれば、社員自身の成長であり、つなぎ留められるかどうかは、会社の力量が問われる。そこを乗り越えれば、経営目線を備えた優秀な人材の育成に近づく▼社員の意識が経営側に立つ強い組織の実現には、仕組みからのアプローチが欠かせない。究極は、社長が不在でも仕組みで回る組織が目指すべき理想といえる▼欧米の先進的な印刷会社を訪問して驚くのは、100人、200人の企業であっても、営業専任者が数人しかいないことだ。それでも、バックアップ部門との緊密な連携、ICTの活用などで、リアルタイムな最適サービスを顧客に提供する。日本の印刷会社には感覚的につかみにくい▼専任が少ないからといって、社長がトップ営業に走り回っているわけでもない。意外に自社の現場に顔を出す時間が多く、内情に精通している。そこへ重要な顧客を招き、濃厚なおもてなしで心をつかむ。そんな文化に日本企業が変わると、若い社員の意識も必ず変わる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月13日付
 コンサルタントの田中信一氏は、2030年に生き残る印刷会社の現実的な戦略として、「特化─多様型ビジネス」を挙げる。特化する「顧客/市場」を選び、多様な製品/サービスを提供するか、あるいは、特化する「製品/サービス」を選び、多様な顧客/市場に提供するか、である▼言い換えれば、「一点集中突破、全面展開」という古来あまた用いられてきた兵法の基本。自社の何を強みと捉え、どこに狙いを定めるか。まさに経営者の眼力が問われる。流行だけを追いかけていて成功するものではない▼縮小が続く出版市場であっても、そこに特化してきた印刷会社には、他社には見えない独自のソリューションがある。出版物製作の完全一貫工程を備えた地方の印刷会社が、分業に慣れた東京の同業者では解決に時間がかかるトラブルに即座に対処し、出版社からの信頼と仕事を得た話も聞く▼スモールメディア/リッチコンテンツという言葉もある。印刷会社の得意な小さな媒体こそ、特化した分野や地域で魅力を発揮できる。地方の小規模企業が勝機を呼び寄せる時代は、むしろ「これから」という気がする。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年4月6日付
 糖尿病とは、栄養が満ち足り過ぎたため、自己防衛本能で躰が自ら、「生きることを止める」病のこと。部分壊死から始まり、全身の機能不全に陥る。情報過多、便利過ぎる現代が、「精神的糖尿病社会」に映る。人の人たるゆえんは、自分の頭で考え、動き、他者に思いを伝える行為に尽きるが、徐々に弱まりつつある危惧を覚える▼深夜1時の某レストランチェーン店。ウェイトレスはバングラディシュ人か。厨房の彼は明らかに韓国の人。酔って寝入った客の扱いに困った2人に、店がはねたばかりの中国人のママとホステスが笑いながらアドバイス。いつの間にか珍しい光景ではなくなった。日常が世界と同化するグローバル化が着実に進行する▼本当のグローバル社会とは疲れるものだろう。さまざまな相手の素性を慮りながら、上手に会話や気配りをするなど、日本人には苦手かもしれない。日本にいれば、まだ日本をバックに接している。20年後にはどうなっているか▼新人が街にあふれる季節。彼らも結構大変なのだと思いつつ、自分が育った時代を土台に安易に判断してしまう世代の限界を同時に感じる。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2017年4月5日付
 電通の「2016年日本の広告費」によると、総広告費に占める媒体別の割合は、マスコミ四媒体45.5%、プロモーションメディア33.7%、インターネット20.8%となる。マスとプロモーションが前年から1%ずつ減った分、ネットが2%増えた。この傾向が近年続いている。同じペースで進むと、10年後にはマスが35%、プロモーション24%、ネット41%と主役が完全に交代する。当然、販売促進の手法も広告宣伝予算の配分も大きく変わってくる。これに伴う関係者の混乱はすさまじいだろう。人は皆、自分の立場や持ち場を守ろうとするからだ。▼官公庁や民間企業においては、言わずと知れた「予算の取り合い」。まともな組織であれば当然、最も効果的、効率的な販売促進や広告宣伝について、部門間をまたいで議論や調整が行われるものだが、自部門の権益、評価を高めるために、そこにはどうしても恣意的な力が働いてしまう。ゆえにメディア戦略に誤りを生じる。中には、前任者が大きな成果を上げたプロモーションについて、まさに「前任の功績を認めたくない」という理由だけで、継続の検討は一切なく、白紙に戻す担当者さえいる。▼メディア戦略を提案する立場にある広告代理店の側も、本音と建前は大きく食い違う。とにかく成績を上げたい営業は、テレビ広告が劣勢になりつつあることを自覚しながらも、目の前のCM 1本の額がアタマを占め、積極的にスポンサーに勧める行動を採る。かたや、時代の趨勢から明らかに今後の主役となっていくクロスメディア・プロモーションは、案件ごとの利幅が相対的に薄い。それでも、担当部門としては成績を伸ばし、目標を達成しなければ社内で生き残れない。昨年起きた電通の過労死事件には、長時間労働以上に、発言力の弱い部門に配属されながら、結果をシビアに求められることの精神的なストレスがチーム全体を蝕み、最も耐性の弱い社員が犠牲となった側面がある。▼広告とは極めて人間臭い行為であり、調査数字から浮かび上がるデータだけでは予算配分を決められない性質を持つ。印刷業界も含めて、そこで商売をしようとする者は、組織内の力関係までよく読んだうえで、接し方を練る必要がある。▼難しいのは、生まれながらにインターネットやスマートフォンに囲まれて育ったデジタルネイティブ世代が、組織で発言力を持ち始めた時。彼らの思考や行動から生じる力学は、今とは必ず違ったものになる。日本の古い因習を変える期待を抱きつつ、メディアに携わる難しさに思いを新たにする。


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月23日付
 札幌市に本社を置くフュージョンが2月に札証に上場した。同社は、パラシュート(2007年に札幌凸版印刷から社名変更)のマーケティング専門のグループ会社として1991年に設立された。この時から、グループは「ダイレクトマーケティング」を事業ドメインに設定し、新分野に舵を切った▼小さな印刷会社を継いだ花井秀勝会長は、アメリカで先端マーケティングを学んだことをきっかけに自身を変革し、会社を変革してきた。2008年にフュージョン、2010年にパラシュートの社長を任された佐々木卓也氏(42歳)は、レタッチマンから身を起こした人であり、ものづくりの原点とマーケティングへの情熱を併せ持つ▼現在、グループ売上に占める印刷関連の割合は約4分の1だが、花井会長は「ものづくりを手放すことは考えていない。そこにこそ、われわれの強みがある」と話す。一方、ダイレクトマーケティング事業で培ったノウハウを携えて、海外展開を見据える▼大手企業との人材獲得競争が激しさを増すなか、上場で調達した資金は主に、優秀な人材の採用と育成に充てていくという。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月16日付
 eラーニングによる学習改革への期待は高い。成功するプログラムには、学ぶ必然性がある(単位・資格の取得、昇進・昇給の条件など)、双方向性があり能動的になれる、コンテンツ内容が自分の関心に極めて近い等の理由がある▼コンテンツの魅力が視聴率に結びつくとは限らないのが難しいところ。「いつでも、どこでも」の謳い文句は、テレビ番組の録りだめと同じで、便利さでは人は動かない。ある種の強制力や緊張感、費用を伴う方がいい▼生のセミナーやディスカッションでも、鍵を握るのは「参加する臨場感」だ。講師の問いかけ、受講者の発言、ポストイットなど道具や手を使った思考整理、隣の人との会話や握手だけで、何倍もいきいきとした体験に変わる▼印刷業界ほど数多くの団体が膨大な講演会や研修会を開催し、情報発信している業界は他にない。あり余る情報の整理、共有、有効活用は、業界全体に大きな恩恵をもたらす。全印工連は3月から遠隔教育システムのテスト実施を始めた。ジャグラの「ジャグラBB」などの先行事例を参考に、思い切った新しいeラーニングの道筋を示してほしい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月9日付
 11日で丸6年。東日本大震災で刻まれた体験や心象は、同じ日本人でも一様ではない。西日本では、多くの人が報道でしか東で起きている現実を知りようがなかった。それが昨年4月の熊本地震では、一転して身近な危機に変わる。記憶の風化以上に恐れるべきは、想像力の欠落か▼都心にある本社で3.11を経験したY社長は、その瞬間、元キャビンアテンダント(CA)の秘書からテキパキと指示を受けた。「閉じ込められます。ドアを開けてください」、「すぐコンビニで食料をまとめ買いしてください。帰れない社員が出ます」…。後ですべて的確だったと知る▼CAが最初に教わるのは、我が身を守ることだという。Y社長は「まず自分が生き延びてこそ他人を助けられる。次に家族の安全。それができれば会社、地域、国を元気にできる。インサイドアウトが正解だ」と学んだ▼会社経営にもリスクが不意に訪れる。トップの冷静で的確な指示が命運を分けるが、目線が社員の安全(生活)確保に向いていることが重要だ。社員さえ元気なら会社は再生できる。会社の大儀に殉じる行動を求めてはならない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年3月2日付
 電通の「2016年日本の広告費」によると、総広告費に占める媒体別の割合は、マスコミ四媒体45.5%、プロモーションメディア33.7%、インターネット20.8%となる。「ネットはまだ5分の1」と思うなかれ。マスとプロモーションが前年から1%ずつ減った分、ネットが2%増えた。ほぼ同じ傾向が近年続いている▼この分でいくと、10年後にはマスが35%、プロモーション24%、ネット41%と主役が完全に交代する。当然、販売促進の手法も広告宣伝予算の配分も大きく変わってくる▼2月に来日した米国の著名なマーケティング専門家、ロン・ジェイコブス氏が強調していたのは、欲しい製品・サービスの情報を得るために、消費者が行うファーストコンタクトはネットであり、営業マンではないということだ。いまや企業のホームページさえ通過され、クチコミ、SNSが信用される。若者はサイト経由ではなく、登録アプリから情報を取る▼広告代理店の媒体分類も見直しを迫られる。ネット広告費の細かい内訳やツール別分析のほか、紙とデジタルの複合メディアに対する定義が必要になるだろう。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月23日付
 今の印刷業界を「下りのエスカレーターを一所懸命に駆け上がっている」と譬える人がいる一方、「昇りのエスカレーターは必ずある。それも、近くに必ずあるはずだ」という声もある。一人で探すよりも、複数で探した方が早い▼近年、「協業」の必要を意識する経営者が増えた。全印工連では21世紀の入口に、すでに「共創ネットワーク」を唱えていた。再び脚光を浴びているのは、当時よりさらに厳しい経営環境もあるが、互いのオープン化が進んだことが理由。昔はタブー視されたM&Aという言葉が、いまや業界団体の事業テーマに挙がる時代だ。互いを知る機会は、組織の大きなメリットといえる▼ある地方の経営者は、ネット印刷通販ならぬ、地域密着印刷通販連合を構想する。得意を持ち寄る印刷会社が、全力で地域のお客をサポートする態勢を目指す。ネットより速く伺い、オンデマンド機より速く対応する▼この動きはイヤでも周囲の目に触れる。印刷以外の仕事を頼まれることは間違いない。昇りのエスカレーターが向こうから寄ってくるイメージか。小さな会社同士の大きな戦略になり得る。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月16日付
 昨年4月から始まった電力小売りの全面自由化。印刷業界にも恩恵があると思われたが、明らかなコスト低減を実現した例を寡聞にして知らない。東日本大震災以降、印刷業界はピークカットや省エネ機器の導入に積極的に取り組んできた。わずかな料金の差では効果が見えないと言えば結構な話だが、総じて仕事量が減り、電力消費量も下がったとすれば喜べない▼埼玉県に複数の工場を持つあるオフ輪企業の場合、最大の工場では、以前から結んでいたピークカット契約の方が新電力会社の提案よりも割安なため、購買先を変更しなかった。新電力と契約した他の工場でも、削減率は1%程度と期待を下回った▼電気の基本料金は最大需要に合わせて決まる。昼夜や季節で使用料の変動が大きい施設はメリットがあるが、24時間稼働の工場では変動が少なく、すでに契約電力の有効活用ができていたという話である▼無理な拡張競争がたたり経営破綻した新電力も少なくない。エネルギーの見直しは経営体質を強化するが、他人頼みには限界がある。むしろ、自社設備を使った発電、売電の好事例が印刷業界でも増えてきた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月9日付
 トランプ・ショックは、国際的な分断とともに、アメリカ国内の分断を招いた。反トランプ派の州による独立戦争まで起きかねない勢いだ。合衆国の建国理念が大きく揺らぎつつある。国家としての賞味期限が切れたか。器を重んじ、過度の保護主義に走ると、未来に向かうフロンティア・スピリットと競争力は失われる▼かつての南北戦争ならぬ、現代流の凄まじい白い戦争が進行しているのだろう。すべての人が色分けされ、懐柔や説得、操作、弾圧、切崩しの嵐が起こる。そこにネットが巧みに使われる。人々は皆、疑心暗鬼となり、国家の活力が低下する▼華々しく女性知事が誕生した東京都だが、議会の動きを見ると、他国の例を云々できない。人口流入と五輪開催に胡坐をかいていては、活力を維持できないことが明白だ。統計によると、平成27年までの20年間で、東京都全体の人口は16%増加するも、20歳〜24歳人口は34%減少した▼枝葉(東京)だけが繁り、養分を吸い取られた根回り(地方)が朽ちても、木は足下から倒れる。東京の賞味期限を見直し、新たなフロンティアを探る時に来ている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年2月2日付
 マーケティングとは、仮説と検証の不断の繰り返しだが、情報量が多いほど仮説が立てやすく、検証がしやすいか。そう単純なものではない。しかし、市場分析、顧客分析と称して、ツール開発や情報収集に力点が置かれている現状がある▼世の中の常識では、同じ商品であれば、消費者はより安い企業や店舗から買い、同じ値段であれば、より高品質で多機能な商品を買うものとされてきた。ところが、モノがあふれ、個人の背景や思いが複雑に交錯する現代では、これまでの前提が大きく崩れ始めている▼データは一面の真実を映すが、平均値だけを見ていては本質から遠ざかる。秀でたマーケターとは、時に大胆な仮説に基づき、独自の切り口で市場に風穴を開け、いまだ気付かれない商品価値を明るみに引き出す能力を持つ。分析者というより創造者に近い点で、デザイナーやコピーライターを思わせる▼マーケティング視点からの顧客アプローチが弱いとされる印刷業界。情報量では大手企業に敵わなくとも、創造的な視点をニッチな分野で活かすことができれば、中小企業でも十分に勝機はある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年1月26日付
  やはり、今年はどの新年会でも、トランプ、トランプ…が聞かれた。早々にトヨタの批判を繰り出すなど、国内では期待よりも不安が大きく先行している。オバマ氏の路線も一蹴された。しかし、二大政党制にあっては当然起こり得ること。日本のすばやく的確な対処が問われるわけで、問題は自国の内にある▼不透明、想定外といった言葉が何百万遍繰り返されようと、人は、つい自分にとって都合の良い方向に物事を考えがちな生き物。往々にして期待は裏切られ、必要以上の混乱に陥る▼アメリカの選挙ではないが、白か黒か、常に対立する二軸の流れ、考え方、結果を頭の中で転がしておくことは有効だろう。あえて単純化し、極端な差を意識する。その上で、自分がなってほしくない結果が出た場合の対処を少しでもシミュレーションしておけば、最初の一歩の速さが違ってくる▼災害、テロ、ウィルス、通貨危機、政変から会社の人事や失言、偽装、情報流出、家族の病や事故まで、すべてに初動の大切さが言える。2030年に紙の新聞、オフセット印刷がなくなると言う人もいる。さて、どう動くか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2017年1月19日付
 箱根駅伝は青山学院大学の圧勝、3連覇となった。高校時代に飛び抜けていた選手は少ない。脱・精神論、躰をいじめるのではなく緩める、いわゆる「青トレ」で大きく変わる。明るいチームカラーと合わせて"しなやかな時代"を象徴する話だ▼それにしても根強いスポーツ界の筋肉志向。一流アスリートの姿を切り取った映像の多くが、がむしゃらなベンチプレスや腹筋運動のような内容で、若者や指導者の認識を歪めている。市民ランナー向け雑誌でさえ近頃は筋トレ礼讃のあり様。さらに、炭水化物カット、水素水、サプリメント、フォアフット(前足)着地、心拍数計測GPSウォッチなど、あり余る情報が飛び交う▼江戸時代の飛脚は、草鞋履きでも一日に100キロ以上走ることが珍しくなかったという。怪我をしたら仕事を失う。そんな飛脚たちが筋トレをしたか。主食は米、味噌、漬物だったのではないか▼数値に囚われ、脳で考えて躰を縛る悪弊から如何に抜け出すか。メダルの数が問題なのではない。笑顔が自然に出る躰の使い方を誰もが会得すること。東京五輪で試される大事なテーマだと考える。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2017年1月12日付
 2013年に約1億2700万人、2100年に約5200万人、2210年(200年後)に約1391万人、2310年(300年後)に約423万人、2500年に約44万人、そして2900年に約4000人、3000年に約1000人。これは、昨年11月に全日本印刷産業政治連盟の勉強会で自民党の石破茂衆議院議員、前・地方創生大臣が講演した際に配付・説明した資料にある日本の将来人口の推計である。国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2015)」から政府が作成したものだ。推計値は、平成25年(2013)の総人口を基準に、この年の女性の年齢別出生率(合計特殊出生率1.43)、出生性比(女性100に対して男性105.1)および生命表による死亡率(平均寿命、男80.21年、女86.61年)が仮に今後一定とした場合の人口予測となっている▼遅かれ早かれ、今は人口爆発している新興国も、1000年後には似たような運命をたどるだろう。すると、全世界の人口はせいぜい数万人となってしまう。広い地球上に点在もいいところだ。ああ、原始時代に逆戻りの道をひた走っている我が人類。自分が世を去った後のことはどうでもいい、1000年後を考えて、今、何をどうしろ言われても困る。そういう人もいるだろう。だが、つまらない見栄や保身で今この時だけをやり過ごすことの虚しさが、少し芽生えはしないか。中学生たちは学校の授業で、エジプトや中国に存在した4000年前の文明の歴史の一端を学ぶ。それを思えば、1000年は決して長いとは言えない▼さて、石破氏は「地方から創生する我が国の未来」と題したその日の講演で、急速な人口減少に直面している日本の問題点、それを打開するための地方における職業や給与所得の確保、一人当たり生産性向上の方策について語った。豊かな日本の自然と日本人の感性、ものづくりの力を活かし、地方の潜在力を発揮することが鍵になるとし、「その業界や地域にしか分からない『今だけ、ここだけ、貴方だけ』の価値がある。それを一番よく知っている印刷業界のみなさんから政治家に提言してほしい。新しい日本をともに創ろう」と呼びかけた▼社会への貢献の一番の近道は、本業に勤しむことであり、自分の足元(家庭や地域)を元気にすることだ。印刷・製本会社だからこそ、自分だからこそ生むことのできる価値は何か。若者が働きたい、住みたい、家庭を持ちたいと感じられる会社や地域をつくるために、2017年、何か一つは証を残されては如何か。


コラム「点睛」 印刷新報・2017年1月5日付
 本紙姉妹誌・月刊『印刷情報』の経営者インタビュー連載「印刷元気企業の条件」が、1月号で第241回を迎えた。取材・執筆される田中肇氏(たなか経営研究所)の壮健と旺盛な好奇心に支えられ、一度も休まずに今年で21年目に▼業界が下降線に入ったと言われる頃に始まりながら、登場いただきたい経営者はまだまだいる。環境を言い訳にできない何よりの証拠だ。同行記者も毎回、大変良い勉強をさせてもらっている。人生の出発点、会社の原点から懐に飛び込む田中氏の直球勝負に思わず釣り込まれ、時に涙を滲ませる経営者もいる▼第241回は、「クリエイター専用シェアオフィスでものづくりの町を支援する企画提案型印刷企業」として東京・墨田区のサンコー、有薗克明社長。長男の悦克氏との父子での取材は連載初。会社を継ぐ決心をするまでのストーリーに泣かされる▼同社もそうだが、連載に登場するのは、実子であっても、全く違う畑で経験を積んだ後、図らずも事業承継した会社、あるいは娘婿が継いだ会社の割合が非常に多い。業界の常識に囚われない。そこに元気の秘訣がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年12月22日付
 「米国中央情報局(Central Intelligence Agency)と使う時のIntelligenceは、命を賭してでも入手したり破棄しなければならない、社会に重大な影響を及ぼしかねない重要な情報を意味する。もし、CIAのIがInformationであったら、合衆国中央観光局のようなお気楽な緩い政府機関をイメージさせてしまうようだ」。野村直之氏は近著、『人工知能が変える仕事の未来』(日本経済新聞出版社)でこう指摘している▼使い慣れたITという言葉についても、もはやInformation Technologyではなく、Intelligence Technologyの訳を当てはめた方が相応しい局面が社会全体に増えてきた▼爆発的に増大する情報量に、人は、企業はどう対処するべきか。少年(組織)老い易く学成り難し。情報に振り回されず、「いかに情報を取捨選択し正しく判断するか」に重きが置かれる2017年となりそうだ▼「3歳の息子がYouTubeばかり見ているんだよ」という話も耳にした。傍らで、母はスマホで通販、父はPCで映画を観る光景がもはや日常化。そんな時代の情報流の大整理を行うのは誰か。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年12月20日付
 一般財団法人経済調査会は、印刷発注と費用積算のための実務書として、毎年2月に『積算資料 印刷料金』を発行している。その2016年版では、これまでの工程別料金資料のほかに、特集記事としてフルフィルメント分野の料金調査結果が紹介された。印刷業の業務領域が広がる中、印刷関連サービスの新しい積算体系の確立が課題として浮上してきたことに対応するものだ。▼経済調査会では2014年11月に「印刷関連サービス積算体系検討委員会」を発足させた。全印工連、ジャグラ、日本印刷技術協会など業界団体からも委員が派遣され、継続的に議論を重ねている。検討対象となるサービスは多岐にわたるが、委員会ではまず、印刷物の封入封緘、梱包・発送・在庫管理などに関わるフルフィルメントに的を絞り、印刷会社の実態調査を基に検討を進めた。▼プロジェクトを担当する見隆登氏(調査研究部第二調査研究室)は「関連サービスをどう考えたらいいのか、印刷会社にやってもらえるのか、といった問合せが増えている。このあたりを体系化し、発注者に情報提供していきたい」と話す。▼川下方向のフルフィルメントに続いて、現在検討が進められているのが、川上方向のプランニングやプロデュース(マーケティング、販促、キャンペーン、DM、店頭販促、イベント、企画など)。併せて、デジタルメディアを含めた印刷関連ビジネスのソリューション全般について、名称や定義、条件、料金項目を整備し、費用との関係を明らかにする作業を進めている。▼こうした動きの背景には、印刷物発注者の戸惑いのほかに、印刷単価の下落や、印刷関連サービスが無償になりがちなことへの危惧がある。実は、同プロジェクトの発端は、全印工連を中心とする印刷業界側からの働きかけによるものだ。▼現在の予定では、『積算資料 印刷料金 2018年版』に、一連の新料金体系を掲載し、それ以降、体系の啓発と、市場調査に基づく体系の更新を継続していくことになる。▼印刷関連サービス全般が見直されると、当然、従来のプリプレス、印刷、製本・加工の料金との兼ね合い、つまりトータルサービスとしての値付けをどうするかが問題となってくる。単純に、従来の料金に周辺サービスを加算する見積りにはならないはずだ。また、製本・加工業者が川上・川下に進出するにあたっても、新サービスの料金を顧客にどう提案するかが課題となる。適正な対価を得るための顧客との関係構築の大きなチャンスでもあるだけに、十分に注意を払っておきたい。


コラム「点睛」 印刷新報・2016年12月8日付
 業界団体の某支部長が夫婦して交通事故に巻き込まれ、重傷を負った。対向車がセンターラインを越えて突っ込んできたという。運転手は87歳。加速する高齢ニッポン。日常が危険に満ちてきた▼老いることはすべての人間に平等だが、上手に自覚するのは相当に難しい。「自分だけは大丈夫」という錯覚が悲劇を生む。人生の幸福度は、晩年がいかに穏やかであるかで決まる。その大事な時期にトラブルを起こしてはならない▼オレオレ詐欺に遭い、不自然な預金の引き落としをしている高齢者に銀行スタッフが指摘すると、「私が騙されるわけがない」と逆上するケースがほとんどと聞く。他人の忠告に耳を傾けなくなったら要注意▼機能の衰えをカバーするロボットや自動運転の開発もいいが、まずは足腰を使い、能動的な仕事や趣味、交流を持つこと。地域でのイベント開催、MUDの推進、高齢者の見守りシステム開発、ペット飼育用の便利な紙製品開発、歩きと買物を結びつけたポイント事業運営、等々。印刷会社の取組みを見るにつけ、健康、癒し、安心安全の観点から貢献できる余地は大きいと感じる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年12月1日付
 ウサイン・ボルトの足がどんなに速かろうと、自動車には敵わない。だからといって、ボルトの走りに意味がないと思う者はいない。来年、いよいよ羽生善治棋士が将棋のAIソフトに挑むという。勝つのは難しいかもしれない。プロ棋士が百連敗を喫することさえあり得る。だからといって、将棋の魅力や価値は失われない▼数パーセントしか機能を使っていないと言われるヒトの脳が、AIの選択肢を深く分析することで進化する可能性も十分にある。それを実現できるのは、将棋でいえば数ある定石を覚え、実戦で検証を繰り返し、弛まぬ研究を続けるからこそである▼AIの普及で、入学試験などにおける「暗記」の必要は大きく低下するだろう。感性、創造力、応用力こそ人間の真価。とはいえ、その土台として、九九や漢字を覚え、歴史年表や元素記号を覚え、百人一首を暗誦する努力は外せない。ヒトとなるには時間がかかる▼車に乗ることでヒトの肉体は退化した。AIを使わない未来は考えられない。丸投げせず、いかに頭脳の退化を防ぐか。AIの元ネタだって、全部ヒトが考えたものだ。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年11月20日付
 年末が近づくと、流行語大賞、今年の漢字一字など、その年を印象付けるフレーズで盛り上がる。リオ五輪の日本人選手の活躍などを除けば、総じて明るい話は少ない。熊本地震、舛添都知事の辞職、障害者施設の襲撃事件といったニュースが先に浮かんでしまう。「偽」が今年の漢字に選ばれた時には、たまげると同時に砂を噛むようなイヤな思いがしたが、これだけ企業の不祥事が明るみに出ても教訓が生かされない▼帝国データバンクの調べでは、2015年度のコンプライアンス違反企業の倒産は289件。前年度に比べて3割増え、過去最多を記録した。そのうち、「粉飾」が85件を占め、最も多かった。2016年度ははたしてどうか▼同社では「近年の景気回復基調に伴って増加する仕事量に対し、資金繰りや社内体制強化が追い付かなくなる中小企業も多く、粉飾決算や融通手形、循環取引、不透明な資金操作、詐欺などの法令違反が相次いでいる。成長戦略の陰で歪みが表面化した」と分析している▼リーマン・ショックの余波に飲まれた2009年度のコンプライアンス違反倒産は94件。前年度から実に4割も減っている。ところが、2010年からは一貫して増加傾向にある。倒産件数が多い大不況下で、かえってコンプライアンス違反倒産は減るのが興味深い。企業が法令やモラルに反する余裕さえ無くし、先に企業体力を奪われていたと見ることもできる▼コンプライアンス違反の罠に陥るのは、欲得にまみれた人の心。初めは粉飾など考えてもいなかった経営者が、期末にどうしても営業成績を上げたい金融機関の営業担当者に持ちかけられ、決算にお化粧を施して借入れをしてしまったというアブナイ話も耳にする。身近な外部の者にも要注意だ▼一方、日本政策金融公庫が2016年度上半期に実施したソーシャルビジネス関連融資が半期の実績としては過去最高を記録した。NPO法人向けだけで724件、36億円。公庫では融資増加の背景として、高齢者、障害者の介護・福祉、子育て支援、地域活性化といった地域社会の課題解決に取り組む事業者が増えていることを挙げている。融資の対象や基準も今後は大きく変わってくるだろう▼企業とは公器であり、さらに法人格という"人格"を備える。成長を目指すつもりで全てを失うリスクを負うより、亀の歩み、年輪経営であっても最後に勝つのは真っ当な企業であるはずだ。ただし、プロフェッショナルな詐欺行為も横行している。人の良さだけを売り物にして利用されないよう、心してかかられたい。


コラム「点睛」 印刷新報・2016年11月17日付
 帝国データバンクの全国景気動向調査では、10月の景気DIが9月に続いて改善した。2ヵ月連続は1年7ヵ月ぶり。「中小企業」「小規模企業」はともに4ヵ月連続で改善している。倒産件数も歴史的な低水準だ。同社は今後1年を「緩やかな上向き」と見る▼だが、基調は上向きでも、視界不良。四つん這いの前進を強いられているのが日本経済。国内景気を引っ張ってきた自動車産業はトランプ大統領の就任で身を固くし、建設・建築も五輪や復旧工事頼みでアテにならない。参院選やリオ五輪が出荷量を支えた印刷用紙も、材料出尽くしの感がある▼直近の日本株は、米国株の連れ高で推移しているが、10年周期説がまた現実になるとすれば、今は2007年夏の株高ピークを控えた前年の状況によく似ている。引き金となるのはトランプ氏の暴走か▼見えているのは、人口減少、人手不足、空き家の増加、円高が後押ししたインバウンド消費の翳り、円滑化法終了後も続いた金融機関の緩和措置の息切れ、消費税率の引上げ、等々。細心かつ大胆、今ならばまだ最悪を予想しながら思い切った手を打てる位置にある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年11月10日付
 読書の秋というには、あまりにも秋が短い。10月末まで夏日があったかと思えば、もう年末モード。それでなくとも、ハロウィンだ、ポケモンGOだと、最近の子どもたちは書に親しむ環境から遠ざけられている▼時間のある高齢者は増えても根気は薄れ、若者はスマホに浸り、習い事に忙しい。サラリーマンも新聞や週刊誌から離れた。出版受難の時代は続く▼出版科学研究所の佐々木利春主任研究員は、定期誌が今後10年で半減、コミックは紙と電子が3年後に拮抗と市場を予測する。「新刊が少なく読者を育てていない雑誌に対し、小さい頃から読書習慣を根付かせることができるのが書籍の強み」と、書籍主導の活性化に期待する▼全国1千の自治体で幼児への読み聞かせ運動が展開され、学校での10分間読書も広がる。読書時間の多い子どもほど、将来就きたい職業が早く決まるという大手出版社の調査結果も出た。自分は何者か、人生とは何か。自省し、心を養う上で本は掛け替えがないものだ。印刷業界も、需要が細るから離れるのではなく、国の将来のために子どもの読書振興に力を貸すようでありたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年11月03日付
 自宅近くの文具店K屋。常にシャッターが閉まり、廃業したものと思いこんでいたら、家人が左利き用のハサミを買った。テレビでK屋の紹介を観た遠方の姉から頼まれたという。店は平日のみ開け、K屋は卸商にシフト、しかも文具だけでなく調理具など左利き用の豊富な品揃え。メーカーと組んだ近所の「ニッチトップ」に、わが不明を恥じた次第▼日本の回転寿司は、好きなネタを明瞭価格で注文できる点で重宝するが、酢飯握りだけをオンデマンドで製造・納品する専門業も現れた。寿司店を米に関わる心配から解放する。「マス」を支える酢飯に、個別注文対応を組み合わせた、これも「マスカスタマイゼーション」の一つか▼囲い込みによる逆効果の例が各スーパーの過剰サービス。誕生日割引だ、ボーナスポイントだといっては本人証明やカードを求め、手間取る年配の客にレジに並ぶ人は苛立ち、本人も委縮する場面には不快を覚える▼国勢調査で総人口が初めて減少、訪日観光客消費は先行き怪しい。製造業だけでなく、流通小売の世界も、オープンイノベーションによる最適なカスタマイズが鍵となりそうだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月27日付
 「印刷付帯サービスの価格体系づくりが経済調査会の中で検討されるようになったが、もう一つお願いがある。今の印刷積算はアナログの計算方法をコンピュータに置き換えただけ。本当に積算した価格で利益が出るのか。AI(人工知能)をフルに活用して、分析できる仕組みを作っていただけないか」▼全日本印刷文化典ふくしま大会での井昭弘全印工連相談役による受賞者代表謝辞の一節である。謝辞は「働けば働くほど利益の上がる業界になってほしい」と結ばれた▼同じく今回受賞した喜瀬清全印工連参与は、「全印工連2025計画」に寄稿した「22世紀の印刷人へ」の中で、AIに人間が支配される危険を警告したうえで、「デジタルの二進法の発想ではなく、人間の存在価値である"感性"が伝わる社会を目指し、印刷産業は感性教育のお手伝いをしたい」と記した▼井氏74歳、喜瀬氏68歳。期せずして両人ともAIを意識し、どう付き合い、活用するかを模索している。共通するのは、マネーやテクノロジーに振り回されず、人が主役の真っ当な世の中を次世代に残したいという強い思いである。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月20日付
 本人も自覚しないことが、傍からは長所と映ることがある。印刷業界の「真面目さ」もその一つか。1字1句を大切にする、納期を確実に守る…。印刷会社にとっては当たり前だが、IT業界の人に言わせると「すごい」ことらしい。一度定着した情報は取り返しがつかない。その厳しさから来る責任感が業界を鍛えてきた▼個々の企業でも、真面目な社風は立派な強みとなる。別次元の誠実さを追求することで、他社や他業界が及びもつかない強さを獲得できる可能性がある▼全印工連の策定した業界ビジョンについて、千葉県中小企業団体中央会に話を聞く機会があった。ライバルともなり得る同業のために、自ら時間と労力と費用をかけて指針を作ることは稀有な例であり、他業界には真似ができない、と驚きと称賛を隠さなかった▼印刷業界団体のビジョンはどれも、決して外部に丸投げせず、当たり前のごとく委員が手弁当で作り込んでいる。経済産業省も高く評価するところだ。この業界を疎かにしてはならない─。そうした気持ちを顧客にも抱かせるよう、体質を業界の資産と認識し、継承したい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月13日付
 印刷業の業態の多様化が進んでいる。社名と業態が一致せず、同業者間でも業務内容を把握することは難しくなってきた。ましてや、昔ながらのイメージを抱く得意先にとって、印刷会社との距離は開くばかり。放っておくとビジネス機会をどんどん失ってしまう▼近年、顧客を自社に招き、現場スタッフを交えてプレゼンテーションや語らいの場を設ける試みが目に見えて増えた。営業が10回訪問するより、1回のおもてなしで距離がぐっと縮まり、理解が深まることに、どの会社も気付き出している▼販売促進に有効な商材を日々求めている顧客も真剣勝負だ。各社のプライベートショーや工場見学会などを見ると、顧客は早くからそうした企画を求めていたのだと感じる。先端の技術やサービス、CSRへの取組みに素直に感動する姿は、印刷会社の努力が伝わっていないことの裏返しでもある▼架空のショップ体験やサンプル制作、限定セミナー、社員発表会、オープンカフェなど、工夫もさまざま。新幹線で約2時間、東京の得意先が日帰りで見学、商談できる某社は、工場そのものを常設ショールーム化している。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年10月06日付
 東京工芸大学の流れを汲む「印刷技術懇談会」が発足40周年を迎えた。9月17日に行われた記念講演会では金羊社の浅野健会長が、新規事業としてのフレキソ印刷への取組みについて率直に語った。フレキソの可能性に賭け、ほとんど知識を持たない状態から出発した同社は、まだ駆け出しの段階で3M社を訪ね、学んだ▼開発過程で生じた失敗作から、剥がれる糊という逆転発想の「ポストイット」を商品化した3M。同社には、勤務時間の15%を本業以外の事に使うルールがあるという。3年以内の黒字化を果たせず撤退を余儀なくされた事業担当者に対し、「よかったね。これでまた新しい事ができる」と声をかける企業風土があることに、浅野会長は新鮮な驚きを覚えた▼フレキソ印刷に踏み込んだのは、自社に挑戦する企業風土を根付かせたいという強い思いの表れだった。ようやく今、スタート台に立ったと感じている▼全国各地のフレキソ印刷同業者との定期情報交流会の立上げ、デジタル軟包装印刷の開始、小ロット軟包装を対象としたWeb受注の開始など、挑戦の行方は止まる所を知らない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年9月29日付
 印刷業界は、ITの活用で共同作業の効率が高まっているはずだが、「外注」にまつわるトラブルが減ったという話は聞かない。商習慣に根ざす取引面での不満、技能継承の滞りから来る品質面での不満を聞く機会はむしろ増えた▼レンタルボックスやコンテナ事業を全国展開するエリアリンクの林尚道社長は、「進化外注」を唱える。発注側と外注先、双方の成長や進化につながる外注のあり方を指す造語だ。一例として、週に100箇所のコンテナ現場の清掃を任す外注先との関係がある▼従来同社では、すべての現場を社員が巡回チェックしていた。効率化に知恵を絞った結果、3箇所の現場だけをランダムに回り、1箇所でもきちんと清掃されていなければ費用は支払わないと取り決めた。厳しいようだが、それにより清掃会社のレベルも格段に上がり、新規取引を獲得できた▼経済産業省は9月15日、公正な取引環境の実現を目指し「未来志向型の取引慣行に向けて」を発表した。年度内に業種別下請ガイドラインの改訂も行う。公正さの追求の先には、共に進化できる取引関係の構築という大きな命題が待つ。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年9月20日付
 ハイデル・フォーラム21のポストプレス研究会会長を務める橋野昌幸社長(旭紙工、大阪府松原市)のdrupa報告を聴く機会があった。drupa2016は、事前に第四次産業革命(インダストリー4.0)が喧伝されたこともあって、話は「ポストプレスのIoT(Internet of Things)化は可能か」といったテーマに向かったが、橋野社長は、製本の現場がいかにファジーな要素に満ちていて、日々格闘が繰り広げられているかを語り、IoT化は難しいと結論づけた。一例として挙げたのが、刷り本の品質だ。同社では毎月「ファインプレー賞」として社員を表彰しているが、表彰理由の8割は「印刷不良を見つけた」ことによるという。会場には笑いも起きたが、笑って済まされる話ではない。事故が起きれば、作り直しや代金を要求されるのは製本会社であるケースがほとんどだからだ▼全製工連の書籍・雑誌専門委員会がこのほど実施したアンケートでは、ほぼ半数の製本会社が「不当と思われるクレームがあった」と答え、悲痛な文字が並ぶ。「得意先に確認し、合意のうえで製本したものが納品後、クライアントからクレームが付き、刷り直し対応となって応分の請求をされた」、「8頁折で印刷をお願いして、版付も送ってOKをもらったが、16頁折で印刷をしてきて、いつまで経ってもインキが乾かない物を16頁折にして製本させられ、汚れが付いたことから作り直しになった」。印刷会社も超短納期を求められているせいか、インキが乾いていない状態での納品による汚れ、傷、色落ちなどのトラブルが特に目立つ。納期以前に、先方担当者の後工程に対する知識不足、経験不足を指摘する声も多い▼全製工連はトラブル対策ハンドブックとして『製本虎の巻』を完成した。制作に携わった委員の一人は「トラブルに対して製本会社がきちんとした返答できていない課題もある。印刷物の状態について、私たちも見極められるようになる必要がある」と話す▼たしかにファジーな印刷・製本の世界だが、だからこそ、可能な限り科学的に迫り、情報を互いに共有し、標準化を追い求めなければいけない。IoT化とまでは言わないが、トラブル要因の分類やトラブル分析結果のデータベース化、業界内での情報共有化などにデジタルは大いに活用した方がいい。知識の裏付けがあって、初めて取引先とのコミュニケーションが成り立つ。クレーム、トラブルを前向きな力に変えるしたたかさを身に付けたい。


コラム「点睛」 印刷新報・2016年9月15日付
 全印工連が毎年実施する「印刷業経営動向実態調査」の平成27年度調査結果がまとまった。有効回答企業数は241社。1社当たり平均人員は66.9人。1人当たりの売上高は1874.0万円で前年比2.9%増。4年連続で増加し、10年前の水準よりも高い▼外注加工費・商品仕入費の割合が前年より減少したが、材料費の割合が2.7%増加したため、1人当たり加工高は914.6万円と1.0%の減少。1人当たり純加工高は821.5万円、前年比17.9%増と大きく伸びた▼営業員売上高は前年より増加したが、人件費(1人平均485.0万円)、営業利益率(1.7%)、経常利益率(2.4%)は減少。加工高対人件費比率は0.5%増加した一方、自己資本比率は減少し、4年ぶりに30%台(39.7%)となった▼調査は、全組合員に対してインターネット上で調査を行ったものだが、有効回答企業数は2年前調査の半分に満たず、組合員数の約5%。経営実態を正しく反映するために、回答を組合員の要件とする、回答企業へインセンティブを与えるなど、思い切った方策も必要になってくる。(銀河)


コラム「こぐち」 日本製本紙工新聞・2016年9月5日付
 企業30年説がある中で、50年、100年と事業を継続させていくのは並大抵なことではない。それでも帝国データバンクの調べでは、創業100年を超える長寿企業は全国に約2万6000社ある。全体の6割は従業員数が10人未満の企業である。地域では、京都、滋賀、山形、富山、新潟、福井、長野、島根などが、長寿企業の輩出率が高い。業種別では、清酒製造、酒小売、服・服地小売、旅館・ホテル経営、貸事務所業などが多い。紙卸を含む印刷関連業も、地場に根差した業種として比較的多い方だろう▼今年100歳を迎えた企業は1916年(大正5年)生まれ。製本関連では、尾寳サ作所、ミューテックがある。尾寳サ作所は「東京都神田区紺屋町(現千代田区神田紺屋町)に尾寤刷製本綴機製作所を創業。針金綴機を製造・販売」、ミューテックは「三浦五郎松が三浦鐵工所を創業。紙工用足踏み式角丸断裁機の製造・販売を開始」と、両社の社史にある。ミューテックは、1923年(大正12年)の関東大震災で工場を焼失し、翌年再建とあるが、特に東京や横浜の会社は創業間もない時期に、程度の差こそあれ、大震災に見舞われ、それを乗り越えてきたはずである。そして、太平洋戦争…。戦後は経済復興の中で、技術の激しい変化の波が待ち受けていた▼前身の塚田印刷から数えると、やはり今年で100歳となった錦明印刷(東京都千代田区)は、終戦の2年後に創業者が、「これからは活版ではなくオフセットの時代だ」と見通し、オフセット部門を独立させる形で立ち上げた会社である。恐るべき先見の明というほかない。しかし、驚くなかれ、日本には800年以上の歴史を持つ印刷会社がある。和歌山県の高野山で御経や御札などを印刷している経久(きょうきゅう)印刷である。鎌倉時代の1201年(建仁元年)に創業。特別な環境の中にあったとはいえ、創業以来の原点を守り続け、今なお伝統の印刷を続けていることには、それこそ霊的な力さえ感じてしまう。御経には折りが付きものであることを思えば、同社は日本最古の製本会社と言えるかもしれない▼21世紀の今日、企業経営は3年先でさえ見通すことが難しい環境となっている。ただし、企業を永続させるための条件は、どんなに時代が移ろうとも変わらない。創業の理念(原点)を大事にしつつ、時代の変化に適確に対応する。お客、地域、従業員を大事にし、信頼とブランドを築く。それが可能な企業風土こそ宝であり、決して一朝一夕に得られるものではない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年9月1日付
 創業百周年を迎えた錦明印刷の塚田司郎社長の話を伺いながら、ごく自然に「技術」という言葉が口を突いて出てくることに新鮮さを感じた。ともすると、近頃はソフトサービス、マーケティングの掛け声が独り歩きし、実態を伴わないことが多い▼もちろん、塚田社長はハードを志向しているわけではない。顧客の欲しがるものを満たすためには、常に時代の先端を行く技術の習得が欠かせないと考える。それが、フォトビジネス、動画制作、バリアブルプリント、ITシステム開発、GISエリア分析、アッセンブリなどのサービスに発展している▼「仮説と検証を繰り返し、お客様の潜在的なニーズに結び付けていく」─。目的はあくまでもソリューションの提供。だが、どんなに顧客のビジネス分析を深掘りしても、その印刷会社が持つ能力以上の貢献をすることはできない▼塚田社長の父、故・塚田益男氏は、事あるごとに印刷業の「メタモルフォーゼ」(変態)を説いた。脱皮するためには、皮を破る具体的なきっかけとツールが要る。それを技術に沿って語れるところに、錦明印刷の伝統と強さを見た。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月25日付
 広告費の推移を見ると、インターネット広告の成長が目立つ一方、プロモーションメディア広告も健闘している。リーマンショックによる一時的な落ち込みを除けば、過去5年ほど横ばいで推移。中でもPOP広告は、総広告費の指数を常に上回る。DMも一定の水準を維持している▼低落傾向にあるのは新聞広告、雑誌広告、折込など。情報を伝えたい消費者にどれだけ刺さっているか、広告主にとっての実感の違いが結果に現われている。効果を示せる手法を開発できれば、今は劣勢の広告媒体にも復権の芽はある▼日本ダイレクトメール協会の調査によると、DM閲覧後、男性20代、女性20〜30代で、「ネットで検索」、「知人と話題にする」など、何らかの行動を起こす割合が高い。紙媒体による"私だけに届いた"と感じさせる特別感の演出は、ネット世代に対しても有効だ▼日印産連は今年から、「9月 印刷の月」周知ポスターの制作を中止した。本当に伝えたい一般生活者の目に触れないというのが理由。協賛イベントでのチラシ配付やロゴ掲示に切り替える。業界自体のプロモーションにまだまだ工夫が必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月18日付
 異能の士たちが集う五輪の期間は、まさに眼福(がんぷく)を得たいがために連日寝不足に追い込まれる。同時に、さまざまな命題も突き付けられる。興醒めは承知で、多くは経営、組織、人づくりに通じるものがある▼発達障害を克服するために水泳に巡り合ったフェルプス選手。衝動性や多動性をひとたび転換すれば、爆発的な集中力や挑戦意欲を生む。ボルト選手は、脊柱側湾症を抱えるが故に、スプリンターのセオリーにはない独特の"揺らす"ダイナミックなフォームを獲得した。弱点は武器に変えられる▼5位に終わった女子柔道、田代選手の「勝たなければ意味がない」。初めは、不遜な言葉、メダルを獲れなかった他の選手に失礼と感じた。だが、「利益を出せなければ経営者ではない」と置き換えたらどうか。持つべき覚悟、責務から思わず出た発言と受け取れる▼8年ぶりの出場で金メダルを手にした平泳ぎの金藤選手。まさかのロンドン五輪代表落ちの後、「辞めたい」と言う彼女に加藤コーチは、「逃げるな」ではなく、「逃がさないぞ」と迫ったと聞く。それほどの気迫を持って人を育てているか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月11日付
 近頃は戴くことが稀になったが、暑中見舞いには書き手の素の肌ざわりを感じる。儀礼の入る余地が少なく、身に軽く寄り添ってくるからだろう。対して年賀状には、儀礼の匂いが付き纏う。書き手にも、幾分か心の負担がある。それでも年賀状の習慣が廃れないのは、日本人らしい▼郵政は「かもめーる」を根付かせようとしたが、所詮無理があった。決まった人に、決まったように書く性質のものではないからだ。と言いつつ、この夏、二年前に亡くなった父の信州の郷へ送った便りでは、かなり型を意識した。都会と田舎の距離感、盆への思いの違い、存命な伯父伯母、久しく訪ねていない不義理…。相手を思うと、そこは電話でも、従兄弟へのメールでもなかった▼昨年、必要があって信州の役所から取り寄せた父の戸籍謄本に、自分から遡ること六代前、天保と嘉永生まれの初めて知る夫妻の名を見つけた。血脈という言葉がよぎる。平成の次ともなれば、もはや「昭和は遠くなりにけり…」か▼十一日は「山の日」。すでに立秋も過ぎた。山国信州の朝晩が冷え込むのは早い。便りもいいが、やはり逢いに行こうか。(銀河


コラム「点睛」 印刷新報・2016年8月4日付
 都知事に就任した小池百合子さんは、かつて演説では決まって、クールビズを広めた自分の成果を前面に出していた。環境大臣を務めた10年ほど前、世の男性は真夏でもまだ、ネクタイをするかどうかで迷う人が多かったように思う。当時、ワイシャツだけで動く人は、かなり奇異な目で見られていた▼ところが、今や、である。ずいぶんと楽な時代になった。やはりクールビズが根付くにも10年はかかった。本号では、ダイバーシティ特別企画として女性同士の対談を載せたが、その中で小野綾子さんは「日本人はルールを決めて、みんながやっている環境を作ってあげれば乗りやすい。隣の人も同じだと安心する」と話されていた▼然り、と思う。本当は、前例がなくても自ら変える気概がほしいが、それが苦手なのも国民性なら、誰かが先にルールを作るのも現実的な手かもしれない▼建前を重んじる男性に対して、本音で生きる女性。もし日本人の国民性が変わるとすれば、職場や地域で意識上の男女差なく動くことが当たり前になった時だろう。真の開襟社会へ、小池都知事の誕生が呼び水となるか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月28日付
 ビッグデータから事実に迫るには、自ずと限界がある。たとえばPOSレジ。地域、時間帯、商品種別の売れ筋は把握できても、「誰がどう消費するか」までは追えない。それを食材で可能にしたのが、共同印刷の開発した「リア食」だ▼モニターに毎食の食卓を撮影してもらい、年代、性別、収入、職業や食材、調理の有無などの情報と紐付けて分析することで、店舗で販売された品がどう食べられているかを把握できる。すでに5000人以上が登録。画像は月10万点ペースで増え、年内には100万点に達する見込みだ。食品業界に導入が進んでいる▼恵方巻きを丸かぶりする人は少なく、切って食卓にのる方が多い。「ハロウィンにかぼちゃ」の家庭は少数派。料理を楽しく飾る日となっていて、便利な餃子の皮がよく売れる、等々。販売側の常識があっさり崩れ、売り方も見直される▼「クックパッドのレシピには自慢が入るが、ポイント取得が動機のリア食には実態が出る」と開発担当者。ビッグデータやマーケティングオートメーションもいいが、「現場」を知るためのITに大いに知恵を注ぐ余地があると見た。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月21日付
 ある印刷会社では、七十代の古参社員が、今も朝3時間だけ出社。若い人たちが「今日もよろしくお願いします」と挨拶する。ごく自然な教育だ。社長いわく「勤務時間はだんだん短くしているが、毎日来てもらうことが大事」。いつまでも働ける会社、という安心感も良い社風につながっている▼「ポケモンGO」の世界的なヒットで、任天堂の株価が急上昇。昨年7月、55歳で亡くなった岩田聡社長に、せめて1年生きていてほしかった。「Wii」の大ヒット、故にスマホへの対応遅れと業績急落、酷評…。だが、間違いなく今の任天堂があるのは岩田氏のおかげだ▼絶頂期こそリスクを思え─。ビジネスも人生も、強気と弱気が交錯するからこそドラマがある。ランニング指導者の岩本能史氏がよく使う「金脈まで、あと5センチ」。虚しく掘り続けても、ツルハシもうひと振りの下に金塊があるかもしれない。誰にも答えは出せない▼「50歳まで現役」を口にするイチローの、あとバットひと振り、はいつやってくるか。ベンチ入りに限りがある野球で、「居てくれるだけでいい」は許されない。安打数以上に興味がある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月14日付
 27年度補正「ものづくり補助金」の2次公募が7月8日に開始された。先月まで「2次公募は実施しません」と言っていたのに、である。しかも、年内に発注から支払まで完了せよという忙しさ。採択予定も100件程度の狭き門となる▼7月1日に施行された中小企業等経営強化法に関して、「経営力向上計画」の認定を受けた事業者には審査で加点が行われる。新法を補強するための臨時措置と読めなくもない。中小企業庁は「1次公募の結果、予算の残額が生じることが予想されるため」というが▼認定支援機関GIMSの寶積昌彦氏は、1次公募で「条件付採択」約500件が急遽追加された点について、全国中央会から上がった採択者数に対して中小企業庁側の件数が少なすぎるため補助額を下げる条件付きで追加指示が出された、予算総額は増額していないので追加以前に初めから2次公募を考えていたはずだと指摘する▼さらに今回の2次公募公表。事業者を翻弄する場当たり的な措置に不信感が募る。が、行政とはそんなものと割り切り、したたかに申請書作成に向かう事業者こそ上手を行く存在か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年7月7日付
 「グランドデザイン深耕年」─日本印刷産業連合会(日印産連)の今期基本方針を端的に表した言葉だ。印刷産業の社会的役割の明確化と内外への発信が柱の一つ。その遂行は回りまわってすべての印刷関係者の利益につながる▼社会とつながる産業の窓口として日印産連は、印刷会社の地域貢献のアピールにも力を入れる。9月に発行を予定する『社会責任報告書』では、全国各地の地域貢献活動の事例も紹介する。会員10団体から事例を収集中だ。日印産連ホームページでも発信していく▼ホームページは近く刷新し、各会員団体の貴重な情報も見られる形を目指す。日印産連が関連団体ネットワークのハブとして機能することで、業界内情報の有効活用と対外発信機能の強化につなげる。ホームページは重要なツールであり、現在、「印刷用語集」がアクセス増に寄与している▼コンプライアンス対応はもちろん重要。加えて、印刷産業のイメージや認知を向上させる仕事も楽しく進めたい。お父さん、お母さんの働く会社が褒められたら、親子そろって嬉しい。グランドデザインをそう翻訳してみてはどうか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月30日付
  drupa2016の来場者数は、4年前の前回より5万人ほど少なかった。テロを警戒して出展や来場が控えられたことや、会期が3日減った影響もある。だが、一番大きな要因は、出展内容の変化、すなわち印刷産業自体の質的な変化にあると思われる▼昔のように、見てすぐにわかり、手に取ってすぐに感じられる製品、それを生み出す装置のオンパレードはない。日本国内の展示会も同様の傾向にある。デジタル技術の存在感が高まるほど、展示会の肌ざわりはドライになり、上辺だけを撫でていたのでは理解できない。視察するにも主体性と覚悟が要る時代になったのだ▼大事なのは、デジタルにせよアナログにせよ、機能にアイデアを載せて、顧客にどんな新しい価値を提供できるかだ。次の時代のビジネスモデル、サービス方法、ワークフローの発見に行き詰まっているが故にdrupaを"あきらめた"人も多いはずだ▼まさに、ソリューション・プロバイダーよ、来たれ。印刷技術の成熟は、必ずしも印刷産業の成熟を意味しない。印刷人の胸の中に、未開拓の荒野と冒険心はどれだけあるか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月16日付
 デジタル化が人間の精神にどう作用するか、検証するにはまだ多くの時間を要する。文部科学省のデジタル教科書検討会議も、教育効果や健康面への影響について、検証が不十分であり、当面は紙の教科書を基本として、部分的にデジタル教科書を使用することが適当、との方向性を出した▼だが、明らかに精神が蝕まれている場面に出くわす機会は増えた。幼い子が一所懸命話しかけているのに、親はスマホに夢中で返事もしない、目も合わせようとしない。「ああ、取り憑かれているな」と感じる瞬間だ。世の中全体に、人間としての土台が大きく違う方向に動き出している▼今年2月、校舎から飛び降りた県立高校生が、遺書らしきものをスマホに残していたという。この違和感は何か。先日は、従妹から叔父の死に顔を写した画像がLINEで送られてきて、葬儀にも呼ばれなかったと憤る女性に会った。ネット上で墓参りをするバーチャル霊園の普及も。ついにデジタルは死の領域まで侵食し始めた▼心さえあればいいというが、心を込めるには形を伴う。寂しいかな、そう考える人も次第に少数派になっていくのだろう。(銀河


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月9日付
 「地方」という言葉自体が、「中央」の目線を感じさせて好きではないが、実際に、東京人と地方在住者とでは、肌感覚に厳然と差がある。それは無理に埋める性質のものではない。大事なのは、違いを理解し、それぞれの良さを活かしあうことだ▼今、首都東京の発想は、2020年の五輪を大きな指標として動いている。だが、たとえば震災からの復興も思うように進まない東北地域にとって、いけいけ、どんどんで国全体が動いてしまうと、人や資金、建設に絡む労力や重機・車両まで首都圏に引っ張られ、さらに復興が遅れることになる▼国の顔は東京だけではない。自然災害のたびにテレビやネットで瞬く間に世界中へ映像が流れ、強いインパクトを残す。それは、たしかに負の顔であるかもしれないが、底辺から力強く立ち直る姿を世界に見てもらい、前向きな国の顔に変えることもできる▼危機に満ちているはずの日本の、都知事の行状もまた世界へ発信される。知事の椅子にしがみついての立ち直りは、決して共感を呼ぶことはない。地位のある人間ほど、進んで地方へ出掛け、肌感覚を磨くべきだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年6月2日付
 平成26年工業統計(産業編)の確報値では、「印刷業」(4人以上)の出荷額が前年比0.4%増と増加した。「印刷・同関連業」で見ても0.1%減にとどまる。だが、7年ぶりに出荷額が増加した「印刷業」でも、事業所数は3.9%減、従業者数は2.2%減となった▼これは、1社あたり出荷額の増加を意味し、1人平均の出荷額2.6%増、付加価値額1.0%増という数字も出ている。各業界団体の総会が一段落したが、長のあいさつでは工業統計を基に、「今後も存続していけば、経営は成り立つ」という内容が目立った▼ただし、存続するためには戦略が必要であり、志と覚悟が伴っていなければならない。今後10年、20年と、何をもって顧客や社会に貢献し、必要とされる強みにいかに磨きをかけ、人財を育てていくのか▼全印工連の経営革新マーケティング委員会では今期新たに、企業価値の算定、後継や相続に関する課題解決、M&Aの活用などを含む「事業承継」について研究する。各社が存続の意義と価値、可能性を正しく見極めることは、業界全体のバランス維持と優良資産の継承につながる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年5月26日付
 5月18日、朝8時から自民党本部で開かれた中小印刷産業振興議員連盟の総会。官公需取引に関する印刷業界からの要望に対し、中小企業庁担当官の説明は、たしかに通り一遍だった。議員の募るイライラが場の空気で感じられた。要は、「私たちもやることはやっています」─その一言なのだ▼議員連盟には、印刷に関係の深い議員も多い。「小さな製版会社の息子として業界に育ててもらった」という茨城選挙区の上月良祐議員は「本当に中小企業を守る気があるのか」と憤った。元印刷会社経営の神奈川選挙区・田中和徳議員は「値段だけでやられたら小さな会社はいなくなる。そうなったら地域がどんなに大変か、わかるでしょ」と迫った▼議員連盟には今、衆議院88名、参議院31名の自民党議員が所属する。設立の経緯は、2007年に全印工連が米国印刷工業会を訪問し、団体としてロビー活動を積極的に展開する様子を目の当たりにした時まで遡る▼全印工連が「2025計画」を発表した。国に対して印刷産業の価値を認めさせる内容でもある。我々の価値はどこにあるのか。議論の深まりが期待される。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年5月19日付
  5月12日に仙台市で行われた宮城県印刷工業組合の創立60周年記念講演では、神戸市から株式会社レックの高橋泉社長を講師に招いた。シングルマザーの身で28歳の時に会社を立ち上げ、いまや年商150億円、グループ従業員は760人を超える▼エステサロンを多店舗展開していたが、創業6年目に阪神・淡路大震災で店は全滅。「絶望の淵から這い上がり、無我夢中で働き続けた」。冠婚葬祭を核に、婚礼アルバム制作、ブライダルカフェ、ファミリー葬、家具の輸入販売、電報、介護など、ビジネスを多角展開。事業選定の最も重要なポリシーとして「その事業に社会的価値があるか」を据える▼震災では、体育館に安置された何百もの遺体を前に、「これ以上の悲惨は戦争しかない」と痛感したことから、企業理念に「世界の平和」を加えた▼「終わったな、と思ったが、実は何も終わっていなかった。物は後から買えば何とでもなる。でも、人の命や心はそうはいかない。人を優先する国にしなければ」。高橋社長の不屈の闘志と母性は、震災の不安で縮こまりがちな世の中に大きな勇気を与える。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年5月12日付
 コンピュータの勝利がついに囲碁にまで及んだ。AIが世を騒がせている。だが、人間対AIの構図だけを強調するのは肝腎カナメを失う。人間そのものに対する洞察を怠る言い訳にしてはいけない▼そんな危惧を抱いていたら、先月の東京新聞、「将棋界40代がなぜ強い?」の記事が核心を突いていた。名人位を占めたのは2000年まで二十代、2010年まで三十代、そして2011年以降は四十代。なんてことはない、羽生世代がスライドしているだけだ。PCやネットを駆使できる世代は、豊富な情報量、効率いい学習から言えば強くあってしかるべきだが、結果は「自分の脳をいじめて鍛える訓練ができている」世代に勝てない▼箱根駅伝や実業団の高い人気とは逆に、アフリカ人ランナーとの差は開くばかり。瀬古利彦氏いわく、「至れり尽くせりのサポートが日常化してしまい、選手はそれなしに走れない状態なのではないか」▼過保護を脱し、余計なエネルギーをあえて使うことがタフさを生む。そんな共通項が見える。AIもいいが、デジタルネイティブが主流となった世の中の方が大いに気懸かる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月28日付
 競争から調和へ、21世紀は環境の世紀と謳われた転換点から16年。時代がようやく理念に追いついてきたか。いまや企業CSRにも環境が大きな位置を占める▼昨秋、タカラトミーを取材した際、環境課の係長から「全国の小・中学生たちが使う教科書にGPマークを入れられないのですか」と反対に質問された。環境への意識を高め、印刷業界を訴求する上でも最善というわけだ。同社は環境自主基準である「エコトイ」認定を設け、製品の安全性やライフサイクルに配慮している▼今年に入り、バンダイも自社製品に対する審査・認定制度を始めた。玩具業界の統一環境基準ができる可能性もあるが、子どもたちに極めて身近な玩具でもまだ先の話。2006年にGP認定制度をいち早く開始した印刷業界の取組みは特筆される▼さて、米国オバマ大統領の広島訪問という歴史的なニュースの一方で、残念なのは川内原発に対する原子力規制委員会の見解。熊本を中心に地震が頻発する中、耐震基準の設定に甘さはないのか。一体誰が責任を持つのか。福島の教訓はどこへ消えたのか。今度事故が起きれば、日本そのものが吹き飛びかねない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月21日付
 かなり有力な製本会社でも、かつてはホームページがないことが多かった。その理由が「最後に仕事をもらう私たちが、自社の宣伝をしても仕方がない」、「細かい問合せばかり増えても対応に追われるだけ」という消極的なものだった▼今でもホームページを持つ割合は高くはないが、製本業界の事情は変わってきた。若い経営者たちが積極的に活用し、自社のブランド力向上、仕事の受注、販路開拓、人材獲得に結びつけている。たとえば東京の篠原紙工、博勝堂、埼玉のエスフィールド…▼今や、何をおいてもまずは「検索」の時代。ホームページは会社の顔であり、最強の営業マンになり得る。事実、新規開拓営業を一人も置かず、仕事がフル回転する製本会社もある。ロットは小さくとも、値段で叩かれない。リピート率が高く、クチコミ効果も大きい。中には、カリスマアニメ作家の豪華本やネット通販化粧品用の高級紙箱の仕事が飛び込んだ話もある▼新しいビジネスを考えつく人ほど、既存の業者を知らず、発想をカタチにしてくれる相手を常に探している。後加工がネットで最前列に引き出されてきた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月14日付
 スポーツ選手の麻薬や賭博行為が相次いで明るみに出た。叩けば幾らでもあることは容易に想像がつく。いちいち騒ぎ立てても仕方がないだろう。すべての選手や芸能人がシロになる世は百年後にも来ないのだから。それに、ドーピングや政治家の黒いカネ、企業の粉飾決算の方がよほど悪質と思える▼週刊誌ネタをいじる普通のサラリーマンとて明日は我が身。主婦のカードローン地獄、パチンコ地獄は事件にもならない。誰しも忸怩たる思いがあるのではないか。「のむ・うつ・かう」から疎遠になった今の若者にも、ネット中毒や出会い系サイトの罠が待ち受ける▼闇はカネ、孤独、無知に群がる。反社会勢力なら、幼少の頃から「これは」と見込む選手に羊の顔で近づき、援助を惜しまない。純粋な子であるほど、我が味方を擁護する。気づいた時には狼に羽を毟り取られている▼その道一筋に駆け、若くして分不相応のカネと名声を手にした者の悲劇もあろう。導ける先輩も少なくなった。理想のスターの仮面も美談も要らぬ。合法的な遊びなら大いに結構、周囲も認めたらいい。遊び方を知ることは、大人になるための大事な一歩だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年4月7日付
 政府は、訪日客を2020年に4000万人、2030年に6000万人に増やす目標を打ち出した。従来目標から倍増だが、それでも年間8000万人を超えるフランスには及ばない。目標は大きい方がいい▼2030年に3人に1人が高齢者となる日本。活力の維持は厳しい。人口の半分にあたる6千万人が年間に出入りするとなれば、経済効果と社会への刺激は計り知れない。絶対数が増えることで、水があふれるように地方への波及も起こる▼19年ラグビーW杯、20年東京五輪に続き、21年5月には「関西ワールドマスターズゲームズ2021」が近畿一円で開催される。原則だれでも参加できる成人・中高年の4年に一度の"国際大運動会"。北京・ロンドン五輪の参加選手数1万人強に対して、こちらは5万人(海外2万・国内3万)を目指す▼スポーツだけではない。日本が誇るアニメやファッション、武芸などの国際イベントを毎年企画・実施することは可能だ。雇用の創出にも貢献する。それらビッグイベントに日本の情緒と国を挙げたもてなしが噛み合えば、政府が掲げる目標はあながち大風呂敷ではない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月24日付
 なぜ、火災で逃げ遅れて亡くなる人が多いのか。実は火事で亡くなる原因のほとんどが、一酸化炭素(CO)中毒である▼COは空気とほぼ同じ比重で無色・無臭であるため、その存在に気付かない。しかし非常に強い毒性があり、わずかでも吸い込むと中毒を起こし、死に至る危険がある。またCOが体内に入ると体が動かなくなってしまい、気付いた時には手遅れという場合が多い▼日印産連と新コスモス電機が共同開発した「VOC警報器」が発売されている。2012年に大阪の印刷会社従業員に相次いで発症した胆管がん問題を受け開発されたもので、オフセット印刷工場内で有機溶剤によるVOC濃度が一定レベルを超えると警報で注意を促す装置だ▼ある印刷会社社長は「インキローラーの洗浄時には必ず警報が鳴るが、鳴らない時間がほとんどだ。設置する必要があるのか」と話していた。もちろん警報が鳴らないに越したことはない。VOCもCOと同様に目に見えない。そのため、万一、高濃度になっても換気などの初動対策が打てなかったのが問題だった。目に見えない危険から社員を守るためにも早期設置が望まれる。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月17日付
 結果がわかっているものに対する働きが「作業」、結果がわかっていないものに対する働きが「仕事」であるという。自動車など工業製品の製造は規格どおりでなければ事故につながるので「作業」でよし。一方、料理の提供など、多くの要素を取り込み、最高の満足に向けて思いを込める場合は「仕事」に類する▼工業製品に余分な思いは不要だが、料理は書かれたレシピどおりに機械が作っても美味しくない。理想の自動車工場は完全無人のロボット生産。理想の料理店は、腕が立つ料理人と温かいスタッフを揃えれば近づける▼労働人口の減少により人員確保が困難になる印刷業は、自動化・省力化が避けられない課題だ。だが印刷業こそ、工業であり、同時に多くの思い入れが必要な究極のハード・ソフト産業といえる▼マーケティングオートメーション、IoT、デジタルスマートファクトリ…、かたや人間力、企画提案、ソリューション…。作業と仕事、効率と手間を包含する高次元のバランスワーク。6月のdrupa2016は、印刷業の価値ある未来に向けた有益な答えがすでに見え隠れしている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月10日付
 東日本大震災から11日で丸5年。ついこの間の出来事であった気がする。被災された方々が引きずる生活と心の重い荷が、本当の意味で解ける日は、ずっとずっと先のことだろう。直後のニュース映像で見た、津波で家を流され中洲に取り残された家族。「この子たちはさっき婚姻届けを出してきたばかりなんです!」。声を絞り出す義父の横で放心していた新妻。どうしているのか▼発生が3月であったことが、多くの人に独特の陰影を落とした。思い出あふれる卒業式の突然の暗転。東京電力に入社が決まっていた若者たち。明るい大学生活の始まりを疑わなかった新入生たちも、今は卒業して社会に出ている▼娘からのプレゼントで三陸を旅行中に命を落とした夫婦。東京都町田市の量販店では建物の崩落により夫婦が亡くなった。最近、設計した建築士に対して有罪判決が下された。祝賀会の中止も相次いだ。某印刷団体の事務局長の退任慰労会はまさに11日だった。必死で経営を立て直し、繁忙期の売上でついにトンネルを抜け出るはずだった印刷会社は力尽きた▼「もうひとつの震災」ともいうべき、行き場のない思いが漂っている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年3月3日付
 総務省が2月26日に発表した「平成27年国勢調査」の人口速報では、22年からの5年間で94万7000人が減少し、総人口は1億2711万人。大正9年の調査開始以来、初めて減少した。上位9都道府県で53.9%を占めるも、大阪府がついに減少に転じた。対して、東京都は35万4000人の増加だ▼全国1719市町村のうち、人口が減少したのは1416市町村(82.4%)。5%以上の減少は全市町村の48.2%を占める▼印刷業界では、地域活性化のためのマーケティングの重要性が語られるが、土地の事情で見える風景はまるで異なる。「とにかく、何をやろうにも町に人がいないんですから。東京の人が考える方法は通用しません」。半ばあきらめ気味の声をよく聞く▼東京とて地域によるバラツキは大きく、すでに空洞化が始まり出した町も散見される。他人事ではない。どの道、日本の人口減少を逆回転させることは困難を極める。だとすれば、労働生産性の改善で所得と自由に使える時間を増やし、生活の保障を厚くし、経済を回す中で、東京圏と地方都市の動線を少しずつ増やしていくことこそ現実的だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年2月25日付
 寿司、富士山、カラオケなど、英語にしなくても海外で通じる日本語はかなりある。坂本九の名曲「上を向いて歩こう」も、英国で「すき焼き」(Sukiyaki)ソングとしてカバーされ、有名になった▼ビジネス語でも、そのまま通じる日本語は多い。日本が誇るトヨタの生産システム「カンバン」(kanban)や「改善」(Kaizen)は、世界でも通用する▼ハイデルベルグ社が開いたdrupaプレスカンファレンスで、富士フイルムとの共同開発による「B1インクジェットデジタル印刷機」が発表された。会見の中で、両社は今回のプロジェクトにあたり、「合宿」(gasyuku)を重ね、一つのチームとして取り組んだと強調していた。「ワークショップ」という言葉もあるが、少しニュアンスが違うのだろう▼両社は徹底した膝詰めの「合宿」を通じ、社員同士が互いの技術や能力をリスペクトするとともに、日本人とドイツ人のそもそも真面目で実直な性格も功奏し、このプロジェクトが1 年半という短時間で成功に至った。両社では今後も「合宿」を続けていくという。新たなものづくりへ。「合宿」が世界中で通用する日を期待したい。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年2月18日付
 6日に開催されたプリントネクスト2016は、「新しい価値創造への挑戦!」がテーマであった。午前のパートナーズ企業によるプレゼンテーションで始まり、基調講演、6つのテーマ別分科会と続く中で強く感じたのは、仕事はやはり「人」で成り立つものであり、印刷業の今後の方向は「コトづくり」であるということだ▼紙かデジタルか、といったメディア論がよく交わされるが、本来は「コトづくり」が先に立つべきで、そのためには「ソリューション提供」の視点が、根底には「困り事を解決してあげたい」という"愛"に近いものがなければ何も始まらない。手法は後から付いてくる▼今回のパートナーズセッションは、企業の宣伝臭さがほとんどなく、良い内容であった。社会・地域・顧客の課題解決のために実践している付加価値の高い取組みをテーマに据えた故だが、メーカーの新しい側面を見た▼「印刷物を作らせてください」「機械を買ってください」は究極のところ、相手への押し付けとなる。そうは言っても、最後はそこへどうつなげるか。「有償の愛」を互いに認め合うところに信頼が生まれる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年2月11日付
 印刷会社とデザインは密接な関係にありながら、案外遠い存在でもある。顧客は印刷会社にデザイン力を期待せず、印刷会社も自ら能力をアピールしていない。実際の使用場面を考えずに「作品」をつくりがちなデザイナーへの不満もくすぶる▼実にもったいない。もし、業界全体が「デザイン」に真剣に向き合ったなら、顧客からの期待値は跳ね上がると思われる。ダイバーシティ、インバウンド、東京五輪の潮流の中で、「ユニバーサルデザイン」による社会貢献の余地も無限にある▼デザインコンサルタントの後藤佑紀氏は「デザインマネジメント」の必要を強調する。「デザインを経営資源として捉え、目的達成のための創造活動を運用・管理する戦略」のことであり、デザイン力を最大限に引き出すには、目的の明確化と市場を見ながらの提案が重要だ▼仙台印刷工業団地協同組合では毎年、地元企業の創業・起業支援のための販促コンペを加盟会社間で実施するが、マーケティングの背景や支援目的を事前にしっかり伝えると、社内デザイナーから素晴らしい提案が出て、実際に商品の売上がアップするという。宝は足下にあり。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年2月4日付
 「もう」と「まだ」、人それぞれの折り返し─。ランニング雑誌の誌上句会で紹介されていた忘れられない句だ。道半ばを迎えて、「もう」と心軽く往くのか。それとも、「まだ」と重い心を引きずって往くのか。ランナーの数だけ心象風景はさまざま。人生もまた、マラソンに似て味わい深い▼42.195キロを84年の生涯に譬えれば、42歳は折り返しの21キロ地点を走っていることになろうか。多くのランナーが急な足取りの重さを経験する、いわゆる「30キロの壁」は60歳。おもしろいのは、苦痛も我慢してやり過ごしていると、フッーと楽になる瞬間が訪れることだ。急がないのなら、沿道で休んでも構わない。その人のレースは、その人だけのものだから▼どんなに苦しくとも、ゴールが見えると不思議に力が湧いてくるのも一興。80歳を過ぎた人にも、きっと思わぬ底力が残っている▼昨年9月、京都市在住の105歳、宮崎秀吉さんが100メートル走の年代別世界記録を作ったが、歳月も極めれば、むしろ目の前の一日一日、短距離勝負に妙味がある。宮崎さんいわく、「ライバルがいないのが悩み」とか。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年1月28日付
 宝印刷の野村正道さんの訃報に接した。元官僚の経歴からは掛け離れた、いつも笑顔を絶やさず、穏やかな人であった。その野村さんも、印刷用紙の度重なる値上げに抗議してデモ行進の先頭に立つなど硬骨漢の一面があった。阪神・淡路大震災が起きたのは、全印工連会長在職中の平成7年1月17日。奇しくも、同じ日に告別式が執り行われた。合掌。▼大学生13人が犠牲になったバス転落事故、相次ぐ幼児の虐待、職場の過重労働…限りない未来がある若い人の死は痛ましい。社会のシワ寄せが弱い立場にある者を襲う。防波堤であるはずの大人の存在が頼りなさすぎる▼経済や社会情勢の振れ幅が大きい。年初の挨拶では、向かう先が「全く読めない」との声がそこかしこで。読めない時は、あえて「読まない」のも一手か▼製本組合の新年会でGCJの田村会長が「最終製品という言葉は嫌いです。完成品と言いましょう」と挨拶されていた。然り。我々もつい、出口、川下といった表現をしてしまう。ハイデルベルグ・ジャパンは「消耗品」の呼称を「印刷必需品」と言い換えた。前向きな言葉は気を養う。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年1月21日付
 イソップ寓話「アリとキリギリス」では、働き者の象徴の「アリ」。しかし生態観察すると、働きアリのうち2割は「働かない」という▼よく働くアリだけを集めてコロニーを再形成しても、2割は働かなくなる。働かないアリだけを集めると、8割は働くようになるが、やはり2割は働かない。働かないアリはすべてのアリが疲れ切ってしまった場合(過労死するアリもいる)に備え、いつでも働けるように待機しているのだ。働かないアリがいてこそ組織が持続可能になっているというのは興味深い(直近の未来の効率ではなく、遠い未来を見据えたゆとり、厚みがある組織とも言える)▼先のイソップ寓話では、アリが「夏の間歌ったなら、冬の間踊りなさい」と笑って言い、キリギリスは結局、食べ物がもらえずに死ぬが、最後にキリギリスのセリフを一文付けた別バーションがあるそうだ。「歌うべき歌は、歌い尽くした。私の亡骸を食べて、生き延びればいい」▼「ただ生きるために働き続けるアリ」と「自分のやりたいことを貫いて生きたキリギリス」。一転して、「ワークライフバランス」について考えさせられる話になる。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年1月14日付
 本紙新年号で福島市・日進堂印刷所の佐久間信幸社長にインタビューを行った。その際、「10年後、20年後を考えた時に、会社の中枢にいて活躍できる社員をいかに育てるか」に話が及んだ。同社では一年前に大胆な人事異動を行ったが、そのやり方が徹底している▼オフ輪担当を総務次長へ、総務次長を工場の工程管理へ、断裁機担当をプリプレスへ、といった具合に各部署の要の人材を完全に入れ替えた。なぜならば、中堅のプレーイングマネージャーまでは育つが、管理職への最後の一歩が抜け出せないことに強い危機感を抱いていたからだ。得意な仕事からあえて切り離すことで"器用なマネージャー"でいられない状況を作り出した▼社内外でびっくり仰天の人事。なにより社長自身が大きな責任と重圧を感じたが、それでも踏み切った。慣れない業務に就いた社員には「すぐに自分ができる必要はない。君たちはできる人を使えばいい」と伝えた▼成果については今後を待つが、部下の課長級の成長も大きい。「少し荒っぽかったが、次の10年は自分たちで考えなければいけないという意識は持ってもらえた」と佐久間社長は話す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2016年1月7日付
 人が集う場の求心力というのは偉大だ。期待しないで出かけたとしても、生身の人と人が触れ合えば、必ず何らかの気付きや情報が得られるもの。あるいは、感情の揺らぎが新しい視座を与えてくれることがある。当初の目的とは別に、現場での偶然の出会いや発見が収穫をもたらす場合も多い▼IGAS開催が3年周期となり、次回は2018年の夏。大型展示会は間隔が空くが、各地方展示会の開催に工夫が見られる。北海道情報・印刷産業展は今年、「HOPE」として装い新たに生まれ変わる。サインディスプレイ業界とタイアップして成功を収めた九州印刷情報産業展は、今年も両者での相乗効果を見込む▼2月3日からは東京・池袋で「page2016」。カンファレンスの内容を見ると、例年以上に充実し、期待が持てる。ぜひ会場で意見交換に花を咲かせたい。もちろん、取引先業種のイベントにも印刷会社が提案すべきことのヒントが満ちている▼自分を理解してもらい、相手にプラスを与えるためにも"場"に身を置くことは大事だ。無理をしてでも出かけ、行動で道を開く2016年に。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年12月24日付
 2016年も「シェア経済」「レンタル経済」の伸びが予想される。ルーム、カー、ドレス…「私だけの○○」が志向されるのとは正反対の潮流だ。カーシェアリング最大手のパーク24は来年度、拠点を全国1000ヵ所に増やす勢い。タクシー業界にとっては新たな競争相手となる▼タクシーの弱点の一つは、利用時の不確実性だが、カーシェアリングに見られるように、「今そこにあるニーズに即応し、気軽に利用してもらう」サービスは今後ますます増えていく。にわかに時代のキーワードとして浮上した「マーケティングオートメーション」や「IoT」も、そこに密接に関係している▼ものづくりの世界で話題の「インダストリー4.0」も、必要な箇所だけに迷わず手を差し伸べる発想が実は共通すると考えている。以前、ドイツで開発中の小型修理ロボットの映像を見たが、整然と並んだユニット全体を読み取り、要チェックの部品だけに瞬時にグニョリと手が伸びて触る様子に驚いた▼一つひとつ見たり、調べたり、待ったりするのでは遅すぎるという感覚が世界に拡散していく中で、印刷業の役割が逆照射されてくる予感もある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年12月17日付
 「テクノ失業」という言葉がある。技術革新とともに、ロボットに人間の仕事が奪われていくということが現実に広がっている▼日本でも売れたお掃除ロボット「ルンバ」の開発者が2012年に開発した工場用ロボット「バクスター」は、ベルトコンベアで流れてきた製品を箱に詰めたり、降ろしたりといった単純作業を人間と同じスピードでできるだけのものだ▼ならば「人間に代わることはない」と思うかもしれないが、これが重さ75キロと扱いやすく、値段が約177万円となると話が変わってくる。なおまだ発達段階であり、将来的には継続的なソフトウェアのアップデートによって時間を経るごとに速く賢くなるという。雇用側にすれば、長時間労働に不満も出ず、社会保険もいらないというのは魅力だ▼いまやロボットの進出は知的分野、対人サービス分野にまで広がっている。印刷業も例外ではなく、急速な技術進展によりその専門性が失われつつある一方、オートメーション化は今後も一層進むだろう。新たなロボットがもたらす労働そのものの質的変換が起こるのもそう遠い日ではないかもしれない。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年12月10日付
 地域活性化を図ろうにも、地方には核となるプロデューサーがいないという悩みを聞く。企画マンにしてもデザイナーにしても、一流の人材は早くから東京に出てしまい、大企業の仕事で一旗揚げようとする。だが、当然のように、効率一辺倒の仕事や人間関係に疲れ、目的を見失う者も多い▼11月26日付の本紙に載せた仙台印刷団地の創業支援事業の取材の中で、針生理事長から、都会でスピンアウトした有能な人材こそ、地方に引き込む"狙い目"であると聞いた。実際に、宮城県出身のそうした人材を、事あるごとに酒場で説得し、獲得し、見事に地元の老舗企業再生に辣腕を振るってもらっている。郷土愛に火が付くと恐ろしい▼成功例のひとつは石巻市の鯖ずし製造会社。味は一級だが量が多くて食べにくかった商品を、小分けにし、洒落た包装に変え、首都圏のデパートなどに卸したところ、一年で売上が130%増。人気商品だけに卸値も高く設定され利益率がいい▼東京と地方を結ぶ人脈と販路。この行き来をぐるぐる回すと、やがて東京育ちのヨソモノも来る、地場から成功を志す若者も育つ…そんな楽しい社会が近づく。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年12月3日付
 装置産業で来た印刷業界には膨大な遊休スペースがある。古い製版機や印刷機を出す、フィルム置き場をなくす、工場を廃止するなどしてできた空間を、上手に再生利用できるか否かで大きな差がつく▼これまで見てきた例でも、高齢者用サービス付き住宅、女性起業家用シェアハウス、保育所、研修施設、駐車場、共同の営業所、撮影スタジオ、一般向け印刷工房、ショールーム、カフェなど、枚挙にいとまがない。最近聞いたのは「民泊」。工場の1階部分を改装し、訪日外国人客を取り込んで着実な収益を上げている▼社員食堂にして互いのコミュニケーションを図るなど、社内での活用例も多い。あるオフ輪会社では、廃棄処分となったあらゆる備品を自分たちで解体、保管するスペースとした。業者に売れるだけでなく、心のケアが必要な社員が業務に復帰するまでの一時的な仕事場として役立っているという▼広げて考えれば、日本全国で空き家、空き部屋が急増している今、それらを有効活用するために印刷業界が貢献できないか。業界内の事例やノウハウを共有することで新たなビジネスを生むことは可能だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年11月26日付
 長野県北部を襲った地震から丸1年。白馬村や小谷村などで住宅約250棟が全半壊など大きな被害があったにもかかわらず、地元住民が協力し合って被災者の救助にあたり、死者は1人も出なかった。「白馬の奇跡」とも称されている。災害時には自助、共助に加え、隣同士で助け合う「近助」の大切さが明らかになった▼企業がBCP(事業継続計画)で、第一に考えなければならないのは、従業員の人命を守ることだ。池田印刷(東京都品川区、池田幸寛社長)では、全社員で会社から広域避難場所まで歩き、災害時の避難ルートマップを策定したという▼「トイレはどこにあるか?」「AEDの設置場所は?」。普段は何気なく通っている道でも、災害時には危険と思われる場所もある。同社では近隣地域の人たちに役立ててもらうため、マップを配布することも考えているという▼自社の備えに加え、地域社会とも連携した防災体制があればなお心強い。また印刷機が使用できなくなったり、用紙やインクの供給が止まったりする不測の事態も考えられる。日頃から印刷会社同士で助け合える「近助」のネットワークづくりも心がけたい。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年11月19日付
 前々回の小欄で「見える化」「数値管理」の重要性に触れたが、経営数値や営業成績を闇雲に社内にオープンにしても始まらない。社員間の関係悪化や、かえってヤル気を削ぐことがあっては本末転倒。何をどこまで、どう公開するか、悩みどころだ▼とかく社長の思惑と社員の感覚にはズレが生じる。厳しい数字だから黙っていても気を引き締めるかと思いきや、あえて指摘しないと動かない。反対に、数字が好調な時には気が大きくなり、思い付きだけの企画に走ることも▼ある社長いわく、「見せることで足下に目が向いてしまい、先に進まない弊害がある。しっかり経営理念やビジョンが共有できていてこそ、そこに向かう通過点として今の数字を捉えることができる」▼数字は魔物ではあるが、活かし方次第で、夢の実現への手段ともなり、破綻を防ぐ番人ともなる。手綱捌きの上手な会社に共通するのは、勝手な解釈をさせない(明確な尺度)、時は金なり(時間単価)の徹底、オール・フォー・ワン&ワン・フォー・オールの社内風土醸成、適度なインセンティブ、適度な部門間の競争意識─などと見る。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年11月12日付
 バレンタインデーを上回る1220億円市場に育った今年のハロウィン(記念日文化研究所推計)。4年で倍増の勢いだ。ハロウィンが終わればすぐクリスマス商戦。先週はスーパーで、正月の注連飾りと鏡餅の売出しを見た。あまりの先倒しは、ネタが尽きた印象を余計に与える▼景気の一進一退が続く。帝国データバンクの全国景気動向調査によると、景気DIは今春以降ほぼ横ばいで推移し、1年後の予測値も大差ない。完全な膠着状態であり、アベノミクスによる自力での経済浮上への期待は薄い▼10年周期の世界経済の流れで見れば、2016年から17年に日本の株価はピークとなる。東京五輪関連需要の下支えでややずれ込むことはあっても、2020年に向けて景気と株価は後退する可能性が高い。どう備えるか▼中国経済やエネルギー需給の不透明など、外部要因の影響はある程度仕方ない。問題は、消費増税のあり方や各種の規制緩和、事業予算など自力で決められる多くの事柄。それらが明確にならないと、企業は攻守いずれにも動けない。民間活力を鼓舞する前に、官みずからの決断力と実行力を問いたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年11月5日付
 中小印刷業の勝ち残り策として、外に向けては「プロデュース(コトづくり)」、内では「多能工化」「業務改善」の重要性が明らかだ。既存の印刷受注が減る分、代わる請求項目を増やし、内部に利益が残るよう工夫を尽くす。業者の退場で残存者利益が発生し、体力がある今のうちに体質転換できなければ先はない▼新たな販売促進手法を模索する顧客も、広告代理店を使える会社は限られ、社内に適任者も少ない。身近な印刷会社が企画、デザイン制作、Web、イベント、情報誌などを通じた販促代行ができるとわかれば、提案を聞く耳は持つ▼一方、現場に落ちている利益も大きい。日常の働き方や設備・資材の使い方を見直すだけで、年間数百万円もの出費を抑えた例を最近よく聞く。どこも必死なのだ。小さな改善も積もれば決定的な差となる▼いずれも、キーワードは「見える化」と「数値管理」。アウトソーシングを希求する顧客も、損益勘定の本当のところは見えていない。印刷会社が代わってシミュレーションし説得するだけの迫力はあるか。その前に、自社の利益管理さえできないようでは始まらないが。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年10月29日付
 インバウンド需要の高まりは、いわば輸血のようなもの。日本経済を支える動脈は、高齢者の親から子や孫への財産の環流で起こる巨大な消費だ。高齢者には最終ランナーのイメージがあるが、まだまだ主役であり、地方創生も高齢者を抜きには語れない▼話は地方だけではない。筆者の親戚一同が卒業した90年もの歴史がある東京都杉並区の小学校が、今年2月に閉校し、小中一貫校として統合・再出発した。跡地活用で区が募集したのは、特別養護老人ホームを運営する事業者だ。周囲を見渡せば、恐ろしい勢いで高齢者向け施設の建設が進んでいる▼介護施設が目立つことは、自立困難者の増加を意味する。入居予備群の数も計り知れない。そこに詐欺が横行する。いかに身体と資産の安全を守り、孤立を防ぎ、地域のコミュニティを形成するか。ビジネスに結び付く云々はともかく、地域に生きる印刷会社が必ず対すべき命題のひとつだ▼見守りサービス機能付のデジタル家電も進化しているが、ITはIT。基本は声掛けであり、人が集まる場づくり。できれば子供たちとの交わりを加え、下の世代からの心の環流につなげたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年10月22日付
 IGAS2015の熱気から一ヵ月あまり。見聞したことを咀嚼し、消化、吸収するには時間がかかる。本物の成果を得られるかどうか、今からにかかっている▼展示会では決まったように、「従来の延長線上に過ぎない」、「見るべきものはない」と口にする人がいる。だが、社会を変える技術やサービスが、そう易易と登場するわけがない。イノベーションは、既存の組合せから生まれるとはよく指摘される。革新や変革と訳すよりは、創造や融合反応、変態とした方がわかりやすい▼単純な思い付きによる組合せなど、いくらでも出せる。誰でも真似できることに競争力はない。イノベーションを実現する鍵は「リスクをとる」ことだ。革新なる言葉の華やかな響きとは異なり、機が熟すのをじっと待ち続ける忍耐力、胆力が必要な時もある▼全印工連が創立60周年を迎えた。MUDやCSRへの取組みにしても、5年、10年、15年という歳月を経て形になり、理解され、社会への働きかけとなってきた。女性の活躍推進も同じだろう。関係者の地道なバトンリレーによる変革の手法があることに思いを馳せたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年10月15日付
 新幹線が停車中のわずか7分間で車内清掃をテキパキとこなす。出張や旅行の際にご覧になられた方も多いだろう▼この清掃会社のすごいところは、掃除の速さや仕上がりの丁寧さだけではない。清掃の前後にスタッフが一列に並んで深々とお辞儀をしたり、季節の花を帽子に挿したり…。掃除の域を超えた「おもてなし」のサービスを行う。米CNNが「7ミニッツ・ミラクル」と報じ、経済産業省の2012年度「おもてなし経営企業選」にも選ばれた。国内外から数多くの視察や研修が訪れている▼会社を変えた大きな原動力は、現場スタッフからの提案やアイデアを取り入れ、実行する仕組みをつくったことだ。さらに、スタッフたちがお互いのいいところを褒め合う壁新聞を社内に貼り出し、各人のプライドや、やる気をうまく引き出している▼「きつい、汚い、危険」、いわゆる「3K」と呼ばれる職場において、仕事への達成感と誇りに火をつけ、モチベーションを高めることに成功している。当初は活気がなかったと聞く。それが世界的にも注目される現場力のある会社に生まれ変わった。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年10月8日付
 IGAS期間中に行われた「グローカル」セミナーで、京王プラザホテル企画広報支配人の斎藤潤子さんが、シンガポールで開催されたメディア関連の国際会議に出席した際の体験を話した。お客に渡すパンフレットなどを外国人がどう見ているか、探ることが目的だった▼まず、現地のホテルに紙媒体がほとんどないことに驚いた。世代が若く、廃棄物にも神経質な国であることを考え併せても、「想像以上のデジタル化」と実感した。そこから先は立派な記者の目線なのだが、では紙媒体に魅力がないのかと聞くと、「もらえれば嬉しい」と多くの人が応える▼普段見ていない人たちだからこそ─。斎藤さんは、宿泊客にパンフレットを渡すことは「おもてなし」につながると思い至った。会議も、テクノロジーの時代になるほど、人の根源的な欲求や喜怒哀楽を大事にしようという基調だった▼「これからの企業にはCSV(バリュー)、どんな価値を届けるかが問われる。印刷は幸せや価値を届けられる業界です」と応援歌まで付いたが、一人で海外に出向き、メディアの意味を貪欲に探る姿勢に見習いたい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年10月1日付
 「顧客第一」と言うのはたやすいが、形に落とし込むのは至難だ。社長がいくら声を大にしようが社員に浸透するものではない。「○○イズム」には限界がある。なにより早いのは、仕事の成功体験であり、顧客の喜ぶ顔を見ることだ▼今年の取材で最も印象に残ったのは、ある都内の十数人の印刷会社。今は軸足をコンテンツ管理やシステム開発に移しているが、驚いたのは、受注した案件ごとに、営業も開発も事務も社長もみんなで「当社にいただいた、この仕事の真の目的は何か」を話し合うのだという。本当に求めるところは違うのに、お客は方法が分からないまま発注したのかもしれない…。「顧客第一」の真髄を見た▼言われた通り仕事をすればお代はいただけるのに。だれもが忙しいだろうに、時間を作って話し合いを重ねる。面倒を厭わないチーム形成の根にあるのは、顧客の感動であり、全員での達成感の共有だと想像できる▼案の定、この会社は大手システムベンダーとの競合でも負けない。自己都合優先の大手と、小粒だが痒い所を知り尽くしたお客様本位の会社。印刷業のDNAここにありだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年9月24日付
 「新しいアイデアはなかなか生み出せない。しかし、すでにあるものと組み合わせると、新しい可能性が見えてくる」▼印刷業界の中でもアイデアマンとして知られる淡路印刷・アワプリメディアジャパンの真野貴司社長。今年から開校した日本印刷カレッジでは、営業マンの実践に役立つ考え方やノウハウを伝えている▼単語帳がある。一つにはスーパー、飲食店、自動車販売店、パチンコ店…など、さまざまな業種が書いてある。もう一方には販促の仕方や儲かる方法が書いてある。チラシ、DM、ホームページ…など。「これら単語帳をパラパラめくって、思わず組み合わさったところに新しいアイデアが生まれる」。今人気の外食レストラン『俺のフレンチ』も、高級レストランと立ち食いそば屋の組み合わせだ。「高級料理は座って食べるというのが定説だが、立ち食い方式にして回転率を上げて安くするという手法で成功した」▼「新旧」の組み合わせでも通用する。「古い業界にはWebなどを利用した新しいやり方を。逆に新しい業界にはアナログの手法がうまくいくかもしれない」。さあ、パラパラやってみよう。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年9月17日付
 「実際の納品物と、本当は最新機能でここまでやれるというギャップを教えてもらえるとうれしい」。IGAS2015のイベントスペースで11日に聴いた花王の本間充デジタルトレード室室長の話は、なんとも「イタ(痛)気持ちいい」ものだった▼商品パッケージの出来上がりを見る一番幸せなはずの瞬間に、印刷会社は「すみません、これでいいですか?」と納品してくる。「その一言で幸せ感は消え失せる。どこか間違ってるの? と不安になり、また校正の現場に戻ってしまう」と本間氏。そうではなく、印刷技術など30年前と大して変わらないと思い込んでいる自分たちに、格段に進歩した今の姿を伝えてほしいのだ、と▼「パッケージや販促物がどう作られているのか興味津津」、「印刷会社は展示会に客を連れてきて、こんな凄いことが出来るのだと説明して回ればいい」。実践している会社は残念ながら少ない▼本間氏の口から飛び出す、「もっと明るい印刷工場があっていいのでは」、「わくわくイノベーションのために印刷業界と一緒に向き合う時間が必要」…言葉のすべてが課題の本質を突いている。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年9月10日付
 印刷用紙の値上げは毎年のように繰り返され、そのたびに製紙メーカーは一定の収益を確保。一方で、売上げに占める用紙の割合が大きい中小印刷会社の利益は圧迫され続けている。業界を挙げて反対の意思表示をしても、結局は押し切られるのが常だ▼先月27日に自民党本部で開かれた中小印刷産業振興議員連盟の総会は、用紙値上げに関する意見交換が主だった。ほぼ同一時期、同一値上げ幅の不可解について問われた公正取引委員会担当官の答弁は苦しかったが、要は業者間の合意の事実をつかめなければ立入りは難しいという。だが、「事実」に迫るためのアクションが起こされる気配はない▼議員の一人から、公取の注意・警告が圧倒的に多い業種として酒販、小型家電、ガスが挙げられ、業種別件数の提出を求めるやり取りもあった。議連の伊藤達也幹事長は「公取には中小に関わる事案に熱心でない印象がある」と発言し、優越的地位の濫用をしっかり取り締まるよう求めた▼価格転嫁が難しい弱い立場にある印刷業は、あらゆる機会をとらえて、より多くの関係者に問題の在り処を知ってもらうしかない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年9月3日付
 日本生活情報紙協会の会報に、ビデオリサーチ布川英二氏が調査分析を載せている。フリーペーパーへの接触は長期低下傾向。男女とも10代・20代の減少幅が大きく、40代がピーク。特に女性は、この10年の間に30代から40代に移った。布川氏は「読者の加齢を意識したコンテンツ開発がますます重要になる」と指摘する▼中高年層を意識するのは新聞も商業雑誌も同じだ。10代向け女性誌で一世を風靡した出版社も、仕事、結婚、子育て、趣味、美容・健康とテーマを変えながら、次々に年代別女性誌を創刊し、輪切り状態化する。雑誌の行き着く先を考えると寂しい気もする▼異彩を放つのはクレタパブリッシングの隔月刊『昭和40年男』。誌名の通り、ターゲットは細分化の極みだが、10万部以上を発行するという。総務省統計で、40年生まれの男性は89万人。前後の取り込みはあるにせよ、見事な「集中とこじ開け」だ▼個人としての布川氏は「若い読者を狙った斬新なフリーペーパー」に期待する。『昭和40年男』の読者が70歳となる20年後、"若い"と呼べる読者さえいないようでは、この国の未来も怪しい。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年8月27日付
 「待たせない」ことはサービスの一つになっている。レストランでは、すぐさまウエイターが注文を取りにくるし、電車は数秒と狂うことなくダイヤ通り運行している▼われわれは便利さや効率性を追求するあまり、「待つ」ことが下手になってはいないだろうか。分からないことがあると、手っ取り早くネットで検索する。メールや電話の返事がすぐに来ないとイライラする。「すぐキレる人」が増えているというのも、その表れか▼現代社会において、「待つ」ことは非効率な行為であり、マイナスのイメージさえある。とりわけ企業経営では回り道や寄り道は許されず、最短で最大の成果が求められる。教育の現場でさえ即効性が求められる傾向があり、大学や研究機関などの長期にわたる基礎研究の投資も敬遠されるきらいがある▼「待たない」「待てない」社会では、あらかじめ用意された通りの決まった枠に収まってしまいがちだ。知らず知らずのうちに、いろいろある可能性の芽を捨ててしまっている懸念がある。江戸時代には「待つもまた楽し」という粋な文化があったというが、そんな余裕を持ちたいものだ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年8月20日付
 猛暑日続きの京都。9月5日に全日本製本工業組合連合会の第56回全国大会が開かれる。迎える京都工組の山崎喜市理事長は「製本業は文化と経済を支えているとの信念と、その産業に携われる誇りを胸に集い、われわれの強い意志を持って、製本業を利益の出る産業にしていこう」と呼びかける▼アメリカの大手旅行雑誌が企画する「世界で最も魅力的な都市」の読者投票で、京都は2014年に続いて第1位となった。一体に日本は、古さと新しさが自然に溶け合う様が外国人の目に極めてファンタスティックに映るようだ。それは産業界も同じ。京都大会のポスターにも「伝統と革新」の二文字が躍る▼戦後70年の発展の原動力は、優秀な中小企業と、そこで働く人々であることは間違いない。名だたる大手企業も、中小企業の汗と涙なくして存立しえない▼10月16日に創立60周年記念式典を開く全日本印刷工業組合連合会が掲げるテーマも「不易流行(伝統と変革)」。記念講演の講師は元ライブドアの堀江貴文氏だ。ベンチャーの申し子ともいうべき堀江氏が印刷産業にどう斬り込むか、興味深い。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年8月13日付
 「ワンワンがいるねぇ」と幼い孫に話しかけた母に、怪訝な顔つきで「なんだかイヌみたい…」とわが娘。この思い出話を笑えない時代になってきた。情報過多の中で育った若者と話していて、「すべてを解ったつもりになっている」不快感を覚える機会が増えたからだ▼通称尾木ママで知られる教育評論家の尾木直樹さんは、「3歳までに言葉を教え込まない方がいい」という。なぜなら、感性で知覚する以前に、なんでも言葉(頭)で解釈する癖が身に付いてしまうから。人間は、解らないからこそ、あらゆる感覚を鋭敏にして対象を把握しようとする▼予備校の講師を務める友人も、文字と映像の大洪水を泳ぎ渡る世代の変化を感じ取っている。「すべてを解ったつもり」の一方で、自分が知らないこと、解らないことに関して、「知らなくていい、解らなくていい」と都合よく解釈する傾向が強いとか▼情報伝達のプロである印刷業には、言われるままに伝えるだけでなく、受け手の感性や思考に力強く迫る「意思ある編集力」が不可欠だ。とりわけ、40代以上のここでの踏ん張りが、業界の未来を左右すると考える。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年8月6日付
 「企業は人なり」という。だが、よい企業を形づくる"人"とは、どんな人物のことを指すのか。自信を持って答えられる人は少ないと思われる▼消去法でいくとどうか。いくら金儲けが上手くても、人様を泣かせるような企業では失格だ。会社の論理や上司の命令にただ従い、優秀なだけの社員のことではないとわかる。一方、どんなに論理的に正しかろうと、自分に固執しすぎ、異を唱えてばかりで周囲を惑わせる社員でもいけない。もちろん、何の主張も疑問も持たない人では困る▼いろいろ挙げていくと、自分の頭で考えることができ、刻々と変化する状況に応じて何が全体のためになるのかを判断し、必要な情報や意見を他人に伝え、前向きに話し合うことができる─そんな自律的、能動的な人物が浮かび上がる▼巨額の利益操作が発覚した大企業の中にも、個々には優秀な社員が大勢いることは間違いない。それがなぜ機能しないか。「人は企業なり」という反語が成り立ってしまう世界がある。8月15日が近づく。戦争に突入した道を振り返る時、人は組織なり、人は国家なり、の怖さを改めて思う。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年7月30日付
 帝国データバンクが今年6月に実施し、全国約1万1千社から回答を得た企業の「本業」に関する意識調査が興味深い。創業時と現在を比較した自社の本業について、「変化した」の回答は5割弱。中でも、今後の可能性を含めて「常に変化」と答えた業種は、電気通信、放送、出版・印刷が上位3つだった▼広告関連、パルプ・紙・紙加工品製造もそれぞれ6位、8位。情報伝達やメディアに関わる業種にとって、業態変革は初めから宿命づけられていると言っていい。そう思えば、開き直って事に当たれる。だが、業種そのものを転換した企業は2割弱であり、取り扱う商品・サービスの構成が変化したとの回答が8割を占める▼つまり、事業継続の鍵を握る将来の新たな主力商品の芽は、たとえ小さなものであっても、今現在の仕事の中に含まれている可能性が高い。曇りない目で足下を見つめ直すことが近道になり得る▼調査では、「常に変わらず」の回答上位に、医薬品・日用雑貨品小売、旅館・ホテル、教育サービスが入った。その認識は危ないよ、と声を掛けたくなる業種ではある。印刷業の認識は意外に健全か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年7月16日付
 人は危険が身近に迫っていても、「大したことはない」「自分は大丈夫」と思い込んでしまう。これを、災害心理学や社会心理学などの専門用語で「正常性バイアス」という▼たとえば、ビルで火災報知器が鳴った際に、「故障だよな」「いたずらでボタンを押したな」などと、なぜか都合のいいように勝手に考えてしまうのがそれだ。不安を回避するために、自分は安全な側にいると心にブレーキをかけてしまう。健康診断で「再検査」の判定が出ても「痛くないし、大丈夫だろう」と思うのと一緒だ▼正常性バイアスは危険を察知する感覚を鈍らせる。多数の犠牲者が出た御嶽山の噴火では、噴火の様子を撮影していて逃げ遅れた人がいた。一方、東日本大震災では岩手県釜石市の中学生が率先して避難したことから、近隣住民にも危機感が波及して早期避難につながった▼地震、台風、猛暑など、猛威を振るう自然に対して感覚は研ぎ澄まされているか。危機管理の心構えが大事だ。自然を侮ってはならないことを肝に銘じたい。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年7月9日付
 「輸出を中心とした大企業の業績は好調だが、中小企業にアベノミクス効果の実感はない」─今や、業界のどの会合でも常套句のように聞かれる。政府の「地方創生」の掛け声も、資材の値上がりや大手の値段叩きにかき消されてしまう現実がある▼仙台市は、4月から「中小企業活性化条例」を施行し、事業の財源として30億円の基金を新設した。宮城県も同様に動き出している。活性化会議委員でもある県中小企業団体中央会の今野敦之会長は印刷業界の出身。「それだけ中小企業の置かれた立場が弱いということ。市長や知事への働きかけが実った」と背景を話す▼だが、実際に活用されるには、当事者自らメリットを求めて動く以外にない。今野会長は東北経済産業局長から「中小企業向けの支援制度は各種あるが、なかなか利用されない」と歯がゆい言葉を聞いた▼「ものづくり補助金」の一次公募採択案件が決まった。改めて見ると、印刷加工関連で260件近い採択がある。嘆いていても仕方がない。可能な限り経営の見える化を図り、同時に、使える支援策はすべて使うぐらいの気概が必要だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年7月2日付
 小中学生1千人に実施した人材派遣会社の調査で、「大人になったら親と同じ仕事をしたいと思うか」との質問に、「したくない」と答えた子が7割だったという。理由として「やりたい事があるから」はもちろん多いが、「忙しそう」「稼げなさそう」もかなりの割合に上った。これが印刷関連業従事者の子に限ったアンケートだと、どんな結果になるか▼親が愚痴をこぼしたり、苦虫を潰したような顔をしていたら、間違いなく同じ仕事に就きたいとは思わないはずだ。親が経営者だろうと関係ない。今の子供に社長の地位はほとんど魅力がない▼この仕事を長く続けていると、事業承継のあらゆるパターンや悩み、喜び、驚きに出合う。息子が三人とも見事に同じ業界で働く印刷会社の社長は、子供が小さい頃、一緒に風呂に入るたびに「お父さんはこの仕事が大好きだ、楽しくて仕方ないんだ」と語って聞かせた▼また、ある製本会社の社長いわく、「どこまで騙し通せるかが勝負だよ」。苦しくても親の見栄を貫く。仕事は一所懸命、そして遊ぶ姿もわざと目に触れさせる。理念や志の大切さに劣らぬ深謀遠慮を感じた。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年6月25日付
 20日は列島各地で大雨が降った。昨夏、広島市北部を襲い70人以上が亡くなった土砂災害の記憶がよみがえる。地震、噴火、そして豪雨。危険は常にわれわれの身近にある▼IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書執筆者で東京大学の木本昌秀教授によると、気温が1度上昇すると大気中の水蒸気量が7%増加し、1回に降る雨の量が10%増えるという。押さえておきたい数字だ。要は、短時間に集中的に降ることになり、災害の発生率が高まる▼日本と中国、韓国の駆け引きが激しい。戦後70年、安倍談話、安保法案などで、いやが上にも緊張は高まるが、地球温暖化、新型ウィルス、サイバーテロといった国家共通の危機に対して、東アジアの知恵を集め、前向きに対処する動きがもっとあっていいだろう▼木本教授の挙げた数字からの連想。社員の体温が1度上がると社内に発散されるプラスイオンが7%増加し、顧客に向き合った時のハートの伝導指数が10%増える。ここでの体温とは、もちろん元気、情熱などを意味するものだが、組織における温暖化はどこまで上昇しても構わない。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年6月18日付
 国民的アニメ「ドラえもん」をはじめ、「オバケのQ太郎」「パーマン」など数多くの傑作を生み出した漫画家、藤子・F・不二雄氏▼神奈川県川崎市にある「藤子・F・不二雄ミュージアム」には、氏の貴重な資料が展示・公開されており、2011年9月のオープン以来、連日多くの来館者で賑わっている。もし、ドラえもんのタイムマシンがあったら、未来に行って見てみたいのは日本の印刷業の姿か▼先日、日本グラフィックサービス工業会(ジャグラ)の創立60周年を記念するジャグラ文化典東京大会が盛大に開かれた。われわれは日本の印刷界における文字印刷の主流とならん―。この合言葉の下、「ガリ版」と呼ばれた謄写印刷人たちが未来に大きな夢を描いて結成したのが始まりだ。式典では50年前の謄写印刷の貴重な記録映画が上映されたが、はたして当時の人たちは今の印刷技術の進歩や情報化社会の進展を想像できただろうか▼夢のある印刷ビジョンを描き続けてほしい。「想像できるものは実現できる」と言うではないか。ちなみにドラえもんは、今から約100年後の2112年に誕生する予定だ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年6月11日付
 「メンテナンスは経営マター」、そんな考えに基づくセミナーが、SOPTECとうほく2015の会期2日目、7月4日に仙台市で行われる。印刷OEM研究会による企画で、金羊社、ジャパン・スリーブ、三美印刷などから実に8人が登壇し、考え方や事例を紹介する▼「印刷機メンテナンスは品質だけじゃない!」というテーマ名は、メーカーに向けた意味合いもあるだろう。すなわち、経営に直結する事項なのだから、技術サポートだけでは済まないよ、と▼日々の手入れを怠ったがために、数百万円、数千万円の損失が発生することがある。それでも、メンテナンスをきちんと業務に位置付け、予算化(数値化)している会社は少ない。痛い目に遭っても、喉元過ぎれば熱さを忘れている会社がほとんどではないか▼山形県米沢市の精英堂印刷では、毎朝の清掃タイムのほか、毎週月曜日の午前中を機械のメンテナンスだけに充てている。事故防止につながることはもちろん、「シール・ラベルコンテスト」において、この9年間に5回の経済産業大臣賞という実力を培った。やはり「メンテナンスは品質」でもある。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年6月4日付
 「富山県は鎖国でいい」─。何やら物騒に聞こえるが、北陸新幹線の影響について尋ねた時、富山県印刷工業組合の楠行博理事長の口から出てきた言葉だ。新幹線の効果はほとんどない、金沢ブランドが大きすぎて所詮勝てない、それならばいっそのこと…▼鎖国は大げさにしても、「大勢来てくれなくていい。むしろ神秘性を高めた方が富山は得」と楠氏は言う。名物のブリにしても「知事の許可制にしたらいい」と、ぽんぽん飛び出す意表を突いたアイデアに頷くことしきり。手が届きにくい物ほど欲しくなる、か…▼外国人旅行客の予約で数ヵ月先まで一杯の知る人ぞ知る小さな旅館でも、大々的な宣伝をしているところは少ない。SNSなどを通じて噂が勝手に拡散し、「泊まってみたい」と思わせる。第一、家族が食べていくだけなら、高級ホテル並みにやって来られてもかえって困るだけだ▼inboundとoutboundには、列車や自動車道の上り線・下り線の意味もある。中央志向、有名志向が強まる中で、あえて逆走や"引き"の手がある。そう思えば、印刷メディアにも違った味わいが感じられる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年5月28日付
 「IT業界は20兆円の産業規模をずっと維持してきたが、ここ2、3年はビッグプロジェクト続きでかつてない好況です」。そう話すのは日本ソフトウエア産業協会商流委員長の奥田克彦氏。マイナンバー制度施行、日本郵政グループ上場、みずほ銀行の基幹システム統合などへの対応で、人が足りない状況にある▼だが、一方で危機感を募らせてもいる。「2018年あたりで潮目は変わる。大規模プロジェクトが収束し、東京五輪の盛り上がりが一段落した後が大変」だというのだ。「その後のIT業界は縮小していく」とも▼需要の減退だけではない。クラウドで世界中から無料のソフトウエアやサービスを引き出せる時代。次には、人工知能を備えた自律型ロボット、いわゆる「スマートマシン」がIT産業界の主役の座を窺う。奥田氏が警戒するのは、むしろこれらの構造変化だ▼デザインソフトとインターネットで仕事を奪われたデザイナーの中には「私たちも基本は受注型。印刷業と組んで一緒に提案営業に変わりたい」と話す人もいる。時代の華と思われたIT業界にも、激しい生存競争がやってくる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年5月21日付
 以前、テレビを見ていたら、「黒電話」の使い方を知らない若者が多かったのに驚いた。大学生らに黒電話で電話をかけてもらったところ、20人中2人しかかけることができなかった▼受話器を取らず、ダイヤルの数字の部分を指で押す人がかなりいた。中には及び腰でまともに触ることさえできない人もいた。それを見て思わず笑ってしまったが、携帯電話やインターネットで育った世代からすれば、分からなくて当然である。彼らからすれば、コミュニケーションツールとして、ツイッターやソーシャル・ネットワークの方が使い慣れていて、逆に黒電話世代に同じような実験をしたらおそらく反対の結果になるだろう▼全印工連の島村博之会長が衝撃を受けたと話されていた、ジェネレーションを話題にした米国の本の話を思い出した。「iPadを使ってトランプの神経衰弱を遊んでいた幼い子どもに、本物のトランプを渡したらカードを押し始めた」という話。あながち笑い話では済まない▼文部科学省でデジタル教科書の導入に向けた検討が始まった。紙の教科書が過去の産物になることは何とか避けたい。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年5月14日付
 日本記録を更新した男女選手に1億円、指導者にも5000万円を支給する日本実業団陸上競技連合の大胆な策は、東京五輪に向けて、世界と水を開けられる一方の日本マラソン界に活を入れる試みだ▼高収入を目的に名人を目指す棋士がいないように、賞金を目当てに走る選手も国内には少ないだろう。だが、話題性が生む宣伝効果はマラソン競技そのものへの国民の関心を高める。選手のライバルへの対抗心も煽る。かなり以前の話になるが、読売新聞社が破格の優勝賞金の新タイトル戦「竜王戦」を設けてから、将棋界が活性化したことはたしかだ▼人権問題に絡むファンの行為で、サッカーJリーグのチームが無観客試合のペナルティを課されたことは記憶に新しい。「見られないこと」をもって厳しい罰としているわけだ。反対に、「見られる」高揚感こそ最大のモチベーションとなる▼賞金は最大の動機とはならないまでも、注目の手段にはなり得る。純粋な競技の感動だけに頼り、スポーツマンシップをかざして実力が落ち、種目が廃れて五輪でカヤの外となっては元も子もない。1億円はむしろ安い。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年5月7日付
 3月に経済産業省から発表された平成25年(2013年)工業統計・産業編(3人以下を含む全数)によると、「印刷・同関連業」の事業所数は2万7000事業所で前年比4.3%減、従業者数は30万6000人で同1.8%減、出荷額は5兆5450億円で同1.3%減となった。業界内で発表されている予測数値にほぼ近いペースで減少が続いている▼製造業(平均人員19.0人)の1人当たり現金給与額417万円に比べても、平均11.4人で同371万円と大きく下回っている。ただし、これらはあくまでも"製造"の切り口で見た断面図だ。印刷付帯サービスやイベント事業など、周辺領域を含む統計を正確に弾き出した場合にはかなり変動する可能性がある▼工業統計の項目にある「印刷関連サービス業」とはもちろん異なる。印刷会社の事業領域は分類困難なほど多様性に富んでおり、「印刷業」という括り方そのものに限界が来ていると感じられる▼お客の困り事に寄り添う印刷業のDNAを大事にしつつ、自ら仕事のカベを大胆に壊し、値付けを改めていけば、非常に楽しみな産業であることもたしかだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年4月23日付
 人の能力に差があるように、会社にも先行組と後発組がある。先頭集団を行く会社には、能力に加えて圧倒的な努力がある。だが、二番手、三番手集団であっても、事業継続が可能な位置、将来の発展が望める位置をキープすることはできる。負けないしぶとさも重要だ▼自社を先行組でないと思うのなら、謙虚さから出発すればいい。少しでも上を目指すための近道は、「良い会社」の真似をし、「良い制度」を取り入れてみることだ。挨拶の仕方、電話応対の仕方ひとつとっても、伸びる会社は違う▼極端に言えば、意味付けは後からでもいい。容はやがて評価になる。ある地方の印刷会社社長と会った時、「東京のように恵まれた商圏がない私たちが、ISOやグリーンプリンティング認定、プライバシーマークに取り組んだ意味がわかりますか」と問われ、その真剣さに打たれたことがあった▼毎年確かな利益を生むこの会社は、いつしか真似をされる側に回っている。数ある会社、制度の中から何を取り込むか。選球眼を養うには、自ら足を運び、優れた会社、優れた人にできるだけ多く接することに尽きる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年4月16日付
 今から300年前といえば、播州赤穂浅野家の四十七士が吉良上野介の屋敷に討入りした「忠臣蔵」のころだ。侍は刀をさし、頭にはちょんまげを結って町を闊歩していた。では、今から300年後を想像できるだろうか▼東日本大震災から4年経ち、原発再稼働への動きが進んでいる。その是非は簡単に判断できないが、原発で燃やした後に出る「核のごみ」の最終処分問題は避けて通れない。この問題の深刻さは放射能汚染がさほど高くない低レベル放射性廃棄物を見ても明らかだ▼汚染された作業着や布キレなど、1年間原発を動かすとドラム缶100本分発生する。六ヶ所村の処理施設ではそれを地中に埋めて監視しているが、その期間が300年である。はたして一企業が本当に管理できるものだろうか▼人が近付くと20秒で死に至る高レベル放射性廃棄物になると、安全なレベルになるまで10万年の管理が必要とされる。今の言葉や文字は通じない。そのため、未来の人たちに危険を確実に知らせるユニバーサルデザインの伝達方法が真剣に考えられているという。もはや人智の及ばない世界である。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年4月9日付
 利用者目線でも郵便局の窓口業務の厳しさが目立ってきた。明らかに年々増える高齢者と外国人。当然、反応は遅く、不備も多く、対応がスムーズに進まない。職員は頑張っている。だが、現場の努力だけでは根本は解決しない▼小売、流通、サービス、運輸、介護、医療など、あらゆる処で同じ事態が起きている。システム系でカバーしきれない人間系で増え続ける負担。これをどうするか。日本が抱える大きな課題だ。東南アジアから看護師を受け入れればいいという話ではない▼郵便局でいえば、商品の数を絞り込む方が得策と思える。全国2万以上の地域拠点は貴重だが、「よろずや」になることと利便性とは違う。品数や処理スピードでコンビニエンスストアに勝てない部分は譲り、郵便局ならではの、あえてテンポを落とした中で勝負できるサービス開発を志向してはどうか▼企業間の同類のサービス競争が不毛なように、業種間レベルでも思い切った棲み分けや提携が必要な時代に入ってきた。システムは多くの事をより速く処理しようとするが、末端の品揃えと分担の整理があってこそ活きる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年4月2日付
 いい仕事は、必ずしもその仕事が好きだから生まれるわけではない。やらなければいけない事だから出来る、という場合の方がむしろ多いかもしれない。春、たくさんの新人が社会に出る。希望の職種、会社、配属先とは違う場所に身を置いて、憂鬱加減な者もいるはずだ▼だが、勘違いをしてはいけない。君のために世の中が、君のために会社があるわけじゃない。あえて言えば、それは「みんな」のためだ。「自分探し」なんてムダなことはやめて、与えられた場で常にベストを尽くすこと。それなくして、そこから先もない。ふて腐れている人間に誰も声はかけない▼今の職に就いたのも多生の縁。今の部門に配属されたのも、君の中の「何か」を会社が見て取ったからではないか。会社の都合ばかりではないはずだ。周囲の自分への評価を知るいい機会でもある▼真面目に仕事に励む君をきっと誰かが見ている。いや、誰も見ていなくてもいいじゃないか。必ず自分の将来に生きるものだから。順風ばかりの人よりも、たしかに強い心と足腰が養われる。この春、社会人の仲間入りをされたみなさん、ようこそ!(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年3月26日付
 大日本印刷と紀伊國屋書店が、出版流通市場の改革に向けて新会社を設立する。記者発表で、業務提携の範囲を超えた挑戦の姿勢を問われた紀伊國屋書店の高井昌史社長は「出版界のリーダーとしての私の覚悟でもある。両社の責任ある人が決断し、オープンにしていくからこそ他社にも参加してもらえる」と語った▼海外勢やネットサービスとの競争激化への危機感は相当なものだ。高井社長は、アマゾンや楽天の名前を挙げ、実店舗とネット書店の連携サービス強化などの対抗策を示した。大日本印刷の調査では、本好きな人は購入窓口としてどちらも利用し、単価も高い。大事なのは利便性の強化だ▼同時に、書店という形態に対する強い思いも高井社長にはある。「書店をテーマパークにするぐらいの気持ちでやる。子供から高齢者まで来てもらい、読書をもう一度日本の文化にすることがわれわれの使命だ」▼書籍以外の商品や憩いの場としてのサービスも検討する。情報系印刷物がネットに移行しても包装文化は厳然とあるように、そこに居ること自体が心地良い感性と空間のビジネスには可能性が感じられる。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年3月19日付
 トラックの運転手不足が深刻さを増している。長い拘束時間、過酷な荷役、他産業より低賃金という厳しい労働環境が敬遠され、若い人たちがドライバー職に就かなくなっている。「睡眠時間は平均4〜5時間。病気で休みたくても誰か代わりを見つけなければ休めない」と知り合いのトラック運転手は嘆く▼背景には、トラック運送業界で続く経営逼迫が影を落とす。書籍、雑誌の配送分野も例外ではない。燃料コスト高、小ロット化による配送量自体の減少に加え、コンビニの時間指定も厳しく、コスト増が重くのしかかる▼「トラックを動かしても赤字ならば、断らざるを得ない場合も」。出版・取次・運送・印刷・製本関連の担当者が一堂に集まり、今月初めに開かれた日本雑誌協会の出版物流協議会でも配送確保の問題が大きな懸念として示され、その中で発行日が集中する時期とそうでない時期との間で著しく偏っている配送量の平準化対応が焦点になったという▼関係者は「配本がいつ止まってもおかしくない」と危機感を募らせる。打開策へ向けて本格的にメスを入れなければならない時期が来ている。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年3月12日付
 繊維からカーボンナノチューブ、陶磁器からファインセラミックスの例でも明らかなように、成熟産業にも必ず革新的な技術の芽はある。それは印刷も同じだ。折り紙は、いまや宇宙工学や血管内治療にまで応用されている▼なぜ日本から世界をリードする発想が生まれなくなったのか。この議論では決まって「なぜソニーがスマートフォンを開発できなかったのか」が引合いに出る。知人の同社社員によると、売れている時には冒険をしなくなる、それが最大のリスクなのだそうだ。3兆円に迫る営業利益のトヨタ自動車とて、儲けの上に胡坐をかけば、たちまち転落する▼かつての電通では、100人採用した中に1人の天才がいれば、あとの99人は凡才でいい、という考えが通用したが、利益の公平な分配などと企業が言い出したら赤信号だ▼3兆円の百分の一、300億円を10人の社員に与え、1人30億円を1年間、制約なしに使わせる。たとえ9人がムダになっても、1人の革命的な発想が今後百年にわたり世界を動かす製品やサービスに結実すれば安いものだ。いずれは成熟する自動車産業の「次」は何か。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年3月5日付
 「慌(てる)」とは心が荒れる、「忙(しい)」とは心を亡くすと書く。仕事に追われることと、利益が出ることは関係ない。むしろ、目の前の仕事に一所懸命になり過ぎると、肝腎の目的を見失う▼今日に至っても、印刷機が回っていれば安心し、それが目的と化している会社は多い。地方本社の印刷機の稼働率を上げるために東京に営業所を出し、東京での受注は利益を全く生んでいない会社もあると聞く。不幸なのは社員だ。日々忙しいから儲かっていると思いきや、実態は徒労であってはたまらない▼荒療治だが、利益の出ない仕事を減らし続けて変われた印刷会社がある。初めは不安に襲われ、「社長なんとかしてください」と訴えていた社員が、あまりにヒマが続くと、「何とかしなければ」と自分達から新しい仕事を取りに動き出した▼長崎市の川口印刷は、業務の見える化で会社を活性化させた。良品率と作業効率を上げると稼働率は下がる。あえて稼働率を下げに行く発想を社員に植えた川口福太郎社長は「忙しさではなく、ヒマのアピールを評価する。ヒマを埋めるのは工程管理と営業の仕事」と話す。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年2月26日付
 3万6千人が参加した東京マラソンは心配されたテロ発生もなく終わった。あれだけの大祭典は首都でなければ難しい。同じ頃、テレビでは盛んに3月14日開業の北陸新幹線に関連して金沢、富山を取り上げていた。11月に開催される第1回金沢マラソンに地元の熱も入る▼一方、素通りの不安に怯えるのが長野県。有力印刷会社の一社は今、仕事を繋ぎ止めるために必死に動いている。かつて冬季五輪に沸いた長野は、新幹線開通で東京の企業の支社、営業所が次々閉鎖され痛手を被った。長野新幹線の呼称も「北陸」に吸収されてしまう。製本工業組合の新年会で、理事長が使った「長野新幹線の延伸」という言葉に地元の本音が見える▼同じことは新潟にも、北海道まで新幹線が開通すれば青森にも言える。外国人観光客のインバウンド消費を巡り、大都市圏から地方への誘導が課題となっているが、来日客増加の目標と、国内地方都市間の競争という二重構造が起きている▼東京五輪がゴールではない。10年後、20年後の地域のあり方について官民一体となって知恵を絞る中に、印刷業は入っていて当然だ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年2月19日付
 「ヴェクサシオン」(いやがらせ、エリック・サティ作曲)という曲がある。1分程度の短いフレーズを延々840回繰り返すという曲で、通して演奏すると18時間にも及ぶ▼この曲、同じ繰り返しであっても人が演奏するものである以上、決して同じではない。1回目、300回目、840回目の演奏を別々に聞いたら、おそらく微妙に違って聞こえるはずだ。この曲は演奏者への単なる「いやがらせ」ではなく、実はその差異が面白さではないだろうか▼印刷にもどこか似ているところがある。同じ印刷機で刷ったとしても、湿度や気温など、少しの条件で変わってしまう。昨年末、竹尾見本帖本店で行われた「ヴァンヌーボ×15人の写真家」展スペシャルトークで、印刷を担当した熊倉桂三氏(山田写真製版所)は「印刷にはいろんなトラブルがある。それをどうやったら回避できるか、また悪さを(把握した上で)どう生かすか」と話した▼写真作品の出来は、印刷に左右される。「いかにハートを落とし込むか、最終的にはハートの問題」。作品に命を賭ける写真家たちの期待に応えてきた印刷職人の言葉だ。(ガク)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年2月12日付
 1月現在の日本の総人口は1億2702万人。昨年8月現在の確定値では、1年間で0〜64歳人口の130万人減に対し、65歳以上は109万人増。長期的に人口減少はマイナス要因だが、シルバービジネスには大きなチャンスがある。同様に、消費が集中しやすい少子化も、仕掛け次第でチャンスが生まれる▼人口減の半面、2014年の訪日外国人旅行者は過去最高の1341万人となり、消費額も2兆円を超えた。円安要因だけでなく、ビザ発給要件緩和などの施策あってのことだ▼何事にもマクロとミクロのプラス・マイナス要因があり、マクロとミクロのチャンス・ピンチがある。97年をピークに縮小し続ける出版市場はどうか。本離れを嘆く前に、編集者の創刊意欲やベストセラー魂の衰退が指摘される。異例の60万部を突破し、売れ続ける松岡修造氏の日めくりカレンダーをどう見るか▼現在の印刷産業にマクロ政策は必須。同時に、個々の印刷会社が局地戦で勝てる可能性も大。かつて、売上が鈍化した調味料の「味の素」が、一女性社員の提案で蓋の穴を大きくして息を吹き返した話。大好きだ。(銀河)


コラム「点睛」 印刷新報・2015年2月5日付
 音楽の素養はなくとも、頭に浮かぶフレーズやメロディーの断片を渡して、誰かが上手に編集してくれたら名曲ができ上がる、そんな夢想をしたことがある人は多いはずだ。なんだか世間を騒がせた昨年の事件を思わせるが、営業活動にも似た側面がある▼アイデアだけは豊富な社員が、それを形にできないから「ダメ」ということはない。データ集めや企画書作りが好き、プロデュースが得意、直接交渉をさせたら決して負けない…いろいろな社員の個性でアイデアを前に押し上げられる組織は強い。そもそも、神輿の上に立つ社長に右脳型は多く、伸びる会社はトップの思いやひらめきを社員がきちんと形にしている▼社員にも右脳型が増えれば、それだけ事業に幅と奥行きが生まれる。最近訪問した元気な会社の実践に、体育館を借り切った全部署対抗ドミノ倒し大会、評判の人気レストラン巡り、全社員での手作り料理パーティー、朝礼でのテーマ付きピンポン玉抽選と即興社員スピーチがあった▼売上に直結しないと切り捨てるならそれまで。むしろ右脳注目企業の業績は極めて高いというのが取材を通しての実感だ。(銀河)